Phantom of Fate   作:不知火新夜

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1日目-3

「零!天音!」

 

忘れ物を取りに学校へ戻って行った士郎が帰り際に青ずくめの男から襲撃を受けてから数分、WR250Xのエンジンをフル稼働させて屋敷へと戻った士郎は、大急ぎで自分の帰りを待っているであろう弟と妹に事態を伝えるべく、玄関の扉を勢いよく開けながら2人の名を叫ぶ。

 

「お、お帰り、士郎。一体どうしたんだ、そんな慌てた様子で?」

「どうしたの、士郎…?」

 

その只ならぬ士郎の様子が気になったのか、出迎えつつ訳を聞いて来た零と天音に、

 

「今すぐ武器庫に行って、其々の武装を持ってきてくれ!訳は向かいながら話す!」

「ぶ、武器庫だと!?成る程、余程切迫した状況って事か、分かった!」

「うん…!」

 

士郎はそう日本の、というか余程の豪邸でない限り何処の国でもまず聞かないであろう部屋へ同行して欲しい旨を告げつつその部屋へと急ぎ、かなりの危機的状況だと察した2人も士郎の言う通りにした。

 

「学校から帰ろうとした時、とんでも無い連中と出くわしたんだ。何か赤い槍を持った青ずくめの男と、双剣を持って赤い外套を身に着けた男が、校庭で決闘紛い、いや正しく決闘だと言える事をしていたんだが、その際に青ずくめの方に見つかって、襲撃を受けた。何とか追い払う事は出来たけど、直前まで気配を察知させずに背後に移動するわ、右眼から銃弾が直撃してもそれが貫通しない上にその状態で立っていられるわで、アイツらは人間の形をした化け物じゃねぇかと思ったよ、そういえば決闘での立ち回りもお互い余りに速くて、眼で追いきれなかったし…!」

「成る程、そりゃ只事じゃねぇな。もしかしたら此処最近この街で起こっている事件にも関係が…!?」

「もしかしたらまたその青ずくめ、若しくはソイツと戦っていた赤い外套の男が士郎をって事…!」

 

その最中に行われた士郎からの状況説明、普通に考えたら荒唐無稽だと一笑に付されてもおかしくない内容ではあるが、士郎の只ならぬ様子を察知した2人はそれを信じ、そして今後降りかかって来るであろう危険を理解した。

やがて士郎達がとある部屋に辿り着く、それは物置の様な場所であったが、

 

「よっと!」

 

部屋の中に置かれている洋服箪笥、その背広を立てかける部分を開き、奥の壁を一押しすると、その壁が後退したかと思ったらまるで自動ドアの様に横へと開き、其処から何処かへと繋がっている階段が広がった。

その階段を、慣れた様子で下って行く士郎達、それが終わると其処には、自動小銃、機関銃、狙撃銃、散弾銃、対物ライフル、拳銃、グレネードランチャーといった銃火器に軍用ナイフ…古今東西の軍隊で使われる武器や兵器が保管されている空間が、武器庫と呼ぶに相応しい空間が、日本はおろか世界中の政府に喧嘩売っていると言って良い空間が広がっていた。

その中から士郎は、ベルギーのFNハースタルがUSSOCOM(アメリカ特殊作戦軍)向けに開発したバトルライフル『FN SCAR-H』のLongモデルを、零は柄が捻れた様な形状の赤黒い大刀と、FNハースタルが半世紀以上も前に開発して以来各国の軍隊で愛用され続けている機関銃『FN MAG』を(何故か10kg余りあるMAGを片手で)、天音は2振りのサバイバルナイフと、FN SCAR-HのStandardモデルに専用グレネードランチャー『FN EGLM』を装着した物を装備し、来た道を引き返していった。

 

「多分奴等はこの街で何かとんでもない事を起こそうとしているのかも知れない、それが明るみに出ると不味いから、多分あの青ずくめの男は目撃者である俺を始末しようとしたんだと思う。そっちは『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』も使って倒したから来ないとは思う、けど赤い外套の方はまだ…!」

「口封じってか、そういう類の連中が考えそうな事だ。だが士郎を殺させやしない、士郎は俺が護る…!

来やがれ化け物、俺が完膚なきまでに潰してやる…!」

「目に物を見せて上げる…!」

 

各々の装備を整え、これから来るやも知れない敵に対処すべくスタンバイする3人、その間にも状況を整理したり、戦意を高めたりする等して準備を進めていく。

そして…!

 

「来たぞ!」

 

屋敷中に鳴り響く警報音、侵入者を知らせる音が耳に入ると同時に、3人は動き出す…!

 

「喰らいやがれ!」

 

士郎と天音が扉を開くと同時にスタンバイしていた零が、庭先に入って来た侵入者へと強襲を仕掛け、同時に士郎と天音が装備していたSCAR-Hを、

 

「「『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』!」」

 

その宣言と共に標的へと構えた、が、

 

「よぉ坊主、さっき振りだな。眼ん玉の借りを返しに来たぜ」

「な、お、お前は!?」

「士郎の驚き振り、そしてテメェの台詞と、その右眼の眼帯…

成る程、テメェが士郎を襲撃した青ずくめか、だがまさか生きていたとはな…!」

「なんて出鱈目な、本当に化け物…!」

 

その侵入者の姿に、士郎は驚愕した。

そう、今しがた零と鍔迫り合いを繰り広げているのは、先程士郎が撃退した筈の、寧ろ殺したと言っても良い青ずくめの男であったのだから…!

だがその驚きも一瞬の内、零が回り込んだのを見計らい、構えていたSCAR-Hをフルオートで発砲する士郎と天音、しかし、

 

「効いてない…!?」

「やっぱりかよ…!」

「ったく、人の背中にバカスカ撃ちやがって、痛ぇじゃねぇか。けどさっきから妙だな、俺に飛び道具は届かねぇ筈だが…?」

 

敵の痛がる様子こそあれど、発砲された7.62×51mmNato弾がその背を穿つ事は無く、全て弾かれてしまった。

 

「そうだ、零!眼を狙うんだ!」

「了解だ!『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』!」

「おっと、そうは行くか!」

「うおっ!?」

 

その際に何か妙な事を口走っていた様子であったが気にする余裕はない、士郎は比較的柔らかいであろう眼を狙い撃ちする様に零へ指示を飛ばし、零も応じてMAGを敵の眼に構えようとするも、そうはさせまいと敵が持っていた槍を回転、銃身が叩かれた事で狙いを逸らされてしまい、挙げ句その状態で引き金を引いてしまう。

 

「ちぃっまたか!」

 

射線を踏まえると士郎達に弾が降り注いでしまう事が容易に想像出来てしまう最悪の状況、だがそれでも、MAGから発砲された弾が着弾したのは敵の方だった、尤も相変わらず弾かれたままではある。

だがこれによって、

 

「だがこれでタネは割れたぜ。テメェらがさっきからバカスカ撃って来る弾丸、ありゃあ宝具、それも標的に当たるという結果を作ってから発射される、そんな類の効果を持った代物だろ?だから飛び道具が届かねぇ筈の俺に直撃した、例え今みてぇに射線を外していても。そうだな?」

「っ!」

「口に出さずとも、そのマヌケ面でバレバレだぜ、坊主。しかしまさかと驚きはしたが、そうと分かれば対策は立てられる」

 

士郎達が先程から連射している、弾丸が持つ『力』を見抜かれてしまい、

 

「急所じゃねぇ所で受け止めちまえば良いだけだ!」

「くっはぁっ!」

 

疑問が解けた事で、もう怖くないと言わんばかりの猛攻が始まった…!

先程士郎が校庭で見た、いや余りの速さに目で追いきれなかった敵の攻撃、対峙している零も持っている大刀を用いて対処してはいる、だが防戦一方なのは明らかで、士郎と天音が状況を打開しようと援護射撃に移るも、今言い放った言葉が出鱈目では無いと言わんばかりに全て弾かれてしまった。

しかも、

 

「くそ、弾切れか!」

「士郎、こっちも…!」

 

弾倉に入っていた弾丸を使い切ってしまい、2人は庭先の土蔵へと、ストックの弾丸を取りに行かざるを得なくなってしまった。

 

(どうする、このまま弾丸を補充した所で防がれるのは明らかだ。『コイツ』を使えばもしかしたら何とかなるかもしれないけど、零達を巻き込む危険が高い。でもこのままじゃ俺も零も、天音も…!

何でさ、まだ何も果たせていない、まだ『俺』を分かり切っていない、まだどうしたいかすらも決まっていない、零も天音もそうな筈かも知れないのに、此処で皆揃って殺されなきゃいけないんだ…!

こんな、こんな馬鹿な事があってたまるか!何か、何か他に方法は、そうだ!)

「天音、もう暫く零の援護を続けてくれ!ちょっとやっておきたい事がある!」

「士郎…?」

「いいから、早く!」

「わかった…!」

 

まさに絶体絶命の状況、その余りにも理不尽な事態に憤慨しながらも何か打てる手はないかと士郎が模索していたその時、何か閃いた様子で天音に指示を送った。

それを受け入れて再び庭へと向かった天音を背に、土蔵に残った士郎はとある書物を開き、

 

「あった、これだ!よし、『同調開始(トレース・オン)』…!」

 

そして、自らの『力』を、自らの『在り様』を、解き放つ…!

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する…!」

 

書物の内容に従い、呪文の様な文言を次々と口にして行く士郎、それが進んでいくたびに、士郎の足元が、まるで魔法陣か何かの様に特徴的な模様で輝き始める。

 

「な、何だ?まさかあの坊主が…!?」

「あれは一体…?」

「士郎…?」

 

その異変は、土蔵の外にいた3人も感知し、それまでの戦いは何処へやら、中の様子を伺おうとして来ていた(無論、各々戦闘態勢を緩める事無く)。

 

(今朝、何でついたか全く分からないこの左手の傷跡。でも今、コイツの意味が何となく分かる…!

行ける!この傷跡が、行けると言ってくれている!)

「―――告げる!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!誓いを此処に!我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者!」

 

そしてその模様から『力』が吹きあがり、

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

それは眩き光となった…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・セイバー、召喚に応じて参上した。問おう。貴方が私のマスターか」

 

光が晴れた其処には、騎士の様な出で立ちの少女がいた。


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