悪のヒーローアカデミア   作:シュガー3

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準備期間

 情報収集は完全に失敗した。

 

 B組を訪れてから数日。ことあるごとに情報を引き出してやろうとしたのだが、物間というスカした金髪たれ目野郎に邪魔されてしまった。

 

 塩崎ちゃんとか、あとちょっとでポロっと「個性」の事をこぼしてくれそうだったのに!

 

 そのせいなのか、どいつもこいつも俺の事を情報を隠しながらあしらうようになってしまい、ことここに至ってこれ以上の情報収集は不可能と判断せざるを得なくなった。

 

「オノレ・・・オノレ・・・」

 

「なあ切島。先見のやつ、一体どうしたんだ? 隣の席だから正直怖いんだけど」

「あー、なんか色々失敗したらしい。しばらくしたら元に戻ると思う。尾白には悪いんだけど、ちょっと我慢しててくれ」

「わかったよ。心配ないならそれでいいけどさ・・・」

 

 だがしかし、まだできることが無くなったわけではない。

 ちょうど今日は新作の武器ができたらしいので、サポート科の人間を味方に引き込みに行くというのも悪くない。

 どうせ奴らにしてみれば自分のサポートグッズを大衆に見せる機会、というくらいの認識だろうし。・・・・・・味方にするなら発目以外の奴にしよう。あれは(ぎょ)しきれん。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「くけけ・・・。先見、ヒーロー科の人間が体育祭でサポートグッズを使うのはルール違反だぞ」

 

 どうやら、耳の調子がよくないみたいだ。久しぶりに耳掃除をしなくてはならんな。

 あー、女の子が膝枕で耳かきしてくれないかなぁ

 

「現実に戻ってこい・・・。ヒーロー科の人間は他の科と違って実践的な演習を積んでいるから、その分ハンデが無いといけない。だから、コスチュームの使用も禁止だ。」

「マジっすか先生・・・。嘘だと言っておくれよ・・・」

 

 パワーローダー先生が無慈悲なルール説明をしてくれた。

 コスチュームが使えないのはホントにヤバい。アレが無いと上鳴に対する勝率がほぼ0になる。ていうか0だ。

 

 正直な話、戦力が半減どころではない。俺の「個性」は便利だが道具を使わないと真価を発揮できない。これでは回避能力くらいしか自慢できるところが無くなってしまう。

 

 どうしよう? 素の身体能力だけで何とかできるか?

 ―――無理だな。良いところまでは行けたとしても、優勝は無理だ。表彰台に上がるのさえ厳しい。

 

「あと、サポート科一同からだが・・・『メリットが無いから味方するのはヤダ』だそうだ。・・・くけけ!」

 

 でしょうね。

 そもそも協力を結べると思ったのは、俺がだれよりもグッズを使いこなせるからだ。サポートグッズの使用が禁止された俺に協力するほどの価値はない。そういう判断だろう。

 

 困った。しかし、諦めるわけにはいくまい。

 とりあえずこれから他に何ができるのかを考えて・・・時間との勝負に、

 

「先見さん見つけましたよ! 今日も私のドッ可愛いベイビーの試運転に協力してくれるんですね!」

 

 勝負に・・・

 

「こちらが新しいベイビーです! これは移動方法の選択肢を増やすために――――。市街地戦を主な活動としているヒーローに対してのアプローチとして――――。感覚的なインターフェイスの構築に関しては――――。デザインと機能の兼ね合いが――――。」

 

 しょ、しょうぶに・・・

 

「―――というわけで、コレとコレとコレとコレと。あとはこのベイビーですね! さあ始めてください! こちらの準備はできています!!」

 

「あああああ!! うるせーー! やってやるよお!! ちくしょーー!!」

 

 今日の時間はこれで潰されるだろう。間違いない。

 「個性」を使わずに未来がわかるとかすごいなー、はははー。・・・はぁ。

 

「くけけ・・・。いつもいつも、すまんな・・・。発目はもう、先見の武器をどうこうといった話も忘れたらしい」

「悪いと思っているなら止めていただきたい、切実に。担任でしょう?」

「そいつ・・・。俺の話も聞かないんだよォ・・・!!」

「・・・お疲れさまっす」

 

 半端ねえな。予想より更にぶっ飛んでやがるぜ。

 

 発目明(はつめめい)、サポート科の異端児。他の科からすると変人しかいないサポート科において、その中でも更に異端。いい意味でも悪い意味でも常識が無い。とはパワーローダー先生のお言葉だ。

 

「ぐあああああ!!?」

「おっと、どうやら移動制御にバグが出たようですね! 想定と違う方向に行きましたが・・・なるほど! 改善点が見えてきました!」

 

 そして、こいつは俺の事を(てい)のいいテストパイロットだと思っている。俺は武器製作を依頼した依頼主なのに、どういった思考経路でその考えに至ったのかは不明だ。

 

「お、まえ。俺、いま、壁に激突したんだけど?」

「ああ!! そうでした! 私のベイビーが傷ついたりしていませんか!?」

「・・・そうじゃないんだよなぁ。俺の事心配してほしいんだよなぁ」

 

 こいつはとにかく大量のメカを発明する。その発想、製作数、性能など、どれも他の生徒よりも一歩抜きんでている。

 

 が、しかし、それら成功例よりはるかに多くの失敗作も生み出す。

 それ自体は当たり前の事で、何かを発明する以上は全部成功作というのはありえない。

 ただ、試運転や起動実験で被害が出過ぎなのがちょっと・・・。

 

「・・・発目。考えなしに作るなって言ってるだろォ?」

「問題ありません先生。失敗は成功の母! これを糧として私は更なるベイビーを―――」

「・・・そうじゃなくて、失敗するにして周りの被害をだな・・・「しかも、前回と比べても問題点の洗い出しの作業が以前より――」―――聞けよォ!!」

 

 ホントに担任の話さえ聞いてないな・・・。

 いや、聞いているようで聞いてないというべきか。もしくは、都合のいいことしか耳に入っていないというべきか。なんにせよアレの相手を一日中させられるパワーローダー先生は大変だな。

 

 こんど差し入れを持って行ってあげよう。胃薬でいいかな?

 

「さあ、先見さん! 早く次のベイビーを試してください! そしてベイビーの感想を!!」

「わかったわかった、落ち着け。次はコレだな? 用途と重視した点を教えてくれ」

「そのベイビーはですね――――」

 

 なんだかんだ性能がいいものを作るのはコイツなのだ。試作品の武器で気に入るのも発目の作品が多い。ホントに阿呆なんじゃないかと思う時もあるが、まぎれもなく天才と呼ぶべき人物だ。

 だからこそ、こうやって実験に付き合っているのだ。発目の柔軟な発想とアイディアはなにかと参考になることが多い。

 

 ん? どうして俺を睨んでるんですか? 先生。

 

「先見、お前が甘やかしてるから。アイツは話を聞かなくなったんじゃないだろうなァ・・・?」

 

 

 失敬な、甘やかしてません。

 

 

 

 

 

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 昨日は予想通り発目に時間を潰された。

 失敗作に付き合わされる身にもなってほしい。【未来視】で結果を伝えても『ベイビーの事は私の目で確認しないと納得できません!』といって結局やらされるし・・・。

 

 今度は切島をどうにかして連れて行こう。頑丈だし。

 

「先見! 今日の放課後、トレーニングルーム一緒に行こうぜ!」

「了解。今日は誰の名前で予約してたんだっけ?」

「たしか・・・尾白だっけ?」

「いや、俺は明日だよ。今日は障子が予約してくれたんだ」

 

 そっか、ローテーションも一巡したな。

 

「それにしても、せこいこと考えるよね。体育祭に近づいて部屋の予約が抽選になる事まで予想して、バラバラの名前で登録しようだなんて。」

「せこいって言うな。実際その通りだっただろ?」

 

 トレーニングルームは一部屋で4人くらいまで使えるが、学校全体で使用を希望する生徒が出ればもちろん需要に見合うだけの数があるはずもない。

 俺が提案したのは、『以前に何度も登録した方は抽選をお控えください』とか言われることを危惧して4人の人間が一日一人ずつ使用登録した方がいいと提案したのだ。

 そして、体育祭まであと3日を切り、読み通り使用が抽選になった。

 

「たしかに助かったよ。先見に声を掛けられなかったら、この時期にいい練習ができなかった」

「だろう?」

 

 俺が声をかけたメンバーは、切島、障子、尾白、の三名だ。

 理由は簡単。接近戦の相手役が欲しかったから。

 

「先見にはまだ全然勝ててないからね・・・。倒すためにしっかと練習させてもらうよ」

「尾白さん、目的代わってませんか? 体育祭のために練習してるんだよ?」

 

 武闘派ヒーローを目指している尾白だが、「個性」は尻尾があるというだけ。それも、しっかりと武術を学んでいるせいか尻尾を使った奇想天外な動きなどが少ない。

 武術に頼っているうちは俺の【未来視】から逃れられない。俺の「個性」はある意味、武術の奥義みたいなものだし。

 

「冗談だよ。先見のおかげでまだまだ「個性」が使いこなし切れていないことが分かったし、今日はそれを練習させてもらうよ」

「そうか、それなら他の二人に組手を頼むとするよ」

「・・・では、今日は俺が相手になろう。切島は今日は筋トレの日だと言っていたからな」

「おっけい、障子か。今日こそまともに倒してやろう」

 

 俺たちの中で一番強いのはもしかしたら障子かもしれない。体力測定の時点で分かっていたが、純粋に力が強い。あの触手に体のどこかを掴まれたら一巻の終わりだ。

 

 このメンバーの選考基準は、全員が「個性」での遠距離攻撃を持たず、近接での肉弾戦を主体とすることだ。

 つまり、組手の相手を求めていたのは向こうもだったわけだ。渡りに船といったところか。

 

「有効打を決めた数なら先見が圧倒的なのだがな。」

「有効打はあくまで有効打でしかない。障子の力があればたった一撃もらうだけで戦況がひっくり返る。気を抜いてなんてやらないさ」

 

 体育祭までにできることはもう練習しかないだろう。

 下剤とかを飲ませる案もあったが、相澤先生にくぎを刺されてしまった。誤魔化しはしたが、下手をすると失格になりかねない。自重しよう。

 

 

 しょうがなく、本当にしょうがなく正々堂々と挑むしかない。

 体育祭で、本当に俺は勝てるのだろうか?

 

 

 

 

 

 




サポートグッズは一切使用禁止です。
原作で飯田が使用していたのはあくまで例外なので





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