ようこそ、バーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
心臓や歯車が足りない殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
じゃあ、本文といこうか。
英霊にも色んな奴が居るわけだが、なんつうかこうさ、
「凄い!?
ブリテンの食材だけなのにとっても美味しいです!!」
アルちゃんは少しばかり可能性が多すぎはしないだろうか?
何があったかって?
アルちゃんがまた増えたんだよ。
それもまだ王様になる前の少女騎士と言うべき若かりし頃の。
「辛い。
若々しい輝く私が目の前に居ることが辛い」
「大丈夫大丈夫。
まだ肌は水を弾くし美容に気も遣ってアンチエイジングだって怠っていないんだから私はまだ若い」
「夢も希望も抱いていた私も今は……思えば遠くに来たものです……」
そんな若いアルちゃん……多すぎてこんがらがるから白アルちゃんの様子に同じアルちゃん'sがまた近寄りがたい雰囲気になってしまっている。
下手に個性が立ってる分悩みも各々違うらしくフォローのしようがないため放置しておく。
「それにしても凄いですね。
あのブリテンの事情でどうしてこんなに丁寧に料理が出来たんですか?」
と、本人の希望によりブリテンの食材のみで作った料理を完食した白アルちゃんはそう俺に尋ねた。
「ん?
ああ、あの頃のブリテンは調理法もそうだが、意外と使って無かった食材が結構あったんだよ」
「そうなんですか?」
「そうだぞ。
例えば牛蒡に近い食用に堪えられる木の根や茸なんかがそうだな。
ただ、茸は毒性が在るのが多かったから下手に触らなかったのは賢明だな」
「茸は怖いですものねぇ」
そう遠い目をする白アルちゃん
おそらく餓えから手を出して当たったことがあるのだろう。
「あの時はケイ義兄さんとマーリンがなんとかしてくれましたけど居なかったらどうなっていたことか」
「茸は猪に探させるといいぞ。
あいつらが喰おうとするのは人間でも大丈夫な茸だけだから」
「猪ですね!
ケイ義兄さんに相談して飼い慣らすようにします」
「それと獣や魚の骨は捨てずに煮込んでやれば栄養価も高い旨いスープのベースになるから覚えておくといいな」
「分かりました」
故郷で雑な飯に戻りたくはないとメモを始める白アルちゃん。
そんな前向きな姿におこがましいと自覚しつつ僅かでもその将来に幸があらんと願う。
と、不意に白アルちゃんの手が止まり真剣な目で俺を見た。
「料理長、『飢餓殺し』ってどう作るんですか?」
その名前に『向こう側』のアルちゃん達がざわめく。
自分の声が固くなるのを自覚しつつ俺は問う。
「それを何処で知った?」
「それがあればブリテンで飢えて死ぬ人が減らせるって聞きました」
「止めなさいアルトリア。
食い下がる白アルちゃんに槍アルちゃんが真剣な声で留まるよう言う。
「どうしてですか!?
民が一人でも救われるなら私は……」
「アレはそんな生易しいモノではないのです」
其こそが己の罪であるというように辛そうな顔でアルちゃんは言う。
「確かに『飢餓殺し』は多くの民を餓えて死ぬ事からは救いました。
ですが、代わりに多くのモノを失わせたのです」
「何を……」
その言いように慄く白アルちゃんに俺は腹を括る事にした。
「教えるのは構わない」
「料理長!?」
悲痛な叫びを上げるアルちゃん達を制し言う。
「ただし、一つ約束してくれ。
ほんの少しでいい。
一人でもあんなものを食わなきゃ生き残れないような悲惨な民を減らしてくれ」
「……分かりました」
白アルちゃんがそう頷いたのを見届け俺は第2特異点のブリタニアに赴き『飢餓殺し』に使う材料を集め厨房に向かう。
「待て料理長!?
君は自分が何をしようとしているのか分かっているのか!?」
厨房に並べられた材料からいち早く察したエミヤが凄い形相で留まるよう言うが俺は止まらない。
「あの時はこうするしか無かったんだ。
一人でもいい。目の前で飢えて死ぬ人間が一人でも減るなら俺は狂人と呼ばれたって構わない」
「……っ!?」
「なあ、エミヤ。
お前は飢えて死んだ人間を見たことあるか?
ガリガリに痩せ細って骨と皮しかない木乃伊みたいになった人間を見たことがあるか?
食うものがなくて自分の腕や足を食っちまった人間を見たことがあるか?
死んで干からびちまった自分の赤ん坊を助けてくれとすがりつく気狂いの母親を見たことがあるか?
そんなものを、助けたいと思ったらいけないか?」
「……ああ、助けたいさ!!」
悲痛な叫びを溢すエミヤ。
「私もそうだった。
救われてほしい、爺さんの救われたあの顔に、俺はずっと、こんなふうに成り果ててでも誰かが救われるならと、それだけを願って、ただ走り続けたんだ」
顔を手で隠し支離滅裂に思いを溢すエミヤ。
暫く荒く肩で息をした後、手を下ろしたその顔は疲れた老人のように見えた。
「……すまない料理長。
無様を晒した」
「いや、俺も似たようなものさ」
嫌となるほど繰り返した作業を手が勝手に進めるのに任せ俺は口を歪める。
「だけどさ、アルちゃんを、いやアーサー王を恨んじゃいけねえぞ。
あの時のブリテンはそうしなきゃ全部がそうなってしまうぐらい追い詰められてたんだ。
腐った大木が倒れないよう、一日でも長く滅びないようにって弱い枝葉を削って遣り繰りするしか方法が無かったんだ。
怒らないでやってくれ」
『おい!? またアルトリアが首を吊ってるぞ!?』
『今日に限って何で三人並んでぶら下がってんだあいつら!?』
そう言った直後、エミヤが口を開く前に廊下からそんな怒号が飛び込んできた。
「……」
「……」
さっきまでの重たい空気が一瞬で別の重さに変わった気がする。
「……取り敢えず回収してくる。
料理長、貴方こそあまり気負わない方がいい。
貴方の願いは決して間違っていないのだから」
「ありがとよ」
厨房を飛び出したエミヤにそう礼を述べて俺は『飢餓殺し』を完成させる。
その後、やはり俺達のやり取りを聞いていたらしい白アルちゃんは泣きながら『飢餓殺し』を堪えきれない吐き気と共に完食し、こんなものを作らなくてもいいブリテンに必ずして見せますとそう宣った。
必要もないのに他のアルちゃん達まで『飢餓殺し』を食べていたことも追記しておく。
しつこいと思われるでしょうが報告も兼ねて投稿しました。
現在第六特異点編を書いているのですが、新しい表題を作らず此方に新しい章を作って投稿することにしました。
予定では前中後結オチの五編程度になる……はず。
-追記-
コメント欄で皆様のSAN値がガリガリと削れているので飢餓殺しについて一部材料を明記します。
先ず、二本脚の羊()の肉は絶対使いません。
主に虫、土、雑草、骨等食べるという選択肢に入れようのないモノをメインに後は……血の栄養価は高いんですよね……