Phantom of Fate   作:不知火新夜

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皆さん、初めましての方は初めまして、知ってるよな方はお久しぶりです、不知火新夜です。
活動報告にて以前から報告していましたが、ちょっと予定を早めまして、今日より『Phantom of Fate』の連載をスタートします!
士郎の、零の、天音の歩みに、ご期待ください!


1日目『開戦』
1日目-1


それは或る月が綺麗な夜…

これこそが武家屋敷だと言わんばかりの存在感を見せる屋敷の縁側で、1人の男性と、彼の子供と思しき3人の少年少女が揃って月を眺めながら団らんのひと時を過ごしていた。

「子供の頃、僕は正義の味方になりたかったんだ」

 

そんな中、3人の父親である男性は、ふとそんな事を呟いた。

 

「なりたかった?じゃあ今は正義の味方じゃないのかよ?」

「生憎、今は違うんだ。正義の味方というのは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ」

「食品か何かかよ…」

 

その呟きに疑問を覚えたのか、3人の内の1人である赤毛の少年が男性に質問すると、男性は苦笑いを浮かべながらそう答え、その答えにもう1人である銀髪の少年がツッコミを入れる。

 

「はは、そうだね。正義の味方って、困っている人を助けるイメージがあるけどさ、誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事だ」

「あちらが立てばこちらが立たずって事…?」

「良く知っているね、天音(あまね)。結局、正義の味方って言うのは、とんでもないエゴイストなんだ。そんな事、もっと早くに気が付けばよかった」

 

そのツッコミに笑ってごまかしつつ、より詳細に話をするも、其処はまだ小学生、何が何だか分からないと言いたげな2人の少年に対して、残りの1人である銀髪の少女は男性が何を言いたいのかが分かった様子だった。

 

「そうか。俺は天音みたいに、親父の言っている事は良くわからない。けど、正義の味方になるって事はすごく難しいっていうのは分かった」

「それに、正義の味方って言っても色んなのがあるって事も」

 

その少女の言葉にも何処かちんぷんかんぷんだと言いたげな様子の2人だったが、要点は掴めたのかそう言葉を繋げ、

 

「ならさ、俺、正義の味方になるよ。俺なりの『正義の味方』に」

「だったら俺はそんな士郎(しろう)の、士郎にとっての『正義の味方』になる」

「私も士郎の、士郎にとっての『正義の味方』…」

 

少女と共に己の決意を示した。

 

「そうか。ああ…

安心した」

 

それを聞いた男性、衛宮(えみや)切嗣(きりつぐ)は何処か心の荷が下りたかのような穏やかな表情を浮かべ、永遠に目覚める事のない眠りについた…

 

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「夢か。久々に見たな、あの時の事」

 

その光景が真っ白に染まったかと思ったら、一瞬の内に見知った天井に早変わりした様に、今しがた目覚めたばかりの少年は一人、呟く。

 

「正義の味方、か。俺が目指すべき『正義の味方』を見つけるのは、何時になるんだろうな…

と、何時までもこうしちゃいられない。今週は(ぜろ)達の当番とはいえ、待たせて良い訳ないからな。おーい天音、朝だぞ。起きろ」

「ん、ふにゅぅ…

士郎、おはよぉ…」

「ああ。おはよう、天音」

 

その夢の内容を反芻して、何処か遠い目になっていた少年であったが、恐らく自分達の起床を待っているであろう家族の事を思い出して頭を切り替え、己の布団の中に一緒に入っていた少女を起こす。

その少女、天音と呼ばれた物凄く長い銀髪の少女は『寝起きが悪い』という表現がぴったりな、それでいて何処か可愛げのあるうめき声を上げながらも、己を目覚めさせた少年におはようの挨拶を交わし、その少年、士郎と呼ばれた短い赤毛の少年もそれに返事した。

 

「眠い、だるい、ふぃ…」

「ほら天音、零達が待っているんだから二度寝しようとしないで、さっさと着替えて此処を片付けようぜ。あまり人に見せて良い物じゃないからな、これ」

「別に良い、士郎と私が愛し合っているのは公然の事実だし…」

「いや良くないから!藤ねぇ辺りに見られた日には俺達お説教だぞ、小一時間くらい!」

 

然しながら眠気が全然覚めていない影響か、再び眠りにつこうとする天音、それを阻止しようとする士郎の眼前には、確かに色んな意味で『見せられないよ!』と立て看板を置きたくなる光景が広がっていた。

皺だらけかつびしょ濡れな掛け布団、同じく皺だらけでびしょ濡れな余り本来の役目を果たせなくなっているシーツ、辺り一面に散乱している丸まったティッシュ…

そしてその光景を見やる2人は揃って一糸まとわぬ姿で、士郎の男性としてはやや小柄ながらもがっしりした体躯と、天音の華奢ながらも出るべき所は出ている体躯が露わになっていた。

この光景と2人の言葉等を考えるとまあ、昨晩2人に何があったのか、この2人がどういう関係になっているかは言うまでもないだろう。

ともかくそんな事があったこの光景を見せびらかす訳にはいかない、士郎は着替えを始めながらも並行して部屋の片づけを行い、天音も渋々ながら、というか立ったまま居眠りしそうになりながらも着替えつつ士郎の手伝いを行う。

と、其処で、

 

「ん?士郎、それ…」

「どうしたんだ、天音?」

「その左手の跡みたいなの、どうしたの…?」

 

士郎の異変に気付いた天音が声をかける、それに応じて士郎が自らの左手に視線を向けると確かに、手の甲に傷跡らしきものが刻まれていた。

 

「あれ、何だこれ?昨日まで無かった筈だけど、寝ている間に何処か擦ったかな?」

「気を付けて、士郎の身に何かあったら…」

「分かっているよ、天音」

「なら良い…」

 

左手が傷付いた事に関して全く身に覚えのない士郎はその事に疑問を覚え、天音がその身を案じるがそれも数秒の事、再び其々の作業に戻り、2人が起きてから数分して、士郎が何処かの学校の制服らしき茶色の上下を、天音が上に白いTシャツと黒いジャケット、下に黒いホットパンツを身に纏った時には、部屋の様子は少なくとも人前に見せても問題ない状態になっていた。

 

「じゃ、行こっか天音。零達、首を長くして待っているだろうから」

「分かった…」

 

流石に昨夜の影響で澱んだ空気までは直ぐにどうこう出来ない、そう思い、2人は部屋の扉を開け放ったまま、既に朝食の準備を整えてスタンバイしているであろう家族の待つ居間へと向かう。

 

「おはよう。ベストタイミングだな、士郎、天音。丁度用意が終わった所だ」

「おはようございます、お義兄さん、お義姉さん」

「あー遅いよ、士郎に天音!お姉さん待ちくたびれちゃったよ!」

「おはよう。零、(さくら)、それに藤ねぇ。悪い、ちょっと遅くなった」

「余り大きい声出さないで、大河(たいが)…」

「タイガー言うn「煩いっての…!」ぶべら!?」

 

案の定というべきか、其処には零と呼ばれた士郎と同じ様な服を身に着けた短い銀髪の、少年というにはあまりにもガタイが良すぎる男性、桜と呼ばれた士郎達と同じ学校のそれらしき制服を身に着けた紺色の髪の少女、そして藤ねぇ、或いは大河と呼ばれた茶髪の女性の3人が士郎達を待っていて、テーブルには色鮮やかなイタリア料理、それも朝食という場に合った物の数々が並んでいた。

その中で大g…げふんげふん、藤ねぇが天音の呼び名に反応するも、その余りの大声にキレた天音の腹パンで即座に昏倒するというシーンがあったが、それは一先ず置いて、

 

「それじゃあ、いただきます」

「「「「いただきます」」」」

 

士郎の、この家の家主である士郎の合図と共に朝食は始まった。

 

「それじゃ、行ってきます!遅刻遅刻~!」

「気を付けろよ、藤ねぇ」

「行ってら、大河…」

「相変わらずメシ食うの早ぇな藤ねぇ、ちゃんと味わっているのか…?」

「あ、あはは、藤村(ふじむら)先生は藤村先生なりに味わっていると思いますよ、先輩…」

 

と思ったのもつかの間、瞬く間に朝食を平らげた藤ねぇは何やら急いだ様子で屋敷を出て行った。

その様子に何処か呆れた様子になったり、慣れたと言わんばかりに朝食を食べながらも見送る言葉を送ったりと、その反応は様々であったが、これも一先ず置いておこう。

 

「ご馳走様。それじゃあ行こうぜ、士郎、桜」

「はい。先輩、今日も後ろお願いしますね」

「それじゃあ天音、何時も悪いけど、洗い物とか頼むな」

「うん、士郎」

 

やがて士郎達も朝食を食べ終え、そのうち天音を除く3人は学校へ行く準備を整え、

 

「それじゃ、皆行ってら…」

「ああ、行ってきます」

「行って来る、天音」

「はい、お義姉さん」

 

士郎は『オフロードのR1』の触れ込みでヤマハ発動機が市場に送り出したスーパーモタード『WR250X』、零と桜はその兄弟機であるトレール(デュアルパーパス)『WR250R』に搭乗し、天音の見送りを背に学校へ、3人が生徒として、先程慌てて出て行った藤ねぇが教師として籍を置く穂群原学園への道のりを疾走して行った。

だが彼らは知らない、先程士郎達が見つけた士郎の、左手の甲に刻まれた傷跡、あれが後々彼らの運命を大きく動かすきっかけになろうとは…


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