ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件   作:クロム・ウェルハーツ

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4.燃える都市で顕れたる希望

 -ON-

 

「先輩。もうじきドクターに指定されたポイントに到着します」

 

 一路、ロマニに示された場所へと向かう藤丸とマシュの二人。歩きながら、マシュは周りを確認しながら呟く。

 

「しかし……見渡すかぎりの炎ですね。資料にあるフユキとはまったく違います。資料では平均的な地方都市であり、2004年にこんな災害が起きた事はない筈ですが……」

「オレも聞いたことがないよ。もしも、こんな大災害があれば、ニュースになっているしね」

「ええ。その上、大気中の魔力(マナ)濃度も異常です。これではまるで古代の地球のような……ッ!?」

 

 突如、二人の耳に絹を裂くような声が届いた。女性の声だ。

 

「今の悲鳴は!?」

「どう聞いても女性の悲鳴です。急ぎましょう、先輩!」

 

 声は近い。声がした方向へと全速力で藤丸は走る。

 

「何なの、何なのよコイツら!? なんだってわたしばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」

 

 建物の影から藤丸とマシュは飛び出す。そこには、スケルトンたちに囲まれた長い白髪の若い女性がいた。

 

「もうイヤ、来て、助けてよレフ! いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」

「オルガマリー所長……!?」

 

 マシュの呟き通り、そこにいたのはオルガマリーだった。混乱に包まれたまま、彼女は叫ぶ。

 

「あ、貴方たち!? ああもう、いったい何がどうなっているのよーっ!」

「マシュ、行けるか?」

「勿論です」

 

 先ほどと同じように藤丸がマシュへと指示を出し、スケルトンたちを倒していく。慣れたのか、戦闘にかかる時間は先ほどと比べ短かった。全てのスケルトンの活動が停止したことを確認したマシュはしゃがむオルガマリーへと話しかける。

 

「戦闘、終了しました。お怪我はありませんか、所長」

「……どういう事?」

「所長? ……ああ、わたしの状況ですね。信じがたい事だとは思いますが、実は……」

「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見ればわかるわよ」

 

 ピシャリとオルガマリーは突き放すように言い放つ。

 

「わたしが訊きたいのは、どうして今になって成功したかって話よ! いえ、それ以上に貴方! 貴方よ、わたしの演説に遅刻した一般人! なんでマスターになっているの!? サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ! アンタなんかがマスターになれるハズないじゃない! その子にどんな乱暴を働いて言いなりにしたの!?」

「えっと……」

「それは誤解です所長。強引に契約を結んだのは、むしろわたしの方です」

「なんですって?」

 

 藤丸に詰め寄るオルガマリー。それを止めようと藤丸とオルガマリーの間に体を滑り込ませながらマシュは口を開く。

 

「経緯を説明します。その方がお互いの状況把握にも繋がるでしょう」

 

 そうして、マシュは藤丸と共に特異点Fへとレイシフトした経緯を説明していく。

 

「……以上です。わたしたちはレイシフトに巻きこまれ、ここ冬木に転移してしまいました。他に転移したマスター適性者はいません。所長がこちらで合流できた唯一の人間です。でも、希望ができました。所長がいらっしゃるのなら、他に転移が成功している適性者も……」

「いないわよ。それはここまでで確認しているわ。……認めたくないけど、どうしてわたしとそいつが冬木にシフトしたのかわかったわ」

「生き残った理由に説明がつくのですか?」

「消去法……いえ、共通項ね。わたしもあなたもそいつも、“コフィンに入っていなかった”。生身のままのレイシフトは成功率は激減するけど、ゼロにはならない。一方、コフィンにはブレーカーがあるの。シフトの成功率が95%を下回ると電源が落ちるのよ。だから彼等はレイシフトそのものを行っていない。ここにいるのはわたしたちだけよ」

「なるほど……さすがです所長」

「落ち着けば頼りになる人なんですね」

「それどういう意味!? 普段は落ち着いていないって言いたいワケ!?」

「あ、そういう訳じゃ……。えっと、そう言えば、所長はレイシフトの予定はなかったんですか?」

 

 強引に話を変えようとする藤丸だったが、それは悪手だった。オルガマリーの眉は更に吊り上がる。

 

「悪い? 司令官が最前線に出るワケないじゃない。貴方たちはわたしの道具だって言ったでしょ。……フン、まあいいでしょう。状況は理解しました。緊急事態という事で、あなたとキリエライトの契約を認めます。ここからはわたしの指示に従ってもらいます」

 

 少し考えの時間を取ったオルガマリーは自分の考えを口に出す。

 

「……まずはベースキャンプの作成ね。いい? こういう時は霊脈のターミナル、魔力が収束する場所を探すのよ。そこならカルデアと連絡が取れるから。それで、この街の場合は……」

「このポイントです、所長。レイポイントは所長の足下だと報告します」

「うぇ!? あ……そ、そうね、そうみたい。わかってる、わかってたわよ、そんなコトは! マシュ。貴方の盾を地面に置きなさい。宝具を触媒にして召喚サークルを設置するから」

「……だ、そうです。構いませんか、先輩?」

「いいよ、やってくれ」

「了解しました。それでは始めます」

 

 マシュが盾を地面に置くと、青白い煙(エーテル)の奔流が沸き上がった。吹き荒れる風とエーテルの中、オルガマリーはどこからともなく取り出した星型八面体(ダ・ヴィンチの星)の形をした虹色の結晶を藤丸に渡す。

 

「これは……」

「それを盾の上に置きなさい。それで召喚が完了します」

 

 藤丸はオルガマリーの指示通り、虹色の結晶を盾の上に置く。と、盾の上に召喚陣が現れ出た。

 

「これは……カルデアにあった召喚実験場と同じ……」

 

 召喚陣が光り輝き、荒れ狂う風がマシュの言葉を飲み込む。一際大きく召喚陣が光ったかと思うと、その中に影が差した。

 光が段々と収まっていく毎に影の姿が顕になっていく。

 

「これが……オレの……サーヴァント?」

「ええ。多分、先輩のサーヴァントだと思われます」

 

 と、召喚されたモノが口を開く。

 

「s64、3uqt@0qdkjrq\t?」

「マシュ、この人? がなんて言ってるか分かる?」

「全く分かりません」

 

 そこにいたのは、およそ人ではない生物。腕は四本、二足歩行をしているが、とてもそれが可能とは思えないほどに足は細い。人でいう頭がある箇所には口がある。しかし、それは巨大だ。大体、人の顔を三つ縦に並べたほどの大きさ。そして、その口は縦についていた。

 正しく異形の生物がそこにいた。人に生理的な嫌悪感を覚えさせるフォルムだ。

 事実、オルガマリーは怯えたように藤丸とマシュの後ろに隠れるようにして気配を隠している。

 

 召喚された時から辺りを見渡していたモノは突如、ぐるりと首を回し、オルガマリーへと視線を注いだ。その異形のサーヴァントの様子に合点がいったというように藤丸は手を打ち鳴らす。

 

「所長。このサーヴァント、所長の方を見つめていますが知り合いですか?」

「そんな訳ないでしょう!」

 

 しかしながら、彼は人生経験が少ない。その少ない人生経験から導き出した答えは的外れなものだった。

 藤丸へと怒鳴り、ラフムから目を離した一瞬。タンッと軽い音が自分の後ろからしたと認識したオルガマリーは次いで、自分の背中に硬いものが押し当てられていることを感じる。

 

「1:@」

「え?」

 

 ぞくりと悪寒が背筋から首筋へと駆け上がった。それは根源的な“死”への恐怖。死神が鎌を自分の首筋に当てていることを幻視したオルガマリーは歯をカタカタと鳴らす。

 彼女の背に当てられたのは槍とも取れるような鋭い爪。異形のサーヴァントがオルガマリーの背へと回り込み、その爪を彼女の背に押し当てていた。

 

「待ってくれ!」

 

 振り返り、異形のサーヴァントがオルガマリーの背に爪を当てていることに気付いた藤丸は思わず声を出していた。異形のサーヴァントは震えているオルガマリーから、声を出した藤丸へと視線を向ける。その視線はどこか品定めをするような視線だ。

 

 ──たった一言。

 

 一言で自分、ひいてはオルガマリーの命運が分かれると藤丸は感じていた。そもそも、なぜ、このサーヴァントはオルガマリーに対して敵対行動を示したのか? それは多分、オルガマリーがマスターである自分に怒鳴ったため、オルガマリーを敵対視したのだろうと藤丸は思い至った。

 では、この異形のサーヴァントにオルガマリーは自分たちに敵対するような人間ではないと説明することで敵対行動を止めるのではないか?

 

「……仲間だ」

 

 振り絞るようにして出てきた言葉は一単語。だが、その単語だけで目の前のサーヴァントは理解したらしい。一度、頷いた後、サーヴァントは爪を下げる。そこで、藤丸は自分が息をしていないことに気が付いた。緊張感からか知らず知らずの内に息を止めていたのだろう。藤丸は大きく息を吐き出した。

 

 緊張感から解放されたのは藤丸だけではない。異形のサーヴァントのプレッシャーがなくなったのだろう。動きを取り戻したオルガマリーは後ろに立つサーヴァントから離れようとフラフラとした足取りで歩みを進める。今にも転んでしまいそうだ。

 オルガマリーが怪我をしないように藤丸、そして、マシュはオルガマリーの両腕を掴み、彼女の体を支える。

 

「所長、大丈夫ですか?」

「な、なな……」

「しかし、なぜ、この召喚された方は所長に爪を突き付けたのでしょうか? 所長と顔見知りだったら……所長の様子からそうではなさそうですね」

 

 異形のサーヴァントがオルガマリーに爪を突き付けたことにマシュは疑問を持っているようだ。答えを得た藤丸はその答えをマシュに説明する。

 

「敵だと思ったんじゃないかな」

「つまり、マスターを守るため所長を排除しようとしたのだということでしょうか?」

「ああ。オレはそう思うよ」

 

 と、藤丸のウェアラブル端末から電子音が響いた。

 

「シーキュー、シーキュー。もしもーし! よし、通信が戻ったぞ!」

 

 次いで、端末から出てくるのは音声、そして、空中に描かれる青白い映像だ。その映像にはオペレーターであるロマニの姿が映っていた。

 

「ふたりともご苦労さま、空間固定に成功した。これで通信もできるようになったし、補給物資だって……」

「はあ!? なんで貴方が仕切っているのロマニ!? レフは? レフはどこ? レフを出しなさい!」

「うひゃあぁあ!?」

 

 ロマニの姿を見て、気を取り直したのだろう。オルガマリーは強い口調である者の名を呼ぶ。本来ならば、自分に代わってカルデアで指揮を取るべき者の名を。

 しかし、ロマニの答えはオルガマリーが期待したもの、彼女が心から信頼しているレフ・ライノールの居場所を示すものではなかった。

 

「しょ、所長、生きていらしていたんですか!? あの爆発の中で!? しかも無傷!?どんだけ!?」

「どういう意味ですかっ! いいからレフはどこ!? 医療セクションのトップがなぜその席にいるの!?」

「……なぜ、と言われるとボクも困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚してるし。でも他に人材がいないんですよ、オルガマリー。現在、生き残ったカルデアの正規スタッフはボクを入れて二十人に満たない」

 

 ──二十人?

 

 聞き間違いではないかとオルガマリーは目を大きく開いて映像の向こうのロマニを見つめる。

 

「ボクが作戦指揮を任されているのは、ボクより上の階級の生存者がいないためです。レフ教授は管制室でレイシフトの指揮をとっていた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ」

「そんな―――レフ、が……?」

 

 だが、ロマニから受け取った情報は聞き間違いなどではなく、更に大きな衝撃をオルガマリーへと与えるものだった。

 

 ──レフが……死んだ?

 

 混乱の渦中にいるオルガマリーではあるが、彼女の頭脳は回転を止めない。彼女の脳が弾き出したのはカルデアの使命に従事するための彼女の駒の安否だ。

 

「いえ、それより待って、待ちなさい。生き残ったのが20人に満たない? じゃあマスター適性者は? コフィンはどうなったの!?」

「……47人、全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助ける事ができても、全員は―――」

「ふざけないで、すぐに凍結保存に移行しなさい! 蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」

「ああ! そうか、コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!」

 

 映像の向こうが慌ただしくなる。ロマニがスタッフに向かって指示を矢継ぎ早に飛ばす様子を見て、オルガマリーは唇を噛み締める。

 オルガマリーの様子を横で見ていたマシュはポツリと呟いた。

 

「……驚きました。凍結保存を本人の許諾なく行う事は犯罪行為です。なのに即座に英断するとは。所長として責任を負う事より、人命を優先したのですね」

「バカ言わないで! 死んでさえいなければ後でいくらでも弁明できるからに決まってるでしょう!? だいたい47人分の命なんて、わたしに背負えるハズがないじゃない……! 死なないでよ、たのむから……! ……ああもう、こんな時レフがいてくれたら……!」

 

 体が震えている。

 そのことに気が付いたオルガマリーは自分の腕で自分を抱きしめる。が、どうにも体の震えは止まらない。

 失っていくという恐怖に気丈に立ち向かうオルガマリーは悔しそうに通信先のカルデアを睨みつけた。しかし、自分が出来る事は何もない。ただ、報告を待つだけ。

 数十秒というところか。短くも長く感じる時間だ。オルガマリーの心情では“やっと”現れたロマニの報告を受け取っていく。

 

「……報告は以上です。現在、カルデアはその機能の八割を失っています。残されたスタッフではできる事にかぎりがあります。なので、こちらの判断で人材はレイシフトの修理、カルデアス、シバの現状維持に割いています。外部との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直し……というところですね」

 

 現在のカルデアについての情報をロマニから聞き出したオルガマリーはロマニに頷く。

 

「結構よ。わたしがそちらにいても同じ方針をとったでしょう。……はあ。ロマニ・アーキマン。納得はいかないけど、わたしが戻るまでカルデアを任せます。レイシフトの修理を最優先で行いなさい。わたしたちはこちらでこの街……特異点Fの調査を続けます」

「うぇ!? 所長、そんな爆心地みたいな現場、怖くないんですか!? チキンのクセに!?」

「……ほんっとう、一言多いわね貴方は」

 

 憎々し気に言うオルガマリーだが、幾分、声のトーンはいつもの調子に戻っていた。医療に携わるロマニのメンタルケアの技のお陰だろう。

 

「今すぐ戻りたいのは山々だけど、レイシフトの修理が終わるまでは時間がかかるんでしょ? この街にいるのは低級な怪物だけだと分かったし、デミ・サーヴァント化したマシュがいれば安全よ。事故というトラブルはどうあれ、与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りです。これより藤丸立香、マシュ・キリエライト両名を探索員として特異点Fの調査を開始します」

「LAHMU、f?」

「ひひゃあ!」

 

 男とも女とも、人とも機械とも取れるような声だ。その声はオルガマリーのすぐ近く、耳元で囁かれた声だった。ゾクゾクと震えが奔る。今度は恐怖ではなく、生理的嫌悪感からだ。しかし、その感情がオルガマリーに齎した影響は先ほどのように体の動きを弛緩させるもの。

 

「な、なな……」

「所長、こいつのことを忘れちゃダメですよ。オレとマシュと、それから、こいつで所長を守ります」

 

 咄嗟に近くにいた藤丸とマシュに抱き着くオルガマリー。そんな自分を見て、異形のサーヴァントが笑っているようにオルガマリーには見えた。

 と、ロマニが声を上げる。

 

「ちょっと待って! なんだい、そいつは? さっきから所長の横にチラチラ映っていたけど、変な形のオブジェじゃなかったのかい?」

「えっと、オレのサーヴァントらしいです」

「サーヴァント!? サーヴァントだって!? ……ホントだ。サーヴァント反応があった」

「……モニターを見ていなかったんですね、Dr.」

 

 溜息を一度吐いたマシュはロマニに説明をする。

 

「この方はマスターが召喚したサーヴァントです」

「いやいやいや、そんなバケモノが……いや、待てよ。もしかしたら、スキル“無辜の怪物”で姿を──」

「召喚した時に一緒に出てきたマテリアルには、そんなスキルは書いてないですね」

「じゃあ、何なんだ! バケモノだとでもいうのかい!? というか真名は?」

「あー。そう言えば、聞いてなかった。えっと、ごめんね」

 

 手首の端末に登録されているマテリアルを確認していた藤丸は顔を上げて、異形のサーヴァントへと向き直る。

 

「オレの名前は藤丸立香。君の名前を教えてくれ」

「LAァ……」

「ラァ?」

 

 一言一言、噛み締めるように異形のサーヴァントは言葉を口にする。

 

「Hゥ……」

「フゥ?」

「MUゥウウウウ!」

「ラフム! あなた、ラフムっていうのね!」

「g@fffff!」

 

 通じ合った心。

 そう判断した藤丸は何の迷いもなく“ラフム”と名乗ったサーヴァントの腕を取り、くるくると踊るように回る。

 ややあって、同時に動きを止めた藤丸とラフムは映像に向き直った。

 

「ラフムというそうです!」

「凄いな、君は!」

 

 ロマニの叫びは虚しく炎上都市に響いた。

 心と心が通じ合った。そんな様子の藤丸とラフムを見て嬉しそうにするマシュとは対照的にオルガマリーの表情は固い。

 

「待ちなさい。こいつ、危険じゃないの?」

「あー、多分、大丈夫です」

「でも、わたしに爪を向けたのよ!」

「マスターである藤丸くんのことを認識して、その繋がりから同じマスターを持っているマシュも仲間だとラフムは判断したのでしょう。ですが、所長には藤丸くんとの直接的な繋がりがなかった。だから、敵だと判断したんでしょうね」

「それなら、わたしに攻撃してくるかもしれないってこと?」

「マスターの指示には従ってくれると思います。なにせ、カルデアの召喚システムは人理を救うことに賛同している英霊でないと呼べないようになっていますから。ですので、サーヴァントの責任者であるマスター、つまり、藤丸くんが所長に攻撃しないように言えば、聞いてくれるんじゃないかと」

「わかりました。ラフム、この人は味方だから攻撃しないように」

「qez……」

「分かってくれたみたいです」

「ちょっと待ちなさい! そいつ、今、『分かった』という意味の言葉を発していないに違いありません! そうでしょ、マシュ!」

「ラフムさんの言葉は分かりません」

「そうですけど! でも、女性なら分かるでしょう! こいつ、絶対に『タイツ……』って言っていたに違いありません、間違いなく!」

「そんなバカな……英霊が所長のタイツを狙ったっていうんですか?」

「だって……だって! そんな感じがしました!」

 

 あり得ないことだとロマニは肩を竦める。

 

「そんなことよりも、これからの方針について話しましょう」

「そんなことッ!?」

 

 ロマニの言葉に『やっぱり、わたしの味方はレフだけ……』と呟くオルガマリーだったが、気を取り直してロマニに指示を下す。

 

「現場のスタッフが未熟なのでミッションは、この異常事態の原因、その発見にとどめます。解析・排除はカルデア復興後、第二陣を送りこんでからの話になります。キミもそれでいいわね?」

「発見だけでいいんですか?」

「ええ。それ以上はあまりにも危険です」

 

 チラとオルガマリーはロマニへと目を向ける。

 そもそも、特異点というのは何が起こるか全く予想できない状況だ。更に、本拠地であるカルデアは壊滅的な打撃を受けた直後。出来るだけ早く特異点の修復を終わらせ、カルデアの復旧に取り掛からなくてはならない。

 オルガマリーの視線から彼女の言いたいことを察したロマニは映像の向こうの彼女へと頷いた。

 

「了解です。健闘を祈ります、所長。これからは短時間ですが通信も可能ですよ。緊急事態になったら遠慮なく連絡を」

「……ふん。SOSを送ったところで、誰も助けてくれないクセ……顔を近づけるのは止めなさい! あなたが守ってくれるの? そう、なら、まずは、わたしから離れなさい!」

 

 いつの間にか近づいていたラフムへ威嚇するように声を荒げるオルガマリーを見つめたロマニは彼女へと声をかける。それは最終確認のため。

 

「所長?」

「なんでもありません通信を切ります。そちらはそちらの仕事をこなしなさい」

「……所長、よろしいのですか? ここで救助を待つ、という案もありますが」

「そういう訳にはいかないのよ。……カルデアに戻った後、次のチーム選抜にどれほどの時間がかかるか。人材集めも資金繰りも一ヶ月じゃきかないわ。その間、協会からどれほど抗議があると思っているの?」

 

 彼女の気持ちは固い。オルガマリーにとって、今回の事件を早急に解決しないことにはカルデアの所長という地位を取り上げられてしまうという崖っぷちの状況だ。そのことをオルガマリーは十二分に理解していたため、元より引き下がるという手段は取ることが出来なかったのだ。

 

「最悪、今回の不始末の責任としてカルデアは連中に取り上げられるでしょう。そんな事になったら破滅よ。手ぶらでは帰れない。わたしには連中を黙らせる成果がどうしても必要なの」

 

 オルガマリーは藤丸とマシュ、そして、ラフムへと向き直る。

 

「……悪いけど付き合ってもらうわよ、マシュ、藤丸。そうね、あなたにも働いてもらいます、ラフム。とにかくこの街を探索しましょう。この狂った歴史の原因がどこかにあるはずなんだから」


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