Fate/Meltout   作:けっぺん

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最近凛が兄貴連れてるのみると「あれ?」って思うようになってきた。
自分の作品に影響されるのは果たして良いことなのか。


Gold Trash.-3

 

「マイドオオキニ。所有サクラメント、一厘残らず回収させていただきました」

「……」

 ただでさえ少ない小遣いを根こそぎ奪っていった眼前の騎士に、無言の非難を向ける。

 だが、ガウェインはそれを意にも介していない。

「レオ、このような金額になりましたが」

『……シケてますね。まぁ良いでしょう。戻ってください』

「はい。さもしい金額ですが、帰還します」

 散々言って、ガウェインは去っていった。

『これは酷い』

 白羽さんの、心底から思っているだろう呟きが聞こえる。

『酷い? 何を言っているんですか。貸した金額とは程遠い額で妥協しているじゃないですか』

 何て恩着せがましい……レオが気付いたことを先に伝えていれば、こんな事にはならなかったものを……。

 確かに今徴収された金額はレオから借りた金の十分の一にも満たない。

 しかしこの言い方はあんまりではないか。生徒会のヒエラルキーの最上層は悪魔なのか。

「ハク。復讐は後で。今はリンが先よ」

「……え、あぁ、うん。別に復讐しようとしてる訳じゃないんだけど」

「何言ってるのかしら? やられたらやり返す。当たり前でしょ。いつかあの王様に目に物見せてあげましょう」

「……」

 聖剣の真名解放の一撃を、ガウェインは上方に逸らす事で当たらないようにしていた。

 その辺りの配慮がある事に驚きつつも、メルトはその事実を根に持っているらしい。

 ……何となく察する。メルトの内心秘めた怒りを。

 情けを掛けられたことだけではなく、極普通に取り立てに対しても腹を立てているようだった。

 それに異論を唱えるつもりはない。元より僕自身、そのつもりだ。

 いつかレオに何かしらに仕返し――と言っても悪戯程度だが――をしたいというのには賛同できる。

 だがそれでいいだろうと片付けようとしても、何だかんだで自分も割合根に持つタイプらしい。

 どうにももやもやとした気持ちが晴れない。どうするべきか。

『白斗君、考え込んでるところ悪いけど、凛ちゃんが来るよ』

 と、そんなタイミングで白羽さんが伝えてきた。

 見れば、先ほどカルナが開いた通路を凛が走ってきていた。何かあったのだろうか。

「――あ、居た。どうかしたのかしらハクト君。ランサーが帰ってきたのにいつまで経っても来ないから不審に思って来ちゃったじゃない。あ、勿論心配になったとかそういうコトじゃないわよ?」

 あれ、またテンプレーションだろうかとも思ったが、そのSGは既に取得している。つまりこの階で手に入れるべきSGは別の物だ。

 それはともかく、凛の不審はもっともだ。

 道を開けたのならすぐに来ると思っていたらしい。実際そのつもりだった。

 まさか円卓の取立て屋と追いかけっこをしていたなんて思いもしないだろう。

「ま、いいか。とにかく、期待通りの行動ありがと、マイ・スウィート・ワーキンアント!」

『もう英語でも何でも無いッスね。頭ン中ぶったるん(ドル)ッス』

 いつの間にか様子をモニターしていたジナコについては突っ込まない。

 生徒会から何も突っ込みがない以上、許可を得ているのだろう。

 しかし――ワーキンアント。働き蟻(ワーキンアント)と来たか。

「……」

「あら、どうしたのよ。言っとくけど、私だって辛いのよ? ディーバの奴ってば、大きなバスルームが欲しいって言うもんだから。お金が掛かるのなんのって」

「……ディーバの、為なのか?」

「そういう事でもないけどね。ぶっちゃけちゃえば関係ないわ。私、単にお金が好きなだけだもの」

「――」

 サーヴァントであるディーバの為――だったらまだ納得出来なくも無い。

 だが、ランサーを使ってまでのごり押しの集金術。それが凛の欲を満たすだけの物だったとしたら。

「お金はあればあるだけ良いじゃない。贅沢する気はないわ」

「お金が好きなだけって事?」

「そう! 自分でもどうかと思っちゃうけど。山のようなお金を見るときゅんと来るわ。今まで誰にも言わなかったけどね」

 あぁ――と、何となく理解する。

 凛に巣食う二つ目の秘密。この階のウォールを破るためのSGを。

「まぁそういうワケだし? また課金お願いね?」

「――は?」

 凛の言葉と同時に現れたのはランサーと、通常の敵性プログラム――いや、幾らか改造が施されているか。

 そして再び、トラウマと言っても過言ではないATMが出現した。

『指定サクラメント・100000smを振り込んでください』

 ま た か 。

「進むにはこれが必要でしょ? この先の通路だけど、一回振り込めばプログラム、二回でランサーを退かせてあげるわ」

 しかも計200000smときた。

 進まなければならない以上、これを利用するしかない――僕を利用したこの方法に味を占めたらしい。

 ランサーは非常に不服そうだ。最初に契約した時はこんな役目を負うとは思わなかっただろう。

「そんな顔しないでほしいわ。私も苦しいのよ?」

 何をいけしゃあしゃあと……満面の笑みを浮かべて言われても、一切同情できない。

 寧ろ湧き上がってくるのは――先ほどから募り募った怒りだった。

「な――痛ッ!? ちょ、またこの痛み!?」

 最早罪悪感云々を感じる事もない。疼いていた左手の術式に身を任せる。

 五停心観。この探索の最重要課題であるSGは既に理解できていた。

「メルト、プログラムを!」

「え、えぇ……!」

 メルトに指示し、凛に向かって走る。

 ランサーは動く気配はない。この結果を望んででもいたのだろうか。

 メルトによって蹴り飛ばされたプログラムに弾丸を撃ち込み粉砕する――心なしか、威力が上がっている気がする。

「この――」

 そして減速する事無く凛に手を伸ばし――

「金の亡者――――!」

「きゃあああああああ!!」

 心の底からの叫びと共に、秘密を引き抜いた。

 言い方は他にマトモなものがあるだろう。

 だがどんな呼び方をするにしろ、お金に執着する凛の秘密は『拝金主義』に要約される。

「う、嘘……! またプロテクトが……!」

 SGが散っていくとウォールが砕ける音が遠くから響く。

 これでまた、目標を一つ突破できた。その代償は決して小さくはないが。

『金を巻き上げられた怒りか……人間の底力を見た気分だな』

『ってか元々レオ君のせいだよね?』

『HAHAHA、何のことやら』

『人の戦闘能力は……怒りであそこまで引き上げられるものなのか。この結果を予想していたのだとしたら、ハーウェイ次期当主も侮れないな』

『いやダンさん。別にレオ君そこまで考えてないと思うけど』

 外野は放っておく。ちなみにレオが原因だというのは正しい。

「ランサー! 何で止めなかったのよ!」

「すまない。何故ここまで執着的に金銭を求めるのか考えていた。差し支えなければ、答えてもらいたいのだが」

 遠まわしに凛を否定していないかこのランサー。

 凛はそれを、顔を真っ赤にして聞いていた。

「――う、うるさいうるさいうるさい! こうなったらディーバ! 貴女の出番よ!」

 やけっぱちな声色で凛はディーバを呼んだ。

 昂った気持ちを落ち着ける。集中せずして勝てる相手ではない。

 大きな戦力差。このタイミングで勝つことが出来るのか。難しいが、ともかく戦うしか――

『――バカじゃないの? 今すぐとかお断りよ。お肌のお手入れは必須項目。バスタイムは労働時間外(オフ)の筈よ?』

「……」

 戦う、しか――

『それよりリン、バスの血が残り少ないわよ。一度使った血は二度と使わないって言ったでしょ。早く補充して頂戴』

 そして、通信は切れた。

「……何で……また、こんな終わり方なのよ――!」

 なんというデジャヴ。一階の時とまったく同じように、叫びながら凛は消えてしまった。

 あれもまた欲心(エゴ)なのだろう。残ったランサーが小さく溜息を吐いたのを見逃さない。

「……感謝する。元、とは言えああも血迷ったマスターを見ているのは心苦しかった」

「い、いや……やらなきゃならなかった事だし」

「そうか。それと、すまなかった。返すことは出来ないが、どうかリンを許してやって欲しい」

 ランサーの切実な謝罪。彼の正体を知らなくともこれだけで高潔な英雄だと分かる立ち居振る舞い。

「あぁ……うん。構わないよ。でも、ここから先も僕は進まなきゃいけない」

「だろうな……リンの迷宮は次の階が最後だ。来るのならば、リンも本気になるだろう。或いはオレもお前たちに槍を向けなければならないやもしれん」

 静かな宣戦布告を受け取る。そして、次の階が最後。

 つまりは凛との決戦が待っているかもしれない。そうなれば、凛に従っている以上ランサーを使わない筈もないだろう。

 それは予期していたことでもあるし出来ればそうならないでほしいと思った結果だ。

 だが逃れられないというのなら、全力で。凛をマスターとして正気に戻せるように頑張らなければ。

 伝えたいことを伝えきったのかランサーは転移していった。この場にはもう僕たちしかいない。

『お疲れ様でしたハクトさん。では帰投を。しっかりと休みを取ってください』

「……分かった」

 今日はもう休む。それはいい。だが一つ問題がある。

『おや、どうしました? 元気がないですね』

 この階での出来事を通して、今後レオとどのように関わっていけばいいのか。

『いや、レオ君が原因でしょ。後ガウェイン君』

「ううん。大丈夫だよ。うん。大丈夫。もう気にしてないから」

 取り繕っているのが誰から見ても明確だろう。

 でも――正直傷心している。早く帰って休むとしよう。

 

 

 個室に戻ってきて十分あまり。

「……ハク、いつまで落ち込んでるのかしら」

「……別に落ち込んでないけど」

 ――絶賛、傷心中だった。確かに、これほど落ち込むような被害を受けた訳ではない。

 だが思った以上に金を強奪されるというのは精神的に来るものがあり、どうにも僕はそういった事に弱いらしい。

「結果的にリンのSGを取れたじゃない。お金はまた稼いでいきましょう」

「――あぁ、そうだね」

 その通りだ。今回のことは教訓として受け入れよう。

 結果だけを見ればSGを取得し、目標を一つ達成できたのだ。

 それに、ランサーから「次の階が最後」という情報も得る事が出来た。そう考えれば十分だ。

「よし。また明日から、頑張ってこう」

「その意気よ。さて、休みましょう」

 時間の概念が存在しなくとも、「明日」という言葉は迷宮攻略と休息を交互に行う上では心の休めになる。

 正しくは体感時間で約七時間後。それまでしっかり休んで――

 

 バチリ。

 

 火花が飛ぶような音が聞こえたのは、そんな時だった。

 その後続けて二、三回バチバチと音が鳴る。

「メルト!」

「……はぁ」

 臨戦態勢を取る僕だが――メルトは呆れたように溜息を吐いたまま動かない。

 この場合何者かの襲撃と考えるのが普通なのだが……

 そして、次の瞬間扉が開かれた。

「お、まだ起きてた。良かった良かった」

「あの……やっぱりこの開け方、いけないんじゃ……」

 さも当然の様に紫藤 白斗の個室に入ってきたのは、白羽さんとリップだった。

 それと後ろにユリウスも来ている。何かあったのだろうか。

「気にしない気にしない。それよりも」

「いや、気にするんだけど」

 白羽さんが何か話を切り出そうとしたが、突っ込まずに入られない。

 そもそも、どうやってこの個室に入ってこれたのだろうか。

 プライベートもクソもない。こんな荒業を使われては、おちおち休みも出来ないではないか。

「ここは個室の筈なんだけど。どうやったんだ?」

「えっと、リップが」

「し、シラハさんに“こじ開けて”と頼まれました……」

 犯人はリップ――だが首謀者は白羽さんらしい。何かしら言い繕うとしたのだろうが、それをリップに封殺される。

 だが、驚くべきは力ずくでロックを破壊できるリップの力か。あの爪はどうやら侮れないもののようだ。

「あぅ……」

「まぁいいや……それで、どうしたの?」

「えっと、さ。これは私個人の疑問なんだけど」

「うん」

「何で桜ちゃんの制服って表のままなのかな?」

「……え?」

 ぶつけられた心からの疑問。しかしどう返せばいいのか分からない。

 そもそも今まで疑問にさえ思っていなかった。そういえば僕も含めた学生の役割(ロール)を与えられたマスターとNPCは旧校舎にマッチする黒い制服へと変わっている。

 だが桜だけは、変わりない表側の制服姿だった。

「……あれ、気付いてなかったの?」

「……今気付いた」

「うわぁ……」

 白羽さんの冷たい視線が向けられる。何故だ。

「じょ、上級AIの制約みたいなものじゃないか?」

「それは無いんじゃないかな。裏側(こっち)につれてこられたNPCには上級AIも居るけど、制服は変わってたよ」

 そうなのか……つまり、白羽さんは何が言いたいんだろうか。

「という訳でさ。桜ちゃんに旧校舎用の制服をプレゼントしてあげようよ」

 なるほど……それは良い案かもしれない。

 生徒会のメンバーとして、今のところ桜にしてあげられたことが何も無い。

 そして桜も同じ生徒会の一員なのだ。同じ制服を着るのが自然だろう。

「――うん。それが良い。だけど……」

 二つ、問題がある。一つはその制服をどこから調達してくるかだ。

 僕は目が覚めた時、自動的にこの制服に変わっていた。他のメンバーもそうだろう。

 つまり、どこでこの制服が手に入るのか分からない。

「制服が手に入る場所でしょ? 言峰君に頼んだら“すぐに仕入れよう”って言ってたよ」

 何者だあの神父は。というより、あの鉛のように重そうな腰をわざわざ生徒会の為に上げたというのか。あの神父が。

「とにかく! プレゼントするなら私より君の方が適任だし。買いに行ってあげなよ」

「……? なんで僕が適任なんだ?」

 提案したのは白羽さんなんだし、手渡すのも彼女の方が良いと思うのだが。

「……君ってホント、時々アレだよね」

 またしても向けられる冷たい視線。まったくワケが分からない。

「はぁ……まぁいいや。とにかく君が適任なの」

「は、はぁ……だけどさ。僕、お金ないよ」

 これが二つ目の問題。現在の所持金はゼロである。

 レオに巻き上げられたものを踏まえても、制服一着買えるには至らないだろう。

「あ、それは大丈夫。じゃなきゃ提案しにこないし」

 そういって白羽さんが一歩下がると、ユリウスが近づいてデータを渡してきた。

 サクラメントだ。それも、かなりの額の。占めて――200800smと言ったところか。

「キザキにしつこく乞われてな……()()()()()からお前への投資と思え」

 どうやら、ユリウスが金を融通してくれたらしい。

 だが一つ気になる点。

 何故「俺からの」ではなく「ハーウェイからの」と表現したのだろうか。

 ユリウスもその言葉選びは考えての事だろうし、導き出される答えはただ一つ。

「……レオの、か?」

「…………他言はするな。一切の証拠は残っていない」

「……」

 なんて事を。バレたら先ほどの取立て以上の恐怖が待っているだろう。

 ユリウスを信じて――いいのだろうか。

「ところで、制服って100000smだったよね? 何で二着分? それと端数の800smって何?」

 白羽さんの質問に、ユリウスは答え難そうに目を逸らす。

「……レオの好き勝手の慰謝料だ。お前の心労になったのは事実だからな。残りは……」

 レオが取るべき、当然の責任だ。ユリウスはそう考えているのだろう。

 だとすれば、ユリウスの良心である。受け取っておいても罰は当たらないと思う。

 だが、残りは――

「レオの暴走は俺にも責任があるからな……俺からの出来る限りの投資、俺の小遣い(ポケットマネー)だ。なるべく有効に使ってくれ」

 つまり、この800smはユリウスの所持金らしい。

 だが、レオの兄だというのに額が――なんて考えないほうが良いだろう。

 思うにこれはユリウスの『全額』だ。ハーウェイの重圧の犠牲となったのは僕だけではないと知り、何とも居た堪れない気持ちになる。

「ま、まぁいいや……さ、行っといで。私たちはお仕事に戻るから」

「お前はもう、寝るのだろう」

「あは、バレた?」

 何と無い、二人の気遣いなんだろう。

「……二人とも、ありがとう」

 僕はそれに、素直に感謝することにした。




Q.トラッシュ&クラッシュ無いんじゃないの? 鍵壊せなくね?
A.怪力とコードキャストによるごり押しです。
まぁ、そんな訳で200800sm入手です。800smの出番は多分無いです。

CCCで壊れた太陽の騎士ガウェインさん。
そんな彼のビフォーアフターをどうぞ。
スキル・円卓の刻印
「その呼吸を乱す…!」→「その財布を奪う…!」
スキル・精霊の加護
「その鎧、貫かせていただく!」→「年貢の、納め時です!」
スキル・忠義の剣閃
「全て我が王の為に!」→「いいから、払うのです!」
スキル・聖者の数字
「午前の光よ、善き営みを守りたまえ!」→「午前の光よ、借金を返したまえ!」
宝具『転輪する勝利の剣』
「この剣は太陽の映し身、もう一振りの星の聖剣!」

「この剣は太陽の映し身、且つ負債を回収するもの!」
……はい。大変ですね、太陽の騎士も。

↓もう台詞じゃなくても良いや予告↓
正にサラリーマンが着込みそうなものであり、七三分けにしてこれらの装備を着込んだ言峰を想像して思わず吹き出しそうになる。

ではまた次回!

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