Phantom of Fate   作:不知火新夜

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1日目-8

(さっきライダーの攻撃を防御する事無く弾き飛ばした身体の頑丈さ、となればさっきのランサーの様に、コイツが通じる箇所はごく限られる。更にあの巨体に恥じない強烈な剣撃を、あれ程の素早さで繰り出して来る。そんなバーサーカーに対して互角に立ち回るセイバーも流石だし、ライダーも身体能力で不利と判断したのか、様子を伺いながらだけど隙を突く攻撃を繰り出している。2対1、それも一方は向こうと互角の身体能力を持ったセイバーが相手だ、優位は此方にある、けど…)

「ヤルナ、セイバー!」

「其方こそ、凄まじい強さだ…!」

 

遂に始まった聖杯戦争、その開幕早々に始まったセイバーとライダーの2人対バーサーカーの戦い、戦況は互角、いや一見すれば此方が有利と士郎は見ていた。

バーサーカーが繰り出す素早く強烈な剣撃の数々、それらは全て自らの眼前に立ちはだかるセイバーを切り捨てんと言わんばかりに降り注ぐも、当のセイバーもまたバーサーカーに引けを取らない剣撃でそれらを受け止め、或いはいなしながら反撃する。

おまけにその中で出来た隙を突いてライダーが短剣を投げつけ、弱点を探っているその状況は、確かに士郎達に分があると言っても良いだろう。

だが士郎は決して楽観していない、見た目には防戦気味なバーサーカー、だがまだバーサーカー本人からもマスターであるイリヤからも、余裕を持っている事が感じられたからだ。

 

(となれば…!)

「『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』…!」

 

自分が有効打を与え、セイバー達を援護するしかない。

そう瞬時に判断し、コンテンダーに装填されていた愛用の宝具、その真名を静かに告げ、撃鉄を起こし、バーサーカーに狙いを定める。

狙うは、ランサーのそれを貫いた時と同じ、眼球部分…!

 

「喰らえ!」

 

士郎が引き金を引いた事で放たれる魔弾、それはバーサーカーの眼球めがけて一直線に飛んでいく。

セイバー達と激戦を繰り広げていたバーサーカーがその存在に気付くも時すでに遅し、魔弾はバーサーカーの眼球を捉え、

 

「なっ!?」

「効カヌ!」

 

貫く事はおろか傷をつける事すら叶わず、弾かれた。

 

(馬鹿な、今の銃撃は『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』の名を解放した、正に宝具による攻撃、幾らサーヴァントで、耐久Aとはいえ、眼球に喰らって無傷で済む筈が…!)

「現代兵器を使った魔術師らしからぬ戦闘方法、其処までキリツグそっくりなんだ…!

でもそんな豆鉄砲、バーサーカーには通じないよ。何てったってバーサーカーはね、ヘラクレスなんだから」

「何!?」

「へ、ヘラクレスだと!?」

「ヘラクレスって、あの…!?」

「ヘラクレス!?まさか…!?」

 

その信じられない状況に驚きを隠せない士郎、そんな彼らに向かってイリヤはあろう事か、バーサーカーの真名をバラした。

聖杯戦争に参加するマスターにしては信じられない程の大ポカに、明かされた名に驚きを見せる士郎達、だがそれは大した問題ではないと言わんばかりのイリヤ、事実、その名を明かすデメリットなど無いも同然だった。

 

ヘラクレス。

ギリシャ神話に登場する英雄といえば?と聞かれてまず思い浮かぶのは彼、と言っても過言じゃない程の知名度を誇る大英雄。

オリンポスの主神ゼウスを父に持つ半人半神の存在で『十二の試練』で知られる冒険を始め、数多の怪物を打ち破った功績から、その生涯を終えた後は神となったと言われている。

その武勇伝は神話として広く知られ、後にヘラクレスオオカブトや同名のヒーロー等、高い戦闘能力を誇る存在にその名を冠せられる程にまでなった。

 

「まさか、ギリシャにその人ありと言われた英雄がバーサーカーとして立ちはだかるとは」

「左様、我ガ真ノ名ハ、ヘラクレス!数多ノ辛苦ヲ、越エシ我ガ身ニ、些細ナ攻撃等、通ジヌ!」

「そう、バーサーカーには並大抵の攻撃なんて通じないの。それこそ最上級の宝具を解放した攻撃でない限りはね」

「ま、マジかよ…!」

 

更に言えば、その『十二の試練』を始めとした様々な辛苦を乗り越えて来たヘラクレス、その最中に何かしらの呪いを掛けられたという失態も無かった事から、事実上突ける弱点も無い、という訳だ。

 

(今俺が持っている『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』の、宝具としてのランクはC。それを、眼球を捉えたのに弾き飛ばしたんだ、イリヤ達の言葉は本当だろう。となれば、これではどうにも相手にならない。セイバー達に宝具を使わせるか?いや、ランクが分からない以上、どっちに転ぶか予想も付かないし、仮に上手く行っても後で不利になりかねない。そしたら、やるしか無い!)

「桜、耳を貸してくれ」

「は、はい」

 

そんな衝撃の事実を知らされた士郎達、その中で士郎は考えた末に、桜に何か耳打ちをする。

 

「だ、大丈夫なんですか?相手はバーサーカー、それも今言った様な途轍もない相手なんですよ…!?」

「大丈夫かどうかは後だ。今は、効く事を信じて突っ込むだけだ!」

 

その内容に驚き、引き留めようとする桜を他所に、士郎は居合の構えを取り、

 

「セイバー、バックステップだ!」

「え!?あ、はい!」

 

前線で戦っていたセイバーに後退を指示しながら、バーサーカーへと踏み込む!

 

強化開始(トレース・オン)…!」

 

その一歩目、右脚を踏み込むと同時に、両脚に魔力を流し込む、するとその両脚に回路らしき物が顕現、脚力が強化され、

 

「ム?何ヲ企ンデ」

「足元注意だ!『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』!」

「ヌォ!?小癪ナ!」

 

士郎の指示通りにバックステップで後退したセイバーと、突っ込んで来る士郎の存在に気付いたバーサーカーが迎撃を仕掛けようとするのに対して、彼が踏んづけていた、先程弾かれた『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』の幻想を破壊、地雷の如き爆発へと変えてその態勢を崩し、

 

「『終結すべき業火の(レヴァンテイン・)』…!」

 

二歩目、左脚を踏み込むと共に、愛用している刀の名を告げると同時に鯉口を切る、その動作によって響き渡る甲高い音、次の瞬間には、鞘から覗く刀身から、余りの高熱によって朱く染まった熱風が周囲へ吹き荒れる…!

 

「『(シュトルム)』!」

 

そして三歩目、再度右脚を踏み込んだ瞬間、宝具としてのその力を解放しながら刀を抜き放ち、バーサーカーへと斬りつける!

すると、刀身が纏っていた朱い熱風は真紅の炎へと変わり、奔流となってバーサーカーへと殺到する…!

 

「ヌ!?グァァァァァァァ…!?」

「バーサーカー!?」

 

流石のバーサーカーもこれは耐えられ無い様で、殺到した炎の奔流によってその巨躯が焼かれ、消し炭と化し、やがて勢いに負けてぼろぼろと崩れて行き、

 

「やったか。どうやらAクラス以上の、宝具の名を解放して放つ攻撃なら通じた様だな。ふぅ…」

 

欠片も残さず吹き飛ばし、その命を消し去った。

その一部始終を見届けた士郎は、今しがた振りかざした刀――彼の宝具『終結すべき業火の(レヴァンテイン・)(シュトルム)』を、血振るいの動作と共に納刀した。

が、

 

「まさかバーサーカーが、サーヴァントじゃない相手に7回も(・・・)殺されるなんて…

でもまだ、勝負は終わっていないよ」

「な!?」

 

戦いはまだ終わってはいなかった。

消し炭となって散らばった筈のバーサーカー、だがその散った欠片達が1つ残らず、バーサーカーが立っていた場所へと集結していく。

 

「折角だから教えて上げるわ、バーサーカーの宝具を。バーサーカーの生前に幾度と無く降りかかった試練、それを潜り抜ける中で鍛え上げられた肉体その物が宝具なの。『十二の試練(ゴッド・ハンド)』、それがバーサーカーの宝具。12回殺すまでは例え今みたいに肉体が消し飛んでも蘇り、そしてその類稀な技能故に一度受けた攻撃は跳ねのける、決して屈する事のない無敵の力よ!」

「そ、そんなの有りか!?」

「12回もAランク以上の宝具をぶち込めってのか!?」

「あり得ない…!」

「信じられません…!」

 

そんな信じられない光景に驚愕を隠せない士郎達、そんな彼らにイリヤが告げたバーサーカーの宝具が持つ効果、それによって更なる驚きが広がる中でも、バーサーカーの肉体は再構築が進んで行く。

 

「ヤルナ。我ガ命、7モ殺ストハ」

「くっ!」

 

そして蘇ったバーサーカーの姿に、再び刀を構える士郎。

しかしイリヤの言葉が本当であれば、同じ攻撃は通じない、となればどう対処するか、士郎達に緊迫が走る…!

 

「其処までですよ、バーサーカーのマスター」

「な、きゃぁ!?」

「オ嬢様!?」

 

だが、その緊迫は破られた。

何時の間にか離脱していたライダーがイリヤに肉薄して抱きかかえ、腕と脚で身動きを封じながら短剣を突きつけた、彼女は人質だとバーサーカーに見せ付ける様に。

 

「今すぐに撤退しなさい、バーサーカー及びマスターよ。さもなくば…

言わずとも分かるでしょう。これは単なる脅しではありません」

「グヌヌ、卑怯ナ…!」

 

瞬時の動きでイリヤを人質にとったライダーは、撤退をバーサーカーに要求、出来ないならイリヤを殺すと見せつける様に脅迫を仕掛ける。

 

「バーサーカー、聞く事はな、い!?あぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!?」

「オ、オ嬢様!?マ、待テ!」

「脅しでは無い、そう言った筈です。次は首を一突きですよ?」

 

それを無視してバーサーカーに攻撃を指示しようとしたイリヤ、だがそれが最後まで告げられる事は無かった。

聞き入れる気が無いと見たライダーが即座に左手を動かし、イリヤの右腕に短剣を突き刺し、更に其処から縦横無尽に動かしてズタズタに引き裂いた事で、余りの痛さに苦悶の声を我慢できず、更には気絶したからだ。

 

「ワ、分カッタ!撤退シヨウ…!」

「物分かりが良くて助かります。彼女の事は頼みましたよ」

 

自らのマスターが命の危機に立たされている上に、それを切り抜ける為の礼呪行使も意識を失っている為に不可能とあっては選択の余地は無い、バーサーカーはライダーの要求に応じ、剣を下げ、殺気を引っ込ませ、ライダーからイリヤを受け取り、その場を後にした。

 

「少年。名ハ…?」

「え、俺?」

「左様」

 

去り際、バーサーカーは士郎に名を尋ねた。

尋ねられた士郎は一瞬、まさか自分とは思わなかったのもあって戸惑った様子を見せたが、

 

「士郎。衛宮士郎だ」

「士郎、カ…

人ノ身デアリナガラ、我ヲ7回モ、殺シテ見セタ戦士ヨ、マタ会オウ」

 

正直に答え、それを受け取ったバーサーカーは満足げに去って行った。


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