落ちこぼれ提督が着任します〜ブラック鎮守府の立て直し〜   作:ティーズ

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5話

「天才だ......」

「天才などでは表せられん。 鬼才の域だ」

「10年......いや100年に一度と言っても過言でない」

 

そうやって周りから煽てられ期待され、育てられてきた。

 

一方でそれ以上に

 

「この愚図が」

「役立たずの能無しめ」

「血筋が汚ければ、能力もゴミ...それ以下か」

 

軍に入ってからは罵詈雑言を投げられてきた。

最初は言葉だけだったが、次第に嫌がらせや暴力まで出てくるようになってくる。

 

だが別に、それは苦ではなかった。

こうなることはわかっていた。 知っていた。

見てきたのだから、親父殿が同じような目にあわされるのを。

 

だから仕方ないと割り切っていた。

貶されても手を出されても、ヘラヘラと笑っていれば、あいつらは俺を蔑み勝手に満足して去っていく。

 

別に見返してやろうなどとは思わない。

苦ではない。 だが、そう思うとは別の何かが自分の中でフツフツと溜まっていくのがわかる。

 

道化を演じるのを止めたら、どれだけ楽か。

自分を貶し嘲笑ってくる口を黙らせ、殴ってくる腕を蹴飛ばし踏みつけてくる足をへし折り斬りおとせば、 いつも見下ろしてくる傲慢な馬鹿どもの顔を苦渋に恐怖に歪ませられたら、どれだけ気持ちいいか。 心地よいか。 清々するか。

そんなことを思ったこと考えたことはある。

 

実際にはしない。 できない。

だから面倒くさいが仕方ないと、割り切って過ごしていく。

 

ーーーーーーーー

 

「おい、起きろ」

 

誰かが声をかけてきたことによって意識が浮上する。

重たい瞼をどうにか持ち上げあけると、目の前に長門が立っていた。

 

「私室を使っていいと言っただろう」

 

俺が眠っていたのは執務室の椅子。

どうやら資料を読み漁っている途中に寝落ちしたらしい。

 

執務机の上や床に置かれている資料を見て長門が察する。

 

「勉強熱心なものだな」

 

「まぁな」

 

淹れたまま飲み終えていなかったコーヒーを飲む。

冷めて時間のたってしまっていて不味かった。

俺が立ち上がり、私室へと向かう。

 

「どこに行く」

 

「シャワー浴びてくる」

 

そう言うと俺は私室へと入っていく。

 

替えの下着と軍服、バスタオルを持って風呂へ行く。

着ていたものを私室に備わっていた洗濯機へと放り込み、風呂へとはいる。

シャワーのコックをひねるとお湯が出てくる。

それを頭からかぶると、身体が温まっていき目が覚める。

 

さっと頭と身体を洗い終え、風呂から出ると身体を拭いて用意しておいた軍服を着る。

髪を乾かし、髪を整えようとワックスに手を伸ばす。

だが、その手を止める。

 

昨日は着任ということもあってオールバックに整えていたが、別段に今日は何かあるというわけではない。

 

「このままでいいか」

 

そもそも大本営にいた時も髪を整えることはなかったし、気にする必要はない。

 

そうして執務室に戻ると、長門が待っていた。

 

「普通、私がくる前に済ませておくことではないか?」

 

「入ろうとは思ってだけど寝落ちしたんだよ。 で、どうだった昨日は」

 

どうだった。とは俺の説明のことだ。

昨日、会議室で説明をしたらしいが、その後長門は戻ってこなかったのでどつなったのかを知らない。

 

「渋々だがほとんどが了承してくれた。 だが、やはり認められないというものたちもいた」

 

「ふぅーん」

 

「聞いておいてそれか」

 

「だいたい予想通りだからな」

 

「まぁいい。 だが気をつけるといい。 中には何としてでもお前を追い返そうと考えるものもいるだろう」

 

まぁ昨日会った天龍とかその筆頭そうだよな

 

「え? 何? 心配してくれてるの?」

 

俺は少しからかうように、そう言うと長門は不機嫌そうに眉根を寄せる。

 

「ただの忠告だ」

 

「まぁ素直に受け取っておく」

 

そんなやり取りをしながら俺は読み終えていた資料を本棚へと戻していく。

今日も書類仕事はあるだろう。 その為にも少し片付けておきたかった。

 

「そういえば、秘書艦のほうは?」

 

記憶から少し抜けていた秘書艦のことを聞く。

 

「その件も大丈夫だ。 人数はあまり多いとは言えないが、秘書艦をしてもいいというものはいた。 今日担当のものももう直ぐ来るだろう」

 

そう聞き、少し安堵する。

流石に1人もいないとか言われたら、少なからずショックだったからな。

 

 


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