Phantom of Fate   作:不知火新夜

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1日目-4

「問おう。貴方が私のマスターか」

「マスター…?

て事は、君が…」

 

青いドレスの上に鎧を身に纏った、金髪碧眼の、士郎達より少し年下くらいの少女が、あの呪文の様な言葉の果てに現れたという事態に、士郎は何処か夢うつつな様子であった。

そんな状態でふと見せた、左手の甲に刻まれた傷跡、それを見た少女は、それが答えだと確信した様子を見せた。

 

「令呪と貴方とのラインの繋がりを感知しました。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の命運は私と共にある。此処に、契約は完了しました。我がクラスはセイバー、此れより短い期間ではありますが、宜しくお願いします、マスター」

「な、ならセイバー!呼び出して早々で悪いけど、外にいる青ずくめの槍使いを、て、あれ?」

 

そんな少女、セイバーの言葉を聞いていて一先ず我に返った士郎は、今自分達が置かれている状況を思い出し、彼女に迎撃の指示を出そうとしたが、青ずくめの男の姿は既に庭にはいなかった。

 

「零、あの男はどうしたんだ?」

「悪い士郎、取り逃がした。こんな状況でサーヴァントと当たるのは分が悪いな、とか何とか言って」

「さーヴぁんと…?」

「マスター、彼らは?」

 

庭で迎撃していた零に尋ねると、どうやらセイバーが呼び出された事に己の不利を悟ったのだろう、既に撤退した後だった。

そんな会話を交わす士郎達、其処でこの場にいる士郎以外の2人の存在が気になったのか、セイバーが零と天音について士郎に聞いて来た。

 

「あー、セイバー?その、マスターって呼び方はちょっと…

俺は衛宮士郎。士郎って呼んでくれ。で、其処でデカい剣を持っているのが俺の弟の零、俺の側で銃を持っているのが俺の妹の天音だ。零に天音、彼女はセイバーだ」

「ああ。士郎の弟の、衛宮零だ。宜しくな、セイバー」

「士郎の妹で、妻の天音。宜しく、セイバー…」

「衛宮…?」

「ちょ、天音、初対面のセイバーにいきなりそういうのはって、セイバー?」

「いえ、お気になさらず。シロウに、ゼロに、アマネですね。分かりまし、新手か!」

 

セイバーの質問に士郎が答え、零や天音がそれに応じて自己紹介していた(その際に、天音が色んな意味でヤバい爆弾を投下していた)最中、セイバーが何かを感じ取ったのか、見た目からは信じられない程の跳躍力で屋敷の外壁を飛び越え、外へと飛び出していった。

その只ならぬセイバーの様子を見た士郎も、

 

「そうだ、あの赤い外套の男!アイツもこっちに追って来ているかもしれない!セイバーは恐らくソイツの気配を察知したんだ!俺達も急ごう、零、天音!」

「分かった、士郎!」

「うん、士郎…!」

 

学校で青ずくめの男と対峙していた赤い外套の男の存在を思い出し、追って来たのをセイバーが察知したであろうと推測を立て、零達と共にセイバーの援護に向かう。

だが、

 

「くっ!」

「ライダー!」

「あ、あれ…?」

「さ、桜?」

「桜に、後は誰だ?あれ、赤い外套の男はいない…」

 

其処にいたのは赤い外套の男でも、その側にいた見知った同級生でも無く、桜と、紫色の長髪にバイザーで両眼を覆った、ボディコン服を纏う大柄な女性であった。

何かの気配を察知して外へと飛び出していたセイバーは、姿かたちこそ見えないが何か剣らしき物をその女性に振りかざし、女性は釘の様な形状の短剣を2つ交差させてそれをガードしていた。

 

「はっ今はそれを気にしている場合じゃない!セイバー、剣をおろすんだ!」

「何を言うのです、シロウ。彼女達は敵だ、此処で仕留めるべきだ」

「桜は敵じゃない、俺達の家族なんだ!」

 

家族同然の存在、その知り合いであろう女性にセイバーが斬りかかるという状況に、慌てて士郎が止めに入ろうとする。

 

「そうでしたか。ですが我が眼前の彼女は違うでしょう、彼女はサーヴァントだ。隙を見て斬りかからんとも限らない」

「というかセイバー、そのサーヴァントって一体何なんだ?」

「「「へ?」」」

 

それでも尚、剣を収めないセイバーに対して投げ掛けられた士郎の疑問、それはセイバーや女性、そして桜をポカーンとさせた。

 

「あの、お義兄さん…?

もしかして、聖杯戦争とか、サーヴァントとかって聞いた事ありません?」

「いや、全く…

セイバーを召喚したのも、土蔵にあった書物を見ながらだったし…」

「そうでしたか…

分かりました、そしたら順を追って説明しますね。まあ、私も細かい所までは分かりませんが…

先輩もお義姉さんも、それでいいですか?」

 

その疑問に対応したのは桜、何個か上げた単語について士郎が知らないと見るや、説明を申し出て来た。

 

「あ、ああ。頼む、桜」

「助かる、桜。もう何が何だかって感じだったんだ」

「お願い…」

「はい。そしたらライダー、暫く霊体化させるね。セイバーさんを警戒させたままなのは良くないし」

「了解です、桜」

 

それに士郎達が快く応じたのを受けて、ライダーと呼ばれた女性はまるで幽霊の様に姿を消していった。

それを受けてセイバーは何処か戸惑った様子を見せたが、敵対者がいなくなったのを見て、やっと剣を下ろした。

 

「桜、今のは…?」

「それに関しても説明しますね。そしたら、此処じゃあれですし、中で話しましょう」

「わ、分かった。入ってくれ、皆」

 

そして、5人(+ライダー)は状況説明の為に屋敷へと戻って行った。

 

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「それにしても、今更ですが驚きです。先輩達も魔術師だったなんて…

この屋敷に張られている結界も今やっと気づけた位、精巧に出来ているし…」

 

さて桜達が屋敷に戻り、状況説明が始まろうとしている所であるが、先程から非現実的な単語が飛び交うのにツッコミを入れたくなるだろう、然しながらどれも彼らに、士郎達にとっては現実的に存在する物だ。

 

魔術。

簡単に言うと『魔力』と呼ばれるエネルギーを用いて人為的な神秘、奇跡を引き起こす為の技術である。

それによって引き起こされる神秘や奇跡には、例えば何処からともなく火を起こしたり、風を巻き起こしたりといった世間一般で魔術と呼ばれているイメージ通りの物や、物の強度を上げたり(先程士郎がコンテンダーで7.62×51mmNato弾を発射出来たのも、この恩恵である)等様々だがその全ては『現代の文明の力で再現できる物』と定義されており、再現出来ない程の神秘は『魔法』と呼ばれている。

その魔術を使う存在が魔術師、と此処まで聞くとそんな結論に辿り着くであろうが、厳密に言うとそれは正しくない、その中には魔術師と呼ばれず『魔術使い』と呼ばれる存在もいる。

それに関してはともかく、士郎も、零も、天音も、そして桜も、この魔術を扱う存在だという事、セイバーもライダーもその関係であるという事は頭に入れて置いて欲しい。

 

「まあ、とは言っても俺達を魔術師と呼ぶには、ちょっと語弊があるけどな。それはいいや、それより桜、そろそろ説明を頼む」

「はい、わかりました」

 

士郎達が魔術師だった事、彼らの家に張られた結界が物凄く精巧だった事に驚いていた桜に、士郎が説明を促し、状況説明は始まった…


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