|彡サッ!
|・ω・*)つ『新作』
|彡サッ!
ブリテンに根を下ろす決意をしてそのままブリテンの厨房で働けるようケイに口利きしてもらって暫し経った。
なんでかかのアーサー王にえらく気に入られたらしく、時折アグラヴェイン宰相に睨まれ小言を言われたりしつつ、偶にアルちゃんの相談に乗りながら今日も今日とて命の危機とは縁遠い場所で料理人として頑張らせてもらっている。
いや、気に入られた原因は分かっているんだよ。
※以下、料理人の作った料理に対するアルちゃんの反応
「こんなにフワフワしたパンがあったなんて…わたしが今まで食べていたパンはパンじゃなかったのですか…?」(林檎酵母入りの丸パン)
「牛の肉なのに硬くない!?
下処理だけでこんなに肉質は変わるのですか!!??」(熟成させた牛肉)
「甘い…。砂糖も使わずこんなに甘みが出せるんですか…?」(麦糖で作ったカスタードクリーム)
「なんであの食べようも無いインゲンと捨てるしかなかった屑麦からこんな保存食が出来るんですか…」(麦味噌モドキ)
エトセトラエトセトラ。
そんな感じで作る度に目が死んでしまうアルちゃんが不憫過ぎて色々食べさせていたらなんか、その話を聞いたアーサー王からも高評価を貰いまくったらしく、報奨として近い内に厨房の総責任者に昇進する事が決まってしまった。
いやまあ、伝説に残るアーサー王に認められたのは大変誇らしくはあるんだが、しかし俺がやっているのは他人の褌で相撲を取っているだけだというのがどうにも、な。
「っと、いかんいかん。
後ろ向きになっている暇はないぞ」
なんせ先任の料理長が居なくなっちまって人手が足りんからな。
その原因が俺が帳簿を纏め直したことで料理長が搬入された食材の横領していた事が発覚した為という誠にしょうもない理由なんだが。
相談したケイに連れて行かれた彼がどうなったかについては考えない事にする。
「じゃあ、まずはコイツだな」
意識を切り替え俺は昼前に届いた木箱を開く。
中には見慣れた道具がずらりと入っている。
それを一つ一つためつすがめつ確かめていると「シェフは居ますか?」とアルちゃんの声がした。
シェフ、つまり料理人と言う名は暫定的に俺に付けられた名だ。
本名はマーリン曰くテクスチャの違いとかいう訳わからん理由で音として認識出来ず翻訳も出来ないらしい。
だったら俺が字に書こうにも、現世のブリテン語は話せるようになったが字の方はラテン語もルーンとかいうブリテンの文字もまだまだ読み書き出来ないため、ケイが「厨房に居るのが似合いなお前にはピッタリだ」とシェフという呼び名を名前に宛てた。
「どうしたアルちゃん?
残念だが今日は試食してもらう必要はないぞ?」
冗談めかしてそう尋ねると、アルちゃんは「違います」と若干むくれた様子で来た理由を口にした。
「シェフが鍛冶屋に銀製品の鋳造を依頼したと聞いたので、一体何をお考えなのか興味が湧いたのです」
「ああ、その事か」
どうやら声をかける手間が省けたらしい。
「頼んでいたのはコイツだよ」
そう俺はアルちゃんに箱の中身を見せた。
「これは、匙とナイフは分かりますが、この小さな三叉はなんですか?」
箱に収められているカトラリーセットにアルちゃんは首を傾げる。
「コレは食事に使う一式だよ」
そう言って俺はフォークを手にする。
ブリテンに来てからキャメロットで働くまで一年以上あった訳だが、実を言うと俺はブリテンの食事でスプーンは使っても専用のナイフやフォークは存在していないことに気付かないでいた。
その説明にアルちゃんはますます解らないと首を傾げる。
「申し訳ありませんが、その様な物の必要性が見い出せません」
「ううむ…」
そう言われたら少し困る。
なんせアーサー王でさえスープ以外は食事は手掴みが当たり前なもんだから、従者のアルちゃんがそう言うのも仕方ない。
「それに態々銀製品を調達したのも理解し難いです」
どう説明するかと考えている俺にそう問いを向けたアルちゃん。
俺は先にそちらを説明することにした。
「銀を選んだのは毒対策だよ」
「毒ですか?」
「ああ。
考えたくは無いが、アーサー王の命を狙う輩が俺が作った食事に毒を混ぜないなんて保証は無いからさ。
アーサー王の毒殺を避けるために用意したんだ」
勿論俺にそんな事をするつもりはないが、防ごうにも四六時中食材を監視していられるわけでもない。
だからこそそんな懸念を銀食器で少しでも排除出来ればと鍛冶屋に無理を言って頼んだのだ。
代わりにこれまでの給料が全部吹っ飛んだが、それに関して後悔はない。
「本当は円卓の騎士全員分とアルちゃんにも用意したかったんだが、先に財布に限界が来ちまってな」
「そんな滅相もありません」
茶化してみるもアルちゃんはいたく感激したと表情を柔らかくする。
「王の身を案じ私財を擲つ貴方の献身は騎士の忠義にも比類します。
貴方に想って戴いてアーサー王もさぞお喜びになるでしょう」
「だと良いんだがな」
うろ覚えだがアーサー王に毒を盛られた話は無かった筈だし、なにより手掴みで食べられていることに忌避感を感じているからという自分勝手な考えが主なんだしな。
そんな思考を横に、俺はアルちゃんが喜ぶだろう話をする。
「それはそれとして、フォークじゃないと食べづらい料理が幾つかあるんだが興味は「是非賞味させていただきたい!」」
さっきまでの真面目な空気が吹っ飛んで欠食児童アルちゃんが目を爛々と輝かせる。
「ははっ、そうこなくっちゃな」
期待からワクワクしているアルちゃんに満足してもらえる事を祈りながら、俺は試作したばかりの生パスタを茹でるために竈へと向かった。
誰も突っ込まれてませんが一話目でアルちゃんがフォークが無いことに疑問を抱いていますが、実はヨーロッパでフォークを食事に使うようになったのは十一世紀になってかららしいですね。
んな訳で料理人、またこいつ歴史をぶっ壊してるよ…