Fate/Meltout   作:けっぺん

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最終話『Fate/Meltout』

 

 

 目を覚ますと、見慣れたアトラスの一室でした。

 体は既に霊子体ではなく、今いるのは師によって作られた体そのもの。

 何があったのかの事実と記憶の照合には特に時間も掛かりませんでした。

 私は聖杯戦争のイレギュラーとしてサーヴァントを失い、一人のマスターを補佐する事に全てを懸けた。

 そのマスター――ハクトさんは聖杯戦争の勝者として聖杯に向かった筈。

 つまり、この世界は既に彼が望んだ世界への一歩を歩みだしているでしょう。

 人々がそれぞれ踏み出す世界。それへの一端を、私が担う。

 それがハクトさんにしてあげられる最後の手助け。

 だから私は、それを全うします。あの人の望みは私の望みも同じなのですから。

「……あ」

 ふと、端末に何かのデータがある事に気付きました。

 聖杯戦争に赴く前、空っぽであった端末。

 それには()()、見覚えのないデータが込められていました。

 一つの送り主。それは私の師、シアリムによるものでした。

 

『ラニへ

 

 このデータを見た時、私は既に死んでるだろう。

 なんてありきたりな始まりである事を許してほしい。

 そして、このデータを見ているということは、きっと君は聖杯戦争の勝者としてここに居る。

 もしくは、誰かに手を貸す事で自分なりの道を見出したんじゃないだろうか。』

 

「――っ」

 何故、ここまで分かるのでしょう。

 師は重い病に掛かっていて、私がムーンセルへと赴いた時には既に末期でした。

 そんな時に残したのだろうデータは、私の現状を鋭く推察していました。

 

『どちらであっても、今君が役目を全うして完成されていることを祈るばかりだ。

 私が教えることが出来なかった感情を誰かによって教えられたならば、尚嬉しい。

 さて、君が地上に戻ってきたということは、ムーンセルは人の意思で動かせるものだったという事で良いね?』

 

 それに対して、素直に頷くことが出来ました。

 ハクトさんが願いを告げた筈。

 その願いで、世界は大きく変わったでしょう。

 きっと、ハクトさんによってムーンセルは正しい選択を選べたと思っているから。

 

『後は君がアトラスの名を以て、人類を存続させるように。

 そのムーンセルを使うでも、他の方法を見つけたのならそれに頼るでも、どちらでも構わない。

 君のこれからを見ることはできないが、あの世があったら応援していたいと思う。

 最後になるが……良く戻った、ラニ・エルトナム・レイアトラシア。

 

 Siarim』

 

 師の遺した文面は、それで終わりでした。

 私なりの方法で滅びの未来を回避する。それを師が許諾してくれたことに感謝をしつつ、次のデータの送り主を見ました。

「……ハクト、さん……?」

 他でもない、私が支持した聖杯戦争の勝者でした。

 私に残してくれた最後のメッセージだとすぐに察して、気付けばその文面に見入っていました。

「……はい……はい――」

 一文一文に首肯しながら、彼の言葉を脳に焼き付けます。

 変わった世界と、その在り方、そして、私がどう動けばいいのかが書かれたそれは、決して効率的とは言えず。

 しかし、ハクトさんらしい方法でした。

「――分かりました」

 いつしか、私は自分の涙を理解できていました。

 それを拭い、ハクトさんが私に齎してくれたものの大きさを痛感します。

 感情という、掛け替えのない宝物は、生涯私に良いものを与え続けてくれるでしょう。

 全て、貴方の心のままに。私が出来る限り全力で行動して、世界を導きます。

 そしてその後――この文に書かれた最後の願いを実行しに行きます。

 貴方で無くとも、それは貴方。この在り方はきっと、誰に説明しても理解できないでしょう。

 世界は変わりました。きっと、貴方が求める形で。

 貴方の元になった人であれば、私もきっと仲良くなれる。それは、私なりのハッピーエンドになる筈です。

 そんな風に、少し違う貴方に僅かに心躍らせながら、私はアトラスを後にしました。

 

 

 

 

 +

 

 

 

 

「ハク兄! こっちこっち!」

「あぁ、今行くよ」

 男の子に従い、小走りで付いていく。

 元気なものだ。つい先日まで入院していた子とは思えない。

 この公園からさほど遠くない場所に、その病院はある。

 この子が入院し、そして僕自身が長い眠りについていた場所だ。

 ――そうか。思えばそろそろ一年ほど経つのか。

 僕は数十年前、当時治療法の無かった病に侵され、明確な治療法が見つかるまで冷凍睡眠によって保存されていた存在だ。

 病名を、アムネジア・シンドローム。

 記憶障害から始まり、やがては死に至る病らしい。

 そんなものに侵されていたことすら――思い出せない。

 というのも、治療が施された訳ではないのだ。

 突然目が覚めた。何を言っているのか分からないだろうが、僕自身理由をまったく理解できていない。

 検査を受けても体に何も問題はなかった。しかし唯一、目覚める前の全てを忘れていた。

 憶えている事は何も無い。両親も、友人も、自分自身の情報も全て、脳からごっそり消えたように忘却していた。

 医師から名前だけは聞くことが出来た。それからはその病院で検査入院の名目で衣食住を提供してもらい、病院の仕事を自分なりに手伝っている。

 その中で僕は自分の過去について調べている。

 この都市での昔の出来事。この数十年前、この辺りで大規模なテロ活動があったらしい。

 そこから復興し、今の状態になったのはつい数年前だとか。

 時間軸からして、僕がアムネジア・シンドロームに侵されたのとテロ活動の時期はあまり離れていない。

 僕が発症したのが少し前だが、それとこのテロ活動は関係がある――いや、さすがに考えすぎか。

 発祥した時の状況もさることながら、僕が目を覚ました一年前も世界は混乱の最中だった。

 その発端は、世界の約六割のシェアを管理・運営していた西欧財閥の次期当主、レオ・B・ハーウェイが死亡したことにある。

 理由は明確にされていない。だが、その事実は世界全土に混乱を呼び、現当主が動くも西欧財閥の管理体制は崩れ、管理対象であった国々は独立していった。

 それに伴い西欧財閥に剣を向けていたレジスタンスも沈静化している。

 ――そういえば、レジスタンスからは大勢の国際手配者が出ているがその中で若いながら特出した実力を持っていたという少女が死亡したというニュースも、一年ほど前だったか。

 テレビや新聞での情報だが、どうにも目を覚まして数日は大事が大きかったように感じる。これは数十年の眠りと記憶障害によるギャップのようなものだろうか。

 英国では齢六十の歴戦の兵士が女王の大命の下、殉職していた。

 レオの死の数日後に、西欧財閥の中で動いていた怪しい組織が、主要人物の死と共に解散したなんてニュースもあった。

 他には……数年間の拒食症の末に亡くなった女性のニュースもあったっけ。

 何だか、人が死んでばかりだな。どうにも凄い時期に目を覚ましてしまったらしい。

 そんな混乱は、この一年で随分と収まった。

 あろう事か、一人の少女から始まった組織がバラバラになった国に開拓を説いていたとか。

 その活動は世界中に大きな衝撃を与え、特に西欧財閥によって禁じられた宇宙への開拓が顕著であり、少女は月の研究を主にしているらしい。

 たった一人の少女によって世界は大きく変わり、それぞれゆっくりながら進歩と開拓への道を進んでいる。

 そういえば、数十年前には頻発していたらしい戦争やテロ活動は、目を覚ましてからはめっきり見ない。そんな概念、無くなってしまったかのように。

 一人の少女が発端となり、争いの無い開拓時代が幕を開けている。どうにも、出来すぎた話である。

 まるで神様が手ずから新たな理を織り込んだような。

 停滞と悪化の道を辿っていた世界を突然、進歩と開拓の道へと進ませた機械仕掛けの神様(デウス・エクス・マキナ)――そんな存在が居るのだとしたら、きっと僕が突然目を覚ましたのもその神様の影響なのだろう。

 そんな神様居る訳がない、なんて言い切れないが、話せば面白いジョークにでもなりそうである。

 崩れた西欧財閥も、その権力を以て少女と共に世界の先頭に立って開拓の道を支援していると聞いた。

 まったく本当に、神様でもない限りできないようなハッピーエンド。

 こんな時代を生きていくのなら、それは楽しい人生になるだろう。

 神様に救われた。二度目の人生を生きている。そんな気持ちで今を生きる僕はやがては開拓を手伝っていきたい。

 小さな使命感だけど、これが神様の仕業だったらその歯車のひとつである僕も、開拓というシステムに組み込まれるのが正しいはずだ。

「ハク兄! 早く!」

「っと、ゴメン!」

 きっと、こんな笑いを見せてくれる子供だって、沢山居るだろう。

 そんな世界ならば――

「お姉さん、連れてきたよ!」

「はい。ありがとうございます」

「――――え」

 運命はどこまでも、面白おかしく廻り続ける。

「初めまして、ですね。ハクトさん」

「あ……うん」

 その少女を見たことがあった。

 記憶にはない。この一年で、間違いなく初めて会った人だ。

 だというのに、何かが引っかかる。

「……君は?」

「私はラニ。世界の意思を知る者です」

 ラニと名乗る少女は突然に、突拍子も無い事を口にした。

 世界の意思――それは先程まで考えていた神様と同じ意味合いにも取れる。

 どうにも偶然ではないように思える出会いと、何故か知っている少女。

「どうして僕の事を?」

「今まで私は世界を廻りながら、貴方を探していました。貴方を知っていた人が、貴方の力を欲しています」

「知っていた……人……?」

「はい。一先ず説明の為に、付いて来てもらえますか?」

 この少女は、僕について何かを知っている。

 記憶の無い僕が、何をすべきかを知っている。

 目を覚まして凡そ一年が経ったこの日、それは大きな転機である気がした。

 どうにも説明不足な気がするが、それでも何故か信じられる。

 それくらい、この少女は信用しても良い気がした。

「……うん、分かったよ」

 だから、僕は少女を――ラニを信じる。

「ハク兄、どこか行くの?」

「うん。元気でね」

 そしてラニとの出会いは、長い旅の幕開けになる――そう確信できたのだ。

 突然出て行ったら、病院にも迷惑が掛かる。医師との話も必要だろう。その前に説明を求めて、まずはラニについていく。

「――ハクトさん」

「ん? 何?」

 ラニは空を見て儚げな笑みを浮かべながら、

「――今夜の月は、綺麗ですかね?」

 そう、呟いた。

 

 

 

 

 +

 

 

 

 

 分解までの時間は、思った以上に長く感じる。

 実際の時間にすれば、数分程度なのだろう。

 ムーンセルと接続している今、その数分の体感時間は遥かに長くなっているものの、ここまで長く感じるものなのだろうか。

 全てをやり終えて、最早聖杯に告げるべき願いも残っていない。

 強いて言えば、メルトに別れの一言くらいは掛けたかった。

 後悔になるだろう。どうにも満足とは思えない。

 ムーンセルの中枢たる情報の海に、沈むでも浮かぶでもなくただそこに居るという感覚。

 特に抱く感慨も無いが、決して心地の悪くない場所ではなかった。

 偶然と奇跡によって生まれた意思と、その意思があったからこそ出来た、異常な体験。

 その果ての景色がこれであれば、悪くは無い――そんな風にさえ思える。

 しかし、そんな異常は二度と繰り返されることはない。

 聖杯戦争は二度と再発しない。このムーンセルは以降、開拓を進める地上の人々を見守り続ける観客にして、人類が目指すべき目標となる。

 宇宙開拓の中で最初に目指されるだろうこの月。

 である以上、ムーンセルの開拓も程遠くない未来にあるのかもしれない。

 それは今度こそ、平和な形で。

 きっと、聖杯戦争とは違う、別の形で人類にとって利のある結果を齎すだろう。

 そう――これは観測機であり、同時に情報体だ。

 地上の人々が力を合わせれば開拓への更なる助けになる筈だ。

 明確な目標と願いがあって、それを目指して歩き続ければ、どんなにそれが小さくとも最後には大きな花を咲かす。

 最弱から至った僕のように、初め目標や願いが無くともそれを見つけるために足掻いてみれば、その答えはきっと見つかる。

 これから先、人類がどうなるかは分からないけれど、何の心配もない。

 変えて行こうとする人がいる。変わろうと決意する人がいる。今はまだ、変われない人がいる。

 それが人というものなのだ。いつか芽吹く種を、どんな人でも持っている。

 要因は幾らでも、周りを探せば見つかるだろう。大切な人が居て、心が在る以上、人は無限大の可能性を秘めているのだから。

 一緒に同じ時を生きて。

 一緒に同じ目標を掲げて。

 一緒に同じ道を進んで。

 いつか自分なりの大輪の花を咲かせ、完成される。

 そんな世界を、きっと作る事が出来たはずだ。

 それが僕に与えられた救い。消え行く体に、それは安らかに染み込んで――

 

「――――」

 

 ふと、何かが聞こえた気がした。

 平穏である筈の情報の海に、波紋が起きた。

 例えるならば安眠を遮られるかのような感覚が襲い、安息の中にあった意識を覚醒させる。

 何が起きたのか――状況判断を開始。ムーンセル自体に、その事実を確認させる。

 そして、見つけた。

 

 この中枢に飛び込んでくる、規格外な何かを。

 

 

 

「――――ハク!」

 

 

 とても聞き慣れた声が鼓膜を揺らす。

 その瞬間感じた、言いようの無い解放感。

 情報の海が瞬く間にその姿(テクスチャ)を変えていく。

 まるでムーンセルに接続したものの命令のように。

 変化したそこは大きな――どこかで見たことがある建造物。

 どこかで――あまり重要なものではないが、確かに彼女が喜んでくれたあの――

「良かった……間に合ったのね」

 

「――メル――ト」

 

 久しぶりに出した声は、その名を忘れていなかった。

「えぇ。メルトよ」

 唯一の後悔、別れを告げることが出来なかったサーヴァントが、そこにいた。

 既に令呪は使い切り、僕とメルトの契約は聖杯との接続を以て途切れていた筈だ。

 何も繋ぐものが無く、魔力の供給が出来ている訳でもないのに、メルトは極自然に、いつも通りの姿を見せていた。

 ――いや、一箇所だけ。

 鋼の脚具は無くなり、コートで脚までを覆っていた。

 しかし消える事の無いサーヴァントとしての存在感。それは僕と契約していた時とは比較にならないものになっている。

「……何で?」

 事実として、メルトは規格外な存在になっていた。

 サーヴァントと分類して良いかも分からない、ステータスを数値化できないほど強大な力。

「あら、ハクが願ったんじゃないの? 私の望みを叶えろって」

 それは、最後の願いとして聖杯に入力したものだった。

 メルトの望みを叶えることで、唯一の礼としたかった。

 まさかあの願いが今ここで再会するきっかけになったのは驚きだが、説明になっていない。

 何故その望みで、メルトがここまでの力を持って此処にいるのか。一つの願いではどうにもならない事じゃないのか。

「ハクに会いたい――だけどそれだけだと貴方の消去の運命は変えられない。だから願ったのよ。私に科せられたサーヴァントとしての制限を全て解除しろってね」

 サーヴァントとしての制限と言えば、セレフの稼動条件が思い付く。

 ムーンセルを絶対として、それ以上優先するべきものが出来てはいけない。これも制限の一つだろう。

 それを含めて、全ての制限を解除したとなると、他に何が出来るようになるのか。

「その願いを以て、私はメルトウイルスとオールドレイン、そして私自身のレベルキャップを解放したのよ」

 メルトウイルス。オールドレイン。どちらもメルトが月の裏側に居た頃に持っていたスキルだ。

 メルトの毒として全てを侵し、吸収して自らの糧となるスキル。

 そしてレベルキャップの解放は、つまりレベルの制限を無くす――って、

「……まさか」

「えぇ。ムーンセル、超えちゃったわ」

 茶目っ気を出しながら言うメルトに、思わず絶句した。

 あろう事かこの“元”サーヴァント、ムーンセルの存在規模よりも大きな存在になってしまった。

 いや、推測するに、ムーンセルのメモリを吸収する事でムーンセルの規模が小さくなった分大きくなり、結果ムーンセルの半分を手に入れた時点で規模を超えてしまったと。

 それだけではなく、どうせだから全部自分の管轄下に置いてしまおうとか考えたのだろう。多分。

「制限が無くなった以上、ムーンセルは私を罰する事も出来ず、ただ吸収されるだけ。どう? 中々聡明な判断じゃないかしら」

「……」

 最早、何もいう事が出来ない。

 上級存在からの命令として僕の分解を中止させ、そのままここに飛び込んできたと。

「その脚は?」

「戦いが終わったのに、アレじゃないと駄目なの?」

「――それも、そうか」

 メルトが居るという感覚でどうにも麻痺しそうになる。

 もう聖杯戦争は終わったのだ。あの脚具を付ける必要はまったく無い。

 到底理解の及ばない、ここまで来れた手段についてはもう言及はしない。多分頭の痛くなる話だろうし、もう理由なんてどうでもいい。

「でも、会いたかった――メルト」

「私もよ――ハク」

 再会できて、きっとこれからも一緒に居られる。それだけで十分なのだから。

「それで、これは?」

 色々と頭の回らない状況。

 今解決すべき最後の一つは、この移り変わった中枢のテクスチャだった。

 個室に飾っていた人形達の幾つかを住まわす形で飾っていた人形の家(ドールハウス)

 その内最も大きなものを模した家が、僕たちが十分暮らせる形で存在していた。

「私が生きたのは、戦いの中だった。だから、少しくらい……平穏を体験してみたかったのよ」

「……そう、か」

 戦いの中でメルトは作られた。メルトは平穏を知らない。

 僕も同じだった。だったら、これを欲するのは当然じゃないか。

「ムーンセルは、どうなるの?」

「契約が切れても、私は貴方のサーヴァントである事に変わりはない。貴方の指示には応えるわ。ムーンセルは、貴方次第よ」

 月を支配した少女が、僕のサーヴァント。つまりそれは、願望器としての機能が残っているのなら聖杯が使い放題なのだ。

 やろうと思えば何でもできる。だとしたら、やっていく事は一つだけだ。

「――じゃあ、彩っていこう。このムーンセルを。いつかやってくる人たちの為に」

「ふふ。貴方ならそう言うと思っていたわ」

 きっと開拓は進み、やがて人々は月へと踏み込んでくる。

 その一人目は、きっと“彼女”となるだろう。

 そしたら、存分に驚かせてあげよう。消去された筈のデータが残っていて、月で歓迎の準備をしていたのだと。

 NPC達も呼べば、さぞ賑やかになる。桜や――あの言峰も、きっと楽しめるだろう。

 こんな結末、思っても見なかった。今でも信じきれた訳ではない。

 過去があるからこそ、未来へと踏み出したハッピーエンドがある。

 過去が無くとも、現在(イマ)を生きているからこそ未来へ至れるハッピーエンドがある。

 そして、過去も未来も無い欠片(データ)でも、現在(イマ)を感じていられる至上の喜び(ハッピーエンド)がある。

 自己満足の世界で、僕が見つけた幾つもの幸せ。自分の願いだから少し過剰に見えているだけかもしれないが、きっとこの世界は見間違いじゃない幸せに満ちている。

 全部を救えたとは思わない。けれど未来はきっと明るい筈だ。この世界ならきっと、誰もに救いがやってくる。

 この上なく素晴らしい世界――なんて、自画自賛をしつつ、

「だけど暫くは、メルトの望みを叶えなきゃ」

「優しいわね、ハクは」

 メルトの手を取って、“僕たちの家”に歩いていく。

 その過程で、やっぱりこれだけは伝えておきたかった。

「メルト――ありがとう」

「――ハクも、ありがと」

 覚悟していた運命(フェイト)は、融かされてしまった。

 だけど、そこに埋め込まれた新たな欠片は、完全無欠なものなのだ。

 人々の現在を照らし、未来へ導く希望のピースなのだから。

 

 

 月は誰に知られる事も無く、開拓を見守り続け、そしてそれを迎える支度を整える。

 

 

 いつか自らに、冷たい雫が落ちてくるその日まで。

 

 

 

 ――Fin

 




えっと、まずはお疲れ様でした。
読者の皆様が居てくれたからこそ、完結できた作品でした。
というのも、執筆暦も大して長くない自分にとって完結作はこれが初めてだったからです。
感想や評価、UAなど見てくださっている証がとても励みになりました。
約半年という期間でしたが、貴重な経験になったと思います。
それでは、長らくお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

尚、近日中に用語集っぽいものを投下する予定です。
番外編はすみません。CCCのあの戦いと一緒くたにしてしまおうと思います。


――そして、物語は溺れる夜へ。

ってな感じで、現在CCC編を執筆中でございます。
ある程度書き溜めが溜まったら投稿を開始したいと思います。
とは言っても、年末年始は色々忙しいので、一月ちょいくらいの間は空くでしょうが。
やりたい放題のぶっ飛んだ作品になると思うので、正史っぽいここで切るのをお勧めします←
それでもお付き合いいただける方は――お楽しみに!

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