悪のヒーローアカデミア   作:シュガー3

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雄英体育祭:紙一重

 俺の試合が終了した後、芦戸ちゃんをリカバリーガールのところに連れて行った。外傷はほぼ無いので寝かせて置くだけでいいらしい。

 

「どの子もこれくらいのケガだったらいいんだけどねえ」

「それは難しいですね。誰もが手を抜くことなんて考えてもいない。むしろ、手を抜かれた方が怒り出すくらいでしょう。そして、全力で戦えばケガ人も出る・・・痛ましいことですが、やむを得ません。」

 

 俺はなぜかリカバリーガールの話に付き合わされていた。

 

 正直早く観戦に戻りたい。

 俺は先生とかと話すのは好きじゃないんだ。優等生の返答を考えながらしゃべるのは結構メンドクサイ。

 

「そういうアンタは優しく相手を倒したみたいじゃないか。」

「自分のそれは心の甘えみたいなものです。相手は全力、自分も全力。だというのに仲間を傷つけるのは心苦しい。・・・・これはあくまでも相手を思いやったというより、自分に対しての偽善のようなものです。」

 

 これは本当。

 俺の気分がよくない。だから、手加減しちゃう。できるし。

 

「そうかい・・・。それがわかってるなら何にも問題はないよ。――長々と話に付き合わせて悪かったね。話を聞いてくれて嬉しかったよ。」

「いえ、こちらこそ。自分の心を見直すいい機会でした。――失礼します。」

 

 ようやく医務室から退室する。今からなら一回戦の最終試合には間に合うかもしれない。

 

 あーあ、ばあさんの話に付き合うとか時間の無駄だったわー。ご機嫌伺いも楽じゃないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・本当にわかってるなら問題は無いんだけどねえ」

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

「お? やっと戻ってきたか先見! 俺より戻ってくるのが遅いってどういうことだよ?」

「医務室でちょっとな。・・・・それより切島、今は誰の試合だ?」

「さっきちょうど、爆豪と麗日の試合が終わったところだ。次は緑谷と轟だな。」

 

 がってむ! 見損ねた!!

 俺の中で注目の対戦カードだったのになぁ。見たかったなぁ。

 

「まじかよ・・・。一応聞くけど爆豪と麗日さんどっちが勝った?」

「勝ったのは爆豪だ。けどよ! 麗日も根性あふれるいい試合だったぜ! 爆豪の奴にかなり食らいついてた!」

「は? 爆豪に? アイツが手加減・・・・・・するはずないな。絶対に全力だろ。そりゃすげえぜ。」

 

 そんなん見損ねたの? 俺?

 やべ、テンション下がってきた。

 

「・・・・・・・・・まぁ、いいか。爆豪は散々騎馬戦で観察したしな。うん、・・・」

 

 そういうことにしとこ。精神衛生的な理由で。

 

「お、始まるみたいだ。」

 

 さて、これも注目の一戦。

 戦闘能力でクラス最強に対して、破壊力でクラス最強の対決だ。

 

 99%轟が勝つだろうが、緑谷はどこまで奮戦するのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――勝者、轟ィィィ!!』

 

 奮戦っていうか、うん。粉砕だな、ステージが。

 

「なにあれ? 二人ともヤバすぎない?」

「ああ、すげえ威力だ・・・」

 

 そういう意味じゃねーよ。

 今の「個性」の使い方は確実に殺すつもり(・・・・・)だったじゃん。二人とも威力が高かったからステージが粉砕された程度で済んでるけど・・・。いや、ミッドナイトとセメントスが干渉してなけりゃどっちか死んでた。

 

 下手すると決勝はあれと戦うの? 普通に嫌なんだけど? 失格にならないかな?

 

「・・・そろそろ控室行ってくる。」

「おう! 頑張れよ!!」

「切島もな。相手が爆豪だし。」

 

 俺の対戦相手は――常闇か。

 騎馬戦で脱落させられなかったのが悔やまれる相手だ。とにかく隙が無い「個性」中距離戦闘では無敵に近い。近接戦なら俺の方に分があるが―――

 

 

 ま、どうにかなるでしょ。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

『――1回戦じゃ一撃で相手を沈めた瞬殺ボーイ!! 先見賢人 対 変幻自在の影使い! 常闇踏影の対決だァァァ!!』

 

「よろしくな」

「ああ、良き闘争をしよう」

 

 なんやねん、良き闘争って

 

 開始位置に着く。

 どうやって戦おうか。とりあえず―――

 

 

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

 

 

 相手次第、かな。

 

「ゆくぞ! 黒影(ダークシャドウ)!」

「アイヨ!」

 

 常闇の「個性」が俺に手を伸ばして攻撃してくる。

 速度はそこそこ、不定形だから本来なら攻撃の予測がしづらい。

 

 

 ―――が、関係ないね。

 

 

 相手の攻撃を受け流す。

 避けるでもなく防ぐでもない。相手の力の方向をずらし(・・・)、そこにできたスペースへ回避行動を行う。

 

 何度繰り返しても同じこと。見切り、捌き、躱す。

 残念ながらその程度の速度では俺を捕まえることは不可能だ。

 

『うおおおい!! 全然当たんねーー! 一回戦からそうだけど、神回避すぎるぞ先見ィ!!』

 

 あざっす。

 

 しかし、大体わかってきた。最初の方こそ警戒してたが―――

 

「ふ、攻撃せねば勝利を掴むことはできないぞ。」

 

 焦れてきたのか、常闇から挑発してきた。

 たぶん、アイツは俺の防御を抜けないのだろう。隙を見せてほしいのかな?

 

 ていうか、挑発へったくそだな!!

 

「では、お言葉に甘えて!」

 

 しかし、あえて乗ってやる。

 

 前に出る。

 ここぞとばかりに攻撃の密度を高めてきやがった。

 

 右からの薙ぎ払い。――前傾姿勢にして潜り抜ける。

 地面を這うような軌道からのアッパー。――体を横に一回転。旋回して避ける。

 上から下へ唐竹割。――斜めに踏み込み。攻撃範囲から紙一重の距離外れる。

 

 躱しきった。

 奴の「個性」の間合い、その内側に潜り込んでやった。

 

 ここまでくれば、あとは接近戦だ。

 常闇の本体はそこまで強いわけじゃない。身体能力的にも戦闘技術的にも俺が圧倒している。

 

 ゆえに、奴は俺を近づけたくなかったはずだ。

 本体の脆弱性、これこそが常闇に唯一見つけられた弱点。

 

 

 

 

「「(取った!!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

side 常闇踏影

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

「(さて・・・。)」

 

 目の前の敵を見る。

 構えもせず、薄ら笑いを浮かべこちらを見つめている。その姿はまさしく隙だらけ。

 

 しかし、実際には隙など無いのだろう。

 構えとは、相手の攻撃に対してなるべく迅速に対応するためのモノ。奴の「個性」の前では構えが必要になるはずがない。

 

 とにかく攻勢に出るべきだ。

 中距離を保ち、一方的に攻撃していればいずれ体力の問題も出てくるだろう。

 

 

『うおおおい!! 全然当たんねーー! 一回戦からそうだけど、神回避すぎるぞ先見ィ!!』

 

 

 全く当たらない。

 いや、それ以前だ。当たる気がしない。

 

 奴がこちらを見ている。

 そうだ、あの目だ。あの黄金の目ですべてを見切られている。まさしく慧眼無双、あらゆることを見通し、看破する恐るべき(まなこ)よ。

 

 そして想定外の体力。

 爆豪ほど逸脱していないが、それでも息切れすらしていないとは!

 

 ―――やはり、あの方法しかあるまい。

 

「ふ、攻撃せねば勝利を掴むことはできないぞ。」

 

 挑発。

 何とかして先見に攻勢に移らせなくては

 

「では、お言葉に甘えて!」

 

 乗ってきた! ここで仕留める!

 

 広い攻撃範囲で当てようとした、体勢が崩れたところに攻撃を仕掛けた、意識の反対側から仕留めにかかった。

 

 しかし、すべて躱された。

 

 信じがたい。

 轟のような技術を基礎とした動きではない。「個性」に導かれるままの最適行動。

 

 よもや、これほどとは思わなんだ。

 

 先見が拳の届く範囲まで侵入してきた。

 絶体絶命というやつだろう。

 

 

 ―――しかし、ここにこそ勝機はある。

 

 

「(黒影(ダークシャドウ)!!)」

 

 奴は紙一重で黒影(ダークシャドウ)の攻撃を躱した。

 こちらに攻撃する直前、なるべく行動の無駄をなくすためにそうすると思っていた!

 

「(背後から襲え!!)」

 

 これこそが我が策略。

 先見がどれだけ先の未来を観ていようが関係ない。

 

 視界に映らない攻撃(・・・・・・・・・)

 

 これならば未来に映る事もない。これのみが無敵とさえ感じる先見の「個性」唯一の弱点!!

 

 

 

 

「「(取った!!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

『決・着ゥゥゥ!!!』

 

 やられた、背後からの奇襲とはな。

 

『激闘を制したのは―――!』

 

 俺の弱点だ。視界に映らなければ予測もクソもない。本当に―――

 

『勝者! 先見ィィィイィ!!!』

 

 危なかった(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「ば、ばかな・・・。背後からの攻撃に、どうやって反応した?」

 

 少し離れたところから声が聞こえてきた。

 思いっきり蹴ったのにもう意識が戻ってきたのか。確実に脳震盪にしたんだが。

 

「常闇、お前の判断は正しい。視界の外からの奇襲、これを俺は【未来視】で確認することができない。」

「ならば、なぜ・・・?」

 

 俺の「個性」がただの【未来視】ならそれでもよかった。

 しかし、

 

「攻撃は見れない。しかし、そのままだと意識を失うということはわかる。俺は「個性」で『意識を失わずにすむ未来』を直感的に理解したのさ。」

 

 未来視に攻撃は映らない。しかし、未来に視覚が途絶えるのはわかるのだ。

 視覚が途絶えるということは意識を失う、もしくは死ぬということ。

 

 背後から奇襲をかけるのならば、一撃で意識を刈り取るのではなく、背中でも殴りつけて動きを止めてから仕留めればよかったのだ。

 

 USJの時もそうだった。

 相手の攻撃なんぞ映らない。しかし、『死なずにすむ未来』にするにはどうすればいいかがわかる。それに従うことで脳無の攻撃を避けていたのだ。

 

「でたらめ・・・だな。なんという「個性」だ・・・」

「常闇の万能「個性」に言われたくねーな」

 

 本当に厄介な「個性」だった。

 

 今回の勝利は半分くらい運が良かっただけだろう。常闇が俺の「個性」を深く理解していたら、やられていたのは俺だった。

 事実として、俺は最後の最後まで背後からの奇襲に気付けなかった。それはすなわち戦闘での読み合いに負けた、ということだ。

 

 

 今回の勝因は一つ。

 俺の「個性(さいのう)」が常闇の予想を上回った。それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





常闇くんの口調がなんとなく好き。
えげつないくらい厨二ワード入れられるから。





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