Fate/Meltout   作:けっぺん

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雪がヤバイ。
どのくらいヤバイって、土日含めて四連休になるくらいヤバイ。
災害の真ん中にいるとマジでワロエナイ。

まぁ、それと昨日の更新無かった事は全く関係ないんですけどね。
原因は久しぶりにやってみたときメモ2が面白すぎたからです。
気まぐれ本気モードのイベント出すのに二時間くらいセーブ&ロードしてて忘れました。すみません。


Backyard of Eden-3

 

 生徒会室を出る。

 無茶な初仕事だが、引き受けてしまった以上はしっかりと果たさなければ。

 ふと、耳に刺さる喧騒の方向に目を向ける。

 NPCならこんな大きな声を上げるほどのトラブルは起こさない筈。ならばマスターだろうと期待を込めて。

「だからぁ! あんな海入ってみろ、一瞬でオサラバだぞ!?」

「面白いじゃないか。海は荒波の方が渡り甲斐があるってもんさ」

「荒れてる荒れてないの問題じゃないんだよ!」

 赤い長髪を揺らしながら豪快に笑う女性と話している少年。

 あれは――

「慎二っ!」

「え……あ! お前、紫藤か!? 良かった……ようやく話が分かるヤツが出てきたよ!」

 慎二は此方の顔を見るなり顔を輝かせる。

 間違いない。彼は前の校舎で見た間桐 慎二その人だ。

 黒いノイズに飲まれたのが最後の光景。それが無事だと分かり、ホッとする。

「で、君もアレだろ? 気がついたらこの校舎に居たって。なぁ、出口らしきものを見なかったか?」

「いや。どこにも見当たらないよ」

「言ってるだろ? 出口はあの海の向こうにあるって」

「だからそれを渡ったら死ぬっていってんの!」

 話している途中にも、女性と慎二はコントを繰り広げている。

 その女性に少しだけ覚えがある。

 どうやら、サーヴァントの記憶も少しばかりならあるという事らしい。

 するとユリウスのアサシンの記憶を持っていなかったのが不思議だが、これにも差異があるという事だろうか。

「いいから引っ込んでろよライダー! 僕の指示無しに行動するなよ!」

「はいはい。ま、久しぶりの友人との歓談だろうし? アタシも黙っててやるよ」

 そう言って女性は姿を消す。

 そうだ。彼女は慎二のサーヴァント。クラスはライダー。

 真名は憶えていないが、確か艦を操る強力な攻撃があった気がする。

 まぁ、それはともかく、慎二もマスターの一人だ。実力も確かだし生徒会に入ってもらえれば頼もしい。

「慎二、レオの指示でここから脱出するための生徒会のメンバーを集めているんだけど、入らないか?」

「はぁ? レオ居るのか? 僕、アイツ嫌いなんだよね。余裕綽々で偉そうだし」

 真っ先に出てきたのは、レオへの非難だった。

「それに、僕みたいな天才は凡人とは組まないのさ。ゲームも人生(ライフ)も、ソロプレイが一番だよ」

 嫌という程知っている、彼のエリート思想。

 それはここに来ても健在らしい。

「レオがいなくなって僕が会長だっていうなら考えてやるよ。それまで近寄らないでくれる?」

「……そうか」

 慎二の力は惜しいが、彼が言うのなら仕方ない。

「ま、脱出なんて考える必要もないよ。何てったって、優勝候補たる僕がここに居るんだ。ムーンセルが使いを寄越さない訳ないだろ?」

 なる程、ムーンセルの助けを待つという考えもある。

 それをただ待つ。そういう選択をするマスターもいるだろう。

「分かった。でも、気が向いたら来てほしい」

「はいはい。期待はしないほうがいいよ」

 諦めて慎二と別れる。

 別のマスターを探しに行こう。

 

 

 マスターを探すついでに、校舎の探索をする。

 夕暮れの校舎はどこか物寂しい。旧校舎でありながら以前の校舎のように一般生徒の役割(ロール)を与えられたNPC達が歓談する教室は西日が照らす校庭が良く見える。

「ええい! ドイツもコイツも腑抜けたNPCのようなツラをしおって! まともなマスターは何処に消えた!」

 舞う桜の花弁と夕日のコントラストは新鮮で自然と落ち着きを感じさせる。

「嗚呼、小生はこの世界に嫌われたのか! 正に――正にっ、大・根・絶ッ!」

 しかし、ここに求めている生徒会に誘うべきマスターも見当たらない。

「エロエムエッサイムエロエムエッサイム! 我は求め訴えたり! 神仏よ、我に艱難辛苦を与えたまえ――――ッ!」

 教室を見渡しそれを確認してから、メルトに問う。

「メルト、この校舎にマスターはどれくらい居るのかな?」

「さあ? それは分からないけど、人員は選ぶべきね」

「具体的に言うと血に飢えた修羅を! 或いはより血に飢えた修羅を! ダメならもっと血に飢えた修羅を――ッ!」

 どんなマスターがいるか分からないが、やはり実力者が生徒会に入ってくれれば心強い。

「とにかく殴り甲斐のある好敵手を――このままではモンジ、癒されすぎて骨抜きになってしまいます!」

 そんな実力者を探すために教室を出て、探索を再会する。

 二階には多分、これ以上マスターは居ないだろう。そろそろ一階に行ってみよう。

「ちょぉ――っと待てぇい! そこな小僧、そのサーヴァントの気配、マスターだなっ!?」

「え?」

 思い切り開かれた扉に振り向くと、そこには屈強な男性が立っていた。

 修行僧をイメージさせる男は、先ほどから教室で叫んでいたその人だ。

 生徒会室から聞こえてきたあの声の主も彼だろう。半ば現実逃避の形で目を逸らしていたが間違いない。この男もマスターの一人だ。

「ふむむ、中々の面構え。正に地獄にキューピッドであるな! 小僧、名を何と言う?」

 あまり相手にしたくは無かったが、見つかってしまったからにはしょうがない。

「し、紫藤 白斗です」

「ふむ、良き名だ。小生は臥藤(がとう) 門司(もんじ)。あらゆる神学を走破し悉くの真理に至ったスーパー求道僧である」

「えっと、臥藤さん……」

「敬語は不要、親しみを込めてガトーと呼ぶがいい。何せここではぬしと同じ、共に戦い、共に競い合う一介のマスターよ」

 臥藤さん――もといガトーが差し出してきた手をおずおずと握る。

 求道僧と自称するに相応しい、歩いてきた修行の道を証明する多くの傷は彼の実力の高さを語っている。

 とは言え声を掛けなかったのは、確実に面倒な事になるという勘があったからだ。

「まぁ、マスターとは言ってもサーヴァントはもういないのだがな」

「サーヴァントが、いない……?」

 どういうことだろうか。

 このムーンセルにおいて、サーヴァントは戦いを代行する使い魔にして命そのものだ。

 サーヴァントがいないということは敗北したという事で、敗北したという事は――

「いや、それがな。我が麗しの神は“ショウジキナイワー”と神託を残して立ち去られたのだ」

「……」

 それ、見限られたんじゃないだろうか。

「嗚呼、かの原始黄金の女神は立ち姿すらワイルデンであった……ちなみに、ワイルドとゴールデンを繋げてみた」

 ガトーは女神とやらに思いを馳せるようにどこかを見つめる。

 女神と聞いて、何か引っかかるものを感じたのだが、恐らく聖杯戦争中何かしらの関係を持ったのだろう。

「その後気付けばこの桃色校舎にぽつんと独り。退屈と破壊衝動を持て余しておったのだ」

「あ、あぁ……そう」

 扱い辛そうな人物ここに極まれり。

 それにサーヴァントも居ないとなると、役に立ちようもなさそうな気がする。

 だがまぁ、今猫の手も借りたい状況である事にも代わりない。

 とりあえず生徒会について話し、勧誘してみる。

「マスター達による脱出計画とな。おぬしら、ここから出るつもりだったのか?」

「え? 当たり前じゃないのか?」

 ここに迷い込んだマスター達は聖杯戦争に挑むべく月にやってきた人ばかり。

 だから一刻も早く戻りたいと思うはずだが……

「小生は脱出する気はなかったぞ。……ふむ、小僧、そもさん!」

 ガトーが聞きなれない単語を発する。

 そもさん――確か、返すべき言葉は――

「え、あ……せ、せっぱ……?」

 そもさんは質問を投げかける時、そしてそれに受けて立つという意思がせっぱという言葉だった気がする。

「うむ! 疑問系なのを除けば中々に好感が持てるぞ。まぁ、それはそれとして、小僧、おぬしはここがどう見える?」

 ここ……この旧校舎のことだろうか。

「えっと……夕焼けに染まった校舎で、元居た校舎とはまるで別物で……」

「それだけであろう。小生は以前の校舎よりこちらの方が好きだぞ。桜舞う校舎、外は人外魔境のようだがこの校舎は善き思いで満ちている」

 ガトーの語りは、この校舎に囚われた者の別の見方だった。

 確かにこの校舎は、今のところ安全。

 通常の世界から切り離された月の裏側だとしても留まっている分には危険はないかもしれない。

「しかも時間の概念すらない。ここは宛ら桃源郷か竜宮城、永遠を須臾とする理想郷だろうよ。小生は修行の場は選ばん。この新天地で修練を積むのもまた良しだ」

 どうやら、ガトーはここから脱出するつもりはないらしい。

 今の言葉からすれば、先ほどの良く分からない事を口走っていた理由も理解できる。

 これでは生徒会に参加してくれる筈もないか。

「――まぁ生徒会とやらには参加させてもらうが」

「えっ」

 突拍子もない参加表明に唖然とする。

 熱弁を早速否定するような言葉だった。

「これは聖杯戦争ではないのだろう? では助けを乞われて断るは武門の恥也!」

「いやアンタさっき僧侶だって言ったじゃん!」

「ふははは! 雷光のようなツッコミ、グラッチェ! 窮すれば通ず、まさにプロビデンス!」

 あぁ――自分の勘もそこまで捨てたものではないと痛感する。

「では、荷物をまとめ次第そちらに合流する故。では、小生の活躍に乞うご期待あれ!」

「……」

 やはり面倒な事になった。

 ――こうして、生徒会最初のメンバーを得てしまった。

 

 

「ここは……職員室?」

 一階に下りて最初に訪れた部屋。

 資料の並ぶ机が幾つも置かれたこの部屋は職員室の造りだ。

 そんな部屋に立つ、老人と青年の二人。

「ふむ。この空間に関する資料は無いか。アーチャー、そっちはどうだ?」

「何にも無し。無駄に凝った教育の資料ばっかり。ゆとり教育だの何だの、教職ってのはめんどくせぇな。こんなところまでキッチリ作るなんざムーンセルも細けぇこった」

 緑を主とした軍服に身を包む妙齢の男性。

 そして同じく緑の外套を着込んで男性の補佐をする青年。

 この記憶のどこかに引っかかる感じ、恐らく聖杯戦争中に面識があったということだろう。

「で、旦那。調査は良いけど集中しすぎだ。他のマスターさんのお出ましだぜ」

 資料を置いて青年が此方を指差す。

 それに従って警戒心を持った目を向けてくる老人。

「すまない、集中していた。君もこの校舎に迷い込んだマスターの一人かね?」

「あ、はい。紫藤 白斗です」

「シドウ君か。儂はダン・ブラックモア。君と同じく聖杯を求めて月に立った者だ」

 ダンさんはその視線を穏やかなものへと変える。

 その姿は年輪を重ねた大樹を連想させるもので、その偉大さを記憶のどこかが憶えていた。

 もしかすると深い関係――対戦相手として戦っていたのかもしれない。

「それで、君はこの校舎について何か知っているかね?」

「あ、えっと……」

 とりあえず、レオたちから聞かされた月の裏側についての事情と、生徒会について話す。

 彼が積み重ねてきた実力はその戦いを見ずとも伝わってくる。

 ただ相対してるだけで感じ取れる確固たる信念。聖杯戦争の優勝候補といっても過言ではない。

「生徒会、か。マスター達が協力しここから脱出すると」

「はい。とにかく人手が必要です。力を貸してもらえませんか?」

 ダンさん程の実力者なら頼もしい。

 というより、勧誘できたのがガトーだけとなると今後の生徒会での発言権が危うくなる。

「アーチャー、どう考える?」

 ダンさんは隣に携えた青年――サーヴァントたるアーチャーに問う。

「まぁ、良いんじゃないっすか? 聖杯戦争に戻りたいってんなら、使えるもんは使っとくべきでしょ」

「ふむ。そういう事だ。シドウ君、微力ながら尽くさせてもらおう」

「っ! ありがとうございます!」

 何故だろう。初めて仕事が成功した気分である。

 いや、実質そうだろう。ガトーは勝手についてきた感じだし。

「儂はここでもう少し調べ事がある。それを片付けてから、生徒会室に向かおう」

「はい。分かりました」

 これで、レオに対して顔向けできるくらいの成果といえるだろう。

 意気揚々と、次のマスターを探しに――

「チョイ待ち。なあ少年、アンタのサーヴァント、出してみろよ」

「え?」

 突然アーチャーに呼び止められる。

「どうしたのだ、アーチャー」

「いや、野生のカンってヤツ? なーんか、イヤな予感がすんだよねぇ」

「あら。鋭いわね。記憶は無くてもその勘は一流かしら」

 メルトが出現する。

 ――何か、この二人が相対してはいけない気がする。

「あーやっぱり。オレとは確実に反りが合わねぇ(モン)持ってやがった。まさかオレ以上の毒使いなんてな」

「そうね。精々居場所を作れるよう努力なさい。罠のスキルくらいなら有用性があるから」

 それだけ言って、足早にメルトは消えた。

 挑発する為だけに出てきたのか、このサーヴァントは。

「おたく、苦労するだろ。あんなサーヴァント連れてて」

「……」

 その言葉に、どう返していいか分からないで黙ってしまう。

 そんな僕を品定めするように向けられていたダンさんの視線には、気付くことはなかった。




以前から立てていた「好き勝手」という保険の下、次に姐さんと爺が復活しました。
それに伴い日本の心緑茶がパーティ入りしました。善哉善哉。

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