「ええっと、ごめんね先見君?」
「いいや、気にすることないさ。誰しもが優勝を目指している。すなわち、自分以外の誰かを押しのけて勝利するために努力しているんだ。だから緑谷がやったことは何も間違いじゃないし、俺も勝利を目指している以上文句を言う資格はない。・・・・・・ああそうとも、文句なんてないよ? 俺の真横で爆弾を起動させて吹き飛ばし、あまつさえ1位の座を奪われたことは気にしてない。更に他の連中にも抜かれ結局4位でのゴールになったことについて全く! 全然! これぽっちも! 気にしてないとも!!!」
「「「(引くほど気にしてる・・・)」」」
つい先ほど第1種目の障害物競走が終了した。
俺はトップを目前にして、目の前の緑谷からまんまと1位の座を奪われた。
ケッ! なにが『ごめんね』だ畜生め! 申し訳ないと思うなら順位交換しろよ、あぁん?
麗日さんから褒められやがって! 羨ましい!!
しかし、俺はあくまで紳士だ。勝負の場で負けたことにグチグチ文句を言うことはない。気にしていないこともしっかりアピールしてやっただろう。眉間にしわが寄っていたり、目つきが悪くなってるような気もするが気のせいに違いない。
「お、おい。あんまりいじめんなよ・・・。それに言うほど順位が悪いわけじゃないだろ? いいじゃねえか4位でも。ここから十分挽回できるって。」
おや、最終的に常闇に追い抜かされた瀬路さんじゃないですか。いじめとはいったい何のことだろう、全くわからない。
それにしてもよくないな、その心構えはよくない。
「瀬路・・・お前はそんなだから地味顔なんだ。」
「なんのことだよ! 顔は関係ねえだろ! 顔は!」
「聞け。いいか? トップを目指すって言うのはな、頂点かそれ以外
真剣な顔で瀬路に詰め寄る。心当たりがあるだろう? いい順位? 傷の舐めあいなんぞごめんなんだよ。
そうだ、俺は勝ちたいとかそれ以前に俺より上に誰かがいるのが許せない! 誰か一人にでも見下されてたら意味ないんだよぉぉぉぉ! 完全な勝利の優越感に浸りたいんだ俺は!!
「先見・・・お前・・・。いや、悪い。謝るよ。真剣勝負ってモンをわかってなかった。心のどこかで【いい順位】でいいと思ってた。優勝するのを諦めてたんだ。」
「だからしょうゆ顔なんだよ」
「だから顔は関係ねえよ!? あーもう! いいから聞け! ここからは俺も真剣だ! 優勝を目指す! いいな!?」
宣言が恥ずかしかったのか、赤い顔をして離れていく。
どうやら発破をかけるのには成功したようだ。アイツ絶妙に力を抜いてたからな。
全力だけど本気じゃないというか、たぶん負けても『アイツら強すぎだ、しょうがねえ』とか言うつもりだったに違いない。負けたくはないが、負けて心を痛めるのはもっといやだ。そういうタイプだ。
それじゃ、勝てないんだよなぁ。いいところまで行っても最後の最後で負ける。常闇に負けたのもそのせいだったりするんじゃないのか?
「先見ィ!!!」
「うおっ、なんだ切島か。」
「お前、今日は一段と男らしいじゃねえか! 貪欲に一番を目指す姿勢! それなのに友を気遣う優しさ! マジかっこいいぜ!!」
「おう。ありがとう」
切島の中で俺の株が急上昇中のようだ。ふふふ、いいんだぞ。もっと褒め称えろ。
・・・・・・ま、打算無く発言したわけではない。瀬路は「個性」の相性的にほぼ確実に勝てる。だからこそ、俺が勝てなさそうな相手を掃除してほしいのだ。
特に、上鳴。瀬路ってアイツの天敵だよね? セロテープって絶縁体なんでしょ?
上鳴以外でもある程度食らいつけるはずだ。今の瀬路の精神状態ならばジャイアントキリングの可能性まである。
さあ瀬路よ! 俺のためにがんばれ!! そしてその後、俺に倒されろ!!!
「――敵に塩を送るなんてずいぶん余裕なんだね?」
あん? このウザい声は・・・
「おやおやおや、障害物競走36位の・・・36位! の物間さんじゃないですか? 4位! の俺に何の用があるんでしょう?」
「キミは本当に隙あらば煽ってくるね・・・」
お前に言われたくはないわい
「でも、ま。調子に乗っていられるのもここまでだよ。僕の順位が悪かったのには理由がある。予選段階では情報収集に努めていたのさ、後ろからずっと観察させてもらっていたよ。君たちの「個性」、性格、運動性能に至るまで、ね。」
「・・・・・・」
「おや? 反論も思い浮かばないのかい? どうやら理解してくれたみたいだ。今の時点で一番アドバンテージを握っているのは僕だってこと――――」
「悲しいなぁ・・・」
自信満々にしゃべっているが、本当に憐れだ。ここまでくると皮肉も言えない。
「なんだい・・・それ。負け惜しみかな?」
「いや、違うよ。本当に悲しい。憐れだ。」
「・・・! だからなぜ―――」
「俺が情報収集にこだわっていたのは
たった一度、それも自分が競技に参加しつつ得られた情報なんぞたかが知れてる。それが失ったポイントほどの価値があるはずがない。
なにより―――
「本番に至って情報収集するなんて、『今ある材料じゃ手も足も出ません』って宣言してるようなものだ。お前がしたのはクレバーな判断じゃない。みっともない悪あがきだ。」
「は、はは・・・。相変わらず腹の立つ男だ。僕の判断が間違っていて、キミの言葉が全部正しいなんて、いったい誰が決めるんだい?」
その通りだ。判断するのは言葉ではない。
「もちろん決まってる。勝利した奴が正しい。どっちが正しいのかは勝利した奴が決めればいい」
「・・・そうだね、その通りだ。勝った方が正しいに決まってる。・・・これ以上言葉を交わしても無駄みたいだ。少しくらい戦意を挫いておきたかったんだけどね。」
性格の悪い奴だ。ゆさぶりをかけて精神的優位に立ちたかったわけだな。無駄だが。
そもそも情報収集といったって、
他の人間の情報なんぞむしろくれてやるわ! 俺の代わりに倒せ! つーか共倒れしろ!!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
『第2種目はコレ! 騎馬戦!!』
ミッドナイトから第2種目の発表がされた。
第1種目の上位42名で2~4人で騎馬をつくるチーム戦だ。
ふむ、誰と組むか考えることも戦略のうち。なるべく利害が一致する人間で組むべきかな?
『先ほどの順位によってポイントが変わってくるわ! 上位の人間ほど高ポイントよ!』
「組む騎馬のメンバーによってポイントが変わるのか?」
「なるほど、奪い合いというわけか」
『そういうこと! そして、1位のポイントは1000万!! 下剋上サバイバルよ!!』
第2種目の控室。騎馬戦のメンバーをここで決めろと言うことらしい。
「誰と組もうかな・・・?」
できるなら騎手はやりたくない。なにせ攻撃能力も防御性能も俺には無いのだ。それよりも、騎馬で有利になるルートを選ぶ方が建設的だろう。
そして、俺が理想とする騎手は―――
「おい、クソ金目」
勝つためならば無茶な注文にも応えられる奴。勝利に餓えている奴が相応しい。
「爆豪か、なんだ?」
「・・・・・・チッ!!」
舌打ち!?
「あの・・・爆豪さん?」
「・・・・・・」
表情がヤバい。眉間のしわといい吊り目具合といい・・・。
ていうか何しに来たの?
「・・・・・・お前、俺の騎馬に入れ。」
お前それ言うのに時間かけすぎだろ。
「かっちゃんが人に頼った????」
「ば、爆豪が自分から人を・・・!」
爆豪の評価はどうなってるんだ? たしかに、ある意味ではコミュ障だけど!!
「・・・ちょうどいい。お前みたいな騎手が欲しかったところだ。他のメンバーは?」
「しょうゆ顔と、クソ髪だ。」
「なるほど。瀬路と切島か。」
良いメンバーだ。というか・・・ふむ・・・
「よろしくな、先見!」
「
瀬路? なんか字が違わない?
「ちなみにチームの方針も聞いておこうか」
「決まってんだろ・・・!! 1000万だ!!」
そっか、爆豪は緑谷のこと目の敵にしてたな。
だが・・・それだけじゃあ足りんよ。
「爆豪・・・お前ともあろうものがどうした?」
「ああ゛!?」
「方針を変更してくれ。1000万じゃ
「は、はあ? なにいってんだ先見!?」
「切島、緑谷だけ狙うなんて生ぬるい方針じゃつまんないだろ?」
この騎馬戦の本質はポイントを取る事じゃない。
「俺が提案する方針は一つ。『どいつもこいつも皆殺し』だ! この方針なら協力してやる!」
ポイントを
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
『さぁー! それぞれ騎馬を作っての入場だあああ!! 起きろイレイザーヘッド! 始まるぞ!!』
『ん・・・。なかなか面白え組み合わせになってるな。』
さてさて? ほぼ完璧な作戦を立てたと思うが・・・
「全員いいか? それぞれの役割を忘れんなよ。」
「わかってるよ」
「まかせろ!!」
「・・・」
爆豪が返事してくれない・・・。
ま、いっか。爆豪は「勝つこと」に並々ならぬ思いがあるようだ。こういうやつは言うこと聞かなくても勝利に全力を出してくれるのは間違いないからな。
『それじゃあいくわよー! 第2種目騎馬戦! スターート!!!』
「行け、クソ髪! デクの野郎をぶっ殺す!!」
当然みんな緑谷を狙うよね。
「追われし者の
「当然! 逃げの一択!」
で、当然逃げる、と。
―――ふむ。
「爆豪。もうすぐ緑谷がジャンプするぞ。空中で攻めろ。」
「二人とも! 顔よけて!」
緑谷が背中につけたジェットで大ジャンプを行う。発目のサポートグッズか?
なるほど、麗日さんの「個性」で軽量化してるのね、相性のいいチームだ。
「死ねや、デク!!!」
「かっちゃん!?」
しかし、観えてる。こちらも空中戦は可能なんだよ、爆豪限定だが。
「防げ、
「・・・チッ!」
うーん、観えてたとは言えめんどいな。ほぼ奇襲なのに防がれるか。
「うし、瀬路。」
「おーらい!!」
『うおおお!? 騎馬から離れたぞ!? 良いのかアレ?』
『テクニカルなんでおっけー!』
空中にいる爆豪を瀬路のテープで回収する。
――んで。
「もう一回だ!! 今度は騎馬ごと――」
「爆豪、振り向け。」
反応、迎撃、爆発音。
流石は爆豪。恐ろしいほどの反応速度だ。攻撃が終わり、気が抜けた一瞬を狙われた奇襲だ。まったく、性格がにじみ出てるとしか思えない戦法だ。なあ、
「残念だったなぁ。物間?」
「へえ、気づいてたんだ」
気づいてたわけじゃない。【未来視】に爆豪が鉢巻を奪われる瞬間が観えただけだ。
・・・・・・やはり、こいつは俺の「個性」に気付いてない。俺が騎馬である最大のメリットは「絶対に奇襲されないこと」だからだ。
「・・・!
「よっしゃ!」
「死ねオラァ!!」
またしても爆音。強烈な爆豪の攻撃だが、見えない壁のようなものに防がれた。
流石! 手が速いぜ! でも、せめて何か言ってから飛べ!!
「――切島! 突っ込め!」
「おっしゃあ!」
ガードとか良い「個性」だな。・・・・・・しかし、俺の「個性」はそういうものの対処法を理不尽に見つけ出すんだ。
爆豪を拾って、今度は騎馬ごと突進する。
「爆豪! ぶち破れ!!」
「くたばれコラァ!!」
爆音。
さっきよりも強烈な爆発だ。ガードごとぶち抜いて敵の鉢巻をもぎ取った。
「・・・チッ。いったん下がれ! 狙いを他の奴に切り替える!」
そう来るか。時間の割にしけた成果だったな。
ただまあ・・・お前の思い通りになるのは癪に障る。
思いっきり息を吸い込む。そして全力で叫ぶ!!
「A組ぃ!! 緑谷に気を取られ過ぎんな!! 後ろから狙うチームがいるぞ!!!」
「なっ!?」
「ぐああ、うるせー!?」
すまん切島。耳塞げないもんな。
『なんだぁ!? クラスぐるみのチームプレイか!?』
『いや、そんな感じじゃねえな。たぶんだが目の前のチームに対する牽制だろう』
その通りです。これで簡単に後ろから取ることなどできまい。せいぜい苦労しやがれ。
「よし、どうする爆豪。」
「デクの野郎に騎馬ごと突っ込め!!」
任せとけ! ―――んん!?
「進路変更! 切島! 緑谷の後ろ! ライン際! 轟に
「まじかよ! よりによって轟!?」
あと10秒後にやられる! なんだあの技!?
「レシプロバースト!!!」
『とっっったーー!! なんだ今の速すぎィィィ!? そんなんあるなら予選でも使えよ飯田!』
ホントだよ!
「よこせ! 半分野郎!!」
「爆豪!?」
爆豪が轟に挑む。奪われてすぐに俺たちがやってくるとは思わなかっただろ。
「オラオラオラァ!!!」
「グッ!?」
連続爆破。
氷を纏わせてかろうじて防いでいる。だが、いつまで持つかな?
「・・・飯田、いったん下がれ!」
「クッ! すまないエンストしていて上手く動けない!」
ほう、そういうことか。
「いいこと聞いた! 爆豪! 氷を出す隙を与えんな! スタミナで押しつぶせ!」
「死ねやぁぁぁぁ!!」
爆豪のスタミナを舐めんな。ずっと攻撃し続けりゃ轟もいつかは堕ちる。
―――甘い
「絶縁シートですわ!! 上鳴さん! これで――」
「瀬路、シート奪え」
「あいよ!!」
「あ!?」
八百万がシートを生み出した瞬間に奪う。ダメじゃないか、俺を相手に気を抜いたら。
上鳴の「個性」なんて警戒してないはずがないだろ。
これでこっちは何時でも電気を防げる。いいもんゲットぉ!
―――よし
「返せぇぇぇ!!」
「デク!?」
「・・・チッ!?」
緑谷が乱入してきた。最高のタイミングだ。ただでさえ体勢の崩れていた轟が、緑谷の超パワーで更にガードまで崩された。
「うわああああ!!!」
「・・・・・・!」
取った。轟の胸元、一番上にある鉢巻を奪い取った。
「取った!! 取ったあああ!!」
「デク・・・! あ、の、野郎!!!!」
勝利の叫び。
「それ・・・違いませんか!?」
しかし、緑谷がとったのは1000万ポイントの鉢巻じゃない。
「爆豪。」
「ああ゛!? さっさとデクを殺しに行くぞゴラァ!!!」
なにせ―――
「瀬路。」
「ほい、1000万。」
『アメィジーーング!!? なにが起きたかわかんねえ!! 緑谷が突っ込んでポイントを奪ったかと思えば、いつの間にか爆豪たちが1000万を奪い取ったああああ!!?』
いや、放送席からならわかるでしょ。緑谷に全員が気を取られた隙に奪っただけだ。
「よし、逃げるぞ爆豪! 切島! ダッシュ!!」
「お、おう」
ホント最高だわこの戦法。
爆豪の爆炎で目隠し、瀬路が爆炎の中にテープを飛ばして鉢巻を奪う。もちろん位置がわからないがそこは俺が指示する。これをあの状況で防がれるなら諦めるしかないくらいだ。
そしてなにより――
「・・・爆豪を追え! このままじゃ終わらせねえ!!」
一本ずつ取るなんてみみっちいことは言わない。取るなら全部だ。頭の鉢巻は無理だったが。
俺は勝ちたい以上に、お前らを
緑谷も轟も、ここで終わってしまえ。
『残り時間わずか!! このまま圧倒的ポイントを持って爆豪チームの逃げ切りかー!!?』
「かっちゃん!!」
「待て! 爆豪!」
緑谷、轟チームが同時に攻めてきた。
どうする? 逃げる? だが、轟のポイントを取り尽くすチャンスかもしれない。
「来るならこい! 雑魚共がァ!!」
爆豪がやる気だ。逃げの選択肢はなくなった!
「絶対に逃がさねえ!!」
「やべっ! 足が凍らされた!」
逃がす気も無い、と。
緑谷と轟と
「そこだ!!」
「この、クソナードが!!」
やばい、今のはとられそうだった。いくらなんでも無理があったか?
「・・・クソ!」
「舐めんなや、半分野郎!! 絶対に渡さねえ!! 勝つのは俺だ!! 完っ璧な勝利だ! お前のポイントもよこせえええええ!!」
信じられん全部さばいてやがる。爆豪の勝利の餓え・執着心は予想をはるかに超えてる。
スロースターターな「個性」だと思ってたが、それだけじゃなく集中力まで時間が経つほどに増加している。
後10秒。
緑谷が超パワーで爆豪の体勢を崩す。その隙を狙って、轟が1000万ポイントへと手を伸ばす。
爆豪が手のひらの爆発で無理やり体勢を元に戻す。轟の鉢巻をそのまま狙い――視界の外から緑谷が手を伸ばし――
『終ーーーー了ーーーー!!!!』
書きずらい・・・
なぜ主人公の個性をこんな面倒なのにしたんだ・・・