目が覚めた。
ベッド? 頭が痛い。 蛍光灯の明かりがまぶしい。 周りがカーテンに遮られている。
―――意識が覚醒してきた。
ここは・・・・・・医務室?
「ああ・・・」
思い出した。
「負けたか・・・」
だんだんと戦闘の記憶がよみがえってきた。
勝利の未来を観て、それを確定させ、憐れみを持って爆豪の表情を眺め―――
「ぶっ飛ばされた・・・と」
まさに道化。滑稽極まりない。
緩んだ顔を晒していないのが唯一の救いだろう。
絶対勝ったと思ったのになぁ、いやホント―――
・・・・・・どうして負けたのだろう?
ふと、そんな疑問が浮かんできた。
戦闘の記憶は完全に戻った。だが、自分が敗北した理由が一向に分らない。
あの時、俺の掌底は確実に爆豪の意識を奪うはずだった。今まで何度もやってきたことだ、感覚的にもこれ以上ないほど脳みそを揺らしてやったのは間違いない。
ゆえに、倒れるはず。
ダメージがどうとか、戦闘意欲がどうとか、そんなものとは関係なく。ただ単純に物理学的・生物学的な話として、脳震盪が起き、気絶するはずだ。
ならば、なぜ? なぜ倒れなかった?
そもそも倒れる未来だった。観た未来を忠実に再現したはずだ。
―――もしかして、【未来視】が外れた?
馬鹿な。ありえない。
今まで一度たりとも外れなかったのだ。
俺がコイントスでコインの表が出る未来を観る限り永遠に表が出続ける。そういった「個性」のはずだ。
一時期、自分の「個性」について調べた時は100回以上表を出し続けたこともある。
【未来視】で観た未来は確定したモノのはず・・・?
「おや? 目が覚めたのかい?」
「あ、・・・おはようございます。リカバリーガール」
リカバリーガールがいたことを思い出す。
ここが医務室ならば彼女が居るのは当然だ。
改めて、自分の体を見る。
――傷跡はない。治療はすでに終了しているのだろう。
「俺はどれくらい寝てましたか?」
「ほんの15分ほどだよ。ああ、治療はしておいたからね。左の
めちゃくちゃ大怪我じゃねーか。これ15分以下で治るの? 流石すぎる。
気絶していた時間はそれほどでもないらしい。
ということは、今は決勝戦の最中ということだろうか? もしくは始まる前?
流石にちょっとは休憩を挟むだろうしな。スタミナお化けの爆豪でもそれは変わらないだろう。
そう思ったとき、遠くから歓声が届いた。
「ああー・・・。」
「決勝戦が終わったみたいだねえ。」
見損ねた。
一人の観客として、爆豪と轟の戦いは興味あったんだけどな。どっちが勝ったんだろう。
どうせこの後は閉会式だし、しばらく医務室でゆっくりしておこう。
ついでに、負けて医務室に運ばれてきた奴と一緒に向かおうかなー。
―――しばらくすると、担架に乗せられて医務室にぼろぼろになった轟と意識を失った爆豪がつれてこられた。
・・・え? 二人とも気絶してんの?
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
決勝戦が終了し、閉会式・・・そして、表彰が行われた。
ちなみに俺は3位だ。
表彰台すら怪しいと思っていたのでかなり嬉しい。自分で言うのはなんだが大健闘というものだろう。
決勝戦は爆豪の勝利で終わったようなので2位は轟、優勝者は爆豪となる。
で、その爆豪は・・・
「ん゛ーー!! ん゛んんん!!!」
かつて見たことが無いほどブチ切れている。
目つきがヤバい、轟の方を向いて殺気?を飛ばしている。
爆豪が医務室で目が覚めた後、とても・・・とっても大変だった。
爆豪はいきなり轟に向かって「個性」を使って襲いかかり、その場にいた俺とセメントスの二人でどうにか抑え込んだ。そして、すぐに表彰式が始まってしまうから、やむを得ず鎖とセメントスの「個性」で無理やり表彰台に固定してやったのだ。
ただでさえ疲れてんのに、・・・どうして猛獣の世話をしなければならないのか? 世の理不尽さに嘆きながらの作業だった。
爆豪はなんかもう・・・あれだ。ヒーローに捕まえられた後にもがき続けるヴィランって感じだ。
「私が! メダルを持ってきた!!!」
表彰はやっぱりこの人、オールマイト。観客席からも俺たちをうらやむ声が聞こえる。
プレミア価値とか付きそうだよね『オールマイトが初めて授けたメダル』とか。
・・・・・・銅メダルじゃたいして売れんか。
「先見少年、よく頑張った。相性はあるが、隙のない君ならまだまだ上を目指せるだろう。ま、今回は爆豪少年の気迫勝ちといったところだね!」
「・・・・・・ありがとうございます。」
オールマイトからメダルの授与と、激励をいただいた。
―――やっぱり調子が悪いな。いつもならもっといいセリフとか出てくるはずなんだけど。
轟、爆豪にも同じように激励とメダルの授与が終わり、・・・爆豪はなんかアレだったが。
最後は見事にオールマイトが滑って雄英体育祭は終わりを迎えた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「あ゛ー、疲れた。」
ようやく自宅に帰ってきた。
どうやら、明日と明後日は休みらしく、休み明けまでにプロからの指名などを受け付けるようだ。
つまり明日はぐっすり休める。
お昼まで目覚めない所存である。
人間の三大欲求たる睡眠欲を、これでもかと満たすつもりだ。
「に、しても」
帰ってきて早速、録画した雄英体育祭の映像を見ていた。
自分がどのタイミングで「個性」を使ったか、どのタイミングまでの未来を観ていたか。それを思い出しながら第一種目から最後のトーナメントまでを見返した。
「わからん」
しかし、それでも、やっぱり、どうして爆豪に負けたのかがわからなかった。
自分が未来を観たタイミングは記憶している。そして自分が観た内容の通りになっている。
―――『あの瞬間』以外は
ただし、気づいたこともあった。
「あれ? 爆豪・・・いや、まじか?」
信じがたいというか、信じきれないというか。
ともあれ、スロー再生で見つづけていると気が付くことがあった。
――俺の掌底が顎に当たる。
――脳みそを揺らされた爆豪がふらつく。
――画面上の俺を睨む目が一瞬だけ裏返って・・・・・・
ここ! こいつ気絶してるじゃん!!? 明らかにここで意識飛んでるよ!?
その後の事は記憶と同じだが、そんなことはどうでもいい。
明らかに気絶していた。目が裏返って白目になってたし。
だが、そこから舞い戻って俺をぶっ飛ばしている。・・・・・・意味が分からない。
いや、倒れなさいよ。気絶したでしょ? どうやって意識を戻したの?
どうやら、気絶
なおさら訳が分からないことになってしまった。謎が増えたぞ?
改めて内容を整理してみるとこうなる。
爆豪は俺の「個性」で観た通り
重要なのは気絶した後で、意識を取り戻したことだ。
どういった理屈で意識を取り戻したのか。それが俺の【未来視】を狂わせた原因だろう。
「――――わからんな・・・。」
だが、全くわからない。
何が原因だったのか、爆豪に何が起きたのか、それらがまるで分らない。
しかし、糸口は見えた。
同じように、気絶からすぐさま意識を取り戻した事例を探せばヒントが得られるだろう。
――――フッ
色々と探してみたが、どれもこれも失笑ものだった。
ボクシングの試合などに見られたが・・・・・・やれ『気合いだ!』とか『意志の強さ』とか『執念が』とか、それで勝負に勝てるのなら苦労しないというのに。
もう少し、精神論以外の意見を出してほしいものである。
というか、インタビューされた選手はともかくとして、解説の人間までそう言っているのはいかがなものかと思う。解説という意味を調べてから解説役をしていただきたい。
「んー・・・。」
その他にも、『パンチが鋭すぎてキレイに意識を失ったから』とか『予め気絶することを覚悟していた』とか・・・うんたらかんたら。
・・・・・・根拠ある理由をください!!
だめだ、格闘技の解説役は使えん。精神論しか言っていない。
ここは、誰かに相談をするべきだろう。誰か? また相澤先生か?
ごーりてき、ごーりてき、言ってるから精神論を言うことは無かろう。
とりあえず、反省はここまでにして置く。これ以上考えてもらちが明かないだろうからな。
それよりも他に考えるべきことがあった。
そう、俺は負けたのだ。訓練とか練習でとかではない。本番の大衆の前で負けを晒したのだ。
「・・・・・・悔しいな。」
ポツリと声が漏れてしまう。
実際悔しい。悔しくて、悔しくて―――
「よし、復讐計画でも練ろう。」
反省なんて置いといて、やり返しを考えなくてはならない。
爆豪に対して精神的屈辱を与えなくてはならない。轟はまあ許す。実際戦ってないし。
休み明けからはプロヒーローのところへ研修?みたいなものが始まるから動けないが、復讐は絶対にする。
俺は屈辱を忘れない男! 絶対にやり返すからな!! 具体的には期末の時とかに!
これ書いている時にヒロアカ2期のOP聞いてたんですが、いいっすね!
OPの常闇くんがカッコよすぎてもう・・・
厨二魂に突き刺さりやがる。