Phantom of Fate   作:不知火新夜

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1日目-6

桜から聖杯戦争に関する説明を受けて参加を決意した士郎、と此処で「そんな戦争が過去にあったとしたら、今起こっている怪事件の様な騒ぎになっていて、その存在が公になった筈。そうならなかったって事は、何処かしら秘密裏に取り締まる施設があるんじゃないか?」という疑問が浮かび、それを聞いてみた所『新都』の通称で知られる冬木市街地と、士郎達が住む深山町との境にある冬木教会がそれに当たると聞いた彼は、参加表明の為に向かう事にした。

が此処で、

 

「そういえば桜、どうやったらセイバーを、さっきのライダーみたいに霊体化させる事が出来るんだ?」

「それはですね」

「シロウ、それにサクラ。その件に関して、私から説明したい事があります」

 

流石にサーヴァントをそのまま連れて歩くのは物々しいだろう、と考えてセイバーを霊体化させようと考えた士郎、そのやり方を桜に聞いてみた所で、今まで静観を貫いていたセイバーが口を挟んで来た。

 

「まずマスターであるシロウとサーヴァントである私とは、令呪を通じた契約関係にありますが同時に、基本的にマスターはサーヴァントの魔力供給源にもなっております。よってこの魔力のラインを意図的に絶つ事でサーヴァントを霊体化させる事が出来ます。ところがシロウ、一つお伺いしますが、貴方の身体から魔力が流れ出ている感覚はありますでしょうか…?」

「あれ?そういえばそんな感じしない様な…

て事は、セイバーは…!?」

「いえ、私の身に魔力が流れ込んで来る感覚はあります。よって恐らくシロウが懸念しているであろう事態には至らない筈です。ただ、そのラインが…」

 

そのセイバーがサーヴァントの動力源である魔力供給のメカニズム(その序でに霊体化のやり方)を説明した際、士郎とそのラインが繋がっていない事を指摘された事で彼が、いずれセイバーが魔力切れに陥ってしまうのではないかと焦りを浮かべるも、幸いその様な事態には至らないと判明した。

とはいえ、士郎から魔力の流れを感じられないのは事実、ならばどこから供給されているのか、それを知らせるかの様にセイバーが指さしたのは…

 

「…天音?」

「はい、アマネから感じるのです、相当な量の、魔力の流れを…」

「私?そういえば、なんか身体から流れている様な…」

「マスターの役割を、分割したって事ですか…?」

「先程の宝具を作れるという言動もそうですが、士郎、あなた本当に何者なのですか…?」

「いや、俺だって何が何だか分からないんだが…

悪いな、天音。聖杯戦争に、巻き込む事になっちゃって…」

「構わない、私は士郎の妻、士郎を支える事が私のやりたい事だから…」

「そうだ士郎。俺も流石にサーヴァント相手には歯が立たんが、士郎の義弟として、全力を尽くす!」

 

天音だった。

令呪の所持を士郎、魔力の供給を天音、とマスターの役割を分割して受け持つという異例の事態に、驚きを隠せない士郎達。

だが彼らは知らない、士郎達の件は偶然の産物ではあるが、過去の聖杯戦争ではそれを意図的に成し遂げた魔術師がいた事を…

 

「ともかく、そしたら天音が魔力のラインをシャットアウトしたらセイバーは霊体化が出来るって事か」

「そうだと思うけど、おかしい…

さっきからラインをシャットアウトしているのに…」

「確かに先程から、アマネからの魔力の流れが断たれる感じがします。恐らく、マスターの役割を分割するというイレギュラーな契約によって、システムに少なからず影響が出た様ですね。霊体化は出来ないと考えて良いでしょう」

 

しかし、これによってセイバーの霊体化が無理だと発覚、

 

「そ、そうか…

仕方ない、セイバーもこのまま連れて行くしか無いか。けどこのままの格好じゃあな…

天音、セイバーが着られる服を見繕ってくれないか?」

「分かった。セイバー、こっち…」

 

よって着替えさせた上で連れて行くことになり、数分で天音とおそろいの格好(とはいえセイバーの方が幾分か小柄な為か、所々ぶかぶかであったが)をしたセイバーが戻って来たのを受けて、改めて出発となった。

 

「それじゃあ、桜は何時も通り零の後ろに、セイバーは俺の後ろに乗ってくれ。天音、御免な。悪いけど、1人乗りで来てくれ」

「大丈夫。その分は後で、ね…」

「おう。任せてくれ」

 

士郎はWR250Xの後部座席にセイバーを、零はWR250Rの後部座席に桜を乗せ、天音は、どんな場所でもどんな乗り方でも気軽に楽しめる『フリーライド・プレイバイク』の触れ込みでヤマハ発動機が市場に送り込んだバイク『トリッカー』に乗り込んだ。

 

「これがバイクですか。ふむ…」

「ん?どうしたんだセイバー?」

「いえ。バイクと聞いて、もう少し大型で無骨な物をイメージしていましたので」

「ま、まあ俺達まだ高校生で大型バイクには乗れないから、な」

 

出発する前にそんな意味深な会話があったが一先ずそれは置いて、5人を乗せた3台のバイクは屋敷を後にした…

 

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「此処が冬木教会か、何か違和感丸出しな所だな」

「だな、士郎。まあこんな欲望渦巻く戦争を裏で取り締まる奴等の根城だ、普通の教会な訳は無いか」

「中はドロッドロになっていそう…」

「あ、あはは、そんな事は無いと思いますよ…?

と、ともかく行きましょうか」

 

バイクでの数分の道程を経て、冬木教会に到着した士郎達、その一見すると綺麗だが何処か違和感を覚えるその佇まいに彼らが好き勝手なことを言いながらも、桜の先導で教会への道を進んだ(中立地帯という事で、セイバーとライダーは外で待機)。

 

「失礼する」

 

一言告げて教会へと入って行った士郎と、それに同行する零達、その内部は外観同様に綺麗な礼拝堂ではあったが、やはり士郎達にとって、何処か違和感を覚える物であった。

その奥にある祭壇、其処には黒い司祭服を纏った1人の男が、士郎達に背を向ける形で手を組みながら立っていた。

格好からしてこの教会の神父であろうその男は、入って来た士郎達に気付いたか、ゆっくりと振り向く。

 

「迷える子羊達よ、こんな夜分に何か用かな…?」

 

開口一番、入って来た士郎達に何用かを尋ねる神父、その声は見た目と同じく威厳に満ちた物だったが、その姿に士郎達はまたも違和感を覚えた、言うなれば、神聖な雰囲気を醸し出しながらも、どす黒い『何か』を持っている様な…

とはいえ今その事は重要じゃない。

 

「セイバーのマスター、衛宮士郎だ。此処が聖杯戦争を取り締まる施設だと聞いて、参加表明の為に此処に来た。アンタがその取り締まる存在か?」

 

士郎は左手に刻まれた礼呪を見せびらかしながら、そう告げた。

 

「成る程そうであったか、セイバーのマスターよ。如何にも私が今回、この第五次聖杯戦争の監督役となった言峰(ことみね)綺礼(きれい)だ。して、君の周りにいる者達は…?」

「俺の弟と妹だ。訳あってこの聖杯戦争に関わる事になったんだ、折角だから一緒に連れて来た」

「良いだろう。何か聖杯戦争に関して、分からない事、聞きたい事があれば答えよう」

「いや、特には無いな。零と天音、桜は?」

「俺も無いぜ」

「私も無い…」

「私もありません」

 

士郎が聖杯戦争に参加するマスターであると分かった神父――言峰は、士郎と一緒にいる零達に何処か気に留めた様子こそあったが、士郎の説明で直ぐに納得、質問を受け付けたが、事前に桜から大方の事を聞いていた彼らは、特に聞きたい事は無かった。

 

「そうか。では改めて、君をセイバーのマスターとして認めよう。これにより7人のマスターとサーヴァントは揃い、今回の聖杯戦争は受理された。

 

これよりマスターが最後の1人になるまで、この街における戦争を許可しよう。存分に殺し合いたまえ」

 

そして受理された士郎の参加表明、どうやら士郎が最後のマスターだったらしく、これによって聖杯戦争は開幕となった。

その宣言の宣言内容に、士郎は何処か渋い表情を見せたが、気にする事は無くその場を後にしようとした。

 

「喜べ、少年。君の願いは、ようやく叶う」

 

間際、言峰は士郎に向けてそう告げた。

 

「それは、俺の願いを聖杯が叶えてくれる、という意味か?」

「む?違うのかね?」

「それはアンタの勘違いだ。俺は、

 

 

 

聖杯戦争を終わらせる為に、終結させる為に戦う!」

 

それに対し士郎は、立ち止まりこそしたが、振り返る事無くそう言い放ち、教会を後にした。


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