新しいアイディアも浮かびますし
広場を目指す。
正確に言うと、黒いモヤのヴィランを目指す。
報復は当然の権利! ハンムラビ法典もそう書いてる!
しばらく走り回って、火災ルームの出口を発見した。
「おらぁ!」
蹴り飛ばす。
熱くて熱くてイライラしていた。一刻も早く脱出するために、この扉はやむを得ない犠牲だった。
「フゥー! 涼しいー!」
気分爽快である。
やっぱ暑いのはダメだな。クーラーの効いた部屋こそ至高よ。
広場はまだ戦闘中のようだ。戦闘音がここからでも聞こえてくる。
相澤先生ドライアイなのにきつくないのかな?
とにかくさっさと向かう。奇襲できるなら一番なんだけど。
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side 相澤消太
数が多い。
どいつもこいつも雑魚ばかりだが、数の多さが問題だ。
「この人数相手によくやる…。流石はプロヒーロー」
そして、おそらく主犯格のであろうヴィランがいっこうに動かない。
こちらを舐めているだけなら構わないが・・・
何か、隠し玉でもあるのか?
「動いているからわかりづらいが、一動作のたびに髪が下りている・・・。その間隔もずいぶん短くなった。・・・そろそろ限界が近いんじゃないのか?」
気付かれたか。
「たしかに連携を乱すのは上手い。けれど本来は奇襲による短期決戦が得意なんじゃないのかなあ…?」
ただのヴィランじゃない。
こちらの「個性」や戦闘スタイルについて正確な分析をされてしまった。
「個性」の連続使用の限界が近いのも確かだ。その前に終わらせて―――?
「だから、数さえ用意すれば詰みだ。」
ワープゲートから更なる敵の増援が現れた。
馬鹿な、わざわざ予備の人員を・・・?
新しい敵が向かってくる。相変わらず雑魚だが、体力と・・・目に限界が来た。
「個性」の消し損ね。クリーンヒットをもらってしまう。
「ぐあ!?」
マズイ、隙が、内臓にダメージ、動きが戻るには―――
「調べておいてよかったよ。13号、イレイザーヘッド。あくまでオールマイトのついでだけど、プロヒーローには変わらないからな・・・」
男の目が嗜虐に歪む。
知っていた。弱点を調べられていた。今まで隠してたのは限界近くで増援を見せて心を折るため―――
「フッ! ヴィランらしい考え、だな」
「…? 何がおかしい?」
ふと、思い出した。似たようなことを戦闘訓練でしでかしたやつを。
なるほど、これは上鳴たちのいい経験になったはずだ。
必要があったとはいえ、まさしくヴィランの発想そのままだ。
・・・・・・なら、こいつらにもそうするだけの理由がある?
しかし、理由がどうあろうとこっちはもう限界だ。一度休めなければ「個性」にも支障がでる。
「・・・なんだ? 風切り音?」
すると、何処からか風を切る音が聞こえてきた。
何かが高速で飛び回っているような――?
ブシュ! と血が噴き出す音が聞こえた。
「なああぁぁぁあぁ!!!?」
男の体から鮮血が噴き出す。一度にいくつもの斬撃を受けたかのように。
そして、体中に刺さった
「な、んだこれ。ブーメランか?」
それは、透明なブーメランだった。非常に視認しづらい。先ほどの風切り音はこれが飛来してくる音だったのだろう。
「そうそう、ブーメランで間違いねーですよー。」
この、軽薄は声は・・・。
「先見!」
「はい! 先見賢人です! ピンチっぽいんで助けに来ましたよ!」
コイツ…この状況でまだそんなへらへらした態度を・・・!
「お前・・・!! ・・・!?」
「なんだい、水色の人?」
マズイ! 生徒が相手にするには荷が重すぎる!
「先見ィ! ふざけてないで逃げろ! 冗談で済む相手じゃないんだぞ!!」
「冗談・・・?」
なぜ逃げない? ・・・いや、それよりも敵はどうした? なぜ黙っている?
「今回は本気も本気。一切の手加減も、一切の容赦も、一切の慈悲もありません。あとは、脳みそ丸出しの奴だけです。それ以外はもう
なに?
周囲を見渡す。増援に来た敵も、いまだ残っていた敵も例外なく地に倒れ伏している。
全員の背中の中心には、先ほどの主犯格のヴィランと同じ透明なブーメランが刺さっている。
「知ってますか? 背骨には隙間がある。もし何か刺さったらどうなるでしょうか? 下半身麻痺? 植物人間状態? どれになるかはご愛嬌! とりあえず気絶はしてくれますよね? 気絶するまでは未来を観たんですけどその後は知りませんので。 ・・・ああ! 先生ご安心を。殺してはないですよ。ただ、もう【一生】歩けないかもしれないだけで!」
まるで何でもないかのように話す。それが恐ろしい。
先見は本当になんとも思ってない。敵とはいえ一人の人生を潰しておいて何の感慨も抱いていない。
「水色の人も動けないでしょ? 四肢の腱を切っちゃったから。悪いね、奇襲で俺の「個性」を使うと強すぎてさー。」
絶体絶命のピンチ。そこに現れた味方なのに、そいつはヒーローと呼ぶには遠すぎる何かだった。
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ふうー! 奇襲成功! 大成功!
焦ったー、先生やられちゃうんだもんな。本当は黒いモヤの奴のところに行きたかったのに。
でも、いっか! 水色の人すげえドヤ顔してたしな! 台無しだぜ! ざまあ!!
「さてさて? どうしますか、水色の人。先生もそろそろ復活するでしょうし、二対一ですね?」
しかし、予想外なことが一つ。
「・・・・・・脳無ゥ!!!! こいつらを、殺せ!!」
こいつ、勝てる未来が観えないんだけど。
全力でサイドステップ。
俺がいた場所を砲弾のような拳が通り過ぎる。
衝撃波が離れたところにあるコンクリートを爆散させていた。
「・・・はは。冗談キツイって」
あ、冗談では済まないって言われたばっかだったわ。
しゃがんだ後にバク転する。
頭上を振り回した腕が空振り、足を狙ったローキックは飛び越えた。
足を引いて反転。その後、飛び込み前転。からのヘッドスライディング。
目の前を手刀が横切り、頭の後ろに蹴りの風圧を感じた。ストンピングは俺の股を通って床を陥没させた。
一つとして動作が見えない。
死んでいない未来を観て、その通りに動いているだけだ。
そもそも、俺が回避してから相手が攻撃している。
現在の状況を見ても全く役に立たない。未来だけ観た方が楽かもしれない。
すると脳みそ丸出しのヴィラン(脳無だったか?)に先生の包帯が巻き付いた。
一瞬の隙をついて離脱する。
「いやー、強いな。ここまでとは・・・」
「あれだけ煽って今更なにいってんだ。余計なことしてくれやがって。」
どうやらダメージは回復したようだ。時間を稼いだ甲斐があった。
呼吸を整える。「個性」は何度も発動しまくってる。一秒気を抜いたら死んでる気がする。
「相澤先生、あいつの「個性」消しました?」
「ああ、消した後もパワーに変化が無かった。つまりあれが素の筋力ってことだ」
「うげえ、まじっすか」
勘弁してほしい。緑谷並みのパワーが「個性」じゃないとか。
「ははは! さっきまでの調子はどうした? ヒーロー? ずいぶん余裕が無いじゃないか。」
ずいぶん機嫌がよさそうだ。もしかして挑発のつもりか?
「お前、せめてそう言うセリフは立ち上がって言ってくれよ。結構ダサい。」
俺が四肢の腱を切ったせいだが、倒れたままなのだ。もうちょっと頑張っていただきたい。むしろ悲しくなってしまう。
「脳無ゥウウ!!! 殺せェ!!」
「挑発しすぎだって言ったろうが! この馬鹿!!」
「うおおお!? すいませーん!!」
とにかく回避する。
気分は一発の被弾も許されない弾幕ゲーだ。
違いはベットするのがコインか命かってこと!! スリル満点だなチクショウめ!!
だが、先生が復活したおかげで余裕が出てきた。
一瞬しか動きを止められないが、十分である。その隙に逃げれる。いったん脱出すると、なぜか水色の人の指示を待つのも好都合だ。
「ジリ貧ですね。持って20分ってところです」
「あの攻撃に20分耐えられるなら上等だ。・・・お前、持久走で手を抜いてたな。」
「滅相もない」
手を抜いたわけではない。気力が尽きたので走るのを止めただけだ。
そんなことより攻撃手段だ。またこれに悩まされるのか・・・
「相澤先生。さっきから未来視で確認してるんですけど、脳無というやつには攻撃が通じません。」
「どういうことだ?」
「ようするに俺じゃあどうあがいても傷をつける可能性が0%ってことです。あと、たぶん先生も」
「チッ どうするかな・・・」
戦闘訓練の時と状況が似ている。こちらは攻撃できないのに向こうだけ攻撃できる。
どうしてこう、ワンサイドゲームに縁があるのかなあ? むしろ俺がワンサイドゲームしたいんだけど?
すると、黒いモヤのヴィランが水色の人の傍にワープしてきた。
「無事ですか、
「
ほう、黒モヤは黒霧。水色は死柄木というのか。
「そうでした・・・。申し訳ありません。生徒の一人を取り逃がしました。応援をよばれてしまうでしょう。」
「はぁ?」
おっと、グッドニュース。
相澤先生の方を窺う。軽くうなずいてくれた。
どうやら緊急事態には教員のプロヒーローがすぐさま集合してくれるようだ。
この脳無が幾ら強くてもオールマイトにはかなうまい。
「・・・くそ、くそ、くそ! 黒霧、お前ワープゲートじゃなかったらバラバラにしてたよ」
「申し訳ありません・・・」
つまり、援軍が来るまで耐えれば俺の勝ちだ。10分くらいかな?
「脳無!
――『それ』は、マズイ
「緑谷ァァァアア!!!! 下がれェェェ!!!!」
脳無が駆け出す。
俺を殺すのが難しいと判断したのかはわからない。そんなことはどうでもいい、脳無はこちらを選ばなかった。
―――そして、向こうには緑谷、梅雨ちゃん、峰田の三人がいた。
緑谷が反応する。おそらく全力。迎撃を選んだ。
「
轟音。
クラス最強の破壊力。自身さえ壊す力は伊達ではない。
伊達ではないが――脳無には通用しなかった。脳無は吹き飛んですらいない。緑谷の拳の先で仁王立ちしている。
緑谷が呆然としている。自分の力が足りないなど初めてなんだろう。だが、いまはマズイ。
「そこをどけ!!!」
追いついた。
目に向かってダーツを投擲。効き目があるかは知らん。気がそらせれば十分。
その隙に緑谷が離脱した。
俺は峰田と梅雨ちゃんを思い切り突き飛ばす。
そして、脳無が苦し紛れに振るった腕が―――
「があ゛あ゛!!」
かすった。
掠っただけのはずだ。それでこれ?
「ごふ゛!?」
「先見ちゃん!!」
「おおお、おい! 大丈夫か!?」
肺に、肋骨、刺さって、
「ち、血を吐いてる!? ヤバいってこれ!」
峰田と梅雨ちゃんが慌てている。悪いなスマートな助け方じゃなくて。
相澤先生と緑谷がしのいでくれてる。
たのむ、あと、もうちょっとなんだ。
「先見ちゃん! しっかりして!!」
悪い。無視してる訳じゃないんだ。ちょっとしゃべるのが無理なだけで。
緑谷が吹き飛ばされた。脳無との距離が開く。
ダメージは大したことなさそうだが、
脳無がこちらを向いた。
緑谷の位置からフォローに入ることはできない。先生の足止めもすぐに破られるだろう。
「あ゛ああ!! もうだめだ!!」
峰田が叫ぶ。誰も脳無を止められない。
こちらには重傷者が一人、逃げられない。状況は最悪だ。
――――ドゥン!!!!!
そして、音が聞こえた。
何かを吹き飛ばすような音だ。似たような音を俺は聞いたことがある。ついさっき聞いた。
・・・あれは、扉を蹴破る音だ。
「――みんな、もう大丈夫だ」
やっときた、5分ジャスト。予測してたぜ
「わたしがきた!!!!!」
「「「オールマイト!!!」」」
これで、ゲーム、クリアだ・・・!
主人公よりオールマイトがかっこいいですね。
アニメでもこのシーン大好きだったのでつい。
5分っていうのは緑谷に叫ぶちょっと前からです。