悪のヒーローアカデミア   作:シュガー3

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主人公(?)活躍の時

side 上鳴電気

 

「さあ来い英雄(ヒーロー)共! 希 望 ご と 踏 み 潰 し て や る !!!!」

 

すっげえ怖いんだけど先見の奴。

あいつホントにヒーロー科か? ヴィラン役がめっちゃハマってんだけど!?

 

と、とにかく「個性」発動! これでどっかに触ったらシビれるはず! そしたらテープまいて確保だ!

 

「おっしゃあ!!」

「・・・!」

 

当てること優先! 体ごと突っ込む! 触ればこっちの勝ち、避ければそのまま耳郎にタックルしてや――――

 

「があ!?」

 

なんだ? 腹に? ――蹴られた!?

 

「甘いぞ、上鳴。「個性」に頼り過ぎだな。触れればそれで勝ちだと思っていたんだろうが、・・・残念だったな。俺のヒーローコスチュームは『動きやすさ』よりも『防御性能』を追及してるんだよ。防弾、防刃どころか耐熱、耐電(・・)仕様まであるのさ。」

 

な、んだよそれ。対策してあるのか!? それじゃ攻撃が通じないのか?

 

「狙うのならコスチュームの防御がないココ(・・)。俺の顔面を殴るしかない。それでお前の勝ちってわけだ。」

 

自分の頬を指さして、嘲笑(あざわら)うかのように笑顔を見せる先見。

その目はまるで「殴れるなら殴ってみろ」と言わんばかりにこちらを見下しているかのようだ。

 

一発腹に蹴りを入れられただけで地面に手を付けた俺を、見下してやがる!!

 

「!! なめんな!」

 

すぐさま起き上がる。

タックルは無意味。やったことないけどボクシングみたいな拳主体に切り替える。

とにかくジャブ連打! あのニヤけ面に一発ぶち当ててやる!

 

「オラオラァ!!」

 

左、右、左、右、左、左、右!!!

当てれば良いだけなのは変わらない。威力なんてどうでもいい! 速さだけを重視して―――!!

 

「くっそ! なっんで! 当たんねえんだ!?」

「ハハハハ! どうしてだろうなぁ? 動きが遅いんじゃないのかなぁ?」

 

当たらない。先見はケラケラ(わら)いながらヒラリヒラリと避ける。

クッソ! アイツ防御すらほとんどしてねえ! あのむかつく面ぶん殴ってや…

 

「上鳴ぃー! 下がってー!」

「「!!!」」

 

後ろにいた芦戸から声がかかる。

俺と先見に向かって大量の酸が上から・・・ってヤバい!

 

「うおおぉ!???」

 

ジュージューと音を鳴らしてコンクリの床を酸が溶かしていく。

ギリッギリだった! あとちょっとで巻き込まれてた!

 

「お、おい! なにすん…「もー! ダメだよー!」 

 

怒ろうと思ったら怒られた。

ダメって・・・なにが?

 

「あんなに近づいてたら援護とかできないじゃん!」

 

あ、そうだった。

 

「一人じゃなくて二人で協力すれば勝てるかもしんないでしょ!」

「わ、わかった。悪かったって・・・」

 

 

芦戸が「もー!」って言いながら怒ってくる。

その気の抜ける姿のおかげか、少しだけ冷静さが戻ってきた。

 

さっきまで頭に血が上ってて考えもしなかったけど・・・

自力で先見に当てるのは無理っぽい。全然当たる気しないし。

制限時間もあるし協力して何とか・・・って!

 

「先見! お前わざと(あお)って時間潰そうとしてたな!?」

「あ。バレた」

 

あんにゃろう! 強制的に一対一に持ち込んで制限時間と体力を削るつもりだったのか!

 

「うーん、結構気付かれるのが早かったな。もうちょっと行けると思ってたんだけど」

 

「ま、いっか」と呟きながら先見は改めて構えを取った。

 

「それじゃ、第2ラウンドだ」

 

あのにやけ面が無くなった。

ホントに煽るためだけに笑ってたのかよ・・・

 

こちらも構える。

けどな、今度はこっちの番だ!

 

「芦戸!」

「いっくよー!」

 

さっきと同様に芦戸が大量の薄めた(・・・)酸を先見にかけようとする。

 

それに隠れて先見に俺が突っ込む! お前には薄めてるかどうかなんてわかんないだろ!

 

 

 

「耳郎ちゃん」

「はいはい」

 

 

 

パァン と耳郎の音の衝撃波で酸が吹き散らされる。

 

「・・・あれ?」

 

姿を隠すための酸が無くなったから当然奇襲でもなんでもなくなったわけで。

 

「ウボァ!?」

 

また腹を思いっきり蹴り飛ばされた。

 

「うわっ、上鳴大丈夫?」

「・・・ぬぐぐぐ」

 

あんまり大丈夫じゃない。

 

「ナイス耳郎ちゃん」

「ナイスって・・・。ウチはとにかく酸を吹き飛ばせばいいんでしょ? それだけなら誰でもできるっての」

 

ま、マジか。それじゃ芦戸の酸も使えないじゃん!

 

「どうやら、「個性」の相性もこっちの味方みたいだな? 上鳴?」

 

先見が見せつけるように笑顔を向けてくる。

 

「(ど、どうすんだこれ?)」

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「(・・・ふむ)」

 

上鳴の行動を(ことごと)く潰していったが、そろそろ打つ手がなくなってきたようだ。

「自分の「個性」も芦戸の「個性」も通用しない!」とか考えていそうだ。

 

「(実際はそうでもないんだけどねー)」

 

余裕そうな雰囲気を出してはいるが、実はこっちも結構追いつめられていたりする。

 

「(耐電性なのは本当だけど、電気を完璧に通さないって訳じゃないし)」

 

さっき上鳴を蹴った足はまだちょっとシビれてる。

蹴るたびに会話を挟むのは追撃ができないのを誤魔化しつつ余裕をアピールし、回復する時間を稼ぐため。防御せずに避けるのは防御できない(・・・・)からだ。

 

そもそもこうやって相手の手札を一つ一つ潰していくやり方を取っているのは、それくらいしか勝つ方法が無いからだ。実のところ我がチームのメイン方針は『相手の降参待ち』である。

それが一番勝算が高いのだ。まともにやると向こうの方が強いし

ちなみに2番目は『タイムアップ』、3番目でようやく『ヒーローの捕縛』を目的にしている。

 

本来、ヒーロー側がすべきなのは核のハリボテを確保することだ。ヴィランの捕縛はできたらでいいのだ。

その点を踏まえて一番されるとまずいのは、戦いから逃げ出して上鳴が俺を足止めしつつ、芦戸ちゃんが手当たり次第酸で壁に穴をあけて核を探すことだ。これをされるとかなり分が悪い。

 

理由は簡単。「個性」の相性が悪いから。

 

芦戸ちゃんが逃げて耳郎ちゃんが追う。この状況だと身体能力が上で実質壁を無視できる芦戸ちゃんが圧倒的有利なのだ。いくら耳郎ちゃんが索敵して場所がわかっても追いつけなきゃ意味がない。

 

だからこれでもかってくらい余裕アピールをして、「逃げ出したら・・・やられる!」みたいな雰囲気を作っているのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて、」

 

そう言いながら目を細める。酷薄(こくはく)な雰囲気も忘れずに。

あ、少しビクッってした。よしよし、ビビれビビれ。

 

「理解できたか? 酸を使うのは無意味だ。さっきのは薄めたものだったから問題はなかったが、もし強力なものだったら? それを吹き飛ばされたら?」

 

どうやら想像できたらしい。酸を使えば自分たちに返ってくる。そう思ってしまえばもう使えないだろ。

 

「これで酸が使えなくなった。電気もほぼ通用しない。上鳴の拳が俺に当たることもない。」

 

セリフに合わせて見せつけるように右手の指をたたんでいく。

 

「まぐれ当たりを狙って殴りかかってきてもいいが、さっきまでは遊んでやったが次からはきちんとカウンターを決めてやるからな。あとは、・・・連携して攻撃なんてのもできないだろ。練度不足だ」

 

シビれるからカウンターとかしたくないんだが・・・。

っと、演技、演技。

全部の指をたたんだ後、視線を上鳴の方に向ける。

 

 

 

「『もしかしたら』という希望を持つのも諦めた方がいい。俺の「個性」の前では役に立たない言葉だ」

 

 

 

仕上げにかかるか

 

「俺の「個性」は『未来視』。それもただ未来が見えるだけじゃない。俺の望む(・・)未来をどうすれば達成することができるのか、を見ることができる。そして、俺が見た未来は必ず実現する(・・・・・・)。これは絶対だ。」

 

ようするに『確定した運命を見る』とか『可能性の高い未来を予測する』とかではなく、『可能性のある未来を取捨選択する』というのが俺の「個性」だ。もちろん制限はあるが伝えるつもりはない。

 

内容を理解してしまったのか絶望が目に浮かんできた。

 

「最初に言ったよな?『希望ごと踏み潰す』、と」

 

ラスト、養豚場の豚を見る目で言い放つ。

 

 

 

 

「上鳴、おまえ、まだ希望が残ってるのか?」

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

side オールマイト

 

「(ナニコレェェェェェ!!?)」

 

冷や汗がすごい。

戦闘訓練のはずがどうしてこうなった? なぜ彼はクラスメイトの精神を破壊しようとしているのだろうか?

 

「クソッ! なんか言ってるのはわかるけど音が無いから何言ってるのかわかんねえ!」

「オールマイト! あいつらなんて言ってるんだよ!」

「上鳴の顔色ヤベェぞ!?」

「いや、先見の雰囲気が一番ヤバイ! ラスボスみてーなオーラ出してるぞ!?」

 

画面越しに伝わってくるものがあるのか、クラスの子たちも騒がしくなってきた。

 

「(いや、ホントどうしようか、コレ)」

 

ここで無理やり中止させるのは彼等のためにならないが、中止させなければ上鳴少年に深いトラウマが生まれそうでもある。

いやでも・・・しかし・・・

 

「みなさん、そんなに心配しなくてもでしょう。見たところ上鳴さんのダメージはキック二回分のみ、問題はないと思いますわ」

「体の方はそうかもしれないけどよ。俺たちが心配してるのはメンタルの方なんだよ八百万。」

 

そう、肉体面では問題ない。有効打は二つだけ、あとは誰もダメージを受けていない。

 

「あら。それこそ心配することはないと思いますわ。」

「なんでだよ。ほら、顔色すげーことになってるだろ? どうしてそう思うんだ?」

 

 

「だって私たちはヒーロー科。英雄(ヒーロー)を目指す人間がこんな訓練で心が折れるはずがありません。」

 

 

八百万百は堂々と言い切った。

 

「(そうか・・・)」

 

彼らはヒーローを目指しているんだ。

そんな彼らの心の強さを、私が信じなくて誰が信じるというんだ!

 

「大丈夫だみんな! 彼らを信じて見ててくれ!」

 

私の言葉に反応してクラスが落ち着きを取り戻す。彼らはきっと大丈夫だ。

 

 

 

 

 

『・・・がうよ!』

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「ちっがうよ!」

 

急に芦戸ちゃんが叫びだした。

違う? 違うって何が?

 

「もー! なにしょんぼりしてんの上鳴! ほら、元気出して!」

「お、おう?」

 

あ、やべ。せっかく作った雰囲気が流されちゃった。

しゃーない、タイムアップ狙いに切り替えるか。上鳴はほぼ戦意喪失状態だし、そう難しいことじゃないはず。

嫌がらせと時間稼ぎは俺の十八番(おはこ)だぜ!

 

「先見もだよ!」

「!?」

 

え、こっちにも話振ってくるの?

 

「さっきからなんなんだよ! 希望がないとか言っちゃってさ!」

 

どうやらご立腹の様子。地団太を踏みそうな勢いだ。

精神的嫌がらせをこれでもかってくらいにしたから、怒るのは当たり前と言えば当たり前だが・・・。なんというか怒っているポイントが違う気がする?

 

「そりゃ、あたしも上鳴もぜんぜん「個性」通じなかったし先見の「個性」がすごい強いのもわかったけど! それと諦めるかどうかは関係ないじゃん(・・・・・・・)! 」

「!!?」

 

・・・おっと、これはまずいぞー?

 

 

 

 

「アタシたちはヒーロー(・・・・)なんだよ!? そんな理由で諦めるなんてヒーローじゃない!!」

 

 

 

 

 

あーあ、気づいたか。

 

相手が強いとか相性が悪いとか、それ以前にまだ全力を出してないのに(・・・・・・・・・・)諦めるやつはヒーローじゃない。ヒーローを目指すならこんなことで諦めるなんてありえない。

 

上鳴のほうはどうだ?

 

「そっか、・・・そうだな!!」

 

はい、復活オメデトウ

先ほどまでと違って明らかに目に力が戻っている。

くっそ、なんとかならんかこれ?

 

「・・・おいおい、お前たちのやる事全部潰されたのを覚えてないのか?」

「ああ、忘れた! 俺は頭良くないんでね!」

 

ならんな。皮肉で返されちまったよ。

ちくしょう! 結構頑張ったのに! 演技力が足りなかったか!?

 

しょうがないので作戦変更。

後ろの耳郎ちゃんにハンドサインで合図を送る。

後ろから「ハァー…」とでかいため息が聞こえてくる。

マジスイマセン。こんな胸糞悪い作戦立てて、しかも失敗してすいません。

俺もため息をついて張りつめた雰囲気を消す。

 

「・・・くっそー。いいとこまで言ったんだけどなぁ。俺の『上鳴の精神フルボッコ作戦』。」

「おまっ! よくもそんな作戦立てやがったな! マジで泣くとこだったぞコラァ!」

「今おれはヴィラン役だからいいんですぅー。ほら、ヴィラン役に(てっ)してたと思えば? さっきまでの言動も許せるような気が?」

「しない!!」

 

ですよねー。

 

「あーもー、しょうがない! ここからはガチで戦闘する! 「個性」もバレた・・・バラしたし! 小細工は無しだ!!」

「こっからはウチもやるから。芦戸のほうは任せといて」

 

頼もしいぜ耳郎ちゃん!

 

「おっしゃ! 今度こそ一発殴ってやるぜ!」

「おっけー! いくよ耳郎ちゃん!」

 

よっしゃ! 乗ってきた!

もう勝機は戦闘で倒すしかない! あと、君たち完璧に核の事忘れてるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ続きます。
次回はホントに戦闘描写。むずい

耳郎ちゃんが無口なのは主人公にあんまり口を挟まないように言われてたからです。



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