悪のヒーローアカデミア   作:シュガー3

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雄英体育祭:慢心注意

 空には花火が打ち上げられ、出店からは安っぽいソースの香りが漂う。

 雄英体育祭の本番当日、開会式に備えて控室で待機しているところだ。

 

「おおー、お祭りだなこりゃ。観客のざわめきが聞こえてくるぜ」

「先見、おまえ全然緊張してねえな? 俺はなんかもう腹痛くなってきた・・・」

 

 おいおい、大丈夫かよ? 今からそんな調子で?

 

「瀬路、そりゃさっきからがぶがぶ水飲んでるからだろ。緊張で喉が渇くのはわかるけど飲み過ぎはよくないぞ」

「そんなこと言われてもなあ」

 

 周りを見回してみると、誰もかれもが緊張で顔色が悪かったりそわそわしていたりしている。

 

「つか、何食ってんの?」

「たこ焼き。見ればわかるだろ? あ、1個いるか?」

「お、さんきゅ。・・・じゃなくて、どんだけマイペースなんだよ。このピリピリした空気の中でソースの香りが気になってしょうがねえよ」

 

 そうか、道理で何人か俺の方を睨んでると思った。

 おなか減ってたのかと思ってたわ。

 

「ほら・・・緊張しすぎはよくないだろ? たこ焼きのソースの香りで皆のすさんだ心を何とかしようと思ったり思わなかったり?」

「本音は?」

「出店で美味そうだったから買った。味はまあまあだった」

「コイツ・・・」

 

 朝ごはんの代わりでもあったんだ。許してくれ。

 それにしてもみんな緊張しすぎだ。緊張感を高めるのはいいが、緊張で体が固まるのはよろしくない。何事もほどほどがいい、ということだ。

 

 見たところ理想的な緊張状態を保っているのは一部の人間だけ。爆豪、轟、梅雨ちゃん、くらいか? 梅雨ちゃんメンタル強いな。あの二人と並ぶか、むしろ上回ってる。

 

「俺は何だかんだ普段通りのテンションでいるのが一番いいのさ。緊張で集中力を高めるタイプでもないし」

「その普段通りを維持できるのがすげえよ」

 

 そう難しいことじゃない。失敗した時の事とか、ベストを発揮できるかとか、いろいろ考えるから緊張するのだ。何も考えなければ緊張も何もない。

 

「何にも考えてないだけだよ、俺は。頭空っぽにしてる」

「腹が据わってんのか、アホなだけなのかどっちなんだ・・・」

 

 アホとはなんだアホとは。

 

 

 

 

「先見。」

「うん?」

 

 轟? 何の用だろう?

 

「俺はお前の事を強いと認めてる。戦闘訓練やUSJでの活躍から考えて、だ。」

「お、おう。ありがとう」

「だが、それを認めたうえで俺はお前に勝つぞ。」

 

 宣戦布告か?

 違うか、みんな優勝目指してるもんな。お前も一緒に頑張ろうぜとか健闘を祈る的な方か。

 

「ああ、お前も頑張れ」

「・・・っ。眼中にねえ、そういうことか」

 

 なんかミスった感じあるよね。ちょっと冷気が漏れてますよ。

 凄いにらんでる。眼力パねえな。

 

「おいおい、落ち着けって」

「・・・そうだな。実力で振り向かせてやるよ」

 

 違う。そうじゃない

 

「い、いや、だから「皆! そろそろ入場の時間だぞ!」」

 

 委員長ォォォ! なんてタイミングだよ!

 あああ、轟のやつもう行っちまった。完全にケンカ売られて、大特価で買い取った感じになってる。

 

 アイツに目を付けられるのだけは嫌だったのに・・・

 

 

「――――(クソ金目ェ・・・!)」

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

『群がれマスメディア!! お前らが大好きな雄英体育祭が始まディエビバディアァユゥレディ!!!!?』

 

 さすがプレゼントマイク! テンションあげることに関して右に出るものがいないぜ! 開会式というよりクラブイベントみたいになってるけど!

 

『どうせてめーらこれだろ? アイツらだろ? (ヴィラン)襲撃を乗り越えた奇跡の新星!!』

 

 よっしゃ、俺たちの出番だ。にしても煽るねえ。

 

『ヒーロー科! 1年!! A組だろおおおお!!?』

 

 会場が揺れる。そう錯覚するほどの歓声が沸き起こる。音の振動が体にびりびりする。

 

「うはー、めっちゃ注目されてるぅー」

 

 観客席に向かって手を振ってみる。

 更なる歓声が響き、何人もの人が手を振りかえしてくれた。

 

 やばい、この感覚。クセになりそうだぜ!

 

「お前ホント怖いもんなしだな・・・」

「そんなことねえよ。上鳴もやってみれば? 楽しいぞこれ」

「やらねえよ」

 

 楽しいのになあ

 

 

 

 

 

 

 

 開会式が始まった。

 爆豪のユニーク()な選手宣誓で我がクラスは周りの全てからヘイトを集めてしまった。ぶっちゃけそういう事言っちゃうだろうと予想してた。

 

 テレビ的には美味しいんだろうなさっきの。

 

『さあ! 第1種目はこれ! 障害物競走!!』

 

 1年主審の18禁ヒーローミッドナイトにより第1種目が発表された。ルールはコースさえ守れば何でもアリらしい。障害物競走って言うかサバイバルレースだな。

 

 あと、ミッドナイトはエロい。最高です。なんだそのコスチュームは、素晴らしけしからんな。

 

『それじゃ、位置に着きまくりなさい!』

 

 おっと、気を抜いてちゃいけないな。どうせ雄英の事だ、どぎつい障害があるに決まってる。

 

 

 

『スターーーート!!!』

 

 

 

 まずは、と

 

「ちょっとごめんよ」

「がっ!?」

「いてっ!」

「てめっ!?」

 

 選手の人数に対して極端に狭いスタートゲート。

 狭き門を潜り抜けろとでも言いたいのか? 野郎どもとおしくらまんじゅうすることになるのはごめんだな。

 

 スタートゲートで密集して動きが取れなくなる前に、体格のいいやつの肩に飛び乗って人の上をぴょんぴょん跳んで進んでいく。

 ぎちぎちに人が密集しているから割と簡単だったりする。

 

 まったく、人を踏みつけるとか心苦しいぜ!!!

 

「うわああ!」

「なんだこれ! 凍った!?」

 

 轟だな。

 ゲートを抜けたあたりから妨害を始めやがった。――観えてたがな。

 地面を凍らせただけだ。俺の足場を増やしてくれてありがとう。

 

『さあ! スタートゲートを飛び出した! トップは1-A、轟焦凍だ!!』

 

 やっぱ1位か。だが、俺も抜けたぞ。

 俺たちのクラスが多いな。流石だ。

 

『最初の障害物はこいつ等だ!! ロボインフェルノォォォ!!!』

 

 入試の時の0P(ギミック)? 10体以上いるな。サイズと数で道を塞ぐのが目的と見た。

 

「多すぎて通れねえ!?」

「ヒーロー科はこんなのと戦ったのかよ!?」

 

 轟はどう対処するつもりだ?

 

『凍らせやがったー!!』

 

「あの隙間だ! アイツに続くぞ!!」

 

 あーあ、止めとけばいいのに。そんな隙を見せるわけないじゃん。もうちょっと周りをよく見るべきだ。ロボの体勢とか。

 ・・・切島じゃん。ならいいか、頑丈だし。

 

『崩れたあーー! 轟! 妨害と突破を同時にやりやがった! こいつはシヴィー!!』

 

 爆豪と瀬路、常闇は上を飛び越えるみたいだな。立体機動が使えるやつはいいねえ。

 

 さて、俺も行くかな。

 

『こいつはクレバーだ!! 爆豪、瀬路、常闇がロボの頭上をフライァウェイ!! またまた1-Aじゃねえか!? どうなってんだよイレイザーヘッド! お前のクラスは!?』

『知らねえよあいつらが勝手に成長したんだろ。』

 

 解説にいたのか相澤先生。全然しゃべってないぞ?

 

『これでトップが轟、それから爆豪、瀬路、常闇と続いて・・・・・・うん?』

 

 まったく、それにしてもどうしてみんなわからないんだ?

 

『なんかシレっと抜けてるぅぅぅ!!? 誰だアイツ!?』

『1-Aの先見だ。轟の後に抜けてた。いまんとこ2位だな。』

 

 上を通るより、地面を走ったほうが速いに決まっている。

 【未来視】で観た最短ルートを進めばいいだけ、ロボを倒す必要すらない。回避なら得意分野だ。

 

 

 次のフィールドが見えてきた。崖? ロープ?

 

『さあさあさあさあ! トップ組が次のステージにやってきたぁ!! 断崖絶壁! 落ちたくなけりゃロープにしがみつけ!!』

 

 まじかよ、断崖絶壁て、頭おかしいな雄英は

 

「断崖絶壁? んなもん俺には関係ねえー!!」

「うお!?」

 

 爆豪の奴、文字通り飛んできやがった!! 便利すぎるだろあの爆発! しかも、わざと俺の(そば)を通りやがって、見せつけたつもりか??

 

 舐めんな! 甘いんだよ!

 

『すげえええ!? ほとんど飛行してるぜ爆豪! 先見を抜かして2位に浮上だあ!!』

『「個性」の応用なんだが、使い方が上手いな。いきなり使いこなしてるセンスもある。』

 

 確かに俺は飛べないし、轟みたいに氷で足にロープをくっつけたりとかはできない。だがこれもさっきと同じことだ、

 

『先見は爆豪と轟に追いつけるのかぁ!? それともツートップで逃げ切りかぁ!?』

 

 

 普 通 に 走 っ た ほ う が 速 い っ て 言 っ て る だ ろ !

 

 

『・・・そのまんま爆走してるぅぅぅ!!? 落ちるのが怖くねえのかクレイジーボーイ!!?』

『一応「個性」の効果・・・みたいなもんだ』

 

 落ちない。絶対に落ちない(・・・・・・・)。俺の目が落ちる未来を映さない限り、落ちるはずがない。

 

「ああ゛!?」

「・・・・・・!」

 

 追いついた。もう目の前にいる。

 しかし、断崖絶壁も終わってしまった。

 

 あいつら単純に足速すぎぃ!! 障害物が無いと追い抜けない!!

 

『ラストステージ!! キリングフィールド地雷原!! 足元ご注意下手すりゃドカンだ!!!』

 

 地雷原? てゆーことは・・・ 

 

 らっきいいいい!! 俺の独壇場だあ!

 俺は【未来視】で爆弾に引っかからない位置を走り抜ければいいだけだ! お前らは爆弾に怯えろ!!

 

「ふははは!! あばよ!」

「まてやゴラァ!!!」

「・・・クソッ!」

 

 終盤に連れて加速する爆豪、冷静にベストを判断してトップを維持していた轟。そいつらを・・・

 

『抜いたあぁぁぁ!! レボリュゥーション!! 初めてトップが入れ替わったぁ!! てゆーかアイツだけ障害物を全スルーしてるんだけど!? 障害物競走じゃなくて徒競走みたいになってるじゃん!!』

『どれも「個性」の効果だ。』

 

 おっしゃ! このままゴールまで突っ走ってやる! この場所で俺よりも早くゴールするやつなんて――――

 

『な、なんだあぁぁぁ!!? 1-A、緑谷。地雷の爆風で吹っ飛んできた!!?』

 

 は? なにそれ!

 

「俺の前にいくんじゃねえ!!」

「どけ! 緑谷!」

 

 後ろが白熱してる。何しようと逃げ切っちまえばこっちのもんだ

 

「うわあああ!!」

 

 おや、緑谷が振りかぶった鉄板が地面に叩きつけられ――

 ―――あ゛、観え・・・

 

 閃光、轟音。俺の真横で(・・・・・)

 

「ぐはあああぁ!!?」

『緑谷の妨害ィィー!! もろに先見が巻き込まれた!!』

 

 ま、まじか? あとちょっとでゴールだったのに。

 

『そのまま地雷原を即クリア! そのままゴールへと向かってくるぅーー!! 序盤の様子から誰が予想した!? 今トップでゴールに帰ってきたこの男! 緑谷出久をーーー!!』

 

 トップ・・・とられた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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