―――それからの事は簡単だ。
【オールマイトが来てくれた】
これだけで、生徒たちは絶大な安心感を覚えた。中には安堵で涙を流す者もいたぐらいだ。
目にも止まらぬ速さで俺たちを回収し、戦いの場から下げさせた。
俺という重傷者もいたので特に逆らうこともなく、戦闘の被害を受けない距離まで避難した。
そして、相澤先生とオールマイトのコンビによる敵との戦いが始まった。
主犯者の
戦っていくうちに判明したその性能は、凄まじいの一言に尽きた。
超怪力・超回復・ショック吸収。どれもが強力な「個性」。それを複数所持するなどイカれている。
超怪力はオールマイトとせめぎあい。超回復は四肢を数秒で修復させた。ショック吸収はオールマイトの拳を無効化した。
死柄木弔は「オールマイトの100%にも耐えられる超高性能サンドバック人間」と評していた。
明らかな対オールマイト仕様。間違いなく、脳無はそういう風に
死柄木弔はその性能に疑いを持っていないのか、オールマイトの戦闘を見て嗤っていた。
しかし、もう一人のヒーローの存在が敵の計略を打ち破る。
相澤消太。「個性」は【抹消】。視線だけで敵の「個性」を消し去る男。
彼は超怪力とショック吸収こそ消すことができなかったが、超回復の「個性」を消すことには成功した。
それも、
三つの「個性」がそろってこその対オールマイト仕様。これを崩し、後は打ち倒すだけだった。
その倒し方がこれまた規格外。ショック吸収でも吸収しきれないほどの連打と威力でねじ伏せる。というものだった。
まさに力技。工夫も何もあったものではない。
切島が「究極の脳筋」と呼んでいたが、まさしくその通りだろう。
脳無が倒された後、よほど悔しかったのか死柄木がオールマイトに恨み言を吐いていると、飯田が動ける教員を連れて舞い戻ってきた。
流石に何人ものプロヒーローの集団に睨まれた黒霧と死柄木弔は離脱を始めた。もちろん、教師陣も13号などが気力を振り絞って捕まえようとしたが、ワープホールの「個性」で逃げられ、捕縛することは叶わなかった。
これにて、USJヴィラン襲撃事件は終わりを告げた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「――――と、言うわけよ。」
「私が聞いた噂よりもすごいことになってんだね。」
ヴィランに襲われた次の日。
雄英はセキュリティの強化や緊急会議などのため臨時休校となった。
俺が今いるのは真っ白のな内装が目に優しい場所。すなわち、病院だ。
「それで一番大怪我を負ったのがアンタってわけ?」
「そゆこと。
ヴィランを撃退した後、思ったよりも傷が深かったらしくリカバリーガールの治療だけでは不十分とのことで入院を余儀なくされたのだ。
少なくとも臨時休校の間は安静にしとけ、ということらしい。
「まったくもう・・・。ちゃん付けは止めろっていったでしょ。ていうか見舞いはアンタが呼んだんじゃない。『暇だから話し相手になってくれない?』ってメールしてきてさ」
「いいんだよ。俺が呼んだとしても、来てくれたことが嬉しいのさ。ま、交換条件に昨日の事を話せって言われるとは思わなかったけど」
どうやら噂の内容を詳しく知りたかったらしい。
しかし、噂が回るのが早いな。
「私らB組にとっては結構重要なことなんだよ。雄英体育祭も近いしね。」
そっか、そろそろそんな時期か。
あれ? これもしかして敵情視察? 情報吸い出されたのかな?
「・・・流石だな、拳藤一佳。この俺に情報戦を仕掛けるとは」
「は?」
「あれ? 違った?」
「違うって・・・。A組に注目が集まるだろうから、どんな体験したか聞きたかっただけ。私の事をなんだと思ってんのよ」
いや、だってさ
「B組の学級委員長でしょ? むしろそれくらいした方がいいと思うけど?」
「うっ・・・。だって、そういうのヒーローらしくないじゃん。」
「そう言われたらそうだけどさ。俺たちの「個性」の情報とか欲しくないの?」
俺が訪ねると「う~ん」と、腕組みして悩み始めた。
ヒーローとしてのプライドと合理的な判断との間で揺れているのだろう。
俺だったら一秒も迷わず情報をもらうけど。
「・・・いや、やっぱり聞かない。A組もB組の情報は持ってないでしょ?」
「たぶん持ってないと思う。」
B組と関わることが無いし、入学してから慌ただしくてそんなこと気にする暇もなかった。
「なら、なおさら聞かない。フェアじゃないし。やるなら正々堂々叩き潰す!」
「わーお、男らしい。」
「それ、女の子に言うセリフじゃないでしょ!」
つい、本音が。
やめなさい。横腹をつつくな。そこは治ったばかりぃ!!
「悪かったって。お詫びに
「だから、そういうのはいらないって」
「大丈夫、問題ない範囲でしか言わないから」
少々渋ったが、最終的には「それくらいならいいかな」と了承してくれた。
よしよし。
「それじゃあ、1-A要注意人物を発表する。轟焦凍、緑谷出久、爆豪勝己、上鳴電気。この4人だ。」
「爆豪勝己は知ってる。入試一位のやつだろ?」
「そうそう。もし知らないなら、他の三人についてもある程度調べてた方がいいよ? マジで」
ホントに調べてよ?
「わかった、調べとく。ありがとね」
「どーいたしまして」
これであの4人はB組が対策を練ってくれるだろう。普通にやっても俺じゃあ敵わないやつらだからな。敵に敵を潰させる。完璧な戦略だ。
最上の戦略とは戦わずして勝つことなのさ。潰しあった後で漁夫の利を掻っ攫ってくれる。
内心で高笑いしていると、
「じゃあ、お返しに1-Bの要注意人物を教えてあげる」
「え?」
「
さらっと教えてくれた。しかも自分の事入れてるし。
表情を確認してみても全く裏が感じられない。こちとら打算ありきの情報だったのに、純粋な善意で返されるとなんかこう・・・ねえ?
それはそれとして、情報は有効活用しますけれども!
「自分の事を数に入れるとか逆にすごいな・・・」
「だってホントの事だし。委員長なんだからある程度実力があって当然でしょ?」
確かに。
他はともかく、ヒーロー科で無能が委員長を務めることはありえない。
そして一佳が高い実力を持っているのは知っている。手首から先を巨大化させる「個性」で入試のロボを破壊していたのはまだ記憶に新しい。
シンプルゆえに強い「個性」だ。体術の心得があればことさらに脅威となるだろう。
他の奴らは聞いたことなかったが、同等もしくはそれ以上の実力ってことか。やだなあ。
けど―――――
そういうやつらを負かすのは、さぞ気分がいいんだろうなぁ
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
翌日。
入院生活も終わり、臨時休校も終了した。
病院になんていたからか、教室の風景が懐かしい気さえする。
「おはよー」
「お、おはよう。先見君」
おや? 珍しく緑谷が話しかけて来たぞ?
「ん、おはよ緑谷。どうした? なんかあったか?」
「なにかあったっていうか、その・・・。ケガは、もう大丈夫?」
「リカバリーガールにばっちり治療してもらったよ。『体力があるから回復させやすいねえ』って言ってた」
「そ、そっか。よかった」
心配してくれてたのか。
こいつらからすると、俺がかばったせいで怪我したんだしな。
「俺を心配してくれるのは嬉しいけど、ケガは緑谷もだろ? 腕バッキバキになってたじゃん」
「僕も大丈夫だったよ。いつものことだし」
「・・・あのケガで『いつものことだし』ってセリフが出るあたり色々と末期症状だな。」
おそろしいやつだ。ゾンビの親戚かなにか?
「先見ちゃんおはよう。体の調子はどう?」
「先見ぃ! ケガは!?」
梅雨ちゃんと峰田もこちらにやってきた。
「問題なし!! 昨日はずっとゲームしてたからな! これ以上なく安静にしてたぜ! ナースの皆さんも優しかったし、心身共に万全さ!」
「よかった。心配してたのよ?」
「そうだぜ、全くよお! 後その話はあとで詳しく!!」
心配ないことを示すために笑顔で元気よく言ってみた。
よかった。納得してくれたか。
うんうん。梅雨ちゃんに心配されるのは嬉しいなあ。それもまた一つの癒しだよ。
そして峰田よ安心しろ。あとで思いっきり自慢してやるからな。
「おいお前ら、そろそろ席につけ。朝のHR始めるぞ」
おっと、話し過ぎたか。怒られる前に着席する。
委員長の号令からHRが始まる。
「早速だが今日は重大な連絡事項がある。」
「こんどはなんだ?」
「テストか? いや、もしかしたら普通の行事か?」
「もしかしてまた
教室がざわつく。
いい加減疑心暗鬼になってるやつもいるんだけど。これどうなの?
「雄英体育祭が迫ってる!!」
「「「クソ学校ぽいやつだー!!」」」
ノリ良いよね、ホント。
「―――雄英体育祭はヒーローを志す者にとって絶対に外せないイベントだ!」
相澤先生のお話が終わった。襲撃事件のせいで開催に疑問視があったが、むしろだからこそいつも通り開催するらしい。
ようするに【スカウトアピール】、【ヒーロー体制の万全さ】、【メディア圧力】、これらが見逃せない、もしくは知らしめたい。ということだろう。
「にしても、やっぱテンションあがるなおい!」
「ああ! ここで目立てばプロへでっけえ一歩だぜ!」
熱血組を中心に見るからにモチベーションが高まってる。トップヒーローになるためにはかなり重要なイベントになるわけだし当然だろう。
「上鳴ー。お前らの分もトレーニングルームの申請出しといたぞ。やっぱほとんど埋まってた」
「サンキュー! 今回はいつになくやる気だな先見!」
「いつもはやる気が無いみたいに言うんじゃねーよ」
無論、俺もやる気に満ちている。
何せスカウトだ。すなわち将来の給料に関わる。つまり金に関わる。
ここで全力を出さずにいつ出すというのだろう。今の俺はUSJの時よりも真剣だ。
「やるぜぇ・・・。今回の俺はやってやるぜぇ・・・!」
「おお! すげえ熱くなってやがる! 男らしいぜ!」
ありがとう、切島。
先だって昼休みのうちに情報収集を行ってみたが、これはうまくいかなかった。
そもそもまだ入学して日も浅い俺にツテなどない。よって、あえて正面突破してみた。
『ブラドキング先生。B組の「個性」について教えていただけませんか?』
『君は何を言っているんだ?』
ダメだった。
それでも粘ってみようとはしたのだが。恐ろしく冷たい目をした相澤先生に職員室からつまみ出されたので諦めるしかなかった。
次の手を考えるか。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「というわけで初めまして。A組の先見賢人です。皆さんの「個性」を教えてください。」
「・・・おい、拳藤。お前の知り合いだろ? 何とかしろよ」
「ゴメン、今話しかけないで」
なにがというわけなんだよ。という、ツッコミはいただけなかった。
現在放課後、やってきましたB組へ。
わからないことは人に聞く。そして、なるべく詳しく知っている人に聞くべきだ。つまり本人。
「・・・えっと、先見君だったかな?」
「そうだ、先見君だ。お前は?」
「おま!? ・・・僕は物間寧人だ。初対面の人をお前呼ばわりするのは礼儀としてどうなのかな?」
ほうほう、物間寧人。聞いたことがあるな。
「お前が一佳の情報にあった物間寧人か。要注意人物なんだってな?」
「・・・・・・!!?」
「ちょ!? 誤解を生む言い方すんな先見!!」
心外だ。俺は事実しか述べていない。
向こうが勝手に誤解しただけだろう。
「なんてことだ! ヒーローを目指す身でありながら自分の情報をコソコソと隠すだなんて・・・! 恥ずかしくないのか!? 「個性」を見られ研究されたとしても、それを踏み越える。それがヒーローじゃないか! 俺たちの校訓だろう? 『
「あれ? 言われてみると・・・?」
「騙されるな塩崎!? 適当言ってるだけだぞアイツ! 校訓も若干意味が違うし!」
チッ! 流石に無理か。
しかし、塩崎? アイツも要注意人物だったな。アレは騙しやすそうだ。
「おやおや、世間から注目を集めるA組の人間がこんな卑劣な真似をするなんて! 君こそ恥ずかしくないのかい? そんな風に僕らの「個性」の事を嗅ぎまわっちゃってさぁ!!」
お?
「ヒーローの
おおん?
「これじゃ襲撃を生き残ったのだってマグレな気がしてきたよ。・・・・・・ああ! コソコソ隠れて震えてたのかなぁ!?」
よし! ぶっ殺しちゃうぞ(はぁと
煽りスキルで俺に敵うと思うなよゴラァ!!
「・・・いやー、これは参った! どうやら俺たちの事をよく知ってくれてるみたいだ。ごめんね俺たちばかり注目を集めちゃってさ! 目立ってゴメン! 世間が
目の前のスカした金髪を見下してやる。身長はちょっと俺の方が高いぜ!
目元ぴくぴくしてますけどぉー? 怒ってるんですかぁー?
「ふん? なかなかユニークな宣戦布告だね。ちょっとセンスが悪いようだけれど?」
「宣戦布告ぅ~? そんな価値が君にあると思ってるんですかぁ?」
「少なくとも君よりは価値があると思うなぁ。ヒーローとしての価値がね!」
「へぇー。世間に認められてない価値って意味あるんですか?」
「ふ、ふ、ふふふふふ」
「・・・くくくくく」
「「・・・ぶっころす!!」」
「おい、あいつらどうする?」
「ほっとけ、もう帰ろうぜ。」
「そうだな。拳藤、あとは任せた」
「は!? 私ぃ!?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
俺たちは最終的に二人とも一佳の拳によって沈められた。「喧嘩両成敗!」と言われてしまった。
物間と同じ扱いなのが納得いかない。そう主張するとまた殴られた。解せぬ。
気が付くと他の生徒はもう帰ってしまっていた。
情報は何も得られなかった。
・・・うん、物間のせいだな。アイツだけは必ず体育祭でぶっ飛ばしてやろう
何時もより文字数が増えてしまいました。物間を書くのが楽しい。主人公も煽りキャラだからかみ合うんだよねぇ