Phantom of Fate   作:不知火新夜

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2日目『暗躍』
2日目-1


「あの夢は、セイバーが人として生きていた頃の…?」

 

士郎達が聖杯戦争に参加する決意を固めた翌朝、彼は先程まで見ていた夢の内容を反芻していた。

其処に出て来た何処かの国を束ねる王らしき存在であるセイバーの、引き抜いた者は王となると言われていた剣を引き抜き、己の師である魔法使いや、自らの近臣である12人の騎士と共に数多の敵を討ち払い、誰からも敬われる名君として慕われていたが、やがて自らの妻と騎士の1人との不義と出奔、自らの息子だとする騎士の謀反等が重なって統治していた国は滅び、幕を閉じたその生涯を。

その中で出て来たセイバーが手にしていた剣、その骨子や基本構造、在り方が自然と頭に入って来て、それがどんな宝具であるか、それを使っていたセイバーがどんな存在かが理解出来た。

 

投影開始(トレース・オン)、うぉ!?

ま、眩しい!?何なんだ、この剣は!?」

 

ふと、その剣を作ってみようと投影した士郎、その時、出来た剣が放つ余りに眩しい光に、士郎は怯み、

 

「ん、んぅ…!?

な、何、眩しいんだけど…!」

「あ、ご、ごめん天音!装填開始(ロード・オン)!」

 

熟睡していた天音もその眩しさに目が覚めた。

予想外の方面からたたき起こされた事で何とも不機嫌な寝起きとなった彼女の様子に申し訳なさを覚えた士郎は、慌てて詠唱を行う。

すると今しがた士郎が投影した、黄金色に輝く剣が放っていた光は収まり、形を変え、士郎達が愛用する7.62×51mmNato弾へと変貌した、尤もその光輝くかの様なオーラまでは封じ切れていなかったが。

 

「それって、セイバーの…?」

「天音も見たのか、生前のセイバーが歩んだ道を?ああ、これはあの夢、セイバーの記憶で出て来た『選定の剣』こと『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』。そして其処から導き出されるセイバーの真名は…」

「今のイギリス、ブリテンのアーサー王…

あの無茶苦茶なステータスも納得だけど、まさか女の子だとは思わなかった…」

 

その弾丸、それに変貌する前の剣を見ていた天音と士郎は、寝ていた間に見ていたセイバーの記憶とも照らし合わせ、其処から彼女の正体を割り出した。

 

アーサー王。

嘗てブリテンと呼ばれていたイギリスの地における伝説の王で、選定の剣を抜いて王となってからの波乱万丈な人生と、勝利を齎すと言われる聖剣エクスカリバー、円卓の騎士として語られる12人の近臣達との絆、聖杯探求、そして自らの最期となったカムランの戦いで知られる息子モードレッドとの戦い、といった逸話等で有名な存在だ。

日本においても遊戯王OCGでは円卓の騎士をモチーフとした【X-セイバー】や【聖騎士】、彼らが使っていた剣をモチーフとした【聖剣】等といったカードカテゴリに、エクスカリバーの名を冠したエクシーズモンスターが登場している他、様々なゲームや漫画のモデルにもなる等からも、その有名振りが分かるだろう。

サーヴァントのステータスは知名度によって補正が掛かる事から、あの膨大なステータスも納得である。

 

「何で俺の元にあのアーサー王がサーヴァントとして呼ばれたかは分からない。関係する触媒なんかこの家にある筈も無いし、セイバーが俺達に関するそれを持っている訳がない。性質なんてどこからどう見ても違うし。というか伝承では男性の筈だったけど、実際に呼ばれたセイバーは女の子だよな?でも経緯がどうあれ、あのバーサーカーにも引けを取らない強さと、夢に出て来た剣を元に投影したこの『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』からして、彼女は間違いなくアーサー王、これから聖杯戦争を戦う上で彼女の存在は凄く心強い。俺は、いや俺達は、この聖杯戦争をいち早く終わらせて見せる…!」

「うん、士郎、絶対に、絶対に終わらせよう…!」

 

これ程までの存在が自らのサーヴァントとして加わってくれる、その事実に心強さを覚えた士郎と天音、改めて聖杯戦争を終わらせるという決意をし、相変わらず激しく愛し合った後の散乱された部屋を着替えながら片付け、零達が待っている居間へと向かった…

 

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「さて、時間も無いから手短にしよう。最初に各陣営の情報から。まずセイバーとライダー、この2人は俺達の陣営。バーサーカーはあのイリヤスフィールと言う少女の陣営だ。真名はヘラクレスで、所有する宝具の関係でそうそう倒れたりしない難敵だ。あと、クラス名は分からなかったけど、赤い外套を着たサーヴァントを遠坂が従えていたのを、昨日見た。ランサーが何処の陣営かは不明だけど、少なくとも遠坂の陣営と敵対している事は明白。アサシンとキャスター、アーチャーは所在不明。恐らくその3クラスの内1つがあの赤い外套のサーヴァントのクラスだと思われる。此処までは良いか?」

 

その後、何時もの様に様子伺い(という名のただ飯)に来た藤ねぇが学校へと向かった(尚、霊体化出来ないセイバーに関してどうするかは、桜が魔術による暗示をかけた事で解決した)のを見て、士郎、天音、零、桜、セイバー、そしてライダーの6人はテーブルを囲み、作戦会議を始めた。

最初に口を開いたのは士郎、といってもこれまでの戦いで得た情報の確認で、それを聞いた残る5人は、士郎の問い掛けに頷いた。

 

「昨日繰り広げられた交戦は3つ。1つ目は学校にて行われたランサーと赤い外套のサーヴァントとの決闘。2つ目はそれを目撃していた俺を抹殺する為のランサーによる襲撃。3つ目は俺達とバーサーカーとの戦い。この内1つ目、いや2つ目の交戦によって、少なくとも遠坂は学校にマスターがいると踏んだ筈だ、何しろ銃声1発に炸裂音、そして恐らくそれらを食らってフラフラだったランサーの様子を見聞きしただろうから」

「『他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』のダミーを設置したのも功を奏しましたね、桜。あれに桜の姉達や、ランサーが釣られたと言っても過言ではない、囮としては十分な働きです」

「ああ、何か違和感があるなと思ったら、それだったのか。まあ危なくない感じだったからスルーしていたけど」

 

そんな中でライダーが自らの宝具、そのダミーを学校に設置していたとの報告をさらりとしていた。

 

他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)

ライダー達ゴルゴーン3姉妹が生前追放された『形のない島』に作られた神殿を由来とした結界状の対軍宝具で、訪れた者を石に変えつつ貪り食ったという逸話をベースに、展開した結界の中にいる生命を血液状に変えて吸い取ってしまうという凶悪な物、とはライダーの説明。

そんなえげつないという言葉に尽きる宝具を、然しながら今回ライダー達は、それそっくりな気配を出しながらも実際の効果は無いダミーとして学校に設置したのだ、その(本来の)危険性を察知した敵陣営が妨害の為に動くのを見越した囮として。

 

「ライダーから耳よりの情報を得た所で、再確認だ。その結界の囮、そして響いた銃声を踏まえ、遠坂は恐らく、学校にいる自分以外のマスターが誰かを調査する筈だ。其処で桜、今日は学校を休んで、間桐の家から荷物を取って来てくれ」

「は、はい、分かりました」

「零も今日は休んで一緒に行ってくれ、流石にサーヴァントであるライダーがいると言っても、女性2人に荷物を運ばせる訳には行かないし、さ」

「良いのか、士郎?俺なんかが桜の家に行って。流石に女の子の家に俺が押し入るってのは…」

「いやいや、零だから良いんだよ。お前ならカモフラージュにうってつけだし、桜にとっても、な?」

「は?どういう事だ、言ってる意味が分かんねぇぞ?」

 

そんな如何にも見つけられるかな?と言わんばかりの情報に食いつかない筈がない、虱潰しにでも探し出す存在が現れるかも知れないと判断した士郎は、桜に学校に来ない事、荷物を取りに来させる事を命じた。

その際零に同行を指示した際、その理由が全く以て見当が付かないと言いたげな零の様子に、士郎と天音は、ため息をつきながらジト目で零を見ていた、この朴念仁、というメッセージを込めて。

 

「と、ともかく、次にセイバーは、此処で天音を守っていてくれ」

「了解しましたが、シロウはどうするのですか?」

「俺は学校へ行く」

「な、正気ですか?今シロウが言った様に、サクラの姉である魔術師(メイガス)がその学校にいるマスターを探し出す筈、其処にマスターである貴方がノコノコと出る等、正気とは思えない。そうでなくとも今は聖杯戦争の真っ只中、サーヴァントも付けずに1人で外を出歩くなんて真似は控えるべきだ」

 

そんな未だに疑問符を浮かべている零は一先ず置いて、セイバーに天音の護衛を命じたが、其処で自分はどうするのかと問われた士郎が返した答えに、セイバーは苦言を呈した。

が、

 

「それは分かっているさ、セイバー。昨日ランサーやバーサーカーと戦って、これは文字通りの戦争なんだと、隙を見せれば殺されるんだと、思い知らされた。幾らサーヴァント相手にも対抗手段を有している俺であっても、それは変わらない。だけど今日ここで零と一緒に学校を休んでみろ。此処で如何にも非日常に足を踏み入れました、と言わんばかりの対応をしてみろ。言うまでも無く俺がマスターですって敵に知らせる様な物じゃないか。虎穴に入らずんば虎子を得ず、有名な諺だ」

「そ、それはそうですが…」

 

それ故に士郎は平日である今日は学校へ行くと、変わらぬ日常を過ごす事が大事であると突っぱねた。

 

「それに学校は一般人も多いし、そんな中で大々的に戦いを仕掛ける輩もそういないだろう。念のために銃と宝具は幾つか持って行くし、いざとなれば令呪でセイバーを呼ぶから、さ」

 

尚も案じるセイバーだったが、士郎が羽織っていた黒のロングコートに入れていた武器の数々を見せながら説明した事で、やっと納得した様子だ。

 

「じゃあ、行ってきます」

「行ってら、士郎…」

「おう士郎、こっちの方は任せてくれ」

「気を付けて下さいね、お義兄さん」

 

そして士郎は、皆に見送られながら、学校へと向かった…!


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