円卓の料理人【本編完結】   作:サイキライカ

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皆様お久しぶりです。

薬のお陰が鬱も大分楽になったのでリハビリに知り合い(愉悦に非ず)のリクエストを書いたので投稿します。

時期的には料理長になってすぐぐらいです。




料理人とマヨネーズ

 夏。

 温暖化現象とは全く関係ない時代のブリテンもやはり夏となれば暑いものである。

 

「今晩はどうするか……」

 

 夏バテとは縁もなさそうな騎士様達とはいえ、こうも暑い中でシチューやらステーキなんてのも流石に宜しくなかろう。

 なんてことを考えつつ納入された朝採れた野菜をがさごそしてみれば、端の方に季節ものの姿。

 

「ほう。胡瓜か」

 

 ブリテンでは非常に貴重な生でイケる野菜の一つ。

 本来ならさっさと下処理してピクルスにしちまうところなんだが、不意にそれを見たせいで懐かしき調味料を思い出した。

 

「マヨネーズ、食ってないなぁ…」

 

 丸洗いした胡瓜を薄くスライスしてから塩揉みしてマヨネーズを掛けただけのお手軽な付け合わせ。

 夏場ならそれだけでもビールの肴に食える一品だと俺は思う。

 とはいえブリテンてもう食えるもんでも……

 

「いや、待てよ?」

 

 よく考えてみればマヨネーズの材料は卵にビネガーとオリーブオイルと、オリーブオイルが輸入品だから割高になるがどれもブリテンでも手に入るものばかり。

 

 

「…やってみるか」

 

 マヨネーズが作れるならメニューのレパートリーはかなり広げられるし、他にも色々試せるかもしれない。

 そんな感じで今朝回収したばかりの卵とアップルビネガーに絞りたてのオリーブオイルを用意。

 

「何をしているんですか料理長?」

 

 そうして卵黄と卵白を取り分けているとアルちゃんが厨房に顔を見せた。

 

「ん?

 こっちでも作れそうなソースを思い付いたんで作ってみてるのさ」

 

 アルちゃんにそう答えつつ卵黄とビネガーをかき混ぜながらオリーブオイルを少しづつ足していく。

 そうして暫くしてなんとかマヨネーズらしいものが出来た。

 

「それが料理長の故郷のソースですか?」

 

 白く濁ったマヨネーズを不可思議そうに眺めるアルちゃん。

 

「ま、実際使えるかは食べてみないことには分からんがな」

 

 そう言って俺は胡瓜を一本持ち出し、そのままスティック状に切り揃えてからディップ感覚で胡瓜でマヨネーズを掬いかじってみる。

 

「どうですか?」

 

 興味津々という様子のアルちゃんに失敗だと感想をそのまま言う。

 

「ビネガーを入れすぎたみたいだな。

 使えなくはないが酸味が強くなりすぎちまった」

 

 サルモネラ菌を警戒して多目にビネガーを加えたのが原因だな。

 その上酸味だけでなく使ったアップルビネガーの甘みも強く出すぎてしまいバランスはかなり悪くなってしまった。

 

「……おお!!」

 

 と、バランスを考察してたらアルちゃんがマヨネーズを舐めて顔を輝かせていた。

 

「失敗なんてとんでもない!

 ただのソースというにはなんと濃厚な、それでいて甘味と酸味が爽やかさもあって実に複雑な旨味が……」

 

 えらく感動してるアルちゃんに俺は味覚の違いなのかと悩んでいると、場違いなイケメンが顔を覗かせた。

 

「おや?

 此方にいらしたのですね」

「サー・ガウェイン」

 

 イケメンらしい爽やかな笑みでアルちゃんに話しかけるガウェイン卿。

 この二人が並ぶと良い絵になるよなあ。

 やっぱりアルちゃんには戦場になんて行かないで、こういういかにもな騎士と結婚して幸せになってもらいたいもんだ。 

 

「ところでそちらの白いソースは?」

 

 そんなことを考えていたらガウェイン卿がマヨネーズに興味を向けてきた。

 

「故郷のソースだ。

 とはいえ、出せるものになるのはもう少し試作を繰り返したいところでな」

「ほほう……」

「折角だからガウェイン卿も意見を貰えるか?」

 

 聞いている話ではブリテンの食料事情の都合上肉も食べるがガウェイン卿は本来菜食主義者との事だから、野菜と相性の良いマヨネーズも気に入ってくれるかもしれないと胡瓜スティックを並べた笊を差し出す。

 

「宜しいのですか?」

「じゃなきゃ渡さんさ」

「では私も」

 

 然り気無くアルちゃんが横から胡瓜スティックを摘まんでマヨネーズを付けて胡瓜を食べる。

 

「……新鮮な胡瓜とマヨネーズ。

 これがあれば一年は戦い抜けられますね」

 

 胡瓜を飲み込んだアルちゃんが見たこと無いぐらい真剣な顔でそう溢す。

 

「いや、幾らなんでも言い過ぎじゃないか?」

 

 第一胡瓜は夏にしか採れないだろうに。

 

「で、ガウェイン卿はどうだい?」

 

 アルちゃんに構ってばかりでは先に進まないとガウェイン卿に感想を求めてみると、ガウェイン卿は胡瓜を口に含んだまま笑顔で固まっていた。

 

「どうしたんですかガウェイン卿?」

 

 様子のおかしさにアルちゃんと二人いぶかしがって目の前で手を降ったりしていると急に城内か騒がしくなった。

 

『賊は聖者の数字を持つサー・ガウェインを仕留める手練れだ!!

 陛下の御身を守るのだ!!』

 

 賊?

 というか……

 

「ガウェイン卿は此処に居るよな?」

「ええ……?」

 

 何がどうなっているのかと困惑する俺はまさかと思い脈を計ってみたが、彼の脈は停まっていた。

 

「……死んでる…だと……?」 

「は?」

 

 まさかこいつ、マヨネーズのショックから心停止を起こしたのか?

 

「何してるんですか貴方は!?」

「とにかく蘇生だ!!」

 

 思いもがけない大惨事に二人してパニックになる。

 

 その後、なんとか一命を取り留めたガウェイン卿はその時の感動からマヨネーズに傾倒するようになり、ベジタリアンからマヨラーへと変わっていくのだった。




最後の外の騒ぎはガウェインが心停止➡トリスタンがガウェインの心音が消えたと騒ぐ➡城内騒然という流れが厨房の外で起きてたのです。

今更読み返してみてモーツァルトなら兎も角トリスタンの聴覚はそんなに無いだろと突っ込んだ次第ですが、そこはコメディと流してください。


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