GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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序章
#000 ある日


「シンよぅ。もうお前さんに全部片付けてもらうってわけにはいかんのかね」

 

 荒野に散乱するアラガミの死骸がドロドロに溶け崩れ、地面に染み込むように霧散してゆく様を見て、思わずぼやく男が一人。くたびれた錆臙脂のコートのポケットから、ひどく大きな赤い腕輪をした右手でタバコを取り出し、咥えた。ライターを探してあちこちのポケットに手を突っ込むと、コートに付いた砂埃が舞い上がる。

 

「他人に未来のすべてを委ねるつもりなら、そうするといい。リンドウ」

 

 シンと呼ばれた深紅のコートの男が、無表情にそう応えた。こちらも右手には、赤く大きすぎる腕輪をはめている。

 その面差しは、異貌であった。

 刺青(いれずみ)だろうか、顔には両目のそれぞれを額から顎まで上下に貫くような太い縦筋が、そこから耳に向けて頬を伝う横筋が二本ずつ描かれている。それさえなければ顔立ちの整った東洋人に見えなくもないのだが。

 

「いや、まあ、そうなんだが。お前さんはあれだ、せめて神機(じんき)を使ってくれ」

 

 咥えタバコの男――リンドウというらしい――も気まずげに言葉を濁すと、軽く咎めるように“常識”を口にする。

 およそこの地上にあるすべての生命を喰らい尽くす、悪食の災厄・アラガミ。彼らを討伐するためには、人類科学の精髄たる神機が必要不可欠とされる。それがこの世界の常識である……はずだった。

 

 シンは「すまん」とだけ応えると、左手で自身の顔を覆った。

 ふう、と大きく息を吐いて顔から手を離し、リンドウに向かい合う。顔に浮かぶ模様が薄れて消えた。

 

 

「リンドウ。シックザールは多分、止まらない。ああいう目をした男を昔、見たことがある」

 

 リンドウはライターを探すのをやめ、頭をボリボリと掻いてぼやく。

 

「そうかい。そいつぁ困ったもんだ。それで、そいつはどうなったんだ?」

 

「死んだ」

 

「そうか」

 

 これ以上ないシンプルな答えを、リンドウは投げやりに受け入れた。

 咥えていたタバコを、無造作にポケットにしまい込む。どうにも気分ではなかった。

 

 

「リンドウ。お前はどうする。シックザールのコトワリを認めるのか?」

 

「それは……たぶん無理だろうな。俺にはあそこまでは割り切れない。他に選択肢はないのか?」

 

「それはお前たちが自分たちで見つけなければならない。俺が教えたら、それこそおしまいだ」

 

 どうにもやりきれない。

 その重苦しい空気を嫌って、二人は空を眺めた。

 

 二人の眼差しのその先、天頂には赤く禍々しいカグツチの光……


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