円卓の料理人【本編完結】   作:サイキライカ

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これまでのあらすじ


オルタ「ヒロインXマジワロスwwしてたら槍に刺されて料理長にキスされてたでござる」

獅子王「ドーモ、カルデアの皆さん。獅子王デス。料理長寄越せ」 

ヒロインX「絶許」

料理長「いうこと聞くからカルデアに手を出すな!!」

立香「おっさんがヒロインポジにinしたんだけど質問ある?」



そのに

 行った先で拷問でもされるのかと覚悟してたわけなんだが……

 

「スゥ……スゥ……」

「ムニャ……りょうりちょう……」

 

 顔見知りの美女二人と寝床を一緒にした状態で朝を迎えているのはどういう事態なんだ?

 言っとくが疚しい事は一切してないからな?

 というか、訳が分からんのだよ。

 騎士に連れてこられた先は懐かしきキャメロットを思い出させる白亜の宮殿で、騎士の正体は大人になったアルちゃんだったんだが、そこからが更にややこしい話になっていた。

 というのもアルちゃんは俺の世界のアルちゃんではなく、モードレッドがキャメロットに凱旋する前に俺が死んでしまった世界のアルちゃんなんだそうだ。

 その世界では俺が死んだ後ブリテンは坂を転げ落ちるように崩壊していき、ギャラハッドは聖杯探索の最後に倒れ、モードレッドもアルちゃん、いや、アーサー王に反逆しカムランでアルちゃんが討ったそうだ。

 つまり、俺が知っているアーサー王の物語そのままの悲劇を辿ったと。

 それを聞いて俺は初めてマーリンの屑に感謝した。 

 あの屑は俺の死後を勝手にしてくれたが、其れがなかったら俺の知っているアルちゃんも隣で寝ているアルちゃんがそうしていたように独りぼっちで今日までさ迷い続けていたのだから。

 信じられないがこのアルちゃんはまだ生きている。

 カムランで死に損ない、槍によって人の理から外れて世界の外側をずっとさ迷っていたのだ。

 理由は教えてもらっていない。 

 尋ねたがまだ言いたくないと濁されたので話してくれるまで待つことにした。

 

「……ごめんなさい」

 

 と、反対側のボーマンもといガレスが泣きながらそう寝言を言った。

 

「……」

 

 アルちゃんがそうだったように、このガレスもまた耳を塞ぎたくなるような末路を辿っていた。

 母親を殺し、その断末魔に放たれた呪いにより苦しみながら死んだそうだ。

 それだけでも酷い話なのに、ガレス自身は自分が苦しんだことよりも俺が遺した包丁を咄嗟に武器として使ったことをずっと後悔していた。

 ガレスは泣きながら俺に謝った。

 料理長の魂を血で汚してごめんなさいと。

 確かに俺の包丁が人を殺したことは気分がいい話じゃない。

 だけど、一時としてもガレスの命を救ったのならそうして使ったことを怒るような事とは思わない。

 そのせいで包丁が血錆びに腐り、魔術師殺しの宝具となっていてもそれを咎めようとは思いたくない。

 しかしだ、

 

「やっぱりそうなのかね?」

 

 このアルちゃんが本当はアーサー王だったというなら、俺の隣に居たアルちゃんもやはりアーサー王だったのだろうか?

 もしそうなら俺はどうするべきなのか?

 いや、考えるまでもないか。

 アルちゃんはアルちゃん。

 本人が分を弁えろと言うならそうするし、今まで通り気安くと望むならそうするだけの話だ。

 まあ、それをするのは俺じゃなくて『座』から下ろされるだろう別の(料理長)なんだがな。

 

「……厨房に行くか」

 

 なにもしていないとどうにも落ち着かん。

 英霊の座に座り幾度も時代が移り変わる程在り続けてさえ日本人(社畜)気質は治らない辺り、業が深いなと思いつつ俺は上着を肩掛けに厨房へと向かった。

 

「ここもキャメロット仕様か」

 

 完全再現された懐かしき我が戦場を前に俺はつい苦笑を溢し先ずは竈に火を点す。

 魔力を放出して火花を発てて種火を着火、そのまま藁に放ると薪へと燃え移り竈に火が入る。

 かつて使い慣れた床下の倉庫を開ければ完璧に近い熟成加減の肉の山が姿を見せ、そこから豚の肩ブロックを選ぶと薄くスライスしてアスパラガスに巻く。

 

「お、胡椒もあるのか」

 

 香り付けにタイムかオレガノをとハーブの瓶を並べていた棚を見ればそこにハーブに並び金より価値の高い黒いダイヤの姿。

 迷わずその瓶を掴むが粉にするためのミルは無かったので道具作成のスキルを使ってミルを投影し手早く粉にする。

 

「……今更だがサーヴァントって便利だな」

 

 粉にした胡椒をハーブと共に小量振り掛け下拵えを済ました俺はそうぼやく。

 火起こし一つ、調理器具一つにしたって態々作らなくても投影すれば片付けの手間もないし衛生の心配もしなくていい。

 

「料理長!!??」

 

 そんなどうでもいいことを考えつつ朝食を作っていると血相を変えたアルちゃんが厨房に飛び込んできた。

 

「……よかった」

 

 そうして俺を見つけるなり泣きそうな顔で安堵するとどう話し掛けるべきか迷う俺に近より俺の頭を立派に育った胸に押し付けた。

 

「ちょ、ア」

「ああ、夢じゃない。

 料理長は、確かにここに居る……」 

 

 そう言うアルちゃんの声は感極まったように聞こえ俺は何も言えなくなる。

 どうしてアルちゃんがこうまで俺に固執しているのか分からない。

 だけど、この状況は何れ終わらなければならないのは確かなんだ。

 だってここは、ブリテンなんかじゃなくエルサレム(特異点)なのだから。

 

 

~~~~

 

 

「あのアルトリアの目的は料理長を手にいれることです」

 

 アルトリア・ペンドラゴンの襲撃から一夜明けたカルデアでブリーフィングルームに集った面子を前にアルトリア(ヒロインX)はそう告げた。

 時間を空けた理由はマシュ・キリエライトにも傍聴して欲しいとアルトリア(ヒロインX)が頼んだためである。

 料理長が拐かされたという事態にカルデアに激震が走った。

 特に同郷であるモードレッド(騎)とクロエは不在時に起きた事件であったこともあっていきり立ち、彼の作る料理に安寧を抱いていた職員達もその行方を追うために特異点の観測と平行しながらにも関わらず凄まじい勢いで捜査の手を拡げ、そしてその所在はすでに判明していた。

 そんな中でアルトリア(ヒロインX)は自身について全ての経緯を語るといい、当時その場に居た全員と料理長に関わりのあるサーヴァントを集めて話を始めた。

 

「先ずは私についてから。

 全員気付いているでしょうが私の名はアルトリア・ペンドラゴン。

 料理長が本来居るべき世界のアルトリアです」

 

 そう言いながら帽子を脱ぎ素顔を晒すアルトリア(ヒロインX)

 その中で最初に口火を切ったのはエミヤだった。

 

「先に確認しておきたいのだが、貴君はいまだ存命中との事だが確かなのかね?」

 

 カルデアの代表としてこの場に参加したロマニとダ・ヴィンチが驚く傍らアルトリア(ヒロインX)はハイと頷く。

 

「ですがそれにはちゃんと理由があったのです」

「理由とは?」

 

 モードレッドからは己がアーサー王であることを隠して接していたことが明らかにならないために生きたままアヴァロンに引きこもったと聞いている。

 

「それは、私が死ぬことであのアルトリアが平行世界から侵入することを防ぐためだったのです」

「どういう事なんだ?」

 

 聞いていた理由と違うと若干不機嫌そうに見るモードレッドにアルトリア(ヒロインX)はすまなそうに目を逸らす。

 

「モードレッド、マーリンが料理長に何をしたか覚えていますよね?」

「料理長の死後を勝手に売り渡して英霊にしたんだろ?」

「あの屑は……」

 

 平行世界とはいえマーリンは何処までいっても救いがたい真似をすると呆れるアルトリア(セイバー)

 しかしアルトリア(ヒロインX)はしかしと言う。

 

「もし、あの屑がそうしなかったらどうなっていたと思いますか?」

「どうって……」

 

 そんなこと考えたことも無い。

 だが、想像してみれば簡単に予想が着いた。

 

「まさか、襲撃してきた父上の世界では料理長が抑止に殺されたのか?」

「ええ」

 

 その答えに動揺が走る中いち早く合点が行ったとエミヤが推測を語る。

 

「つまり、彼は剪定事象の優先排除対象だったのだな」

「どういうことなのですかシロウ?」

 

 アルトリア(セイバー)の問いにエミヤは皮肉げに笑う。

 

「希に起こるのだよ。

 何らかの理由から本来居る筈の無い存在が無自覚な人理の破壊者(イレギュラー)として現れる事が。

 そういった者達は行為の善悪に関わらずその行いにより人理を揺るがすため、余程の偶然か介入が入らねば抑止はほぼ確実に守護者を用いて消しに掛かる。

 実際、抑止の駒として私も幾度か赴かされたことがある」

「お兄ちゃん……」

 

 人理を保つためだけに罪無き者を殺したことを語るエミヤをクロエが悲しそうに見る。

 

「では、料理長と呼ばれた彼もそのイレギュラーだったと?」

「はい。

 マーリンが動かなければ料理長は人理の異物として排除されていました」

「では、例のアルトリアはマーリンが動くこともなく、私が辿ったように円卓が割れてしまったと」

「ええ。

 マーリンは子細を語りこそしませんでしたがおそらくは」

「あのアルトリアはロンの槍を以て平行世界の狭間に潜み私の世界、料理長が『座』に登録された世界に侵入しようとしたのです」

「アルトリアの目的は料理長を『座』ごと連れ去ること。

 それを防ぐために私は死ぬわけにいかなくなったのです」

「どうして?」

「一つの世界に複数の同じ存在は在ることが出来ないからです。

 本物のアルトリアが二人居るという矛盾を世界は容認しない。

 最悪両方の存在が無かったことにされる。

 それを防ぐには片方が死ぬ必要がある。

 だから私は生きたままアヴァロンに入ることで平行世界のアルトリアが入ってこられないようにしたのです」

 

 隔絶した妖精郷とはいえ世界の一部。

 そこに在る限り他のアルトリアは存在できない。

 その代わりに未来永劫料理長に会えなくなるとしても、それで構わないとアルトリアは不滅を選んだ。

 

「本当にそれでよかったの?」

「料理長は既に人理の歯車に組み込まれています。

 彼を失えば私達の世界の人理は崩壊する。

 料理長が救ってくれた世界(ブリテン)を無かったことにしたくない。

 だからこそ、永劫に生きることに耐えられるのです」

 

 然り気無くアルトリア(セイバー)にダメージが入っているが努めて隠し続け問いを向ける。

 

「では、あの(アルトリア)の目的は」

「分霊の料理長を基点に『座』に居る本体を直接引き込むことでしょう」

「そんなこと不可能だ!?」

 

 あまりに無茶苦茶な目的についロマニが声を上げる。

 

「仮に『座』から本霊を引きずり出せたとしても、そのまま切り離すことなんか出来る筈がない!?」

「確かに本来なら不可能でしょう。

 ですが、人理が崩壊し抑止が動けない今ならそうとも言い切れない」

「どうして?」

 

 立香の疑問にアルトリア(セイバー)が答えに至る。

 

「そのためのロンゴミニアドですか」

「そうです」

 

 ロンゴミニアドは一見ただの神造兵器だが、それは仮の姿でしかない。

 

「あの槍は兵器の形をしていますが世界を繋ぐ錨とも言える存在。

 そして同時に人の魂を収容する塔としての使い道もあります。

 槍の中に世界を閉じ込めてしまえば人理から完全に切り離され抑止の介入さえ弾く完全な閉鎖世界となりえる」

「つまり、今の彼のアルトリアには人理が修正された後も料理長を手元に残し続ける手段があると?」

「そういうことです。

 分霊の料理長をカルデアから連れ出したのは本霊を呼び出すための器とするためでしょう」

 

 ダ・ヴィンチの憶測を肯定するとギシリと拳を握り締める音がアルトリア(セイバー)から発した。

 

「民を見捨て、只一人の男を取ったと言うのですかあのアルトリア()は?」

 

 王としての矜持も何もかも投げ出したのかと静かに怒るアルトリア(セイバー)

 平行世界の存在だからこそ、その怒りは凄まじいものがあった。

 しかし、そこに異を唱える声が上がる。

 

「……本当にそうなのでしょうか?」

 

 それはマシュが発した疑問だった。

 

「どういうこと?」

「わかりません。

 ですが、私の霊基が騒ぐんです。

 何か、とても大事な見落としがあると、そんな気がするんです」

 

 そう言うとマシュはすみませんと謝罪した。

 

「根拠もなく勝手な意見を言いました」

「いいえ。

 確かに根拠は無いかもしれませんが、確かに私達は一方的に考えすぎていました」

 

 アルトリア(ヒロインX)の言葉が真実だとしても、あのアルトリアがただその事だけで動いているという証拠にはならない。

 彼女の目的を正しく知り得て、初めて憤怒を抱くべきだとアルトリア(セイバー)は自戒した。

 

「どちらにしろ、襲撃してきたアルトリアとの邂逅はそう遠くない筈だ」

 

 指揮官として真剣な声でそうロマニは言う。

 料理長の所在は既に判明している。

 都合のいいことに、これまで観測しても不安定故にレイシフトを見送らねばならなかったエルサレムに料理長の霊基を観測したのだ。

 多少懸念要素こそ残っているが、料理長の霊基を基点として観測することでレイシフトが可能となった。

 なればこそ、カルデアはその目的を果たす。

 

「これより第六特異点へのレイシフトを開始する。

 目的は魔術王が放った聖杯の回収及び料理長の奪還。

 皆、頑張ってくれ」

 

 その指令の下、カルデアは動き出した。

 アルトリア(ヒロインX)がレイシフトに使用するコフィンが開くのを待っているとモードレッド(ライダー)が近付き不満そうに唇を尖らせた。

 

「どうして本当の事を教えてくれなかったんだよ?」

「己の不始末を貴女に背負わせたく無かったんです。

 貴女には王の責務に加えまだ幼いリチャードも居た」

「だからって、料理長にアーサー王だって気づかれたくないからなんて嘘を言わなくても良かっただろ?」

 

 そう言うとアルトリア(ヒロインX)はすいっと目を逸らした。

 

「父上?

 あんた、まさか」

「い、いいじゃないですか。

 知らなくても済むならそれに越したことはないのでせよ」

 

 最後のほうなど噛むほど早口に捲し立てるとアルトリア(ヒロインX)は開いたコフィンに逃げるように身をねじ込むと話は終わりと強引にコフィンを閉めてしまった。

 

「……そっちもマジだったのかよ」

 

 見直した後で父上はあの頃から既に拗らせていたのだと再確認させられ、モードレッド(ライダー)はやるせない気持ちになりながら自身もまたレイシフトに向かうのだった。




なお、ヒロインXの推測はマーリンの観測結果を元にこれまでの攻防から成り立った結論です。

因みにコラボはリアルに第六特異点で戦っている最中なのでどうやっても間に合わずメルトもパッションもBBもキアラも存在しません。

なお、我がカルデアでは無課金縛りが存続条件のため魔法のカードは存在しません。

次回は艦これでガングート手に入れたら投下します。

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