ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件   作:クロム・ウェルハーツ

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9.光の御子

 -OFF-

 

 ギロリとラフムを睨むクーちゃんことクー・フーリン。むっちゃ怖い。

 

「あの……Mr.キャスター?」

「ああ、悪ィ……。コイツの鳴き声で、ちっとばかし苦手な奴のことを思い出しちまってな」

 

 マシュの声でクー・フーリン──今はキャスターのサーヴァントだ──は怒りを収めた。険しい顔を一転させたキャスターは笑みを浮かべる。

 

「オレはキャスターのサーヴァント。この冬木の聖杯戦争で呼ばれたサーヴァントだ」

 

 名乗られたならば、返さなくてはならない。ラフムが話すことのできる数少ない単語を口にする。

 

「LAHMU……」

「ラフム? あり得ないだろ、それ」

 

 ラフムの名を聞いたキャスターの顔がまた険しくなった。今度は嘘を吐いているんじゃないかとラフムを疑う顔だ。

 じっとラフムを見つめるキャスターにマスターが尋ねる。

 

「あり得ないって、どういうことですか?」

「あ? 坊主、自分のサーヴァントについても知らねえのかよ」

「先輩はカルデアに来て、すぐに冬木にレイシフトしています。ですので、世界各地、古今東西の英雄についての知識は学ぶ時間もありませんでした」

「ま、そうなら仕方ねえか」

 

 ラフムからマスターへと目線を移したキャスターはゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「ラフムっていやあ、バビロニア神話に出てくるモンだ」

「Mr.キャスターの言う通り、ラフムという存在はバビロニア神話の冒頭、父神アプスーと母神ティアマトから初めに産まれた神だと伝わっています」

「それが……どうしたの?」

 

 マスターが首を傾げる。

 

「あり得ないことなんだよ。事実が伝承と違っていたとしてもだ。そこんとこはオレよりもアンタの方が詳しいだろ?」

 

 キャスターがオルガマリーへと目を向ける。オルガマリーがキャスターの言葉を引き取るように口を開いた。

 

「神話で伝わっているラフムはこんな形じゃない。いえ、キャスターの言うように事実を伝承という形で曲げていたとしても神は召喚できない。それはカルデアの召喚システムでも、冬木のサーヴァント召喚でも共通することよ。まあ、例外はあるけど」

「例外?」

「神をダウンスケールさせて、サーヴァントとして運用すること」

「ハッ……神がそんなことを受け入れる輩とは思えねえけどな」

「でも、そうとしか考えられません。ラフムが人語を扱えないことも、そのことが原因だと推測できますし」

 

 そもそも、神というのは気まぐれで自分の力に絶対の自信を持つ存在だ。上下姉様のように始めから力を持っていないというのならともかく、ラフムの名前が来ているバビロニア神話の“ラフム”は原初の神の一柱。神を産み出すこともできる神だ。相当、位が高い神が“ラフム”だ。そんな神が自分の力を削って人間に使役されるなんてことは、まずあり得ないこと。

 まあ、ラフムの場合はバビロニア神話の“ラフム”とは違う存在なんですけどね。どちらかと言えば、エルキドゥに近い存在だ。エルキドゥがガンダムだとするとラフムはザク……いや、なんか違うけど大体のニュアンスで言えば、そんな感じ。

 

『とにかく』と頭を振ったオルガマリーは厳しい顔付きで今後の方針を固める。

 

「今すべきことはラフムの正体よりも、大聖杯を手に入れること。バーサーカーは近寄らなければ大丈夫なのよね?」

「ああ。奴の通り道に出ない限りは大丈夫だ」

「なら、急ぎましょう。時間を掛ければ掛けるほど、こちらの体力は削られていく状況。この子もきつそうですし」

「フォーウ……」

 

 お、どこに居たのやら、フォウくんがオルガマリーに抱えあげられていた。ぐでんとしたフォウくんは力なく鳴く。燃えている都市はふわもこの体は辛いのだろう。そんなフォウくん、そうオルガマリーに抱えあげられたフォウくんを見つめながらラフムは思う。

 ……どうせなら、ラフムよりもフォウくんに転生してマシュやぐだ子の胸元に潜り込みたかった。現実は隣にぐだ男しかいないけど。現実です……! これが現実……!

 畜生が、喰うぞ。HPとATKの底上げをしちゃうぞ。

 

 気持ちを切り替えて、息を大きく吐く。

 

 気を取り直して情報を整理するとしよう。

 この話の進みよう。ラフムがアーチャーと戦っている内に、キャスターが冬木の聖杯戦争について説明していたんだろう。大聖杯やバーサーカーについてまで話が進んでいる。ちなみに、0章クリア後、すぐにバーサーカーに凸って返り討ちにされたのは、この私ですwww

 復刻ネロ祭のバーサーカー以上の絶望を感じたね、あれは。あの時は邪ンヌもいなかったし。

 

 バーサーカーについての説明、そして、大聖杯についての説明があった。

 ということは既にマシュはクー・フーリンにセクハラされ済みか。

 しまった。会った瞬間、マシュにセクハラをしておけばよかった。一番始めにマシュをマシュマシュしたかった。けど、ラフムには所長がいる。所長は冬木でお別れだし、ここでしかセクハラができない。つまり、所長の方が優先度は高い。一番槍は後輩(ディルムッド)の仕事でしょう? ディルムッドなら土下座したら快く一番始めにマシュをマシュマシュすることを許してくれそうなのに。

 光の御子め、令呪を以って命じる自害せよ。令呪ないけど。

 

 がっくりと肩を落としたその時、ラフムの頭に天啓が舞い降りた。

 逆だ、逆に考えよう。

 

 クー・フーリンにセクハラをすればいいのではないか?

 

 突如、舞い降りた名案。そうと決まれば、即、実行だ。アニメで上を脱いでくれたから、取り敢えず、下を脱がしてクーちゃんのクーちゃんをボロンさせよう。

 そう思って、キャスターの後ろに立つ。と、肩口からこちらを睨みつけるようにキャスターの赤い目が輝いた。

 

「ほお……オレを試したいってことか?」

 

 犬歯を剥き出して笑うキャスター。

 

「乗ってやるよ。ただし、後悔すんなよ!」

 

 狂犬じゃん。怖い。

 何か話が食い違っている……というか、完全に勘違いされているけど、弁解のための言葉をラフムは話せない訳で。

 

「ちょっと待った! 仲間同士で争うのはダメだ!」

「先輩の言う通りです。今は……」

「うるせえ!」

 

 マスターかマシュに助けを求める前にマスターが助け舟を出してくれた。けど、キャスターの言葉の一撃であっという間に助け船が沈む。ラフムの体みたいに泥で出来た船だったのかもしれない。

 

「コイツの気持ちが分からねえなら、黙っとけ!」

 

 ラフムの気持ちは二人と一緒なのに。戦いはダメ。痛いのは嫌い。

 

「それに、気づいているか? コイツがオレと戦おうとしたのも、坊主。お前さんのためだ」

「オレ……の?」

「ああ。お前さんを護るに足る実力がオレにあるかどうかテストしたいんだろうさ。全く……見た目とは違って、いい奴じゃねえか」

 

 すまない……。

 実はパンツ降ろそうとしていただけで、本当にすまない。

 

 むっちゃ褒められて居心地が悪い中、キャスターが杖を構える。槍の構えっぽいけど、ラフムは優しいから特に何も言わないでおく。流石はケルト式。

 

「坊主に嬢ちゃん。そこに突っ立ったままでいいのか?」

「え?」

「オレは全力でコイツを殺すぞ」

「!?」

「失いたくねえなら、しっかり守ってやんな」

「ッ! マシュ! 頼む!」

「了解しました!」

 

 マシュがラフムの前に出た瞬間、キャスターの声が響いた。

 

「アンサズ!」

 

 マシュの盾に何度も火の玉が当たる。が、マシュの盾はそれを通さない。

 タイミングを計って、ラフムはマシュの盾の後ろから走り出す。狙いはキャスター。取り敢えず、ラリアットをして意識を奪おうとジグザグに走り出す。

 大きく左右に走って魔術による攻撃を避けたからか、キャスターは攻撃を一旦、止めて杖を持つ手に力を入れているのが見えた。真っ向勝負をしようという腹積もりだろう。

 

「ラフム! 止まれ!」

 

 全ての腕を地面に刺して体を無理矢理止める。マスターの指示には従うのがサーヴァントだ。令呪を使ってないから強制力はないから自分で自分を止めるしかない。

 

 しかし、なぜ、マスターはラフムを止めたのだろう。

 と、地面が薄く光っているのに気が付いた。なるほどね、地面にルーンを刻んで地雷のようにしたんだね、分かるとも!

 マシュが火の魔術(アンサズ)を防いだ一瞬の隙で、更に魔術を仕込むなんて流石はクー・フーリン。

 

「ラフム! 上から攻めろ!」

 

 マスターの言う通り、跳び上がってキャスターへと迫る。

 Accel Zero OrderのCMで出てきた切嗣のようにキャスターへと上から襲い掛かるが、キャスターの杖でラフムの四本の腕による渾身の一撃は軽く受け止められた。

 蟹ばさみにしとけば良かった。三條な●み監督の絵コンテならば、間違いなく蟹ばさみをしただろう。アライグマくん的に。

 

「アーチャーとの戦いがなけりゃ、もちっといい勝負ができたかもな」

 

 キャスターの冷たい顔とは裏腹に杖が熱を持ち始める。

 

「これで倒れて!」

 

 ナイス、マシュ!

 マシュがキャスターの隙をついて、盾を振るう。キャスターはそれを軽々躱すが、同時にラフムからも距離を置いた。

 地面に降りたラフムは、すかさず、マシュの腰に腕を回して全速力でその場から離れる。と、大きな火柱が背後から上がった。キャスターが仕込んでいたルーンから火が上がったのだろう。

 

 アスファルト(アストルフォではない)を削りながら、戦闘が始まった時と同じ場所に戻る。けど、それはダメな選択だった。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社──倒壊するはウィッカーマン! オラ、善悪問わず土に還りな!」

「あ……」

 

 マシュが呆然と呟く。

 先程のラフムにとって全力の攻防はキャスターにとって、ただの時間稼ぎ(NP溜め)だったのだろう。

 目の前に顕現したのは木の枠組みで作られた巨大な人型。ちなみに、この人型をウィッカーマンと呼び、それはケルトのドルイド──大雑把にいうと魔術師──が行う儀式に使われる。このウィッカーマンの中に人間を閉じ込めて火を点けるという儀式だ。

 ジャンヌも真っ青な儀式をやるとは、流石はケルト。スーパービッチ(メイヴ)を産み出した民族は一味も二味も違う。

 

 ちなみに、この灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)という宝具の種別は対軍宝具。ちょっと避けられないレベルで攻撃範囲が広い。

 

「MASH……6,t@e」

「ラフムさん……了解しました!」

 

 こんな時は、私のかわいいナスビちゃんに頼るに限る。

 

「あああああ!」

 

 マシュが叫びながら盾を地面に打ち付けた瞬間、盾の前に巨大な魔法陣が浮き上がった。

 

 仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)

 

 絶対的な防御を誇るマシュの宝具だ。そうは言っても、FGO内では無敵や回避を味方全員に与えはしない。味方全体の防御力を3ターン上昇&ダメージカット状態を3ターン付与という今一パッとしない性能。進化しても自身以外の味方の攻撃力を上昇が追加されるぐらいなもの。

 まあ、獅子王の無敵貫通相手にはマシュの宝具が他の防御系スキルに比べれば使えるものの、ラフムは高貴な家だったので、バーサーカー+石コンテでぶっ飛ばすことができた。『バーサーカーは最強なんだから』が金平糖を齧ればできるし、ロ……FGOは最高だぜ。

 

「あああああ!」

 

 マシュが叫びながら灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)を防ぐ様子を横目に、ラフムは考える。

 それにしても、スキップされないな。周回前提のゲームシステムを作るなら効率重視でスキップに加えてオートバトル機能までつけて欲しいものだ。骨集めで親の顔以上にスケルトンは見ているし。

 256回ぐらいタッチしたらスキップされるかもしれないと思いついてマシュの頭を撫でる。

 

「ラフムさん……」

 

 安心したような顔をするマシュ。無垢な瞳だ。

 これからタッチされる場所が変えられるということを想像もしていないマシュに世間の厳しさを教えてあげようとした瞬間、目の前の炎が掻き消えた。

 

「宝具が使えねえって言ってた割には、やれば出来るじゃねえか、嬢ちゃん。それに、坊主もオレの魔術をよく見抜いた。……で、どうよ? オレの力は?」

 

 自信有り気にラフムを見るキャスターだ。

 FGOをしていた時からキャスターの力は十二分に知っている。言うことがないほどに強いレアリティ詐欺だということを知っている。強いて言えば、ストーリー召喚からしか排出されないのを直してくれたら最高。

 

 そんな意思を籠めてニッコリと笑いかける。

 

「お、おう……。なあ、坊主?」

 

 が、キャスターは引き攣った顔でマスターを呼んだ。

 

「はい」

「コイツの今の表情って笑顔でいいんだよな」

「当たり前じゃないですか」

「コイツの表情を読み取れるのは当たり前じゃねえよ!」

 

(´・ω・`)

 

 

 

 -ON-

 

 猛犬のような雰囲気を醸し出し、キャスターはラフムを睨む。並みの人間ならば、卒倒してもおかしくはない。しかし、キャスターが睨む相手は並みの人間ではない。サーヴァント、つまりは英霊である。人の範疇には入らない者だ。容が人とはかけ離れたモノだ。体型という形はもちろん、魂の容さえも異なるモノ。

 それはいつもと変わらない表情──縦に割けた口を開け、まるで嗤うかのような表情だ──でキャスターを見つめる。

 

「あの……Mr.キャスター?」

「ああ、悪ィ……。コイツの鳴き声で、ちっとばかし苦手な奴のことを思い出しちまってな」

 

 おずおずと話しかけたマシュの声でキャスター──光の御子、クー・フーリン──は怒りを収めた。険しい顔を一転させたキャスターは笑みを浮かべる。

 

「オレはキャスターのサーヴァント。この冬木の聖杯戦争で呼ばれたサーヴァントだ」

 

 そう自己紹介したキャスターへ自分も言葉を返そうと口を開きかけた藤丸を止めたのは、何とも奇妙な音だ。この世のものとは思えない……何と表現していいか分からない音である。自分の後ろから聞こえたことで藤丸はその音がラフムの声だったことに気が付いた。

 

「LAHMU……」

「ラフム? あり得ないだろ、それ」

 

 しかしながら、煩雑な音の中、微かに、そして、確かに聞き取る事のできる人語があった。どうやら、ラフムは人語を語ることが難しいものの、簡単な単語であれば、話すことが可能らしい。ラフムが自らの名を名乗ったことから考えるとキャスターの名乗りに対してラフムも名乗り返したという所か。

 

 と、“ラフム”という名を聞いたキャスターの顔が再び険しくなった。

 

 ──嘘を吐いている。

 

 キャスターの表情は彼の心情を端的に表すものだ。元々、彼のサッパリとした性格上、自分の感情を完全に隠すということは特殊な事情がなければ行わない。

 じっと品定めをするように自分のサーヴァント(ラフム)を見つめるキャスターにおずおずと藤丸が尋ねる。

 

「あり得ないって、どういうことですか?」

「あ? 坊主、自分のサーヴァントについても知らねえのかよ」

「先輩はカルデアに来て、すぐに冬木にレイシフトしています。ですので、世界各地、古今東西の英雄についての知識は学ぶ時間もありませんでした」

「ま、そうなら仕方ねえか」

 

 マシュの言葉で藤丸の知識のなさに納得したキャスターは顎を擦りながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「ラフムっていやあ、バビロニア神話に出てくるモンだ」

「Mr.キャスターの言う通り、ラフムという存在はバビロニア神話の冒頭、父神アプスーと母神ティアマトから初めに産まれた神だと伝わっています」

「それが……どうしたの?」

 

 キャスターとマシュがお互いに理解している状況。それに置いて行かれた藤丸は首を傾げる。

 

「あり得ないことなんだよ。事実が伝承と違っていたとしてもだ。そこんとこはオレよりもアンタの方が詳しいだろ?」

 

 キャスターがオルガマリーへと目を向ける。オルガマリーがキャスターの言葉を引き取るように口を開いた。

 

「神話で伝わっているラフムはこんな形じゃない。いえ、キャスターの言うように事実を伝承という形で曲げていたとしても神は召喚できない。それはカルデアの召喚システムでも、冬木のサーヴァント召喚でも共通することよ。まあ、例外はあるけど」

「例外?」

「その神が元々弱い権能を持たないという場合。又は神をダウンスケールさせて、サーヴァントとして運用すること」

「ハッ……神がそんなことを受け入れる輩とは思えねえけどな」

「でも、そうとしか考えられません。ラフムが人語を扱えないことも、そのことが原因だと推測できますし」

 

 そもそも、神というのは気まぐれで自分の力に絶対の自信を持つ存在だ。バビロニア神話の“ラフム”は原初の神の一柱。神を産み出すこともできる神。神の中でも上位の存在だと現代にまで伝っている。

 そして、そのような神が自分の力を削って人間に使役されることは有り得ない。

 

『とにかく』と頭を振ったオルガマリーは厳しい顔付きで今後の方針を固める。

 

「今すべきことはラフムの正体よりも、大聖杯を手に入れること。バーサーカーは近寄らなければ大丈夫なのよね?」

「ああ。奴の通り道に出ない限りは大丈夫だ」

「なら、急ぎましょう。時間を掛ければ掛けるほど、こちらの体力は削られていく状況。この子もきつそうですし」

「フォーウ……」

 

 オルガマリーはフォウを抱え上げる。もこもことした毛皮が体を包むフォウだ。火災現場の中心とも言える炎上都市では体温調整が難しいのだろう。

 オルガマリーに抱え上げられたフォウを見つめる藤丸とマシュの耳に微かな音が届いた。

 

 ラフムが大きく息を吐いた音だ。

 それとほぼ同時だ。キャスターの赤い目が突き刺すような視線に変わったのは。

 肩口からラフムを睨みつけながらキャスターは剣呑な雰囲気を醸し出す。それは戦闘に向かう英霊の所作だ。

 

『何故?』

 そう思い、藤丸がキャスターへと理由を尋ねようとした瞬間、キャスターが重々しく口を開いた。

 

「ほお……オレを試したいってことか?」

 

 犬歯を剥き出して笑うキャスター。

 

「乗ってやるよ。ただし、後悔すんなよ!」

 

 キャスターの雰囲気が一瞬にして変貌した。

 それまでの頼りがいのある兄のような雰囲気から戦場に立つ戦士としての雰囲気へと瞬時に変わったのだ。

 

「ちょっと待った! 仲間同士で争うのはダメだ!」

「先輩の言う通りです。今は……」

「うるせえ!」

 

 思わず声を上げた藤丸、そして、藤丸に追随するように口を開いたマシュはキャスターの一括で息を呑む。

 

「コイツの気持ちが分からねえなら、黙っとけ」

 

 キャスターの一言で二人は何も言えなくなった。

 ラフムが何を考えているのか分からないことが多くあった。もちろん、ラフムの奥の心は善なるものだと直感で藤丸とマシュは確信しているが、表面的な考えは非常に分かりづらい。今もそうだ。

 なぜ、キャスターへとラフムが溜息をついたのか二人は全く思い至らなかった。

 

 言葉を失った二人へとキャスターは言葉を続ける。

 

「それに、気づいているか? コイツがオレと戦おうとしたのも、坊主。お前さんのためだ」

「オレ……の?」

「ああ。お前さんを護るに足る実力がオレにあるかどうかテストしたいんだろうさ。全く……見た目とは違って、いい奴じゃねえか」

 

 犬歯を見せて笑うキャスターの様子に安心したのだろう。

 

「坊主に嬢ちゃん。そこに突っ立ったままでいいのか?」

「え?」

「オレは全力でコイツを殺すぞ」

「!?」

 

 背筋が冷える。

 そう、藤丸の前にいるのは歴史に名を遺した英雄、その一人。戦闘体勢に入ったクー・フーリンの前で茫洋とするなど本来は許されるべき行為ではない。クー・フーリンの優しさに甘えていたからこそ、今、息をすることを許されているということを藤丸はやっと気が付いた。

 

「失いたくねえなら、しっかり守ってやんな」

「ッ! マシュ! 頼む!」

「了解しました!」

 

 マシュがラフムの前に出た瞬間、キャスターの声が響いた。

 

「アンサズ!」

 

 マシュの盾に何度も火の玉が当たる。が、マシュの盾はそれを通さない。

 タイミングを計っていたのか、ラフムは一息置いてマシュの盾の後ろから走り出す。狙いを定まらせないようにとラフムは左右に大きくジグザグに走り出す。

 自身の魔術による攻撃が防がれたからか、キャスターは杖を持つ手に力を入れている。そして、キャスターの様子に注目し彼の一挙手一投足を見逃さないようにしている非凡な戦闘の才を持つ者ならば、キャスターの次の攻撃は防ぐことが出来なかっただろう。

 

 ──あれは……!?

 

 しかし、藤丸は非凡な才は持たない平凡な人間だ。

 キャスターが杖を持つ手に力を入れていることに気付くことはなかったし、ラフムの動きを見切れる動体視力もなかった。

 

 だからこそ、気づけた。

 キャスターの前の地面に刻まれたルーンが光っていることに。

 

「ラフム! 止まれ!」

 

 藤丸の指示は適切であった。もし、そのままラフムがキャスターへと向かっていたならば、その場でラフムは地面から湧き上がる火によって焼かれていただろう。

 そして、ラフムの行動は速かった。藤丸の指示にラフムが従順に従う様子を見て、キャスターは目を細める。

 

 ──コイツらだったら……きっと……。

 

 キャスターの思考は一瞬だけであったが、眼前の戦場から離れてしまった。その隙を突くという思考は藤丸にはない。いや、それどころか、藤丸はキャスターの僅かな変化に気付くことができない程に戦闘に対しては素人であった。

 

「ラフム! 上から攻めろ!」

 

 しかしながら、全力でラフムへと指示を出す藤丸が出した答えは最適解を示すのものだった。

 

 打てば響くというように、藤丸の指示に従ったラフムは跳び上がってキャスターへと迫る。

 だが、寸前での急停止が仇となった。助走による攻撃力の向上を諦めざるを得ない状況。それは上に跳び上がり、重力加速度によって多少は賄われたものの、やはり足りない。

 キャスターの杖でラフムの四本の腕による渾身の一撃は軽く受け止められた。

 

「アーチャーとの戦いがなけりゃ、もちっといい勝負ができたかもな」

 

 キャスターの冷たい顔が光に照らされる。杖が熱を持ち始めた証拠だ。

 そこから今にもキャスターの火の魔術(アンサズ)が放たれようとした瞬間、横槍が入れられた。

 

「これで倒れて!」

 

 マシュがキャスターの隙をついて、盾を振るう。キャスターはそれを軽々躱すが、同時にラフムからも距離を置かざるを得なかった。

 その隙は大きく、藤丸の素人目からしても追撃のための絶好の好機。

 

 だが、ラフムはそうは捉えなかったらしい。

 地面に降りたラフムは、すかさず、マシュの腰に腕を回して抱え上げた後、その場から離れる。と、大きな火柱が先ほどまで彼らが居た場所から上がった。

 藤丸の背中に再び寒気が奔る。

 

 ──追撃の指示を出していたら……。

 

 キャスターが仕込んでいたルーンから火が上がったのだろう。任意のタイミングで地面に仕込んだ術式を開放できるということは、先のランサーとの戦いで理解できてもおかしくはなかったというのにと藤丸は自分の見通しの甘さに歯嚙みをする。

 昨日まで戦闘に触れる機会がない平和な日本で暮らしてきた藤丸に戦略眼を求めるのは酷である。だが、当の本人が心から欲している。ラフムへ……そして、マシュへ自分もマスターとしての責務を全うしなければならない。そのために、全力以上で頭を、そして、心を強く保たなければいけない。

 

 それがせめてもの彼ら(自分のサーヴァント)にできる唯一のこと。

 

 藤丸には落ち込んでいる時間はなかった。

 落ちかけた顔をキッと上げ、そして、藤丸の青く大きな目が見開かれた。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社──倒壊するはウィッカーマン! オラ、善悪問わず土に還りな!」

「あ……」

 

 藤丸と同じ気持ちだったのだろう。顕現した存在に茫然としたマシュが呟く。

 目の前に顕現したのは木の枠組みで作られた巨大な人型。藤丸の知識にはないことではあるが、この人型をウィッカーマンと呼び、それはケルトのドルイド──大雑把にいうと魔術師──が行う儀式に使われる。このウィッカーマンの中に人間を閉じ込めて火を点けるという儀式だ。

 

 その儀式を再現するかの如く、ウィッカーマンから煌々とした灯りが辺りを照らす。

 火達磨になった20mほどもあろうかという人型。それが独りでに動き、自分たちの方へと真っ直ぐ向かって来るのだ。

 逃げ出すべきだ。しかし、どうやって?

 藤丸が顔を向ける先には腰が抜けたように地面にへたり込むオルガマリーの姿。対軍宝具の開帳を目の当たりにした人間の反応としては彼女のそれは実に正しいものだった。

 自分を押し潰し焼き殺さんとする巨大な塊を見て、立ち向かうことができる者は英雄、又は反英雄などと呼ばれる人の枠から逸脱した者だけであろう。

 

 そう、英雄の力をその身に宿そうともマシュはまだ人間、小娘であった。ウィッカーマンに立ち向かえる勇気など、ほんの一片も持ち合わせていない。

 

「MASH……6,t@e」

 

 そのハズだった。

 

 ──お願い。

 

 そう、声が聞こえた気がした。

 その声は信じていた。誰を? 藤丸を。何を? 守れると。

 

 ……誰が? 自分が!

 

「ラフムさん……了解しました!」

 

 チラと守るべきもの(マスター)に視線を向けた後、マシュは戦うべきもの(ウィッカーマン)に向き直り、自身を鼓舞する。

 

「あああああ!」

 

 マシュが叫びながら盾を地面に打ち付けた瞬間、盾の前に巨大な魔法陣が浮き上がった。

 

 仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)

 

 ここに、彼女の宝具が未完成ながらも発現した。

 絶対的な防御を誇るマシュの宝具だ。

 

「あああああ!」

 

 マシュが叫びながら灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)を防ぐ。

 ラフムはマシュを信じているのだろう。彼女の隣から動くことはなかった。そっと腕を伸ばし、まるで壊れ物を扱うかの如く優しく彼女の頭を撫でるラフムの姿は慈愛に満ち溢れているかのように藤丸には見えたのだった。

 

「ラフムさん……」

 

 安心した顔をラフムへとマシュは向ける。

 これならば、キャスターの宝具を耐えられそうだとマシュは気を取り直す。先ほどまでの不安が嘘のように晴れ渡っていた。

 と、マシュの心の内のように目の前に広がる炎が一瞬にして消え失せる。

 

「宝具が使えねえって言ってた割には、やれば出来るじゃねえか、嬢ちゃん。それに、坊主もオレの魔術をよく見抜いた」

 

 炎が消えた向こうに立っていたキャスターが笑う。今度の笑みは快活な笑いだ。先ほどまでの獣然とした雰囲気はもうない。

 戦闘終了だと言外で告げたキャスターはマシュと藤丸に続いてラフムを見遣る。

 

「……で、どうよ? オレの力は?」

 

 キャスターは自信有り気にラフムを見る。

 そんなキャスターへとラフムは歯を剥き出しにして歯と歯を合わせる。

 

「お、おう……。なあ、坊主?」

 

 ──笑って……る……んだよ……な?

 

 今一、自分の考えに自信を持つことが出来なかったキャスターは引き攣った顔で藤丸を呼んだ。トコトコと近づく藤丸の肩を抱き寄せて、キャスターは藤丸へと小さい声で尋ねる。

 

「はい」

「コイツの今の表情って笑顔でいいんだよな」

「当たり前じゃないですか」

「コイツの表情を読み取れるのは当たり前じゃねえよ!」

 

 一転、大きな声を出したキャスターを寂しそうにラフムが見ていたと藤丸は後日、マシュから聞くのだった。


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