ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件   作:クロム・ウェルハーツ

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1.バビロニアFirstOrder

 -OFF-

 

 目が覚めたらラフムでした。ええー? ほんとにござるかぁ?

 

 ほ ん と で す !

 

 腕を見る。なすび色の鋭く尖った4本の腕。細いけど、力は強い2本の足。口は人とは違って縦についている。その口の先から天に向かってぴょこんと揺れている頭の部分がチャームポイントだね。

 ちくしょう……。

 

 ラフムっていう人外になった挙句、今いる所は密林。誰もいないし、薄暗いし、なんか獣の泣き声がするし。うわーん、マタハリママ助けて! ついでにおっぱい揉ませて!

 

 泣きたくなってくる。ラフム、泣きたい。いや、本当に。

 え? え? どういうこと? トラックに轢かれたと思ったら密林にいて、葉っぱについた水滴に映った姿を確認したらラフムってどういうこと? 

『楽しい楽しい、ギャハハハハ!』って言えばいい訳? いや、楽しくないよ。こんな状況のラフムを見て愉しめるのは愉悦部員だけだよ!

 

 ガサリと音がした。

 ビクリと体を震わせる。いや、密林、ちょー怖い。ガサリガサリと茂みが揺れるのを見る。自分がこれまでの人生で経験したことがないほどに緊張しているのが分かった。

 思わず、喉を鳴らす。いや、ラフムにも喉あるからね。人とはちょっと違う形だけど、人をベースにしているからね。少し違うからって差別は悪い文明。抵抗しないラフム相手に宝具をぶっ放すのはもっと悪い文明。

 

 と、茂みから人が出てきた。やばい、ぶっ殺される。少なくとも、密林の中でバケモノに出会ったらぶっ殺す。ラフムならそうする。

 けど、転がるようにしてラフムの前に姿を現したのは緑色の長い髪だった。次いでにいうと血塗れだ。うん、ラフム知ってる。キングゥだね、わかるとも!

 ラフムの前に出てきたのは、FGO第一部の第七章のキーパーソン、キングゥだった。

 

「見ィ……ツケタ」

 

 と、キングゥの後ろからラフムと同じ形をしたバケモノが現れた。うっわ、気持ち悪い。人のこと言えないけど気持ち悪い。

 絶望の表情を浮かべるキングゥに群がるラフムたち。ボケっと突っ立てることしかラフムはできない。ご同輩たち、マジ怖。だけど、震えているラフムとは裏腹に、キングゥを取り囲むラフムの内の一体が他のラフムを襲い始めた。

 自身の体に反撃による傷を受けながらも、この場のラフムを全て殲滅したラフムはキングゥに体を向ける。

 

「え? お、まえ……助けて、くれたのか?」

「──逃ゲ、ナ、サイ、エルキ、ドゥ。アナタ、モ、長クハ、ナイデショ、ウ、ケド」

 

 アカン、これ泣いてまうパターンや。

 ラフム泣いちゃう。

 上を見上げて涙を堪えて、ついでに気配も消す。名場面は立ち入っちゃいけないよね、やっぱり。

 

「……おまえは、なぜ動かない? ボクを殺しにきたんじゃないのか?」

 

 空を見上げていると、後ろから声を掛けられた。キングゥだ。

 

「gyh@44444!」

 

 ハッ……いかんいかん。余りにも感情が昂ってしまって、つい叫んでしまった。今の状況とキングゥをこの目で見れたこと、その両方によって如何ともし難い劣情を催しましてね。つまり、キングゥをペロペロしたいお。いや、待てよ。ラフムの口は人間よりも大きい。つまり、ペロペロできる面積が広がる訳で、それはそれでお得なのではないだろうか? 人の姿じゃないとしても舌の面積が広がることは素晴らしいことじゃないだろうか?

 

 ……試してみるしかない。

 

 取り敢えず、キングゥに近づこうと顔を向けた時、地面に土塊が転がっているのが目に入った。

 

「ds@lxyyyyy!」

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

 ラフムがまだ人間でカルデアのマスターで廃人だった時、沖田さんでクイックチェインからのクリティカル連発しまくってしまってごめんなさい。菌糸類、マジ愉悦部。号泣したわ。

 

「ボクを攻撃する気はない、か。……くっ!」

 

 と、叫んでいる内にキングゥの体調が悪くなったみたいで、キングゥは地面に跪いた。それもそうだ。神に造られた体と言っても無理がある。心臓である聖杯を取るために胸を抉られて無事なハズがない。

 

 キングゥに背中を向ける。

 

「kzw」

 

 キングゥは不思議そうな顔をしている。ここにいれば、いつ追手のラフムが来るか分からない。だから、ここから離れようとキングゥを背中に乗せて行こうと背中を向けたのに、キングゥはポカンとした表情でラフムを見つめるだけだった。

 仕方ない。ラフムには知性がある。転生して言葉を奪われたぐらいでラフムの頭の冴えは奪えない。

 

 キングゥの前に右腕──正確に言えば、右の前の腕──を出す。少しビクッとしたキングゥだったけど、ラフムの次の行動でラフムが何をしようとしているのか分かるだろう。

 

 ラフムは腕で地面に絵を描く。これでも、神絵師を目指していたこともある。ツイッターでファボ3つも貰ったこともある。ちなみに、フォロワーは3名、全て自分の複アカだったけどな!

 まったく、世の中ときたらラフムの芸術性についていけない奴ばかりだ。

 

「オマエに乗れ……ということか」

 

 ラフムの芸術的な絵を理解できるとは、流石、キングゥ。何回も首を縦に振る。

 前世の親でさえもラフムの芸術を理解できなかったのに、こんな人理の果てで理解者に出会えるとは。

 

 内心、凄い喜んでるけど、それが表に出せないラフムの体は不便だ。しかし、便利なこともある。ボロボロのキングゥを背中に乗せて、歩くことができる。しかも、素早く……ほんと、速いな、ラフムの体。時速100km近く出てるんじゃないだろうか。

 恐ろしい性能に慄きつつ、ラフムとキングゥは目的地へと向かうのだった。

 

 

 

 -ANOTHER POINT-

 

 緑の髪を乱しながら、一つの影が駆ける。男とも、女とも取れそうな顔付き、そして、体付きの人影だ。人影の名はキングゥ。魔術王に仮初の命を与えられた人形(マリオネット)だ。

 

 キングゥは口惜しさに顔を歪ませながら藪を掻き分け、遁走を続ける。キングゥは逃げていた。兄弟とも呼べる存在から逃げていた。

 息を荒げて密林の中を進むキングゥの胸には大きな穴が開いている。鋭利なもので抉られたように凹むその胸からは血が流れ出ており、痛々しい姿である。通常の人間ならば失血死していてもおかしくはないほどの出血。だが、キングゥの足はふらついているものの、動かすことはできている。気力で補っているは言えない。ただ、キングゥの体が人類とは隔絶するほどの高スペックであるという単純な話だ。

 人類では死を逃れられないほどの傷でも、キングゥにとっては動くことができる程度の傷でしかない。しかしながら、それほどまでに死に難いキングゥにも死は迫っていた。

 

「追イ詰メロ、捕マエロ! 解体ダ、デク人形ノ 解体ダ!」

 

 キングゥの後から藪を掻き分けて紫色だとも茶色とも取れるような色をした、およそ人ではないモノが現れた。しかも、一体だけではない。藪から次々と姿を現すバケモノの総数は十以上あるだろう。

 大の男より一回りほど大きく、そして、醜悪な見た目のバケモノだ。

 頭には巨大な人のような口、しかも、縦に開く口がついており、肩口からは長い棒のような、爪のような、なんとも形容し難い腕が四本、飛び出している。巨大な腕に反して、体や脚は細く上半身を支えることができるのが不思議に思えるモノだった。

 

 不安定。

 そのバケモノを一言で表すと、そうなるだろう。そのバケモノ、“ラフム”はあまりにも不安定なモノであった。地球上の全ての生命体の進化図から離れ、それ単独で顕れ出たような他とは相容れない彼らが“他”である人類によく似たキングゥに襲い掛かるのは当然だと言えた。

 

「クッ!」

 

 ラフムはキングゥに向かって爪を振るう。遊ぶように振るわれた爪はキングゥの腕を切り裂き、赤い筋をキングゥの腕に残す。地面に転がりながらラフムの爪を避けて藪へと転がり込むキングゥだったが、すぐに立ち上がることはできない。

 なぜなら、キングゥの逃げ道を防ぐようにラフムが一体、後ろで待機していたからだ。

 

「──アハ。見ィ……ツケタ」

 

 前にはラフムが十数体、そして、後ろにはラフムが一体。逃げることができる状況ではない。

 

 精も根も尽き果てた。

 そう感じる事ができるほどに、茫洋としたキングゥの表情。それを見て、ラフムたちは実に愉しそうに歯をカタカタと鳴らして悦ぶ。弱るキングゥを見るのが愉しくてしょうがない様子のラフムたちを悔しそうに見つめるキングゥだが、どうすることもできない。

 

 ──これが、終わりか。なんだ……人間たちみたいに、呆気ない。ボクも大した事はなかったんだ。壊されれば、動けなくなるだけなんだから。……ああ、こんな事なら。最後に、アイツに会いに行けば良かったのにね。

 

 諦め、ラフムの爪を受け入れよう。自分には存在する価値がなかった。不要とされた自分は無意味に機能を止め、バラバラにされるのだろう。

 

 ──もう疲れた。

 

 キングゥが項垂れた瞬間、ラフムの一体が動いた。その爪はケタケタと愉しそうに笑っていたラフムへと突き刺さる。一体のラフムが突然、周りのラフムに襲い掛かったのだ。しかし、周りのラフムたちもただ攻撃されるばかりではない。すぐに裏切り者へと反撃を加える。しかしながら、その裏切り者は強かった。

 自分以外のラフム──キングゥの後ろで動かない一体は除くが──を全て倒したラフムは反撃されて負った致命傷を気に留めることなく、キングゥへと顔を向ける。

 

「え? お、まえ……助けて、くれたのか?」

「──逃ゲ、ナ、サイ、エルキ、ドゥ。アナタ、モ、長クハ、ナイデショ、ウ、ケド」

「!」

 

 キングゥは気づく。自分を助けたラフム、その元になった人物に。

 

「キミは──昨日、アイツらに連れて来られた……でも、どうして? どうしてキミが、ボクを助け……」

「シアワ、セニ。ドウカ、シアワセニ、ナリナサイ。親愛ナル、友。エルキ、ドゥ」

 

 機能が停止しかかっている。

 そのことに気付いているキングゥだが、自分ではどうすることもできない。助けを求めるように後ろへと振り向く。

 だが、後ろに控える無傷のラフムも打てる手はないことを理解しているのか、空を見上げていた。まるで、悲しみから涙を堪える人のようだとキングゥは突飛な考えをしてしまう。自分にも、そして、ラフムにも心などというものはないというのに。

 そして、そのラフムの様子からどうあっても、自分を救ってくれたラフムへ手を差し伸べることができないのだと理解してしまったキングゥは、せめて最後の言葉だけは聞こうと救ってくれたラフムへと顔を戻す。

 

「私タチ、ウルクノ民ハ、アナタへの感謝を、忘レハ、しまセん。アナタハ、孤高ノ王ニ、人生ヲ、与エマシタ。偉大ナ王ヘノ、道ヲ、示シテクレマしタ。アナタノ死ヲ、嘆カナカッタ者ハ、いなカッタ。アナタノ死ヲ、忘レル者ハ、イナカッタ」

 

 所々、持ち直したように言葉を紡ぐラフムだが、その命は確実に一言話す毎に削られて行っていることをキングゥは感じ取っていた。

 

「私、モ。私モ、トテモ、悲しカッタ。ダカラ、ドウカ、シアワセに、エルキドゥ。美シイ、緑ノ、ヒト。アア──良カッタ。アリガトウ、言エテ、良カッタ。アリガトウ、アリガトウ、アリガ、ト──」

 

 その言葉を最期にキングゥを救ったラフムの機能は完全に停止した。体に入った亀裂が大きくなり、バラバラとラフムの体が大小様々な形に分かれていく。やがて、陶器が割れるような音も完全に止まり、キングゥを残し、密林は静けさを取り戻した。

 土塊になったラフムを見つめるキングゥの脳裏にある人類の顔が思い浮かんでは消えていく。ギルガメッシュ王の隣にいた人間。キングゥの記憶にはない光景だ。

 

「なんだ、これは──キミの事なんて、知らないのに。どうしてキミの名前も、顔も、分かるんだ……ありがとう、なんて──キミに言われる資格は、ボクにはないのに──う、ぐ──うう──ううぅぅぅ……! ううあぁぁぁあああああ…………!!!」

 

 声の限りにキングゥは叫んだ。叫ばざるを得なかった。

 神に創られた人形は、ただ只管に人のように叫ぶ。その行為に意味はないと知っていつつも、心が、体がキングゥにそうさせていた。

 

 ひとしきり叫んだ後、キングゥはゆっくりと後ろに振り返る。

 

「……おまえは、なぜ動かない? ボクを殺しにきたんじゃないのか?」

 

 キングゥは後ろに佇んだまま動かないラフムへと声を掛ける。ラフムが動くことを期待していなかったキングゥだったが、彼の予想とは裏腹にラフムは口を大きく開いた。

 

「gyh@44444!」

 

 理解できない言語で突如、叫び出すラフムにキングゥは目を丸くする。じりじりと寄ってくるラフムにキングゥは恐怖を覚えたものの、それは杞憂であった。キングゥへとにじり寄っていたラフムは、突然、動きを止めたのだ。

 

「ds@lxyyyyy!」

 

 また叫び出すラフムにキングゥは再び目を丸くする。

 

 ──なんというか……コイツの行動は読めない。他のラフム以上に読めない。

 

 しかし、少し前に動かなかったことといい、地面に跪き頭を下げている今といい、自分に攻撃を加える気はないのだとキングゥは判断した。

 

「ボクを攻撃する気はない、か。……くっ!」

 

 胸に奔る痛み。

 他のラフムに攻撃され壊れてしまい、土塊に還ったラフムの言うように自分も長くはないだろう。そう、あのウルクの民のように自分ももうすぐ死んでしまう。

 

 ──もう……どうでもいい。

 

 キングゥの目から光が消えてしまった。

 

 しかし、キングゥが諦めることを許さないものが傍には居たのである。

 ラフムがキングゥに背中を向けた。

 

「kzw」

 

 キングゥは不思議そうに、自分に背を向けてしゃがみ込んだラフムに顔を向ける。このままでは埒が明かないと判断したのか、ラフムは立ち上がり、キングゥへと右腕を突き出した。

 キングゥは思わず、体を震わせる。それも仕方のないことだろう。事実、今、キングゥの胸に空いている穴は目の前のラフムとそっくりな格好をしたラフムから傷つけられたもの。

 

 しかし、ラフムが次にとった行動はキングゥの予想とは反するものだった。

 地面に右腕の爪を突き立てたラフムは腕を動かしていく。何やら図形のようなものがいくつか組み合わさったものが出来ていく。その図形を見て、キングゥはラフムの言いたいことにピンときた。

 

「オマエに乗れ……ということか」

 

 ラフムはキングゥの言葉に何度も首を縦に振る。

 

 常人では到底、ラフムが描いた絵を正しく判断することはできないだろう。キングゥがその絵を正しく理解できたことは運命だと言えるのかもしれない。

 

 かくして、ラフムの背に乗ったキングゥは密林から出ていくのであった。

 

 

 

 -OFF-

 

「どこに向かっている?」

「0tyue」

「聞くだけ無駄か。どうせ、もう何もかも終わる」

 

 うん、取り敢えず森の中から出ようと走り出したのが間違いだった。本当に無駄に時間を使ってしまった。ここはどこ?

 他の危ないラフムは完全に撒けたみたいだけど、地理が全く分からない場所で走り回るんじゃなかった。そもそも、現代の日本に住んでる人でイラクの地理が分かる人なんてどの程度いるんだろうか? 少なくとも、ラフムは分かんなぁい。

 

 そんなこんなでキングゥを背中に乗せたままバビロニアを歩く。いい加減、何か建物が見えてこないかな。

 

「あっちだ。あっちに行ってくれ」

 

 背中のキングゥが唐突に声を発した。身を乗り出すようにして指を右斜めの方向へと翳している。他に行く当てもないし、キングゥの指示に従って歩いていくと上り坂になった。

 背中にいる無言のキングゥと共に登っていくと、日が落ちたらしく暗くなってくる。ハハァ、なるほど。分かったぞ。これはあれだ、いい場面に違いない。ムッツリスケベが考えそうなリヨ鯖に撮影を頼みたい所だ。思い出はもちろん、主人公補正も掛かるしいいこと尽くめ。

 

 そう考えながら歩くと、丘の天辺についた。

 上を見上げる。星が綺麗だった。

 

「ここが……天の丘……馬鹿みたいだ。最期になんで……こんな場所に、来たんだろう。この体が、鮮明に記憶していた場所。……はじめての友人を得た、誓いの丘……無意味だ。こんなところも、ボク自身も。……何もかもを失った。もう機能を止めてしまえばいい。創造主に見捨てられ、始めから、帰る場所なんて、どこにもなかった、ただの偽物、なんだから」

 

 綺麗な星空には似合わないキングゥの独白。

 ラフムは何も言えなかった。生き方がラフムとは全く違う。誰かの偽物だと自分を定義する人間は余りいない。ラフムは前世でそんな人間とは会った事はなかった。だから、ラフムはキングゥに何も言えずに、ただ夜の空を見上げる。

 キングゥに声を掛けるべきなのは、ラフムじゃない。

 

「何をしている。立ち上がらぬか、腑抜け」

「……!」

「まったく。今宵は忙しいにも程がある。ようやく人心地つこうかと思えば、この始末。無様に血を撒き散らし、膝を屈したまでは見逃そう。だが、ここで屍を晒すことは許さぬ」

 

 今のキングゥに声を掛けることができるのは、賢王ギルガメッシュただ一人。

 

「疾く立ち上がり失せるがいい。そうであれば罪は問わぬ」

「ぁ……あ……」

「どうした。立てぬのか? それでも神々の最高傑作と言われた者か? 何があったかは知らぬが、胸に大穴なんぞ開けおって。油断にも程があろう」

「な、にを、偉そうに……オマエに、見下される、ボクなもの、か……!」

 

 キングゥが立った! キングゥが立った!

 

「く、そ……! こんな……こんな、ところ、を。オマエに、オマエなんかに、見られる、なんて……!」

「…………ふん。そう言えば、こんなものが余っていたな。使う機会を逸してしまった。棄てるのもなんだ。貴様にくれてやろう」

「な……え、えぇ!?」

 

 惜しげもなくウルクの大杯をキングゥに与えるギルガメッシュ。中々、聖杯をくれない魔術王も少しは見習って欲しい。じゃんじゃん特異点作ってくれた方が聖杯をバンバン使えるのに。勿体なくてジャンヌオルタとライコーママにしか使ってない。ステイナイト組全員に聖杯を使うことができるぐらい聖杯が欲しい。

 

「ほう。聖杯を心臓にしていただけはある。ウルクの大杯、それなりに使えるではないか」

「ど、うして……? なぜ、なんでこんなマネを!? ボクはオマエの敵だ! ティアマトに作られたものだ! オマエのエルキドゥじゃない! ただ、ただ違う心を入れられた、人形なのに!」

「そうだ。貴様はエルキドゥとは違う者だ。ヤツの体を使っている別人であろう。だが、そうであっても、貴様は我が庇護の……いや、友愛の対象だ」

「……」

「言わねば、分からぬか! この大馬鹿ものが! そこのラフム風情でも分かっていることだ!」

 

 うんうん……うん?

 

「ラフムよ! この大馬鹿者に説明してやれ!」

「g@.f,」

「人の言葉を話せぬのならば、そう言え! たわけ!」

 

 酷ッ(´・ω・`)

 ラフムに関心をなくしたギルガメッシュは再びキングゥへと向き直る。

 

「たとえ、違う心、異なる魂があろうと! 貴様の(それ)は、この地上でただ一つの天の鎖! ……フン。奴は己を兵器だと主張して譲らなかったがな」

 

 ギルガメッシュは気持ち優し気な目付きでキングゥを見る。

 

「その言葉に倣うのなら、我が貴様を気に掛けるのも当然至極。なにしろ、もっとも信頼した兵器の後継機のようなもの! 贔屓にして何が悪い!」

 

 最後に背を向けながらギルガメッシュは言葉を残す。

 

「ではな、キングゥ。世界の終わりだ。自らの思うままにするがいい」

「待って……分からない。それは、どういう……」

「母親も生まれも関係なく、本当に、やりたいと思った事だけをやってよい、と言ったのだ。かつての我や、ヤツのようにな。すべてを失ったと言っていたが、笑わせるな。貴様にはまだその自由が残っている。心臓を止めるのは、その後にするがいい」

 

 その言葉を最後に、ギルガメッシュは姿を消した。

 

「何を……今さら。ボクには、成し遂げるべき目的なんて、なかった。オマエもそうだろう?」

 

 ラフムは首を振る。

 

「7lqebs7;f@ee」

「なんだって?」

 

 伝わらなかったので、ラフムはファイティングポーズを取る。その後にしたシャドーボクシングっぽい動きでキングゥは理解したらしい。

 

「ボクに……戦えというのか? ティアマト神と戦えと?」

 

 紫の目でキングゥはジッとラフムを見つめる。照れるぜ。

 

「オマエも母さんから切り離されたのか。だからこそ、ティアマト神と戦う意志を見せることができるのだろう」

 

 しばらく、キングゥは考えた後、ギルガメッシュと同様に丘を降りていく。キングゥについて行こうとした足を踏み出したけど、キングゥに止められた。

 

「一人で考えたい。これから、ボクはどうしたいのかということを」

 

 フッ……伝わったようだな。

 ギルガメッシュに止められなかったら、ラフムも同じことを言っていた。だから、ラフムはキングゥに頷く。

 

「ありがとう」

 

 最後にそう言い残して、キングゥは飛び去った。空飛べるのってやっぱり便利だな。

 

 キングゥを見送りながら、ラフムは満天の星空を見つめる。

 あ、道が分かんない。

 

 どうしようかとうんうんと長い時間悩んでいると、後ろからガチャガチャという奇妙な音がした。

 

「見ツケタ見ツケタ見ツケタ」

「殺ソウ殺ソウ殺ソウ。バラバラ、ニ、シヨウ」

 

 ラフムが振り返ると、10体近くのラフムが、そこにはいた。キングゥが飛んだのを見て、ラフムがやってきたのだろう。

 まあ、あれだ。

 ……別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?

 

 時間を稼ぐ必要はないけどネ!

 

 となれば、先手必勝! 一番前にいたラフムを爪で突き刺す。けど、ラフムが優位に立てたのは一瞬だけだった。

 抉り貫き、抉り貫かれ、体がバラバラになっていく。ラフムに転生してからまだ、24時間も経ってないのに、死ぬって早すぎ。地面に落ちたラフムの首をめがけて敵のラフムが大きく爪を振りかぶる。

 

 ここまで、か。

 

 もう少し楽しみたかったと思いながら、ラフムの意識は消え去った。

 

 

 

 -ANOTHER POINT-

 

 自分に敵対するラフムを撒くためか、キングゥを背に乗せているラフムはバビロニア中を縦横無尽に走り回っていた。目的地というものを考えずに、ただ逃走を続けていたのだろうとキングゥは考えた。

 目的のないまま走り続ける。今の自分とラフムは運命共同体であるのだろうとキングゥは自嘲する。ラフムの体は自分を参考にして造られた後継機だと考えていたキングゥだったが、それは間違いであったとラフムたちに攻撃された時に思い知った。

 しかし、今、この広いバビロニアを二人きりで逃げ続ける状況は、まるでラフムと兄弟のようだと思い……そこで、キングゥの脳裏にあるイメージがチラついた。

 

 美しかった。嬉しかった。とても楽しかった。

 それは黄金色だった。

 

「クッ……!」

 

 キングゥはその自分の記憶ではないイメージを、頭を振って追い出す。この記憶に価値はない。この記憶を価値あるもの言えるのは、この体の元々の持ち主と、その友だけだろう。

 そうであるから、キングゥは記憶を頭の片隅に追いやり、これからどうするか自分の旅の相棒であるラフムに尋ねてみるのであった。

 

「どこに向かっている?」

「0tyue」

「聞くだけ無駄か。どうせ、もう何もかも終わる」

 

 ラフムが解読できない言葉を発するのは分かっていた。しかし、それでも尋ねざるを得なかった。それは記憶の影響か、自分も随分と無駄な行為をするようになってしまったと大きく息を吐く。

 

「……」

 

 新人類は無駄な行為はしない。しかし、自分は新人類にはなれなかった孤児のようなもの。ならば、無駄な行為をしてもいいだろう。

 

「あっちだ。あっちに行ってくれ」

 

 ラフムの背中の上からキングゥはある方向を指で指し示す。なぜ、その方向を示したのかは分からない。だが、その判断は正しいという感覚はあった。そして、ラフムも何も言わずに指示に従うことからキングゥはそれが正しいという確信を得た。

 

 一路、キングゥが示した方向へとラフムの足は向かう。

 段々と太陽が地平線の向こうに沈んでいき、程なくして、世界は夜に覆われた。満天の星空の中、キングゥを背に乗せたラフムは丘を登っていく。ラフムの足は速く、丘の頂上まで来るのには、そう時間は掛からなかった。

 

 丘の頂上でキングゥはラフムの背から降り、バビロニアを見渡す。

 

「ここが……天の丘……馬鹿みたいだ。最期になんで……こんな場所に、来たんだろう。この体が、鮮明に記憶していた場所。……はじめての友人を得た、誓いの丘……無意味だ。こんなところも、ボク自身も。……何もかもを失った。もう機能を止めてしまえばいい。創造主に見捨てられ、始めから、帰る場所なんて、どこにもなかった、ただの偽物、なんだから」

 

 綺麗な星空には似合わないキングゥの独白。ラフムは何も言わず佇むのみ。

 キングゥは思わず座り込む。ここに来れば、何か変わるのではないかという何の根拠もない期待が裏切られた。勝手に期待して、勝手に絶望する。しかし、その絶望感は如何ともし難いものであった。キングゥは目を閉じ、首を地面に向ける。

 

「何をしている。立ち上がらぬか、腑抜け」

「……!」

「まったく。今宵は忙しいにも程がある。ようやく人心地つこうかと思えば、この始末。無様に血を撒き散らし、膝を屈したまでは見逃そう。だが、ここで屍を晒すことは許さぬ」

 

 前から聞こえてきた声に弾かれるようにキングゥは顔を上げた。

 

「疾く立ち上がり失せるがいい。そうであれば罪は問わぬ」

「ぁ……あ……」

「どうした。立てぬのか? それでも神々の最高傑作と言われた者か? 何があったかは知らぬが、胸に大穴なんぞ開けおって。油断にも程があろう」

「な、にを、偉そうに……オマエに、見下される、ボクなもの、か……!」

 

 目の前の男に見下されるのは嫌だ。子ども染みたプライドでキングゥは足に力を籠める。多少ふらついたが、キングゥは再び、その足で立った。

 

「く、そ……! こんな……こんな、ところ、を。オマエに、オマエなんかに、見られる、なんて……!」

「…………ふん。そう言えば、こんなものが余っていたな。使う機会を逸してしまった。棄てるのもなんだ。貴様にくれてやろう」

 

 目の前の男は黄金の杯をキングゥの胸へと押し付ける。と、杯はキングゥの体の中に取り込まれるようにして消えた。それと同時にキングゥの胸の傷も消え去った。

 

「な……え、えぇ!?」

 

 胸の大穴を一瞬で消し去るほどの宝を持つ者はこのバビロニアに置いて唯一人。英雄王、ギルガメッシュ。彼、唯一人である。

 

 惜しげもなく自身の財宝をキングゥに渡したギルガメッシュは愉快だと言うように笑みを浮かべる。

 

「ほう。聖杯を心臓にしていただけはある。ウルクの大杯、それなりに使えるではないか」

「ど、うして……? なぜ、なんでこんなマネを!? ボクはオマエの敵だ! ティアマトに作られたものだ! オマエのエルキドゥじゃない! ただ、ただ違う心を入れられた、人形なのに!」

「そうだ。貴様はエルキドゥとは違う者だ。ヤツの体を使っている別人であろう。だが、そうであっても、貴様は我が庇護の……いや、友愛の対象だ」

「……」

「言わねば、分からぬか! この大馬鹿ものが! そこのラフム風情でも分かっていることだ! ラフムよ! この大馬鹿者に説明してやれ!」

「g@.f,」

「人の言葉を話せぬのならば、そう言え! たわけ!」

 

 ラフムに関心をなくしたギルガメッシュは再びキングゥへと向き直る。

 

「たとえ、違う心、異なる魂があろうと! 貴様の(それ)は、この地上でただ一つの天の鎖! ……フン。奴は己を兵器だと主張して譲らなかったがな」

 

 ギルガメッシュは気持ち優し気な目付きでキングゥを見る。

 

「その言葉に倣うのなら、我が貴様を気に掛けるのも当然至極。なにしろ、もっとも信頼した兵器の後継機のようなもの! 贔屓にして何が悪い!」

 

 キングゥへと背を向けながらギルガメッシュは言葉を残す。

 

「ではな、キングゥ。世界の終わりだ。自らの思うままにするがいい」

「待って……分からない。それは、どういう……」

「母親も生まれも関係なく、本当に、やりたいと思った事だけをやってよい、と言ったのだ。かつての我や、ヤツのようにな。すべてを失ったと言っていたが、笑わせるな。貴様にはまだその自由が残っている。心臓を止めるのは、その後にするがいい」

 

 その言葉を最後に、ギルガメッシュは姿を消した。

 丘に残されたのはキングゥとラフムだけ。来た時と同じ状況だ。しかし、キングゥの心は違っていた。だが、一歩が踏み出せない。

 

「何を……今さら。ボクには、成し遂げるべき目的なんて、なかった。オマエもそうだろう?」

 

 キングゥの問いにラフムは首を振る。

 

「7lqebs7;f@ee」

「なんだって?」

 

 ラフムの言葉が理解できないにも関わらず、問いかけてしまったキングゥに非はある。しかし、そのことを意に介す様子もなく、ラフムはジェスチャーで以って自身の考えをキングゥへと示した。

 ラフムのジェスチャー。それは両腕を構え、交互に前へと突き出すというもの。

 

「ボクに……戦えというのか? ティアマト神と戦えと?」

 

 紫の目でキングゥはジッとラフムを見つめる。ラフムもまた、キングゥをどこにあるのか分からない目で見返した。

 

「オマエも母さんから切り離されたのか。だからこそ、ティアマト神と戦う意志を見せることができるのだろう」

 

 ──ボクは何をすれば……何をしたいのか?

 

 キングゥは目を閉じる。

 

 思うのは、ラフムの勝ち目のない戦いに挑む迷いのない決断。

 そして、カルデアのマスターの姿。一見、どこにでもいる普通の少年だった。しかし、その心は古今東西の英雄にも引けを取らない。秩序の、善性の、そして、友愛の心を持った少年だった。

 

 キングゥは目を開いた。

 

 心は定まりかけている。しかし、後一歩、踏み出す勇気が必要だ。それを探しに行こうとキングゥは足を踏み出す。

 そして、ラフムもキングゥの後を追おうとする。

 

「一人で考えたい。これから、ボクはどうしたいのかということを」

 

 しかし、キングゥはラフムを止めた。そして、キングゥの気持ちを理解したのだろう。ラフムはキングゥに頷く。

 

「ありがとう」

 

 最後にそう言い残して、キングゥは飛び去った。最期に向かう最後のピースを見つけに。

 

 

 

 -OFF-

 

「これが……オレの……サーヴァント?」

「ええ。多分、先輩のサーヴァントだと思われます」

 

 死んだと思ったら、目の前には二人の人間。白い服を着た少年と盾を持った少女だ。となれば、問わねばなるまい。

 

「s64、3uqt@0qdkjrq\t?」

「マシュ、この人? がなんて言ってるか分かる?」

「全く分かりません」

 


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