Fate/Meltout   作:けっぺん

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以前活動報告で言ってたApo勢がノリで三人に増えました。すみません。
登場させるサーヴァントのヒントとして「不遇組」というキーワードだけ伝えておきます。
おいアストルフォお前じゃねえ座ってろ。


PROLOGUE-2

 

 ――検索(サーチ)開始。

 ――検索(サーチ)終了。

 

 ――一件一致。

 

 ――体格許容。

 ――性別許容。

 ――性能(スペック)不適合。

 ――能力(ステータス)不適合。

 

 ――誤差の範囲であるため許容。

 

 ――損壊箇所確認。許容。

 ――仮人格挿入(インストール)開始。

 ――擬似権能(クラススキル)付与開始。

 ――必要情報取得開始。

 

 ――仮人格挿入(インストール)完了。

 ――擬似権能(クラススキル)付与終了。正常作動確認。

 ――必要情報取得完了。

 ――適合作業完了。

 ――全工程終了。

 

 ――■■――現界を――確、ニ――

 

 

 +

 

 

 色々とありすぎた一日が、ようやく終わった。

 藤村先生が朝のことを暴露してから本当に大変だった。

 女子達はゴシップに目を輝かせ、男子達はうらやましいと明らかに負の視線を向けてくる。

 休み時間ごとに関係を執拗に聞いてくるクラスメイトの中でも慎二のそれは一際きつく、そしてそれ以上に耐え難かったのがレオの視線である。

 ゴミ以下のものを見るような生暖かい眼差しも添えられ、それが一日中続くのは思った以上に過酷であり、放課後にはいつもの数倍の疲労を感じていた。

「っ、はぁ……」

 大きな溜息を吐き、ようやく帰途につけると教室を出た時、

「――ごきげんよう」

 懐かしい声が聞こえた。

「……え?」

「ようやく目が覚めたのですねハクトさん。ですが、七ヶ月と八時間十二分の遅刻です。私は貴方を過小評価するべきでしょうか。それとも過大評価していたのでしょうか?」

 突然声を掛けてきた褐色の少女。

 纏う白衣は明らかに制服ではない。月海原学園の校風が自由だと言っても、これは許可されないはずだ。

 というか、色々と装備し忘れではないだろうか。

「聞いているのですか? 感情の起伏は穏やかな私ですが、今回ばかりは制限超えです」

「……いや、あの」

「私は貴方の健康を一憂し、貴方と私の置かれた状況に失望し、ひょっこり現れた貴方に憤慨中――然るに。今私がどのような状態なのか、言い当てる事ができますか?」

 静かな笑顔で告げる少女は問うてくる。

 彼女は端的に言えば、今凄く怒っている。

 しかし、珍しい事もあるものだ。

 あまり長くない付き合いとはいえ割と親しくしていたラニがここまでの不満を言葉にした事は無い。

 ラニ=Ⅷ。電気工学の権威として月海原学園に招かれた、超のつくエリートである。

 研究室育ちであった彼女は学生生活及び友人付き合いに不慣れだった。

 そんなラニはぶっきらぼうな性格だが、道徳性を重んじる清く正しい少女だ。

 何かと機械的なものの、話しにくい事もなくすぐに仲良くなれた、のだが。

「――何で、そんなに怒ってるんだ?」

 不思議に思い、そう聞いてみる。

「何故って……それは貴方が……貴方、が――」

「……僕が?」

「……貴方が時間を破ったのです。きっと」

「きっと!? 確信してる訳じゃないの!?」

「何故なら、私がここまで憤慨する状況は、その理由がもっとも適切だからです」

 きっぱりと、ラニは言った。

 予測でしかないというのに確信をもって告げられ唖然とする。だが、そんなラニの決定に不満は生まれる。

 何と返していいかどうにも分からないものだったが、これだけは指摘しておくべきだ。

「……ラニ自身、自分が怒っている理由が分からないんじゃないか?」

「だまらっしゃい」

「だまらっしゃい!?」

 この少女から出てくる筈のない言葉に、思わず復唱してしまった。

「繰り返しますが、私は憤慨しています。スケジュールは正しくこなすもの。改めるべき、いえ、改めさせねばなりません。それが最適かつ最善、最高の解だと思います」

 そのまま自分の世界に入っていくラニ。しかし数秒の後、

「――失礼、用事を思い出しました、それでは。次に会う時を楽しみにしています」

 何事も無かったかのように、長い髪を揺らして去っていった。

 そして、その途中、

「あぁ、そうだハクトさん。メ――」

 

 

 ――西日が目に入ったのか、眩暈がした。

「……?」

 誰かと話していた気がするが、気のせいだろうか。

 辺りを見渡しても誰もいないし、時間は既に部活がない大半の生徒が下校している時間帯だ。

 そろそろ帰るか――そう思った時、ふと窓から望む中庭に人影を見つける。

 瞬間、

「ッ――!?」

 左手の甲が焼けるような痛みを発する。

 見ると朝見た紋様が光を発していて――

 

「――あぁ、もう! どこまで底があるのかしら!? ハク、早く目を――」

 

 眩暈は、二秒ほどで収まった。

 光を無くした紋様はまたその面積を減らしているような気がする。

 激しい動悸と、胸を抉る漠然とした不安。

 何か、此処に居てはいけないとでも言うような虫の報せ。

 それは核心となって、背筋から脳まで這い上がってくる。

 普段ならたまらず走り出しているところだが、その不安より大切な事がある。

 あの声。あれは忘れてはいけない声だ。思い出さないとならない。

 ここが“居てはいけない”世界だとしても、逃げる前にその名前は取り戻さないと。

 ともかく、落ち着け。

 何かと頼れる人物を見つけたばかりだ。

 彼女と話せば、何か変わる――ないし分かるかもしれない。

 そう思い、僕は中庭に向かっていた。

 

 

「凛!」

 中庭に忽然と建つ教会を見上げていた少女に声を掛ける。

 黒い皮製のブーツに、ボディラインを強く見せる赤い服と全体的にタイトな印象のある彼女。

 しかし、月海原学園の校風が如何に自由と言っても、彼女の服装はそもそも制服ではないのではないだろうか。

「あら、ハクト君。どうかしたのかしら。そんなに焦って」

 少女の名前は遠坂(とおさか) (りん)。黙っていれば優雅極まるお嬢様なのだが、強気で自由奔放な性格が前面に押し出されている。

 普通はそういう性格は裏目に出るものなのだろうが、凛の場合はそれがない。

 成績はトップランク。慎二は自分と釣り合う唯一の生徒と一度声を掛けていたが、見事に玉砕していた。

 そんな彼女を前にして――何を思ってここに来たんだったか。

 確か重要な何かがあって、それについて聞きたかった筈だが……

 考えを巡らせ、目線を降ろしていると、

「……? 私の足に何か――って、そんなマジマジと見るな――――っ!」

「……え?」

 いつのまにか凛は憤慨していた。

 今にも掴みかかってきそうな勢いだ。

「あ、相変わらず節操の無いルーチンね! 見るなとは言わないけど、見たいならマネーよ、マネー!」

 言いたい放題である。しかし、この性格がいい方向に転がっているのが凛だ。

「まったく……敵同士だってのに、あんまり馴れ合うと良い事がないわよ?」

 敵同士。凛も妙な言い回しをする。

 テストの点数を比べあったりする仲ではあるが、敵なんて言い方をするようなものでもない気がする。

「とにかく、そろそろ本番でしょ? 私も自分の事で手一杯だから、貴方との付き合いはここでチャラよ」

 そう言って髪を掻き揚げながら、凛は立ち去る。

 その途中、

「あぁ、そうそう。絶対勝ち上がってきなさいよ。貴方とは出来るだけ、先で決着を付けたいから」

 意図の分からない言葉を残して、今度こそ立ち去っていく。

 背中を目で追っていき、

 

 

 ――西日が目に入ったのか、眩暈がした。

「……?」

 誰かと話をしていた気がするが、気のせいだろうか。

 どうにも、今日は調子が悪い。さっさと帰った方がいいか。

 心なしか頭痛のようなものも感じる。

 早足で下駄箱に向かう。少し遅めの下校をする生徒達や他愛の無いおしゃべりをする生徒で賑わっている中で、明らかな異変が一つ。

 それでいて、その大きな異変に誰も気付かない。

 夕闇の影に患わされたように蹲っている一人の少女。

 息は荒く、頬も上気している。病気なのは一目瞭然だ。

 周囲の生徒達が見て見ぬ振りをしているとかそんな次元ではない。視線を向ける者なんて誰一人いない。

 その白衣の少女を踏み越えていく者までいる始末。

「――君、大丈夫!?」

 そんな中、僕も同じように無視していける訳がなかった。

 走り寄って抱き起こす。

 白い肌に浮かぶ汗はこんな状況だろうと思わず目を奪われるほど艶かしい。

「あ……私が、見えるんですか?」

「……? ……見えてるし、触れているよ」

 よほど辛い熱なのだろう。そんな事すら分からないほど、意識は虚ろになっている。

「私……一年の間桐(まとう) (さくら)と申します。配置は保健室、管轄は皆さんの健康管理です。あの、先輩はどこの……」

「……?」

 どこの、と言われても、答えようがない。

 名乗るべき委員会にも所属していないので、とりあえずクラスと名前を告げる事にする。

「えっと、二年A組の紫藤 白斗だ」

「え……? 一般生徒の、方なんですか……? 生徒会の人たちも、気付かなかったのに……」

 乱れた息遣いのまま、桜は此方を見上げてくる。

 誰にも手を貸してもらえず、肉体的にも精神的にも辛かっただろう。

 もう大丈夫だと肩を貸す。

「――――」

 それだけの事に、桜と名乗った少女は大きく目を見開かせた。

 まるで、奇跡を見ているような一瞬の空白。

「……紫藤先輩……あの、もっとお話をしても、いいでしょうか……?」

「……うん。いいけど――」

 その前にやることがある。

 桜の体を抱きかかえ、保健室へと走った。

 

 

「……」

 保健室のベッドに桜を寝かせてから、随分と時間が経った。

 気が気でないために出て行く事も出来ない。

 保健室特有の空気は眠りを誘うものの、それを堪えつつ桜の看病を続ける。

 校舎のざわめきが遠い、穏やかな空間は体を休めるのには最適な場所だろう。

 不慣れながら看病――といっても額の汗を拭うくらいの事しか出来ないが――を続けていると、

「……ん」

 桜の唇が一際大きい吐息を零す。

 目が覚めたのだろうか。

 熱も下がったようだし、一先ず安心する。

 安堵に此方も息をつくと、目覚めたばかりの桜と目が合った。

「――おはよう、桜」

 初めてあった少女に対して、少し馴れ馴れしいだろうかと思いつつもそう挨拶する。

「……はい。おはようございます」

 桜は控えめに、けれど嬉しそうに微笑みを返してきた。

 どうやら熱も大分下がったようだ。

「良かった……夢じゃ、無かったんだ」

 安堵に込められるひたむきな感謝に、少し照れる。

 僕は介抱しただけなのだが、桜は眩しそうに此方の顔を見つめてくる。

「うん、夢じゃないよ。桜、熱は大丈夫?」

 少し照れ臭くなり誤魔化すのも兼ねて桜のおでこに手を当てる。

「ひゃっ……!」

 飛び退くように下がった桜。

「あわわ、大丈夫、大丈夫です! 寧ろ熱暴走しちゃいますっ!」

 桜の様子を見てあぁ、そうかと納得する。どうやら少し子供っぽかったようだ。

 おでこで熱を測るのは精々小学生くらいまでだろう。嫌がられるのも当然だ。

「えっと、頭痛はまだしますけど、調子は大分良くなりました。紫藤さんのおかげです」

 深く頭を下げる桜は、本当に調子は良くなってきているようだ。

「助けてくれただけじゃなく、看病までしてくれて、本当にありがとうございました」

「ううん、僕は大した事はできてないよ」

 偽りの無い真っ直ぐな感謝に、どうにもむず痒さを感じる。

 胸の温かさと、その感動を実感しつつも気になっていたことを聞く。

「桜、どうして君は倒れてたんだ?」

「……それが、私にも分かりません。校舎の雰囲気がいつもと違う気がして……」

 そして様子を見に行ったところ、眩暈を覚えてしまったと。

「生徒の皆さんに声をかけても気付いてもらえませんでした。私はここで忘れ去られるんだ、なんて本気で思っちゃうくらい、心細かったです」

 何故皆が桜を無視したのかは気になる――というより、どうかと思う。

 だが、今は考えていても仕方が無い。

「でも、桜が無事で良かったよ」

「はい。ハクトさん……いえ、先輩のおかげです。この通り、精神的に元気一杯になっちゃいましたから!」

 そんな桜の様子に思わず笑みが零れる。

「でも……あの、先輩は、何か変わった事とかはありましたか?」

「ん……? 特に、無いけど」

 いつも通りの先生と、いつも通りの友人。授業を受けて、学食に並んで、話して。

 特に変化の無い、まったく代わり映えの無い一日。

 そういう場所の筈だ。




ちなみに最初のはルーラーじゃないです。
ついでに本作の六割はノリです。

まだ……というか、完全原作沿いはここまでです。
次回は変わる日常……そしてオリキャラAが登場しちゃったり。

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