料理EX。
食材をどれだけ美味しく調理できるかのスキルである。
正確には少し違うらしいが俺はそう認識してる。
そして今、珍しくそのスキルに感謝していた。
「甘くて美味しい!!」
「とても甘くてかわいくて素敵よ!!」
本当はあまりデザートは得意ではないがスキルのお陰でプロのパティシエ並みのケーキもお手の物。
そう嬉しそうにケーキを食べる幼女二人の姿を作り出したのだから感謝するしかあるまい。
ジャック・ザ・リッパーとナーサリー・ライムという超危険物に分類されるサーヴァントだと言うことに目をつむればだけどな。
実際にその脅威を目の当たりにして無い俺にはナーサリー・ライムの危険性はピンと来ないが、少なくともジャック・ザ・リッパーの名を冠している娘が超危険物というのは分かる。
まあ、そんなことはどうでもいいんだがな。
子供が俺が作ったケーキを笑顔で食べているという事実の前では些事である。
言っとくが俺はロリコンではない。
どちらかと言えば笑顔がかわいいタイプのカルデアに居るサーヴァントで言うならブーディカみたいなタイプが好みだ。
「ジャンヌも来ればよかったのに」
「仕方ないわよ。
イベント前にオルレアンを突破できなかった新参なんだから」
「君は何を言っているんだ」
とてつもない爆弾を放り投げた気がするぞおい。
「ケーキ屋さんおかわり!」
口の回りをクリームでべたべたにしながらジャックがおかわりを要求する。
「ケーキ屋さんじゃなくて料理人な。
何がいいんだ?」
「苺のケーキ!」
「私はチーズケーキをお願いします」
口の周りを拭いてやり俺はいっそ気の済むまで食べさせることにした。
だがオルタ。貴様は食事制限だ。
「紅茶のおかわりは?」
「「飲む(わ)」」
「はいはい」
これで三個目なので止めさせるべきなんだろうが、どうにも止められん。
ちなみにイギリスでケーキと言えば日本のふわふわなスポンジケーキではなくパウンドケーキよろしくがっつり重たいスポンジを使う。
どうでもいい余談だがブリテンの頃はティータイムには可能な限り麦の消費を抑えるために麦から絞った糖を大量の重曹でカルメ焼きにして提供してたっけ。
糖分だけだから当然腹持ちは最悪で麦糖に大量の重曹のと甘さはあんまりなく評価はさほど芳しくなかったが、胃が疲れ果てた兵士からは好評でパンよりも長期保存が効くから携帯食にと広まったんだったな。
「お待ちどうさま」
エミヤ監修のセイロンと供にイギリス式苺のケーキとチーズケーキを目の前に並べてやれば二人は見た目相応の童となって歓声を上げる。
そのまま傍を離れた俺は苦笑しながら天井を見上げる。
「態々天井に張り付く意味が分からないんだがアルちゃん?」
見上げた先には懐かしい少女の姿。
ただしその服装は短パンジャージにマフラーと色々突っ込みどころが満載である。
「私はアルちゃんではありません。
私は謎のヒロインX。
コスモリアクターが導くままに貴方を警護する暗殺者です」
……相変わらずはっちゃけてるな。
彼女はカルデアに来て数日が経った頃に厨房で盗み食いしていたのを見つけた日からいつもこうして俺に張り付いているのだ。
因みにサーヴァントを含む他の誰かが居る時は絶対に姿を現さない。
顔を隠しているけど帽子を突き破ってる髪の毛とかどう見てもアルちゃんである。
というか謎のヒロインXって名前じゃないよな?
ちなみにアルちゃん呼びしている理由は初見で思わずアルちゃん呼びして否定しなかったから。
その後すぐに自分は謎のヒロインXだと自称しかなり痛い設定を羅列していたが。
余談だがサーヴァントとしての自分のステータスを確認したさいに彼女についても調べてみたが、少なくともカルデアに彼女の物と思える霊基は登録されていない。
まあ、実害はないしオルタと違って飯にケチは付けないので何も問題はない。
というか雑なハンバーガーが食いたいなら自分で作れ。
俺に作らせるなら文句を言うな。
「賄いはいつものとこに用意してあるからな」
「感謝します料理長」
そう言うとSFチックに姿を消すヒロインX。
ほんと、彼女は何者なのだろうか?