悪のヒーローアカデミア   作:シュガー3

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雄英体育祭:アピール

『終ーーーー了ーーーー!!!!』

 

 騎馬戦が終了した。

 最後の10秒近くは時間が引き伸ばされたと錯覚するほどの緊迫感が存在した。

 そして、俺たちはその時間に耐えきった。

 

『それじゃあリザルトの発表だ!! 上位4チーム、いってみよう!!』

 

「・・・ク、ソが!! あの、クソナード・・・!!!!」

 

 最後の瞬間まで爆豪は1000万ポイントの鉢巻を守り抜いた。敵の最後のあがき、最後の猛攻をとうとう踏み潰すことができたのだ。

 しかし、その表情はとてもではないが勝者が浮かべるものとは思えない。

 

『まずは1位!! 爆豪チーム!!』

 

 トップ通過。誰恥じることのない成績。まさしく、完璧な勝利。

 

 

 そして――――

 

 

 

『2位!! 緑谷チーム!!!』

 

 

 

「取ったよ、かっちゃん。君のポイント(・・・・・・)を」

「デクぅ・・・!!  この、クソカスが・・・!!」

 

 最後の瞬間、緑谷は標的を変更した。

 いや、正確に言うのならば最後の瞬間のためにずっと1000万ポイントを狙い続けていた。

 

 おそらく、俺たちが1000万を轟から奪われたときにこの作戦を考えていたのだろう。轟と緑谷、さらに黒影(ダークシャドウ)までもが1000万ポイントの鉢巻を狙い続け、爆豪の注意を全てそこに集約させる。

 爆豪はセンスこそ優れた人間だが、視野を広く持つ性質の人間ではない。いつもキレて視野が狭まってるしな。後半に連れて増していった集中力もその一因だろう。

 

 それを突かれた。

 俺たちのチームは切島が10位、瀬路が9位、俺が4位、爆豪が3位。総ポイント数はかなりのモノになったはず。それゆえ緑谷チームも次のステージへと進出した、というわけだ。

 

『続いて3位! 轟チーム!!』

 

 結局、奴らの最初から持っていたポイントを奪う事は出来なかった。というか、猛攻をしのぐのに精いっぱいでそれ所ではなかったのだろう。

 もちろん、爆豪が、だ。

 俺と切島と瀬路。騎馬の連中は最後の方は轟の氷のせいでただの役立たずだったからな。

 

「・・・最悪だ。」

「何言ってんだよ、先見も爆豪も。1位通過だぜ?」

「切島か・・・。1位は勿論うれしい。しかし、俺としては轟たちか緑谷たち、どっちかはここで落としてやりたかったんだよ。」

「ああ・・・、作戦の時に言ってたな。『この競技は実力のあるチームが次に進出する人間を選べる』ってやつか?」

 

 その通りだ。

 障害物競走と違い、騎馬戦は他の人間と戦うことが目的の競技だ。つまり、自分にとって厄介な人間のポイントを根こそぎ奪ってしまえば、次の競技で有利に進めることができる。どうせ、最後の競技は例年同様ガチバトルだろうし。

 

「理想を言えば轟チーム・・・しかし、せめて緑谷達は潰しておきたかった・・・!」

 

 今回で確信した。常闇踏影(とこやみふみかげ)、あいつの「個性」は万能に過ぎる。

 伸縮自在ゆえに射程が広く、変幻自在ゆえに対応力が高い。おまけに自律思考するせいで片方の隙をもう片方が埋めてくるため死角も少ない。

 

 アイツには、落ちてほしかった!! あとは、ぶっちゃけどうでもいいけど!!

 

「くっそ! ベターじゃなくベストの結果を出したかった!!」

「デクの野郎・・・また、また! 俺を出し抜きやがった!!」

 

 

「俺たちのチームって1位通過だよな・・・?」

「こいつ等を見てると上手く喜べねえんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、昼休憩をはさんだら午後の部だぜ!』

 

 ようやく休憩できる時間だ。

 先ほどの結果は、あまり気にしないことにする。それよりも、気持ちを切り替えて次に望むことが重要だろう。

 

「・・・おい、おい! 先見!」

「ん? どうした、峰田?」

 

 峰田が目を血走らせて話しかけてきた。

 どうやら、指をさしている方になにかあるらしいが・・・

 

 ほほう?

 

「・・・すばらしいな。本場のチアリーダーか」

「ああ、見ろよ、あのボンッキュボンを・・・」

 

 目の保養になる。最後の種目までの余興なのだろうが、ナイスセレクトと言わざるを得ない。これが野郎どものストリートダンスとかだったら抗議文を提出するまである。

 

 峰田が目を血走らせるのもわかる。わかるんだが・・・。峰田さん、もうちょっと表現をオブラートに包みませんか?

 

「それでだ・・・オイラからの提案なんだが・・・―――。」

「ふむふむ?なるほど。・・・峰田よ、やはり貴様は天才だったか・・・!」

 

 恐るべき発想だ。とてもまねできない。

 しかし、まだまだ計画には穴があるようだ。僭越ながらこの俺の頭脳をもってしてパーフェクトな計画へと仕上げてやろう。

 

「峰田、ここはだな―――で、――って感じにしたら・・・後はわかるな?」

「・・・! 流石だぜ、先見! えげつないことを考えさせたら右に出るやつがいねえな!!」

「おい、褒めてんのかそれ」

 

 峰田はさっそく女子の方へと向かって行った。どこまでも欲望に素直な奴である。

 頑張れ峰田。負けるな峰田。ヘイトは全部お前に行くようにしたけど!

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた体に栄養が染み渡る・・・。」

「若者のセリフじゃねえなそれ。」

「うるさいぞ、上鳴」

 

 昼食が終わった。

 俺の「個性」はどうやら脳を酷使しているらしく、使い過ぎると頭痛を引き起こす。誰の「個性」でも同じことが言えると思うが、栄養の補給は非常に重要だ。

 

「――それより、さっき言ってたことは本当か?」

「本当だ。峰田が予定通りに動いているならそろそろ登場するはず」

 

 今いる場所は控室。1-Aのクラスメイトで使わせてもらっている。昼休みの間に男子連中に声をかけて集合してもらったのだ。

 すると、峰田がようやく表れた。手には音楽プレーヤーとスピーカーを持っている。

 

「よっしゃあ! 集まってるな!! みんな注目!!」

 

 峰田が皆に呼びかける。

 集めた中にはまったく事情を説明していない人間もいるので、当然ながら質問が浴びせられた。

 

「峰田君!! なにをするのかそろそろ教えてくれないか! 先見君は後で君に聞けと言っていたぞ!」

 

 もちろん、飯田には事情を説明していない。

 

 あ、峰田が俺を窺ってる。無視していいぞ、強引に進めてしまえ。

 

「オイラ達1-Aはかなりの人数が最後まで残ってるだろ? だから、それに対して士気を上げようって企画だよ。」

「なるほど!」

 

 そんな説明でいいんだ。雑、極まりないな。

 

「とにかくいくぜ! ミュージックスタート!」

 

 峰田の持っていた音楽プレイヤーからポップな曲が流される。パーティーソングというか、イケイケな曲というか、そんな感じだ。

 

 

「yeeeeeah!!」

 

 

「「「おおお!」」」

 

 そして、チアガールの格好をした1-A女子の諸君が現れた。

 

 これぞ、俺と峰田で計画した『女子にチアの格好させようぜ作戦』!! 

 

「いいよ、いいよ~」

 

 峰田が身長差を活かしたローアングルで写真を撮りまくる。控えめに言っても変態にしか見えない。もちろん、あのカメラを渡したのは俺だ。データは後でもらう。

 

「み、峰田さん! 今更ですが、これは本当に意味ある事なんですの!?」

 

 今更すぎますよ、八百万さん。

 

「もちろんだ! こうやって女子に応援されてやる気にならないヤローはいねえよ!!」

 

 本当にいい笑顔をしているな峰田。本当にヤバい感じの笑顔だ。通報ものだ。

 

 はじめは、クラスでの応援合戦とか言うつもりだったがプランを変更。【士気高揚】とか【B組もなにかしてるよ?】とか【クラス皆のためになるよ!】とか、とにかく八百万に効きそうなワードで攻めてみた。

 他の女子はなんだかんだ面白そうとか言って拒否しないか、皆がするなら私も、とかいうと予想したのだ。

 

 結果は成功。

 女子が俺たちのために『自分から』チアガールとなってくれた。

 

 素晴らしい光景だ。よし、

 

「いやー、みんなかわいいね! ほら、耳郎ちゃんも恥ずかしがってないでよく見せてよ」

「え、いや、ちょっ、あああんまり見られると恥ずかしいんだけど・・・」

 

 その恥ずかしがる姿がいいんじゃないか! 口には出さないけど!! 

 

「いいねー、八百万ちゃんいいねー。そうやって応援されたらかなりやる気が出る!」

「ほ、本当ですの?」

 

 うんうん、フォローは大事。本音でもあるけど。

 

「お前、やってることほとんどナンパだな・・・」

「シャラップ。上鳴、私は心に浮かんだ言葉を口に出しているだけなのです・・・いいね?」

「へいへい・・・」

 

 実に有意義な昼休憩である。

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 最後の競技が発表された。

 予想通りトーナメント式のガチンコバトルだ。

 

 その際、尾白とB組の庄田の二人が突然出場を辞退。なんでも、記憶が騎馬戦終盤までなく、プライドが許せないとかなんとか。よく理解できない理由で出場を取りやめた。

 

 わけがわからん。プライドでメシは食えないという言葉を知らんらしい。せっかくプロヒーロー達に対してアピールできる舞台なのに。

 もし、今までの分でアピールが十分だとか考えているのなら、認識が甘い。スカウトの人間からすれば最後の戦闘こそが評価の基準。むしろ、これしか見ないという判断の人もいるはずだ。

 

 本当にやめてほしいぜ。尾白には勝てるのになあ・・・

 

 そして、その代わりに鉄哲達のチームがトーナメントに参入した。・・・本来なら一佳達だったのだが、こちらもよくわからん理由で出場を辞退していた。

 

 トーナメント前半の一山が終了した。

 緑谷、轟、塩崎、飯田が二回戦へとコマを進めた。

 

 わざわざ気合を入れてやった瀬路だが、轟にはさすがに敵わなかったようだ。

 開幕からの奇襲・捕縛。そして大氷壁、なんとか躱すも次第に追い詰められ、最後は指一本動かなくなるまでガチガチに凍らされてた。

 しかし、大健闘だ。凄まじい気迫だった。轟が焦りの表情を浮かべ、不必要なまで氷漬けにしたのはある意味成果と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 そして、試合は後半戦。俺の試合だ。

 

『行くぜ! トーナメント後半戦! 第1種目、第2種目ともに好成績!! でも、いいかげん「個性」がなんなのか教えろよ!! 先見賢人! (vs)――』

 

 正直、勘弁してほしい。

 

『キュートでピンキー、アシッドガール!! 芦戸三奈!』

 

 一回戦から天敵に当たるとか。

 

「うし、負けないよー!」

「お手柔らかに頼むぜ」

 

 互いに挨拶。

 しかし、芦戸ちゃんとは敵対することが多いな。別に敵対したくはないのだが。

 

『レディィィイイ!! スターーート!!!』

 

 

 

 

 

 ―――!

 開幕早々。芦戸ちゃんから溶解液が飛ばされた。

 

 相手に何かさせる前に範囲攻撃で即潰す。実にいい判断だ。

 おそらく、肉を溶かすことはないだろうが、皮膚、そして服ぐらいは溶ける濃度の酸だろう。

 

 しかし、無意味。あえて紙一重で回避する。

 俺の「個性」で見切れば液体だろうがなんだろうが、肌に触れるギリギリで回避が可能だ。

 

「うわ、全然驚いてくれないし」

「これくらいじゃまだまだ。サプライズにもなってない」

 

 ――今度はこちらの番だ。

 

 酸を飛び越え、距離を詰める。

 接近するこちらに手を向け、溶解液を放つことで迎撃を狙っているようだ。

 

 そして、溶解液が放たれる―――

 

 と、全くの同時に、サイドステップ。これまた範囲ギリギリでの回避。無論、このまま突っ込む。

 

 芦戸ちゃんがもう一度迎撃を狙う。手をこちらに向け溶解液を噴出するのだろう。

 だが、距離は詰めることができた。俺の手が芦戸ちゃんに届く間合いに入ったのならば、溶解液なんぞ別に怖くはない。

 

 ――こちらに向けられた腕をそっと横にずらしてやる。それだけで溶解液はあらぬ方向に飛んで行った。

 

 芦戸ちゃんが驚愕の表情を浮かべる。

 

 この体育祭ではヒーローコスチュームの着用が認められていない。

 つまり、今の芦戸ちゃんは酸の噴出できる場所が制限されている。コスチュームを着ている状態なら靴の先からでも酸を出せる機構が備わっているが、体操服にそんな機能はない。

 

 普段なら腕全体に酸を纏っておくぐらいするんだろうが、流石に体操服でそれはできまい。出力をミスったら自分の服も溶けちゃうし。

 

 ――芦戸ちゃんが肉弾戦に切り替えてきた。

 切り替えが早い。フックで俺の顎をカチ上げるつもりのようだが・・・・・・

 

 ほんのわずかに上体を反らす。それだけで拳は空を切った。

 体勢が完全に崩れた。その無防備な芦戸ちゃんに向けて―――

 

「(女の子を殴るのは気分がよくない。せめて一撃で沈めよう)」

 

 顎先を掌底で打ち抜く。

 てこの原理により、芦戸ちゃんの頭がシェイクされる。

 

 意識の消失。

 脳震盪だ。全身から力が抜け前のめりに倒れようとする。――受け止める。

 

「・・・ふう。」

 

 静寂。観客たちはまだ何がどうなったか理解が追い付いてすらいない。

 

 審判のミッドナイトへを視線を向けて呼びつける。そして、

 

 

 

「――うん、気絶してるわ。戦闘続行不能! 勝者! 先見賢人!!!」

 

 

 

 勝利宣言が行われた。

 

『そ、ソッコーで終わったぁぁぁぁ!!? 一撃、一撃で終わらせた! 相手の攻撃は掠らせもしてない!! なんてこった! めちゃ強いぞ先見ィィィィ!?』

 

 歓声が響く。

 

「すげえ! 圧勝だ!」

「相手の攻撃は全部完全に回避して、自分は一撃で決める・・・完璧な内容だ・・・」

「何が起きたのかわかんなかったぜ!」

「優秀な子だ、「個性」は?」

「今の年齢であれほどの近接戦を行うとは・・・将来有望だな」

 

 き、気持ちいい~!

 ふははは、愚民どもめ俺を崇めろ!! もっと、もっとだ!!

 

 手でも振ってやろうかと考えていると、ミッドナイトに話しかけられた。

 

「それじゃ、会場から下がってね。悪いんだけど、その子を医務室まで連れて行ってくれる?」

 

 そうだった。芦戸ちゃんを抱きとめたまんまだった。

 

「ええもちろんです。むしろ自分に最後まで運ばせてください、とお願いするつもりでした。それが彼女を倒した者としての礼儀・・・だと思いますから。」

 

 とりあえず、適当に良いことほざいとこ。

 表情のタイトルは『勝利の喜びと仲間を手にかけた罪悪感との狭間』だ。

 

「よろしい。それじゃ、お願いね」

「はい、失礼します」

 

 ステージから降りると、拍手が響いていた。

 

 よしよし、感動的な場面だろ? 麗しき友情、みたいな感じだろ? テレビ的にも美味しい絵だろ? しっかり撮るがいいぞ!!

 

 

 

 最終種目の一回戦。

 様々な意味で実に満足のいく試合だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません。更新頻度を落とします。



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