落ちこぼれ提督が着任します〜ブラック鎮守府の立て直し〜   作:ティーズ

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3話 反発

カッカッカッ と執務室にはペンの走る音だけが支配する。

 

書類仕事を始めてから暫く、俺と長門の会話といえば書類への間違いや不備がないかの確認のものだけだった。

積み上がっていた書類の山は今では、半分以上減っている。

 

ふと俺が時計を見ると、それに気づいた長門もつられて時計を見る。

 

「む、もう全員帰ってきている時間だ」

 

「じゃあ放送の準備よろしく」

 

俺は視線を書類へと戻しながらそう言うと、長門がハァと溜息をつきながら準備を始める。

 

少しすると、長門が俺の前へと立つ。

それを見ると長門の手にはコードのついたマイクが持たれていた。

 

「あとはスイッチを入れれば使えるぞ」

 

「ご苦労様」

 

労いの言葉をかけながら、俺は放送用のマイクを受け取りそのまま何気なくスイッチを入れる。

その時、長門が「おい!」と声をかけてきたが無視する。

 

「あーっあー」

 

適当にマイクに声を当てると、執務室の外のあちこちから自分の声が聞こえくる。

 

「大丈夫そうだな。ーーーー あぁ〜諸君、 初めましてだ。本日この鎮守府に提督として着任した瀬戸 蓮 だ。 よろしく頼む、以上。」

 

言い終わると直ぐにマイクのスイッチを切る。

チラッと長門の方を見れば睨んでいるのが見えた。

 

「おい、何のつもりだ?」

 

「何って、着任挨拶だが」

 

「最初に私に前置きをさせるべきだっだろ。」

 

そう言うと長門が俺からマイクを奪い取るとスイッチを入れる。

 

「提督代理の長門だ。 先程の放送だが、嘘ではない事実だ。 事情は後ほど直接伝える。一九○○に作戦会議室に集まるように。以上だ。」

 

放送を終え、長門が息をつく。

 

「他に何かなかったのか?」

 

「何かって何がだ?」

 

「挨拶のことだ。 他にも言うことがあるだろう。」

 

「いやねぇよ」

 

俺は即断じる。 長門は何かを言おうと口を開くが、その前に俺が言葉を続ける。

 

「お前が何を言いたいのかは大体わかる。 だがな、もし俺がさっきの放送でどんな熱弁をしようが、それで提督への見方が変わる奴なんていないだろ。 いるとしたらそいつは、よほどのお人好しかアホだ」

 

嫌いな奴、憎い奴がどんな綺麗な言葉を並べても信じる対象になるなのは難しい。

そもそも言葉だけで納得するような連中なら俺が様子見として送られるわけがない。

 

喉も渇いたことだし、コーヒーでも入れようかと椅子から立ち上がる。

 

すると、微かにだが扉の外からドタドタと慌ただしい音が聞こえてくる。

長門もそれに気がついたのか扉の方へと視線を向ける。

 

その音はどんどんと近づいてきて、執務室の扉の前で止まる。

そして次の瞬間、バン! と勢いよく執務室の扉が蹴り開けられる。

 

「おい!! さっきの放送はどういうことだ!!!」

 

そう叫びながら入ってきたのは眼帯を黒髪の艦娘だ。

 

「事情は後で説明すると言ったはずだぞ天龍」

 

名前は天龍というらしい。

天龍は長門を見た後、俺へと視線を移す。

目が合うと、物凄い形相で睨みつけられる。

 

「ふざけんな!! 追い返すって言ってただろうが!! 」

 

「事情が変わったんだ」

 

「事情なんて知るか! 俺は認めねぇぞ!!」

 

「俺がなんかしたか?」

 

コーヒーを淹れながら長門と天龍との会話へと割り込む。

 

「お前らに酷い仕打ちをしたのは前の提督だろう? 俺は関係ない。 俺がどんな人間か、少しは見定める期間をもらいたいものだが」

 

「必要ないね。 提督なんてどいつもこいつもクズみたいな奴ばっかだ」

 

「他の提督を見たこともないのにわかるのか?」

 

「見たことあるさ。 あいつが連れてきた連中をな」

 

あいつ、とは前提督を指すのだろう。

そいつが連れてきたとなれば、大本営のお偉いさんか、もしくは他の所の提督かどっちかだろう。

 

「どいつもこいつも俺らを玩具か使い捨ての道具かにしか見てねぇ。」

 

「そいつらと一色単にされるのは酷く心外だな。 しかし、そうだな......玩具か使い捨ての道具としか見てないんだろうな」

 

その言葉に天龍と長門が俺へと鋭い視線を向ける。

殺気すら混じっているような気もするな。

 

「あいつらにとって、俺もお前らも玩具か使い捨ての道具なんだろうな。」

 

「自分も同じってか? ふざけんな一緒にしてんじゃねぇ。 お前も使う側だろうが」

 

吐き捨てるように天龍がそう言う。

 

「使い捨てじゃねけりゃ、今にでも牙を剥きそうな連中の溜まり場に放り込まれるかよ。 俺が死んでもあいつらは『はい、そうですか』で終わりだよ」

 

実際俺が死んでも、大本営は特に反応しないだろ。

殺されたとしても、殺した奴を罰しないだろう。

俺のような役立たずの命と、貴重な戦力を天秤にかければ結果は明白だ。

 

 

「あいつらにとっちゃ俺もお前らも使い捨ての道具。 同類だ。 同類同士仲良くやろう。 俺は前の提督みたいな連中とは違ってお前らを道具として扱わない。 信じてくれる?」

 

「冗談じゃねぇ。 信じられるか」

 

「だよな」

 

天龍の返答に俺は笑いをこぼす。

 

「まぁ信じろとはいわねぇよ? 無理ってわかってるしな。 できるなら長い目で見てくれると助かるな」

 

「っちふざけやがって、いいか俺はお前を認めないからな」

 

そう言い残すと天龍は執務室の扉を乱暴に閉めて出て行った。

 

「ふぅ、思ったより根が深そうだな」

 

「だったらもう少し他の言い方があっただろう」

 

「取り繕っても仕方がないだろ」

 

そう言いながら俺は書類仕事へと戻る。

 

「参考までに聞くけど、あいつって何されたの?」

 

書類にペンを走らせながら俺は長門に問いかける。

 

「私から言えることはない。」

 

「個人情報だからってか? キッチリしてんなぁ」

 

聞けなかったのは残念だが、まぁいいだろう。

 

「あぁそうそう......長門」

 

「何だ?」

 

「提督って艦娘の中から秘書艦をつけられるんだよな?」

 

「そうだが.........それがどうした?」

 

秘書艦という言葉が出た途端、長門の視線がキツくなった。

秘書艦というのは艦娘たちのトラウマの1つなのかもしれん。

 

「お前、今日の夜さぁ艦娘たち集めて俺のことを説明すんだろ?」

 

「その通りだが」

 

「その時に秘書艦の希望を取ってんくんない? 嫌ってやつは省いていいから、なってもいいって奴から、明日からの秘書艦1人づつローテーションで回しってて」

 

「そんなことをする理由は何だ。 ちゃんとした理由がなければ認められないな」

 

「俺はお前たちのことを知らん。 知ることを必要だろう。 後は単純に仲良くなろうと思ってるだけだ。 信じられないんだったら監視でもつけていいぞ?」

 

 

長門は少しは考えた後、溜息をつく。

 

「いいだろう。 どうにかしよう」

 

長門の言葉に俺は満足する。

 

「あぁそれと、書庫ってどこ?」

 

「書庫? そんなものはないぞ。 必要な資料や書類はそこの本棚に全部しまってある」

 

長門の指差した先には立派な本棚が置いてある。

確かにあの大きさならかなりの量しまえるな。

 

「ならいい。 じゃあ仕事を終わらせるか。」

 

 

そして、俺は残りの仕事にとりかかった。


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