Fate/Meltout   作:けっぺん

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メルトはともかく、本編で出ない他の方々はどう扱うか。
ルートがどうなるにしろ、重要ですよね。
トワイスとかも出してみたいんですけど、無理があるし…
大変だとは思いますが、そういうのを考えるのが凄く楽しいです。
好きなキャラだけ引き立てるんじゃなく、全員に出番を作らせる最強のCCC。
きっとそんな作品を目指してるんだと思います(適当)



Escape From New Moon.-2

 

 

 薄暗い空間。

 目を覚ましたのは、その内部だった。

 感じ取れるのは、鼻腔に刺さる血の臭い。

「ハク、気付いた?」

「メルト……」

 傍に居たメルトを確認する。

「ここは……?」

 どうやら、旧校舎ではない。

 意識が無くなる前の状況と照らし合わせると、恐らくここはサクラ迷宮の中。

 しかし入り口のようなものは見られないし、アリーナのような広さもない。

 どちらかと言えば、アリーナ内に作った部屋と言った方がしっくりくる。

 牢獄。そんなイメージの部屋には僕とメルト、そして巨大な異物――この場合、異物は僕たちかも知れないが――が一つ。

 人が一人入れる程度の大きさの箱。その内部には無数の棘。

 入った者を串刺にする、見るだけでそうと分かる処刑道具。

「これは……」

「アイアン・メイデン……鉄の処女と呼ばれる拷問具ね」

 そんなものがある場所に捕えられているという危機。

 間違いなく、僕たちを月の裏側に落とした何物かの仕業だろう。

 状況を整理しつつ考える。

 意識が無くなる前に聞こえた、幼さの残る少女の声。

 それはノイズに飲み込まれる前の校舎でも聞き覚えのあるものだった。

 黒い空に現れた巨大な単眼。あれの持ち主だろう。

 あれが黒幕とは言い切れないが、何かしら関与しているのは明らかだ。

 それによってここに捕えられていたとしたら、今の状況は裁きを待つ死刑囚も同じ。

「出られないかな……?」

 扉に近付き、罠が仕掛けられていないことを確認する。

 しかし、やはりと言うべきか扉は開かない。

「止めておけ。まだ出ない方が身の為だ」

 扉の外から聞こえる、男性の声。

 そして声の主は、僕たちに姿を見せるように扉の横から現れた。

 白銀の髪を好き放題に伸ばし、その幽鬼のような身体は槍に似た手甲くらいしか目立つ鎧はない。

「……ランサー?」

「ふむ。オレのクラスが知れていたか。リンの弁は間違ってなさそうだな」

 メルトが呼んだ名に、記憶が呼び起こされる。

 聖杯戦争で知り合った一人の少女が連れていたサーヴァント、ランサー。

 ガウェインに匹敵、或いは彼を超えるトップクラスの実力を持つ英霊だ。

 確か、真名は――というより、以前見た際にはなんと言うか、もう少しゴテゴテとしていたような……

「ランサー、何をしているの?」

 記憶を探っていたところに、ランサーとは別の、聞き覚えのある声が聞こえた。

 それは紛れも無く、ランサーのマスターである少女のもの。

「リン、どうやら目を覚ましたようだ」

「あら。意外と早かったわね」

 扉の前に現れたのは遠坂 凛。

 全員が敵である聖杯戦争において、事あるごとに手を貸してくれた少女だった。

「ハクト君、気分はどう?」

「凛……僕は大丈夫だけど……ここは?」

「どこだと思う?」

 そんな凛の言葉に考えを巡らす。

 意識を失う前の状況。それからして、やはりサクラ迷宮の内部以外とは考えられない。

「……サクラ迷宮の内部、か?」

「……ふうん、サクラ迷宮……そんな名前なのね、このアリーナ」

「あくまでも生徒会で名付けた仮のものだけど……」

「生徒会?」

 そう。どんな理由にしろ、凛がここに居るのならここから出て、生徒会に協力して欲しい。

 何故アリーナの内部に居たかは分からないが、レオの話によれば凛は旧校舎にはいなかった。

 つまり、最初からこのアリーナにいたというのが妥当だ。月の裏側にいるという今の状況も知らない可能性が高い。

 凛も優勝候補たるマスターの一人であり、聖杯戦争という戦いの場で知り合った友人だ。一緒に脱出するべく、僕の知っている全ての情報を話す。

「――へぇ、レオもいるのね」

 話し終えた後、凛はそう呟いた。

 まるで、この上なく面倒な事を知ってしまったかのように。

「……凛?」

 思考を不安が支配していく。まさかとは思うが、いや、そんな筈はない。

「なら尚更、準備をしておかないと。ランサー、あの子はもう大丈夫だから。しっかりと監視しておいてね」

「……了解した」

「ッ――!?」

 髪を掻き揚げながら凛は踵を返す。その口元に不敵な笑みを浮かべながら。

「あぁ、ハクト君、協力感謝するわ。お礼に無期懲役は勘弁してあげる。レオを仕留めたら解放してあげるわ」

「凛!」

「それと、どんな手段で来たにしろ人の心にずけずけと入ってくるのは感心しないわね」

 呼びかけに応じることなくそれだけ言うと、凛は去っていく。

 残るは、感情の読めない無表情を貫くランサーのみ。

「……メルト、一体……」

「リンは敵って事よ。分からないの?」

 分からないのではない。信じたくないのだ。だが、凛はレオを仕留めると言っていた。

 信じざるをえない。つまり、このアリーナの主は凛であり、凛が全ての黒幕なのか?

「……ランサー、ちょっと良いかしら?」

「オレに出来る事ならば。先に言っておくが、ここから出せと言われても応じることはできない」

「それはまた後にしておくわ。貴方――契約はどうなってるの?」

 メルトの問いに、ランサーの目が少しだけ見開かれる。

 問いの真意は僕も分からない。

 ランサーは凛のサーヴァントであり、彼女と契約していたのは記憶に残っている。

 ゆえにこの問いには意味などない筈なのだが――

「――気づいていたか」

 ランサーはその問いの意味が分かっているように答えた。

「貴方は現在、マスターの居ないサーヴァント。間違いないわね?」

「お前の察する通りだ。リンとの契約は断たれている。今はこのアリーナに存在する魔力で現界している身だ」

「契約が……?」

 凛との契約が途切れている。ランサーはそう言った。

 となると、今の凛はなんなのか。サーヴァントを連れていないマスター――ガトーとは違い(彼の言葉を自分なりに解釈したものだが)サーヴァントから契約を切った訳ではないだろう。

「今のリンのサーヴァントは誰? どうせ何かしらと再契約してるんでしょう?」

 僕たちにとって「敵」である凛は、別のサーヴァントを連れている。何らかの理由でランサーを切り捨て、再契約をしたらしい。

「あぁ、真名までは掴めんが――歌姫(ディーバ)、そう名乗っていた」

 歌姫(ディーバ)。それがクラス名であるとするならば、通常の七つのクラスとは違うエクストラクラス。

 名前からして、恐らく歌で名を馳せた英雄。凡そ凛が、この強力なランサーを捨ててまで契約するほどの英雄とは思えないのだが……

 

「――角と尻尾の生えた、さぞ異形の反英雄なんでしょうね」

 

 その歌で名を馳せたであろう英雄を、何故メルトが心当たりがあるのか。

「その通りだ。知己なのか?」

 そして何故当たっているのだろうか。

「私が個人的に知ってるだけね。それで、契約を切られたのに何で貴方はリンの言いなりなのかしら?」

「求められたら応える、そういう性分でな。リンはオレの担い手だった。オレがここに居る理由はそれだけで十分だろう」

 凛は他のサーヴァントと再契約して尚、ランサーに役割を与えている。

 そしてそれを、ランサーは良しとしているのだ。高潔さや忠義、そんなものでは計り知れない度量。

 確かに僕の記憶が正しければ、ランサーは相手を尊重し第一に考え、自分の意見は二の次にして事を進める性分だ。

 とは言え、ここまでとは。契約が切れても凛から頼まれた以上断るつもりはないということか。

「……リンの今の立場が悪、そう言っても動く気はないんでしょうね」

「すまない。オレは信ずる道において、悪に阿る事に反感は持たん。それがリンの為ならば、槍として仕えるまでだ」

 ランサーは確固として、その意思を崩さない。

 あまりにも英雄らしすぎるその姿を前に、反抗というものが出来なくなる。

 どれだけここから出ようとする意思を伝え、言葉を並べ立てようとも凛に仕えるランサーの意思の高さを越えられる気がしないのだ。

「……はぁ。ハク、脱出は無理そうよ?」

「……うん」

「助けを待つといい。王たる少年ならば必ず救いの手を差し伸べるだろう。とは言っても、リンが命じた以上全力で妨害させてもらうが」

 アリーナに入る直前に行方不明になって、レオは果たして助けに来るだろうか。

 旧校舎には多くのマスターがいる。積極的でないマスターも居るが、今の生徒会だけでも戦力としては十分だろう。

 ――或いは、既に見限ったかもしれない。

 元より、実力のない存在。アリーナに潜れと言われても、その戦力はあの旧校舎において最弱だと思う。

 そんな存在を助けるために危険を冒してまでアリーナに助けに来るとは、合理的なレオの性格からすれば考えないはずだ。

 だが、それでもいいと思える。

 僕がアリーナに消えたことでその危険性を察して、更に準備を整えてから慎重に攻め込んでくればより安全になる。

 最早諦めるより他にない――そう思いかけたとき。

「ッ――――!」

 扉の外に居たランサーが突然槍を顕現させ、何もない空を切り払った。

 しかし、ガキンという金属がぶつかり合う音で『何かが迫ってきていた』ことを理解する。

 ランサーは自らに向けて飛んできた何かを打ち落としたらしい。

「……」

「……ランサー?」

 アリーナの彼方を見やるランサーの目はただの警戒ではない。

 ――聖杯戦争で彼の戦う時の眼差しを見たことがあるのだろう。そんな目とは明確に違うという事を憶えていた。

 警戒や敵対ではない、いや、確かにそれもあるんだろうが、あれは驚愕か。

 しかしそれで油断することもなく、二、三と続けて槍を振るう。

 打ち落とされた「何か」の一つが扉の近くに転がってきた。

 これは、矢か。何の変哲もないただの矢。

「りょく……アーチャーのものではないわね。彼だったら毒でも仕込んでくるだろうし」

 確かに、数少ない記憶を手繰りあのアーチャーを思い起こせば、その矢に毒を込めて放つのを得意としていた。

 接近戦に秀でていない彼はそうして相手を弱らせ確実に仕留めるのが常套手段だった筈だ。

「じゃあ、誰が……」

「分からないわ。だけど、ランサーの様子からして相当な使い手のようね」

 目的は不明だが、今ランサーを攻撃している誰かは、少なくともランサーが此方を一切気にせずに対応するほどの存在らしい。

 扉さえ開いていれば、今なら抜け出すことさえ可能なのかと思うほど、「誰か」に集中しているのだ。

 もう一度開けようと試みるが、相も変わらず固く施錠されている。

 そんな僕たちを一瞥したランサーは、四発目の矢を対処する。

「ハク!」

「うわっ!?」

 瞬間、メルトに手を引かれ後ろへと下がり、一歩遅れてランサーの槍から噴き出た火炎が扉を焼いた。

 邪魔な存在を下がらせるための威圧――否、そうではない。

 扉は熱の前に屈し、溶けていた。即ち自由、逃げたければ逃げろ、そんな無言の意思を、背中を向けるランサーは今の槍に込めていた。

「……出ても、大丈夫かな?」

「待ちましょう、ハク。通信を妨害していた扉が無くなったなら多分――」

『無事ですか、ハクトさん!』

「――レオ!?」

 聞こえてきたレオの声に、焦燥した心が歓喜に震えたのを感じる。

『今すぐに強制退出を行います。暫くそのままで!』

 どうやら、何とか助かったようだ。

 ランサーは何ら咎める気はないらしい。此方を見ることもなく、ただ一方向を鋭い目で睨んでいる。

「――この矢の冴え、間違いない。この運命に肯定したのはやはり正しかった。此度こそはようやく、何の制約も受けず貴公と戦えるようだ」

 溢れる喜びを隠さず言葉にするランサーは炎熱を放出する。圧倒的な熱量を持った弾丸として。

 それは途中で「何か」とぶつかり爆散――その爆発へとランサーは突っ込んでいく。

 凛の命令を無視――或いは忘却するほどの何か。それはランサーという人物を考えれば、あまりに想像しがたい。

 だが真実として、ランサーは見つけていたらしい。何よりも優先“したい”、打倒すべき強敵を。

『強制退室――実行します!』

 一体それは誰なのか。答えに行き着く前に身体が別の場所に転移する感覚が思考を支配する。

 ランサーは矢の主の正体が誰かを知っている。生前の知己なのだろうか。だが、僕ではそれに行き着けない。

 元よりランサーの真名を知らない以上、辿り着けるはずもない。

 転移の感覚に身を委ねている内に、視界が切り替わっていく。実行された術式(コマンド)によってメルト共々旧校舎へと引き戻されていく。

 そんな中で、一つだけ引っかかっていたのは、凛について。

 たったあれだけの会話だが、明確に理解できたのは聖杯戦争に戻ろうとする僕たちにとって、凛は敵だという事。

 レオたちに報告したとしてレオたちは凛の打倒を決意するだろうか。

 できれば、それはしたくない。何故って、凛が強敵で、ランサーも強敵で、きっとディーバなるサーヴァントも強敵で、今の僕では到底敵わないから――なんて話ではない。

 もっと人間的な――凛とは仲間でありたいという願望が戦いを拒んでいるのだ。

 しかし、きっと叶わない。凛と戦わなければ進むことは出来ない。

 移り変わる空間。その刹那の感情は、消えた聖杯戦争の記憶の中で凛は掛け替えのない「何か」で居てくれた――無意識にそう確信付かせてくれて、戦いたくないという不安は益々大きくなっていった。

 

 

 +

 

 

「それで、ランサー。ハクト君たちは?」

「すまない、逃がした」

 契約を切っても命令に忠実なランサー。問題ないと思って監視を任せていた。

 なのに帰ってくればこの様。謝罪するランサーだけど、明らかにその顔に後悔はない。

 嘘を吐けないランサーだが、ここまで顔に出されると文句の一つも言いたくなる。

「逃がしたって、あんだけ固いロックをハクト君が解除できるワケないでしょ――」

 そして、ただ逃げただけではないことは明白だ。何故なら、

「第一! 扉燃やしたのアンタでしょ!」

 これだけの魔術的なロックと内部からの攻撃への防御手段を用意しておいて、ハクト君と彼のサーヴァントがどうにかできる筈がない。

 扉があった場所が高熱に曝されたように爛れているのだから、犯人は探すまでも無かった。

「偶然の結果だ。だが、彼らは必ずしも捕えておかなければならない存在でもないだろう」

 そりゃそうだけど、と溜息を吐く。責任逃れ、というわけではないようだがランサーが言い訳をするのは珍しい。

 確かにハクト君を捕えていたことに深い意味はない。

 危険分子はできるだけ少ない方が良いけれど彼の実力は大したものでもないし、ランサーの力を以てすればまったく恐れることはない。

 問題は旧校舎とやらにいるレオ。アイツだけは勝てると確信できるまで準備をしておかなければならない。

 ランサーの全力と彼女(ディーバ)の全力でガウェインを倒し、レオも「強制労働」の一員に――

「それよりリン、耳に入れておかねばならない事がある」

「……何かしら?」

 思考を阻害され、素っ気無く返す。

 ランサーが仕事をほったらかしてまで重視すべきことについてだったら、確かにそれは気になる。

 彼は「命令自体は聞いていて」「偶然扉が燃えた」とでも言いたいのだろう。だとしたら、ランサーが炎を放つ原因となったのはなんなのか。

「彼らが居るらしい旧校舎だったか、そこにはかの太陽の騎士以上の英霊がいるらしい」

「――は?」

 そんなまさか。

 レオは私も聖杯戦争において最大の強敵と認識していたし、実際ガウェインの実力は全てのサーヴァントの中でも上位に食い込む筈だ。

 それを超える存在なんて考えたくもないが、ランサーの言葉に虚偽はない。

「……その根拠は?」

「このアリーナの入り口付近から攻撃してきた。クラスは弓兵(アーチャー)だろう」

 アーチャー、ねぇ。

 基本的なスペックはセイバー、ランサーと並べた三騎士クラスの中では一歩劣るがそれを補う宝具やスキルを備えたクラス。

 だが余程強力な宝具を持っていない限り、ガウェインやランサーを超えるなんて事はない筈。

 ランサーがそこまで評価する弓兵。規格外の宝具による襲撃を受けたとしても、ランサーはその主自身を評価はしないだろう。

 ランサーは襲撃してきたサーヴァントの実力を素直に賞賛しているのだ。

「それで、そのアーチャーに対する勝算はあるのかしら?」

「全ての宝具を解放すればどうにかといったところか。だが今のオレには母の鎧はない」

「……どこまで規格外なサーヴァントだってのよ」

 ランサーは宝具を考えなくとも最高スペックのサーヴァントだ。

 その上宝具を使えば全サーヴァント中でも指折りの絶対的な強者。

 そんなランサーをして、ここまでの評価。逆に言えば今のランサーではそのアーチャーに勝てないということだ。

「……対策は必要ね」

 ともかく今は当初の計画通りに進行しなければ。

 ディーバの要求も一筋縄ではいかないものだし、『あの子』の乱入というハプニングにも対処しておかないと。

 まったく、苦行ばかりじゃない。せっかく――女王になったってのに。




女の子に処女って言わせる系男子、紫藤白斗。
そんな訳で施しの英雄さんがログインしました。攻撃されてるのに嬉しそうっすね。
次回はオリキャラBの登場ですね。そして残る二人は当分先になります。

オリジナルクラス・歌姫(ディーバ)。正体については皆さんお察し。
しょうがないじゃない。施しさんと被っちゃうんだもの。

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