と言うことで反省の意を込めて今日も投下します。
自らの歪みと見失っていたかつての決意を思い出したセイバーだが、しかし一度こびり付いた瑕疵というものは簡単に拭えるものでは無い。
「ですが、やはり私は王に相応しくなかったのでしょうね」
「まだ言いますか
矯正が足りなかったかと拳を握るアルトリアにセイバーは慌てて訂正する。
「もう選定のやり直しを願うことはありません。
ですが、どうしてもトリスタンやランスロットの事を思うと…」
そう沈んでいくセイバーだが、吹っ切れたアルトリアはばっさり切り捨てる。
「ギャラハッドやアグラヴェインから見限られたなら兎も角、あの二人に何を言われようと気にする方が疲れるだけです」
「しかし」
「どうせ、トリスタンから『人は天秤には仕えられない』『王は人の心がわからない』とか言われたんでしょう?」
「ええ」
去り際に言われた台詞を思い出して凹むセイバーにアルトリアは凄まじい切込みを入れる。
「はっ!
浮気を繰り返して妻を泣かせ続けた男がよく言いますね。
王が人の心が解らないならお前は妻の心も分からないだろうと言い返してやれば良かったんですよ」
キャメロットを辞する際、このままでは何れ料理長も使い潰されると料理長を連れて行こうとして、逆に料理長からそう返されて猛省させられたトリスタンを見ているアルトリアの言葉には妙な説得力があった。
「え? で、でもランスロットはバーサーカーになるぐらい私を恨んでいたんですよ!?」
「はぁ?」
何を根拠にそんな事をと首を傾げるアルトリアにセイバーは言う。
「実際第四次聖杯戦争で、ランスロットはバーサーカーとして召喚され、狂いながらも執拗に私だけを狙い続けて」
「あの、バーサーカーだったのはギネヴィアに罵られて発狂していた時を狙って召喚されていただけでは?」
「……あ゛」
その可能性を微塵も思いつかなかったために、指摘されつい変な声を出してしまうセイバー。
「それにギネヴィアの件はどう考えても逆恨みじゃないですか。
私は許すとちゃんと本人にも言ったんですよね?」
アルトリアの問いにつつぅっと気まずそうに視線を逸らすセイバー。
「……その後すぐアグラヴェインが逢瀬の現場に踏み込んだために殺されてしまいそれどころではなく」
「馬鹿じゃないですか!?」
思わず素で罵倒してしまいますます涙目になるセイバーをアルトリアは容赦なく糾弾する。
「アグラヴェインがモルガンのせいで女性不信を患っていたのは知っていたでしょう!?
それにランスロットの事を嫌っていたのも知っていたのだからまず初めに彼の暴走を阻止しないでどうするんですか!!」
「で、でも」
「でももしかしもありません!!
そもそもが後手後手に回り過ぎなんですよ!!
良いですか? ケイとかパーシヴァルとか内心を理解してくれていた上で付いてきてくれていた騎士達は居たのだから彼等を頼らないでどうしてあの経済危機を潜り抜け続けられると…」
何故か始まった説教に反論出来ず涙目で受け続けるセイバー。
そうして十分程が経過したところで、意を決した様子で凛がセイバーに尋ねた。
「ちょっといいかしら?」
「なんですか?
今大事な話をしているのですが」
「それは後にして。
それよりも、さっきセイバーがおかしなことを言っていたのが気になるんだけど?」
「おかしな事?」
首を傾けるアルトリアに凛は言う。
「サーヴァントって同じ英霊が召喚されたとしても、前回の記憶をそのまま保持している事は普通は無いはずなのよ」
「そうなのか?」
凛の言葉に士郎が不思議そうにそう返し、凛はええと頷いた。
「だけどさっき、セイバーは第四次聖杯戦争での記憶を持っているとしか思えない発言をしたわ。
どういう事か聞かせてもらえるかしら?」
そう水を向けられ、セイバーはばつが悪そうにぽつりぽつりと語りだした。
曰く、アルトリアは普通の英霊とは違いまだ『座』に辿り着いておらず、『抑止』の手を借りカムランで瀕死の際の状態から分霊を送り出しているため他の聖杯戦争での記憶を継承できるのだそうだ。
そして第4次聖杯戦争では、衛宮切嗣のサーヴァントとしてアインツベルンの陣営に与して最後まで勝ち抜き、しかし最後の時に切嗣が裏切り顕れた聖杯を破壊するよう令呪を切られたのだと言った。
「なる程。
それでマスターの名に反応したのですか」
「最初はシロウを同じ姓の無関係な他人と思いましたが、住いがかつて切嗣が用意したセーフハウスだったので関係者だと判断し、下手に混乱させてはいけないと思い黙っていました」
そう締め括るセイバーに一応の納得を得たアルトリアはではと質問をする。
「アインツベルンのマスターについて何か分かることはありますか?」
「おそらく切嗣とアイリスフィールの娘のホムンクルスではないかと」
「爺さんに娘が居たのか!?」
そんな話は聞いたことが無かった士郎が驚きの声を上げると、セイバーはええと認める。
「切嗣とイリヤスフィールは大変仲睦まじい親子でした。
ですが、十年前から姿見が殆ど変わっていなかったので本人では無いと思うのですが、そうなると彼女のシロウに執着している理由が分からないのです」
「いや、本人なのでは?」
何故そんなに悩むのか分からずそう口にするアルトリアにセイバーは白い目を向ける。
「聞いていなかったのですか?
イリヤスフィールは十年前から姿見が変わっていないのですよ?」
「悪質なメイガスなら姿見を変えぬようにするぐらい容易では無いのですか?
寧ろ、切嗣に対する嫌がらせでそうされたと考えたほうが自然では無いですか?」
「可能性は十分あるわね」
アルトリアの言葉に凛が同意する。
「アインツベルンは御三家でも最も聖杯に対して執着していると言えるし、聖杯に固執する魔術師なら再びマスターになるかもしれない衛宮切嗣への牽制に娘を使うぐらいやるでしょうね」
「だけど爺さんはもう死んでいるのに…」
突然知らされた養父の身内の存在とその仕打ちに怒りを堪える士郎にアルトリアは言う。
「どちらにしろ、アインツベルンとは話をしなければなりません。
何が本当なのかは、本人から聞けばいいでしょう」
そう締め括り、セイバーに衛宮邸以外の拠点は無かったのかと聞くと、郊外の森にアインツベルンが所有する城があるとの答えを返され、おそらくそこに居るのだろうと当たりをつけ一同はアインツベルンの森へと向かった。
次回は戦いますよ。
相手はバーサーカー…だと思いますか?