今回は少しばかり勘違い要素みたいなのがあります
いや、今回も・・・かな?
トーナメントの二回戦が終了した。
準決勝に進出するのは俺、轟、飯田、爆豪の4人だ。
次の俺の対戦相手は
俺の常闇戦の後、切島と爆豪が戦い爆豪が勝利したのだ。
心の底から切島を応援したのに・・・! 爆豪と戦うのは嫌だったのに・・・!!
爆豪の「個性」はとんでもなく強力だが、それに耐えうる切島も十分に勝機がある戦いだと思っていた。
しかし、結果は爆豪の勝利。
切島の戦法は爆豪の【爆破】を自らの【硬化】で耐え、カウンターを返すというものだった。
この戦法なら爆豪の恐るべき戦闘センスもほとんど意味をなさなくなる。これは切島の「個性」と相性のいい戦法で、とてもいい選択だと俺も思った。試合が終わるまではね。
―――爆豪はその戦法すらねじ伏せた。
切島の硬化が切れるまで殴り続ける。それだけだった。
無尽蔵のスタミナ。そしてカウンターで何度も殴られたにもかかわらず、一切攻撃の手を緩めなかった耐久性と攻撃性の勝利というところか。
しかも、試合を見ていた限り爆豪は切島の「個性」の特性を見切って、その上でゴリ押しを判断したようだ。
なんであの「個性」と戦闘センスで頭脳的な戦略取るんだよ。もっとふんぞり返って慢心してくれないかな? これだから天才ってやつは苦手なんだ。
『準決勝第2試合の始まりダァァ!!!』
プレゼントマイクの放送が聞こえる。
ついに爆豪と戦闘を始めなければいけない。
「よお、よろしくな」
「・・・チッ」
舌打ちされるのにもだいぶ慣れてきたな。
俺と話すときいっつも舌打ちされるんだもん。何が気に入らないというんだ。
「おい、クソ金目。」
「なんだよ」
「手ェ抜いたら絶対にぶっ殺す。全力でかかってこい」
こっちは何時だって全力だっつーの。手を抜いたこととか無いし。たぶん
「・・・爆豪相手に手を抜くわけないだろ?」
「チッ!!!」
さっきより舌打ちが大きくなった。
なんやねんなもう。
『それじゃあ行くぜ!! 爆豪勝己 対 先見賢人!』
ま、いいか。割とやる気も出てるし、頑張りましょ。
『レディィィイイ!! スターーート!!!』
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
side 爆豪勝己
だが、どんな態度を取ろうが関係ねえ。俺は勝ちに行くだけだ。
俺が欲しいのは完璧な勝利、全力のコイツを更に上回る事だ。
釘は刺しておいた。手加減したなんて言い訳はさせねえ。だが――――
『レディィィイイ!! スターーート!!!』
「その・・・・・・見下した目を止めろォ!!!」
俺のことが眼中にない様な、必死になる必要すらないと言う様な、『敵』として見てもいないような。そんな目だ。
『頂点かそれ以外
障害物競走が終わった後、しょうゆ顔にコイツが言ったセリフ。その通りだと思った。
勝つってこと、絶対に負けねえってことはそう言うことだ。
だから騎馬戦でもメンバーに誘った。他の生ぬるい考えの連中よりもよっぽど信用できたからだ。
そこでコイツはカスみてぇなモブ共にも全力で対策を立てていた。俺が考えてた
始めは違った。
俺を差し置いて、実力もないくせに半分野郎から宣戦布告される勘違い野郎だと思っていた。
騎馬戦で思い知った。
コイツも半分野郎と同じ、俺の上にいる壁だと分かった。半分野郎がコイツに宣戦布告したのはそのせいだろうと思った。
コイツに『敵』としても見られないのは我慢ならねェ!!
「その目を止めろ先見ィィィィイ!!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「その目を止めろ先見ィィィィイ!!」
は? 目?
爆豪が爆速ターボとかいう方法で加速しながら突っ込んでくる。
何時もの倍くらいはブチ切れてる様子だ。
―――よくわかんねえな。
俺の間合いに入るとほぼ同時、俺の視界が爆炎に遮られた。
・・・視界を潰された? 目くらましか。
爆風の調整と加速で頭上を飛び越え、死角からの奇襲を行う。
「チッ!」
「残念」
―――はずだったのだろう。
視界を遮られた瞬間、即座に横へと逃げた。結果として奇襲は失敗、爆豪が攻撃しようと思った場所に俺はいなかったわけだ。
壁で視界を遮り、未来視に映らないよう頭上などから背後へ、そして奇襲っと。
俺の「個性」対策としては典型だな。それくらい想定してるぞ?
「死ね!!!」
殴りかかってきた。
普通に殴るだけじゃ俺には当たらんがな。
「オォォラァ!!」
「・・・おっと?」
爆発と体術の組み合わせ? こんなモン使ってたか?
右の大振りを屈んで躱す。
空ぶった右手を爆発で無理やり止め、裏拳へとつなげてきた。それも俺に当てる寸前で爆発による加速を付け加えて、だ。
回避が間に合わない。
やむを得ず右ひじで相手の腕を打ち上げて攻撃軌道を反らす。
その後も爆発による加速、軌道変更、フェイント、そのまま攻撃したり。
近接戦闘における「個性」の使い方が上手すぎる。今まで見せなかった奥の手だろうか?
いちいち攻撃の速度が変化したりするから、俺じゃなければ圧倒されるかもしれない。
メンドクサイ。
ギリギリ躱せるが、攻撃の回転速度が速すぎて反撃に移りにくい。
―――が、このままスタミナ勝負になるのは下策だな。
諦めて、一発受け止めよう。
爆豪の「個性」は手のひら限定で爆発が起きる。だから未来視で見切り、手首を掴めば抑え込めるだろう。
「あ゛あああ!!」
「(あれえ?)」
掴むのには成功した。
しかし、抑えようとした腕を無理やり振りぬきやがった。とっさに後ろに跳んだせいもあるだろう。だが、まさか腕力だけで俺を投げ飛ばすとは。距離を取ることはできたが・・・。信じられんほどの身体能力だな。
「気ィ抜いてんじゃねえぞ!!!」
「・・・! まじかよ!」
爆炎が迫る。
初めての戦闘訓練。ビルの一角を吹き飛ばし、オールマイトに使用を禁止されていたソレを躊躇なく撃ってきた。
チクショウ! 遠距離攻撃もあったか! 安全地帯もないのかよ?!
こうなれば、距離が離れるのは自分の首を絞める結果にしかならない。しかし、距離を詰めても反撃できないし・・・。
やっべ、詰みそう。
「クソ!」
「かかってこいゴラァ!!」
悪態をつきながら前へ進む。
不利だろうがなんだろうが、一方的に射程外から攻撃されるよりはましだ!
―――未来を観る。
近づいても爆豪の優勢は変わらない。
更に信じられないことだが、どんどんと洗練された攻撃を繰り出すようになってきている。細かな爆風による姿勢制御、手に気を取られた隙に繰り出される
『すげェ! 爆豪の動きがもうなんか意味不明だ!!?』
『「個性」を機動力や補助に使う奴は多いが、あそこまで変幻自在に使いこなす奴は少ないだろうな』
放送席もべた褒めだ。
対戦相手が自分じゃなけりゃ俺もそう思うよ。
『接近戦でほとんど無敵だった先見も押されてるぅ!! アイツが回避もできないって相当じゃねーか!?』
俺の「個性」を使用してギリギリってことは、相当にヤバいですぜ。
こうなりゃもう「個性」頼みだ。
極小の隙でも、一瞬の隙でも構わない。俺が隙に気付かなくても構わない。『隙をついて攻撃する』未来が観えれば俺の勝ちだ。いくらなんでも微塵の隙も見せず攻撃し続けられるわけでもあるまい。
爆豪も、勝ちたかったら遠距離攻撃に徹するべきだったな。
不利かどうかも関係ない。
勝つ確率なんざ、そもそも1%あればいいのだ。
勝つ可能性がほぼ無かろうが俺は勝てる。絶対に勝てる。当然のように勝てるのだ。
―――なに?
爆豪の振り下ろし。当然、横にはじいて躱す。
すると、爆豪はそのまま地面に手をつき―――
「オラッ!」
ズシン! と鈍く響く爆発音。
ステージごと爆破し、衝撃で俺は後ろに吹き飛ばされた。
後方に飛び退いたことによりダメージはゼロだが・・・・・・
巻き上げられた砂煙によって、視界もまたゼロになった。度重なる爆音のせいで聴覚もイカレている。
つまり、爆豪の事を完全に見失った。
「死ねクソがァァァ!!!」
爆豪が砂煙の中から飛び出してくる。さっきまでいた場所とは
考え方は常闇とほぼ同じ。
視界に映らないようにした強襲。常闇と違い一撃で意識を刈り取るのではなく狙いは胴体。
完璧な奇襲。
冷静な思考で俺の「個性」を読み切った策略。流れるようにこの展開まで持ち込まれた。
そして、渾身の拳が顔面へと吸い込まれる。
「ッがあ゛!!?」
だから当然――――俺には通用しない。
『か、カウンターァァァァ!!? 爆豪がぶん殴られた!?』
爆豪の策略は完璧だった。
俺の「個性」の弱点は少ない。そして、俺はアイツが頭脳的な戦略を取れることを知っていた。
だからこそ、これくらいしてくると信じていた。
砂煙を巻き上げられた後、俺は即座に後ろを向いた。ここはもう賭けだった。
爆豪が真っ直ぐ殴りに来たら当たり前に負ける。
そして俺は賭けに勝った。
砂煙が揺らぎ、「個性」を発動。爆豪の攻撃を読み切ってカウンターで迎撃した。
「ぐ、クソが・・・!!」
『おおお! 爆豪立ち上がった!』
残念ながら気絶させる未来は観れなかった。
おそらく、ギリギリの「個性」発動だったゆえに、いいポイントを打ち抜く可能性が生まれなかったのだろう。
だが、のんびりダメージの回復を待つほど優しくはない。
「個性」発動。今度は俺がぶん殴りに行く。
接近する俺に爆豪が反応する。
両手で大きめの爆発を繰り出すことにより、俺が近づかないように牽制している。
―――無駄だがね?
当たり前のように爆炎の密度の薄い場所を通り抜ける。
爆豪の苦い表情が目に映った。
この程度では牽制にもならない。無駄に「個性」を使うせいで隙が増えるだけだ。
―――終わりだ。
間合いへ踏み込む。
狙いは顎、いつも通り脳震盪狙いだ。
爆豪の苦し紛れの反撃。
今更そんなものには当たらない。
「シッ!」
コツン と軽い手ごたえが返ってくる。
未来で見た通りの光景。
俺の掌底は完全に顎を捉えた。このまま脳震盪で気絶する。
凄まじい形相で爆豪がこちらを見つめる。鬼のような面貌。
勝利への執着が目の奥で燃えるように滾っている。
しかし、無駄だ。既に終わりを
俺の目には俺の勝利した後の未来が映っている。愉悦で顔が歪みそうだ。
どれだけ悔しがろうと俺が勝者で、爆豪は敗北者だ。
その表情に満足する。すばらしい、勝利っていうのはこうでなくては。
「あ゛あ゛あ゛ああああ!!!」
は?
炸裂、爆発音、流れていく現実の視界。
――動けない。・・・吹っ飛ばされた?
どこか遠くから歓声が聞こえる。
――? なぜだ? 俺の勝つ未来は?
ミッドナイトが何か宣言している。更に歓声が増した。
――いや、おかしい。勝利する未来は既に観えていた。
音がどんどん遠ざかっていく。
――なぜ? なんでだ? 気絶
意識が落ちていくのがわかる。もはや音も光も感じられない。
最後に意識に浮かんだのは、燃えるような意思を宿す爆豪の瞳だった。