ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件   作:クロム・ウェルハーツ

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10.アーサー王

 -OFF-

 

 マシュが宝具を使えるようになったよ、やったね!

 本来ならお祝いするべきなんだろうけど、生憎、炎上しまくっている(比喩じゃない)冬木じゃケーキを売っている店なんてものはない。そんな冬木で出来るようなことと言えば、骨集めとダイエットのためのマラソンぐらいなもの。

 

 つまり、冬木から一刻も早くカルデアに戻らないといけない。でも、その前に立ち塞がるのは、あのアーサー王。今でこそアーサー王と言えばセイバーが出てくるようになったけど、昔はアーサー王と言えば男が出てくるものだったのじゃ。え? 知ってる?

 

 まあ、ともかく、冬木最大の脅威のアーサー王に立ち向かって勝って冬木の大聖杯を手に入れなくちゃいけない訳で……。

 アーサー王に勝つためには体調をしっかり整えなくてはいけない。

 そのための小休止をとる。マシュが用意した蜂蜜のたっぷり入ったお茶(意味深ではない)と所長のドライフルーツ(意味深ではない)を食べて準備は万全。

 これは余談だけど、休憩途中で出会った黒っぽくて怪物っぽいのとは気が会いそうだったのに、所長の命令で撃破させられてしまった。ラフムは悲しい(ポロロン)

 

 怪物っぽいのを撃破したラフムたちは洞窟の中を進む。変動座標点0号とカルデアでは定義されていた場所だ。洞窟の中を進んでいくと、とても開けた場所に出た。体育館ほどの広さだ。いや、本当に大きい。

 そして、その中心には上へと魔力っぽいのが立ち上がっている大きな穴。ラフムは魔術師でも何でもないし、魔術の素養もなかったから魔力かどうかは分からない。けど、なんとなくヤバみを感じる。直感スキルとかないけど、ラフムの勘は型月限定でよく当たる。例えば、オルガマリーにビンビンに死亡フラグが立っていることを彼女のデータが出た直後に見抜いたりしたし。

 

 と、隣にいる所長の喉がゴクリと鳴った音がラフムの耳に聞こえた。それにしても、耳は見当たらないのに、なぜ、聴覚があるのだろうか? 教えて、ティアマトベルン相談所!

 ラフムがバブみとドスケベルン感を感じているのは置いといて、なぜ、所長が喉を鳴らしたのか。原因は目の前に見える大聖杯だ。

 

「これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない……なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……」

 

 呆然と呟く所長に答えるようにマスターのウェアラブル端末から音がした。Dr.ロマンだ。

 

「資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない人造人間(ホムンクルス)だけで構成された一族のようですが」

「悪いな、お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたぜ」

 

 チャチャッチャ、チャッチャン!

 セイバーが現れた!

 

 RPGっぽく頭の中でBGM(エマージェンシー)を鳴らす。

 皆! サントラは予約したかい? ラフムは勿論した。けど、サントラが発売される前にトラックに轢かれた。歩きスマホはダメ、絶対!

 

 そんな思考を全く表に出すことなく、ラフムは洞窟の広間の中、ちょっとした丘のようになっている場所に立つアーサー王(オルタちゃん)を見上げる。第三再臨後の姿ならば、下から覗けばドレスの中まで見れたかもしれないというのに、今のオルタちゃんは第二再臨後の姿。やはり、王は人の心が分からない。

『セイバー。何も訊かずに鎧を脱げ』と宣いたい。

 

「なんて魔力放出。あれが、本当にあのアーサー王なのですか?」

「間違いない。何か変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男子じゃないと王座にはつけないだろ? お家事情で男のフリをさせられてたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんと趣味が悪い」

「え……?」

 

 ラフムとキャスニキを前にして、マシュとロマンが話している。『マーリンはほんと趣味が悪い』……よく分かる。一体、マーリンにどれだけの諭吉が理想郷に永久に閉ざされたというのか。思い出したくもない。

 ロマンの言葉に何度も頷きそうになった自分を止めて、オルタちゃんから目を離さないようにする。あわよくば、鎧の隙間からという感じの目線をやるが、流石はアーサー王。アヴァロンを持ってきてないのにも関わらず鉄壁だ。おい、誰だ? 絶壁って言ったのは。カリバーすっぞ。

 

 隣でカチャリと軽く鎧が触れ合うような音がした。マシュだ。

 ラフムの隣に並んだマシュも気を取り直したようにオルタちゃんを見つめる。

 

「あ、ホントです。女性なんですね、あの方。男性かと思いました」

 

『ええー? ほんとにござるかぁ?』とマシュに言おうとしたけど、生憎、ラフムの口からは人語は出てこない。ミニクーちゃんみたいに可愛くデザインして欲しかったなとティアマトを恨むけど、あとの祭り。

 仕方ないから隣のクーちゃんが話すのを聞く。

 

「見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」

「ロケットの擬人化のようなものですね。……理解しました。全力で応戦します」

「おう。奴を倒せば、この街の異変は消える。いいか、それはオレも奴も例外じゃない。その後はお前さんたちの仕事だ。何が起こるかわからんが、できる範囲でしっかりやんな」

 

 と、こちらを見つめたまま動かなかったオルタちゃんの口が動いた。

 

「ほう……面白いサーヴァントがいるな」

「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

「ああ、何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが……面白い。その宝具は面白い」

 

 ゆっくりと、ラフムたちを威圧するようにオルタちゃんが剣を構えた。慌ててマシュが盾を構え直す。

 

「構えるがいい、名も知れぬ娘。まずはお前からだ。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう! そして、その後は……貴様だ、化物」

 

 オルタちゃんと目があった。ライオンを思わせるような目だ。隣のクー・フーリンがランサーなら、『この人でなし』と言われようが彼を餌として彼女の前に投げ込むことをラフムは辞さない。それほどに怖い。

 

「化物。貴様は……貴様だけは生きては返さん」

「ラフムが何をしたって言うんだ!」

「ソレは廃さなくてはならないものだ」

「え?」

「カルデアのマスターよ。貴様の隣のソレは人類と共にはあってはならないものだ。いや、この世にあってはならないものだ」

「でも……ラフムはいい奴だ! こんな見た目だけど、オレたちを守ってくれた。今もこうやって──」

「それが何の保証になる? 断言しよう。ソレはピクト人と同様に排除しなければならない……“敵”だ」

 

 マスターは唇を噛み締める。反論の材料を探しているのだろう。

 出会って数時間しか経っていないラフムに対して凄い信頼を覚えているマスターに首を横に振って見せる。信頼していた弟子にアゾられるいい人(うっかりさん)もいることだし……アレは信頼とか関係なくて愉悦部の部長が仕向けたようなものだとも言えそうだけれども。

 まあ、ラフムがマスターに向けた首振りの意味は『人を簡単に信用したら痛い目を見るよ』という親心のようなものだ。

 

「ラフム……そうだよな」

「^?」

「セイバー、オレはラフムを信じる! ラフムは『自分は人類の敵じゃない』って首を振ってくれた。お前の言うことは間違っている!」

「マスターの言う通りです。見た目で判断するような方にはラフムさんのことは何一つ分かりません!」

「……まあ、なんだ。一応、オレは坊主のサーヴァントとしてやってるから、坊主の方針には従う」

 

 皆……ラフム、嬉しい( *´艸`)

 あと、キャスニキ(YARIOじゃない奴)は黙っとれ──。

 

「所長! 所長も言ってやってください!」

「へ? え? 私?」

「はい! 所長です! お願いします!」

 

 マスターとマシュの言葉で退けなくなったのだろう。心底、嫌そうな顔をしながら、所長も言葉を口にした。

 

「えっと……その……えーっと……そう! 人理を守る意志がサーヴァントにないと召喚されないからコイツは大丈夫! ……だと思う」

 

 全く信用されていない。ラフムは悲しい(ポロロン)

 

「話は平行線を辿る、か。なら、問答は終わりだ」

 

 剣を腰に構え直したオルタちゃんの体から黒い魔力が放出された。

 オルタちゃんの魔力()が高まるぅ……溢れるぅ……。

 カリバーだね、わかるとも!

 

「来ます……マスター!」

「ああ、一緒に戦おう!」

「はい! マシュ・キリエライト、出撃します!」

 

 マシュが一歩前に出て盾を構える。それとオルタちゃんが剣を振るのは同時だった。

 

「エクスカリバー・モルガァアアアン!」

「マシュ! 宝具を!」

「了解しました! 宝具展開します!」

 

 マシュの前に巨大な魔法陣が描かれる。

 

「あぁああああ!」

 

 洞窟の中にマシュの声が響く。いやはや、こうやって聞くと女の子の悲鳴っていいものだね。青髭の旦那や龍ちゃんの気持ちが分からないでもない。漫画版にはトラウマを植え付けられたけど。あれはR18Gじゃない?

 

「耐えた……か」

 

 少しブルーになっていると、極光が止まった。マシュが耐え切ったようだ。

 マシュの頭を撫でてあげるべきか、それとも、オルタちゃんへの攻撃を優先させるべきか悩んでいると後ろから指示が聞こえた。マスターだ。

 

「ラフム! ケタケタ笑い!」

「:q:q:q!」

「キャスター! 宝具使用!」

「応ッ! 灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

「くっ……」

 

 セイバーが纏う魔力が消え、それを狙ったようにキャスニキの灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)が襲い掛かった。けど、流石は最優のセイバー。炎の巨人の攻撃をも耐え切ったが、それを予期していたかの如くマスターの指示は続いていた。

 

「ラフム! 即撃(Quick)!」

 

(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!

 という感じでラフムはオルタちゃんへと爪を振り下ろす。

 

「キャスター! 技撃(Arts)

 

 キャスニキが魔力の弾を打ち出す。

 

「マシュ! 強撃(Buster)!」

「了解しました、マイマスター」

 

『これで倒れて!』という掛け声と共にマシュが盾でオルタちゃんへとタックルする。

 マシュの攻撃で地面に転がされたオルタちゃんだったが、何ともないように立ち上がる。けど、その体は黄金色の粒子へと変わっていっていた。なんて我慢強い方だ。

 

「フ……知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に(かぶ)いたあげく敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるという事か」

「あ? どういう意味だそりゃあ。テメェ、何を知っていやがる!」

「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー。聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」

 

 そう言い残してオルタちゃんの体は光の粒子となって消えた。

 

「オイ待て、それはどういう……おぉお!?」

 

 そして、それはキャスターも同じ。

 

「やべえ、ここで強制帰還かよ!?」

 

 彼の体も金色に光り消えていく。

 

「チッ、納得いかねえがしょうがねえ! 坊主、あとは任せたぜ! 次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ!」

 

 いい笑顔を最後に浮かべてキャスターも消えた。

 

「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。……わたしたちの勝利、なのでしょうか?」

「ああ、よくやってくれたマシュ、藤丸くん! 所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長は?」

 

 後ろでブツブツ呟いていた所長にマスターが声を掛ける。

 

「所長?」

「え? そ、そうね。よくやったわ、藤丸、マシュ。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。まず、あの水晶体を回収しましょう。セイバーが異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因は、どう見てもアレのようだし」

「はい、至急回収……な!?」

 

 水晶体を回収しようと足を踏み出したマシュだったが、突然、足を止めて上を見上げる。それは、オルタちゃんが始めに立っていた場所と同じ場所。

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者。まったく見込みのない子どもだからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

 緑色の服に身を包み、柔和な微笑みを浮かべた男がそこに立っていた。

 

 

 

 -ON-

 

 一目で藤丸は理解した。アレはヤバイと。

 燃える冬木の街を進み、目的地である変動座標点0号──自然にできた洞窟に人の手が加えられているホール──についた藤丸たちを待っていたのは“見慣れない景色”であった。

 洞窟の中心にクレーターがある。普通ならあり得ない光景だ。クレーターができるのは、活火山が噴火して山の上の部分が吹き飛ばされる、または、(そら)から隕石が落ちてくるなどの非常に大きなエネルギーが動く場合のみである。

 2004年の冬木に、そのような大きなエネルギーが発生することなどは聞いたことがない。

 

 とはいえ、それはあくまで常識の範囲内、藤丸の知り得る知識の範囲内だ。

 だが、オルガマリーは違う。彼女は知っている。非常に大きなエネルギーを、2004年の、冬木で、扱う儀式があったということを彼女は知っている。

 

 “聖杯戦争”

 

 オルガマリーの喉が鳴る音が洞窟の中に響いた。

 

「これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない……なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……」

 

 呆然と呟く彼女に答えるように藤丸のウェアラブル端末から音がした。Dr.ロマンからの通信だ。

 

「資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない人造人間(ホムンクルス)だけで構成された一族のようですが」

「悪いな、お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたぜ」

「!?」

 

 キャスターの声に慌ててオルガマリーは前方へと目を凝らす。

 地面から盛り上がり、まるで小山のように円状に開いたクレーターからは魔力が立ち昇っている。その魔力が放つ光をバックに人影が立っていた。逆光でその表情はよく見えない。しかしながら、その吹き出す魔力を背にした人影が醸す迫力は正しく超常のものであった。

 その人影の目が黄金色に怪しく光る。

 

「なんて魔力放出。あれが、本当にあのアーサー王なのですか?」

 

 キャスターから聞いた情報では、ここで待ち構える者は、あのアーサー王。英雄譚と言えば、アーサー王と円卓の騎士のことを思い浮かべることが多いだろう。しかしながら、藤丸たちの前に立つアーサー王は伝承とは違っていた。汚染されたような黒い鎧。その上……。

 

「間違いない。何か変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男子じゃないと王座にはつけないだろ? お家事情で男のフリをさせられてたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんと趣味が悪い」

「え……?」

 

 アーサー王は女だった。いや、少女と言ってもいい風貌である。もちろん、彼女が引き抜いた聖剣の影響から歳を取らない上に聖杯に呼ばれたサーヴァントであるならば、全盛期の肉体で召喚されることが多い。精神年齢で言えば、彼女がカムランの丘で没した時のものだと推察できる。

 精神は乱世を駆け抜けた王。そうは言っても“王”という責務に押しつぶされそうな華奢な体躯である。

 

「あ、ホントです。女性なんですね、あの方。男性かと思いました」

 

 だが、醸す雰囲気が騎士王の姿を大きく見せている。その佇まいは野獣とも言えそうだ。

 そして、そのことを相対したキャスターは十二分に理解していた。

 

「見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」

「ロケットの擬人化のようなものですね。……理解しました。全力で応戦します」

「おう。奴を倒せば、この街の異変は消える。いいか、それはオレも奴も例外じゃない。その後はお前さんたちの仕事だ。何が起こるかわからんが、できる範囲でしっかりやんな」

 

 と、こちらを見つめたまま動かなかった黒い騎士王の口が動いた。

 

「ほう……面白いサーヴァントがいるな」

「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

「ああ、何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが……面白い。その宝具は面白い」

 

 こちらを威圧するかのような緩慢な動きでアーサー王が剣を構えた。それだけだった。しかし、場に与える影響は絶大だ。息をすることすらも許されないほどの緊張感が藤丸たちを襲う。

 戦闘態勢へと移った騎士王を見たマシュが慌てて盾を構え直す。冷や汗を流すマシュをどこか懐かしそうに眺めた騎士王は竜の息吹の如き魔力放出をやや抑えた。

 

「構えるがいい、名も知れぬ娘。まずはお前からだ。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう! そして、その後は……貴様だ、化物」

 

 マシュに向けていた厳しくも優し気な雰囲気を一転させ、敵に向けるものと変えた騎士王は鋭い目付きでラフムを見つめる。そこには一切の慈悲もなかった。従者(アーチャー)を屠った者へと向ける怒りの感情が入った視線ではない。それは義務感、使命感という感情から来る視線だ。

 世界のため、人類のため騎士王は聖剣を持つ手に力を籠める。

 

「化物。貴様は……貴様だけは生きては返さん」

「ラフムが何をしたって言うんだ!」

 

 藤丸立香という人間は自分の従者(ラフム)へと謂れのない感情を向けられて黙っていられるような人間ではなかった。

 

「ソレは廃さなくてはならないものだ」

「え?」

 

 声を大にして騎士王へと食って掛かる藤丸だったが、冷静な騎士王の声に藤丸は面食らう。それは騎士王の性質が伝承とは違っていたとしても、彼女の判断には合理性があるのだと藤丸に思わず考えされるような声色だった。

 

「カルデアのマスターよ。貴様の隣のソレは人類と共にはあってはならないものだ。いや、この世にあってはならないものだ」

 

 しかし、藤丸も引くことはできない。なぜなら、自分たちの窮地を救ってくれた友の命が狙われているのだ。マスターとしてではない。ラフムの友だと自負している藤丸にとって、今の状況は見過ごせる訳がなかった。

 

「でも……ラフムはいい奴だ! こんな見た目だけど、オレたちを守ってくれた。今もこうやって──」

「それが何の保証になる? 断言しよう。ソレはピクト人と同様に排除しなければならない……“敵”だ」

 

 そうであるから、藤丸は必死に騎士王を説得しようとしたのだ。だが、それは無意味に終わった。そもそも、キャメロットで一癖も二癖もある騎士たちを纏め上げた騎士王にとって、藤丸の感情論が先だった説得など児戯に等しい。彼女を納得させるには完璧な理論で以てラフムが無害であることを証明しなければならなかった。

 たった数度、藤丸たちを救ったからと言って、それがラフムを信頼できる保証にはならない。初めは信用させ、信頼させ、依存させ、そして、最後に取返しのつかない状況に陥れた所で裏切る。そのような話が古今東西にあるのだから。

 

 だが、それは違うというようにラフムは首を振った。

 

 ──自分は人類の敵じゃない。

 

 言葉にせずとも解る。その通りだ。何をオレは迷っていたんだ?

 

「ラフム……そうだよな」

「^?」

「セイバー、オレはラフムを信じる! ラフムは『自分は人類の敵じゃない』って首を振ってくれた。お前の言うことは間違っている!」

「マスターの言う通りです。見た目で判断するような方にはラフムさんのことは何一つ分かりません!」

 

 力強く宣言する藤丸とマシュ。

 二人に続いて──渋々といった様子ではあるが──キャスターも頷いた。

 

「……まあ、なんだ。一応、オレは坊主のサーヴァントとしてやってるから、坊主の方針には従う」

 

 と、藤丸はオルガマリーへと顔を向ける。

 

「所長! 所長も言ってやってください!」

「へ? え? 私?」

「はい! 所長です!」

 

 藤丸に続いてマシュもオルガマリーへと振り返りながら言葉を掛ける。

 彼らの言葉で退けなくなったのだろう。心底、嫌そうな顔をしながら、オルガマリーも口を開いた。

 

「えっと……その……えーっと……そう! 人理を守る意志がサーヴァントにないと召喚されないからコイツは大丈夫! ……だと思う」

 

 一度、目を閉じた騎士王はゆっくりと、その瞼を持ち上げる。

 

「話は平行線を辿る、か。なら、問答は終わりだ」

 

 剣を腰に構え直した騎士王の体から黒い魔力が放出された。

 

「来ます……マスター!」

「ああ、一緒に戦おう!」

「はい! マシュ・キリエライト、出撃します!」

 

 マシュが一歩前に出て盾を構える。それと騎士王が剣を振るのは同時だった。

 

「エクスカリバー・モルガァアアアン!」

「マシュ! 宝具を!」

「了解しました! 宝具展開します!」

 

 マシュの前に巨大な魔法陣が描かれる。

 

「あぁああああ!」

 

 洞窟の中にマシュの声が響く。常人、いや、サーヴァントであっても正面から騎士王の宝具を受けて耐えられる者はほぼいない。だからこそ、アーサー王は常勝の王と讃えられたのだから。

 

「耐えた……か」

 

 しかし、マシュの展開した宝具は騎士王の宝具を正面から受けたにも関わらず、その威力を完全に押し留めた。だが、マシュの疲労は相当のもの。

 だからこそ、藤丸は“信頼できる”自身のサーヴァントへと指示を下すのであった。

 

「ラフム! ケタケタ笑い!」

「:q:q:q!」

「キャスター! 宝具使用!」

「応ッ! 灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

「くっ……」

 

 セイバーが纏う魔力が消え、それを狙ったようにキャスターの宝具灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)が襲い掛かった。だが、先のランサー以上に騎士王の対魔力は高かったようだ。

 炎の巨人の攻撃をも耐え切ったが、それを予期していたかの如く藤丸の指示は続いていた。

 

「ラフム! 即撃(Quick)!」

「キャスター! 技撃(Arts)

 

 そして、藤丸は最後の指示を隣にいた少女へと下した。

 

「マシュ! 強撃(Buster)!」

「了解しました、マイマスター」

 

『これで倒れて!』という掛け声と共にマシュが突撃する。騎士王の右手が微かに動いた。そして、その動きは指揮官である藤丸、そして、歴戦の猛者であるキャスターの死角。マシュの盾に阻まれて彼らには見えない位置だ。

 

 ──未熟だな。

 

 だが、騎士王は迎撃の準備を整えていながらも騎士王の体はそれ以上、動くことはなかった。

 マシュの全力の攻撃が阻まれることなく騎士王へと当たる。受け身を取る事もなく、地面に転がされた騎士王だったが、何ともないように立ち上がった。

 

「……」

 

 だが、その体は黄金色の粒子へと解かれていく。自分の手を見て、敗北を悟ったのだろう。

 

「フ……知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に(かぶ)いたあげく敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるという事か」

「あ? どういう意味だそりゃあ。テメェ、何を知っていやがる!」

「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー。聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」

 

 そう言い残して騎士王の体は光の粒子となって消えた。

 

「オイ待て、それはどういう……おぉお!?」

 

 そして、それはキャスターも同じ。

 

「やべえ、ここで強制帰還かよ!?」

 

 彼の体も金色に光り消えていく。

 

「チッ、納得いかねえがしょうがねえ! 坊主、あとは任せたぜ! 次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ!」

 

 笑顔を最後に浮かべてキャスターも消えた。

 残されたのは藤丸と彼のサーヴァント、そして、オルガマリーのみ。

 

「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。……わたしたちの勝利、なのでしょうか?」

「ああ、よくやってくれたマシュ、藤丸くん! 所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長は?」

 

 後ろでブツブツ呟いていたオルガマリーへと藤丸が声を掛ける。

 

「所長?」

「え? そ、そうね。よくやったわ、藤丸、マシュ。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。まず、あの水晶体を回収しましょう。セイバーが異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因は、どう見てもアレのようだし」

「はい、至急回収……な!?」

 

 水晶体を回収しようと足を踏み出したマシュだったが、突然、足を止めて上を見上げる。それは、騎士王が始めに立っていた場所と同じ場所。

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者。まったく見込みのない子どもだからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

 緑色の服に身を包み、柔和な微笑みを浮かべた男がそこに立っていた。

 


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