Phantom of Fate   作:不知火新夜

13 / 14
2日目-3

「ソイツが遠坂のサーヴァントか。まさかアーチャーだとは思わなかったな」

 

突如として士郎の前に立ちはだかったアーチャーの姿にそう言いながら、士郎はアーチャーのステータスを確認する。

 

【クラス】弓兵(アーチャー)

【属性】中立・中庸

【ステータス】筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:?

 

(なんて言うか、可もなく不可も無くって感じのステータスだな。セイバーやバーサーカーは兎も角、ライダーと比べても耐久と幸運が1ランク程勝っているだけ、というか宝具のランク不明って、一体どんな宝具を持ったらそうなるんだ?だが昨日のランサーとの決闘で互角に渡り合ったんだ、ステータスの凡庸さを補う技量はある筈)

「ええ、そうよ…

見た所、近くに、貴方の、サーヴァントは、いない…

これで、形勢逆転、ね…!」

 

その一見すると凡庸と言えるステータスに、それでいて昨日ランサーと渡り合ったあの姿に、どれ程の技量を持っているのかと考える士郎に対し、圧倒的不利から一転して優位に立った事から得意げな様子を隠そうともしない凛、尤も先程の攻撃によるダメージが大きすぎたが故に未だうずくまったままで、喋りも途切れ途切れではある。

が、

 

「それはどうかな?確かにサーヴァントと人間では圧倒的と言っても良い戦力差があるのは確かだ。だが、未だに蹲ったまま立ち直れない遠坂を庇いながらの戦いになるソイツと、特にそんな物を気にする事無く戦える俺、どちらが有利かは言わなくても分かる筈だ。覚えているだろう、昨日俺がランサーの片目を吹っ飛ばした事を、サーヴァント相手にも一矢報いられる俺の実力を」

 

士郎は警戒こそすれど、負ける気は無いと言わんばかりにそう言い放つ。

まるでサーヴァントをも倒せると言わんばかりの自信、それを生み出しているのはやはり、前以て投影して来た宝具の数々であろう。

9A-91の弾丸である9×39mm弾型に作られた愛用の『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』に、唯一の『その物(オリジナル)』であるレヴァンテイン、そして…

更には先程の攻撃が自らに返って来た事によるダメージで昏倒したままの凛、彼女の様子からして立ち直るにはかなりの時間を要する筈、アーチャーはそれを庇いながら戦わなければならない…

これらの状況を鑑みればサーヴァント相手に無力化させる事も不可能ではないし、厳しければセイバーを令呪で呼べばいい、それ位の時間は容易に稼げる、士郎はそう考えていた。

 

「私も甘く見られたものだな。貴様の攻撃から凛を庇いつつ戦う等、造作でもない」

「舐めるなよアーチャー。この9A-91は狙った獲物を必ず撃ち抜く。例え射線上に獲物がいなくても、障害物があったとしてもだ。知っているか?スキルか或いは宝具か、どういう理屈かは知らないが、ランサーには飛び道具が通じないらしい。それが通ったって事は、分かるだろ?」

「ならば、使われる前に貴様を倒すまでだ!」

 

そんな士郎の思い通りにはさせない、そう言わんばかりにアーチャーは何処からともなく手にした黒と白の短剣を手に、猛スピードで士郎へと飛びかかる。

ランサー達と比べればまだ士郎も対応できる程度ではあるが、それでも一瞬の内に密着戦に持ち込む事は不可能ではない、士郎が9A-91の銃口を向ける暇も無く、2振りの短剣が士郎へと一閃され、

 

 

 

 

 

「『八咫鏡(アマテラス・ミラー)』!」

「ぐぅっ!せいやっ!」

 

斬り裂いた、何故か短剣を振るっていた筈の、アーチャー自身の両腕を。

だがそれはアーチャーにとって想定していた事態の様で、それにも怯む事無く、足払いの要領で士郎へとキックを飛ばした。

その直前アーチャーの眼は捉えていた、2振りの短剣が士郎の身を切り裂く寸前、自分と士郎の間に立ちはだかる様に、鏡面の様な円形の障壁が立ちはだかり、自らの短剣を跳ね返した事、その障壁は、士郎の足元まではカバーしていない事を…!

故にアーチャーは短剣が跳ね返される瞬間に手放し、それが自らの両腕を斬り裂くのも構わずに態勢を低くし、障壁の向こう側にいる士郎へと攻撃を繰り出す…!

 

「なっ!?」

「『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』だ!喰らえ!」

「ぐ、が、あぐ、っ!?」

「あ、アーチャー…!?」

 

が、其処に士郎はおらず、キックは空を切った。

いや実際には『いた』のだが、アーチャーの行動を先読みしていたかの様にバックステップし、キックを回避していたのだ。

更に士郎は、自らの回避によって生じたアーチャーの僅かな隙を逃さず、9A-91の銃口をアーチャーへと向け、愛用している宝具の名を唱え、何発か発砲した。

カシャカシャ、という「カメラのシャッター音」の様な作動音のみを鳴らしながら連射された9×39mm弾は、それらが持つ必中の呪いも相まって、一発のかすりすらも無くアーチャーの四肢を貫き、抉った。

 

「チェックメイトだ、アーチャー。俺の『仕込み』を見破ったのは流石と言うべきだが、だからこそアンタがどう動くかは何となく読めていた。人間の実力を甘く見るからそうやって不覚を取るんだ」

「ぐ、がは、どうやら、そうらしいな…!」

「あ、アーチャー、こ、こんな、馬鹿な、事が…!」

 

2対1、しかも2人側のうちの1人はサーヴァントという圧倒的な状況にも関わらず、ほんの少しのダメージを負う事無く2人共に無力化して見せた士郎、勿論今しがた士郎が言った様に彼を甘く見ていた事による油断があっただろうが、自分自身は兎も角サーヴァントであるアーチャーはそれだけで不覚を取られる様な存在ではない、そんな考えゆえに凛は今の状況が信じられなかった。

 

「残念ながら遠坂、現実は非情だ。現実は小説よりも奇なり、とはよく言った物だな。さて、『貪り食う呪紐(グレイプニル)』。大人しくして貰うぞ、遠坂」

「ぐっ!?」

「がぁ…!」

 

然しながら彼女が信じようと信じまいと、これは現実に起こった事だと士郎は言い放ち、コートの中に入れていた紐状の宝具――『貪り食う呪紐(グレイプニル)』の名を告げ、それ自身に、凛とアーチャーを後ろ手に拘束させた。

 

貪り食う呪紐(グレイプニル)』。

北欧神話に登場する魔法の紐で、神々に災いを齎すとされた怪物フェンリルを拘束する為、ドワーフ達によって作られ、アース神族の一角である軍神テュールによってその役目は果たされた。

その際、材料として使われた6つの材料(猫の足音、女の顎鬚、山の根元、熊の健、魚の吐息、鳥の唾液)はこの世に存在しなくなったり、その役目を担ったテュールが右手をフェンリルに食いちぎられた事で隻腕となったり、テュールのその功績から火曜日(Tuesday)の語源になったりといった逸話もある。

士郎が投影したそれもまた強烈な拘束力を有しており、凛は勿論の事、サーヴァントであるアーチャーも解けそうになかった。

 

「さて、まあこんな状況になって今更だが、一先ず話がしたい。俺の家に来てもらおう、丁度アンタに会わせたい人もいるし」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。