Fate/Meltout   作:けっぺん

8 / 277
一日一話更新だと書き溜める速度が間に合わない。
段々消えていく書き溜めはホラーチック。
そんな中ようやく決戦らしいです。


八話『嵐の夜』

 

 七日目。

 とうとう決戦の日がやってきた。

「全ての準備が出来たら私のところにきたまえ。購買部で身支度をする程度は、まだ余裕がある」

「分かりました」

 決戦という、否が応でも覚悟を決めざるを得ない日が来た事を伝えに来た神父と、それだけの会話を交わす。

 慎二とライダーは間違いなく強敵だ。

 だが、情報収集は完璧。

 サーヴァントの正体にも行き着いた。

『あの悪魔が女だったなんてね』

 その通りだ。

 慎二は、あのサーヴァントの事を「無敵艦隊」と呼んだ。

 しかし、それは凛さんによれば敵国の通称。

 スペインの無敵艦隊を、あの英雄は自国――英国に上陸させる事無く大敗せしめた。

 そして、彼女の正体を決定付けた情報。

 古ぼけた手記から見つけた、生前彼女が駆った愛船『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』。

 海賊行為、黄金の鹿号(ゴールデンハインド)、そして、自身の財貨を以て、英国を当時最強と謳われたスペインを打ち破るにまで成長させた英雄。

 橙子さんが言っていた、実際と現代に伝わる情報との相違。

 これらから導かれる、あの英雄の正体――

 

 ――フランシス・ドレイク

 

 七つの海を股に掛け、喜望峰を越えた破格の英雄。

 生きたまま、世界一周を成し遂げた初の人物であり、人類史においてターニングポイントとなった星の開拓者。

 当時二等国だった英国を、世界に冠たる大英帝国にまで昇華させたのは、彼女が成し遂げた航海があってこそだ。

 不可能という壁を打ち破ったその逸話は、固有スキル『星の開拓者』となり、最大限の強化補正となっているだろう。

 加えて、性格には癖があるが、慎二は正真正銘の一流ハッカーだ。

 勝てる可能性は低い。

 だが、勝たなければ死ぬ。

 全力を出して挑むしかないだろう。

 

 

「ようこそ、決戦の地へ。身支度は全て整えたかね?」

「はい」

 闘技場の扉の前で神父が待っていた。

「扉は一つ、再びこの校舎に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場の扉を開こう」

「はい、大丈夫です」

「いいだろう、若き闘士よ。決戦の扉は今、開かれた」

 闘技場の扉に二枚のトリガーをセットする。

 すると扉が妙な駆動音を上げた。

 ゆっくりと扉を開く。

 奥は、アリーナの入り口の様に真っ暗な闇が広がっている。

「よし、行こう、メルト」

『分かったわ。……覚悟は出来たのね?』

「うん。覚悟をしないと勝てないんだ。相手が慎二でも、やるしかない」

 覚悟らしい覚悟ではない。

 だけど、ただでさえ僕の実力は慎二に劣るのだから、せめて心で負けないようにするしかない。

『良いわ。精々悔いのないようにしなさい』

 勿論、そのつもりだ。

 扉を潜り、しばらく待っていると、まるでエレベーターのように下に下がりだした。

 数分は経っただろうか。

 気がつくとメルトは実体化し、目の前には慎二とライダーが立っていた。

 この場で戦えないようにするためか、両陣営の間には透明な壁が張ってある。

「なんだ、逃げずにちゃんと来たんだ。ああ、そういえばそうだったね、学校でも生真面目さだけが取り得だったっけ」

 慎二は相変わらず、悪態をついてくる。

「逃げるわけがないよ。不戦敗なんて馬鹿なことしない」

「はぁ……学校でも思ってたけど、空気読めないよねホント。せっかく忠告してやったのに」

 オーバーなリアクションを取りながら大きな溜息をつく慎二。

「悪いけど、君じゃあ僕には勝てないよ。どうせ負けるんだから、さっさと棄権すればよかったのに」

「……そうはいうけど、聖杯戦争のルールに棄権なんてあるの?」

「そんなの僕が知るわけないだろ? 僕には必要のないルールなんだから」

 慎二は自分の優勝を揺るぎないものと決定している。

 それが聖杯戦争に挑む者が当然の様に持つべき自信なのだろうが、慎二のそれは人一倍だ。

「負けると分かってるのに闘うなんて残酷だよ。僕はそういう不公平(アンフェア)さは嫌いなんだよね」

 慎二はエレベーターの外、ただひたすら続く闇を眺めながら言う。

「まぁ、相手が誰であれ関係ないか。僕には誰も勝てやしないんだから」

 慎二は自分だけを見て、自分を最強と決め込んでいる。

 言うなれば、井の中の蛙だ。

 僕は大海ではない。慎二の棲む井戸に飛び込んでいく無謀な虫にすぎない。

 だけど、虫は虫なりに、蛙に勝つ方法がある筈。

 それの証明こそが、この戦いを勝利する唯一の道だ。

「僕と僕のエル・ド……サーヴァントは無敵だからね」

 まだ慎二は、自分のサーヴァントの正体がバレていないものと思っているらしい。

 ちょうど良い。動揺させてみよう。

「もう隠す必要もないんじゃないかな。慎二のサーヴァントの正体、もう分かってるよ」

 あからさまに驚愕した表情をする慎二。

 まさか自分が完璧な隠蔽をしてるとでも思ったんだろうか。

 当のライダーは、何故か僕に期待するように笑みを浮かべている。

「スペインの船を数多落とした愛船『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』。悪魔(エル・ドラゴ)の異名。無敵艦隊を沈めた英雄」

 慎二の表情が蒼白に変わっていく。

「太陽を落とした女、それが貴女の正体でしょう――フランシス・ドレイク提督」

 肩を震わせていたライダーは、その瞬間腹を抱えて大笑した。

「あはははははっ! シンジがぽんぽんばらすから危ないとは思ってたけど、本当に行き着いちまうとはねぇ!」

「なっ、何笑ってんだよライダー! 正体がバレたんだぞ!」

 目元に涙まで浮かべるほどに笑ったライダーには、悔しそうな表情は一切ない。

「バレたから何だってんだい、シンジ? 盗られた情報も含めて、アイツらの命も全部盗っちまえば解決じゃないか」

 慎二はライダーに振り回されっぱなしな様だ。

「っと、そうだ。なぁ坊やのサーヴァント、坊やはそれなりに強くなったようだね?」

 昨日の戦いでは、少なくとも慎二に一矢報いることは出来た。

「えぇ。初日と比べれば間違いなく強くなったわ。勿論、そこのワ……ふぅ、もういいわね」

 メルトはまたしても「ワ」を言い、そして何か決心したように呟くと、「それ」を言った。

「そこのワカメよりはマシなマスターになったわ」

 わかめ。ワカメ。若布。

 味噌汁によく入っている海藻が思い浮かぶ。

 恐らくそれは慎二に対して向けられた言葉で。

 当の慎二はまず唖然と。

 段々と表情は怒りに染まっていき。

 恥ずかしさと怒りが混ざったような真っ赤な顔で激昂した。

「お前ぇえ! よくも…んがッ!」

 怒りの表情のまま殴りかかろうとして、そのまま透明な壁に激突した。

「……我がマスターながら、間抜けだねぇ」

「さすが喜劇王。滑稽さは世界一ね」

「……何だかなぁ」

 決戦前の空気では無い気がする。

 エレベーターが到着した。

 この先が決戦場。

 気を引き締めなおし、エレベーターの扉を開いた。

 

 

「絶対に許さないぞ……圧倒的な実力差ってヤツを思い知ればいい……!」

 船の沈んだ死の海、それを連想する決戦場。

 そこでの慎二の第一声は、異常な程の怒気を含んだ処刑宣告だった。

「ふぅん。寂しいところね、観客一人いないなんて」

 怒りの矛先だろうメルトは、慎二など完全に蚊帳の外で決戦場を見渡していた。

「っ……痛めつけるだけじゃ気がすまないぞ、生きているのが耐えられないくらいの赤っ恥かかせてやる!」

「おや、勝つだけじゃなく、恥までかかせるって?」

 嫌な性格を全開にする慎二の言葉に、ライダーは笑う。

「強欲だねぇ。いいよ、ロープの準備をしておこう。マストに吊り下げるなり、好きにすると良いさ!」

 ライダーが銃を構える。

 そしてメルトは姿勢を低くし、戦いの構えを取る。

「間違っても手を抜くなよエル・ドラゴ。この僕に歯向かったんだ。情け一つかけるんじゃないぞ」

「はん、情けなんざ持ち合わせてないっての。アタシにあるのは愉しみだけさね。出し惜しむのは幸運だけだ。命も弾も、ありったけ使うから愉しいのさ! ましてやこいつは大詰め、正念場って奴だ」

 ライダーの口元の笑みが深さを増す。

「さあ、破産する覚悟はいいかい? 一切合財、派手に散らそうじゃないか!」

「メルト、頼む……勝ってくれ!」

「分かったわ。行くわよライダー、ここが貴女の落ちる海と知りなさい!」

 開戦の一撃はライダーの銃撃だった。

 しかしメルトはそれを難なく回避する。

「やっぱりこの程度じゃ通用しないね! シンジ、派手に使い切るとしようかぁ!」

 銃の乱射にも、メルトは適切に対応する。

 が、反撃には出れていない。

 サポートをしてどうにか隙を作らなければ……

華麗な略奪(エランダ・ソル・ポネンドゥ)、目ェ広げて見ときな!」

 激しさを増す銃撃の嵐に、メルトは防戦一方だ。

 ともかくライダーに弾丸を放つ。

 しかし、それはさらに大きな弾丸に打ち消された。

「邪魔すんなよ。自分のサーヴァントが蜂の巣にされるの、黙ってみてろよ!」

「くっ、慎二!」

 こっちはこっちで、マスター同士の撃ち合いとなった。

 致命的なダメージにはならないが、痛みは生じる。

 それに被弾は、遥かに僕の方が多かった。

「はぁ……、くそ!」

「良いか? 頭の良い勝ち方ってのは、こういうことさ!」

 慎二が高速で術式(コード)を組み上げる。

loss_lck(32)(幸運低下)!」

 そのコードはメルトに組み込まれた。

「っ、今のは……っく!?」

「余所見してる場合かいっ!?」

 銃を使った殴打がメルトに直撃した。

「藻屑と消えな!」

 続け様に放たれた銃撃が、メルトを捉えた。

「メルト!」

 ライダーに弾丸を撃ちながら、アリーナの探索中に見つけた術式――heal(回復)を使用する。

 素早く体勢を立て直したメルトが、ライダーに向かう。

 僕の放った弾丸に対応していたライダーは、一瞬メルトへの対応が遅れ、その隙をメルトは突く。

 が、不自然なほど俊敏な動きで、あろうことかその一撃は回避された。

 ライダー……フランシス・ドレイクが持つ評価規格外の幸運ランク。

 それに加えて人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる固有スキル、星の開拓者。

 物事が「不可能」のまま「実現可能」になる反則気味のスキルは、やはりライダーの最大の武器となっていた。

 ならば、速度を上げ、更に一撃のダメージを増すしかない。

gain_str&agi(8)(筋力、敏捷強化)!」

 効果は微々たるものだが、ないよりはマシだ。

 どうやら慎二のコードキャストによって、メルトの幸運値は低下している。

 両者の幸運値は雲泥の差。

 この状況であれば運は全部ライダーに持っていかれるといってもいいだろう。

 だから、この際運で勝つのは諦めるしかない。

「ちっ、余計な事を……。loss_str&ag(筋力、敏捷低)……んがぁ!」

 またしても低下術式を撃とうとした慎二の顔に弾丸を撃ち込む。

 そして次はライダーに。

「っちぃ!」

 ライダーはその弾丸に直接撃ち込んで相殺するも、それで再度隙が出来た。

 そこを突いたメルトの一撃は、今度こそヒットした。

「行け、メルト!」

 弾丸を連射して僅かながらのダメージソースにする。

 多分十発あててメルトの一撃と同じくらいだろうが、それでもマシだろう。

「くそっ、やってくれるじゃないか!」

 ライダーはメルトの攻撃を耐え凌ぎつつ、大砲を召喚する。

 そしてメルトを蹴り飛ばして距離を置くと、

「砕け散りなっ!」

 一斉砲撃がメルトを襲う。

 しかし、メルトは高く跳躍する事で回避した。

「逃がすか!」

 そこを逃さず、ライダーは再度砲撃しようとするが――

「させないっ!」

 隙だらけのライダーに弾丸を放つ。

 直撃したライダーの動きが止まり、

「ハァっ!」

 メルトがそこに力強い一撃を叩き込んだ。

「ぐっ、あぁっ……!」

 今のはかなりのダメージだったようだ。

 肩膝をついたライダーは歯噛みしながら叫ぶ。

「……シンジィ! アレ使って勝ちにいくよっ!」

「っ、あぁ、やってやれエル・ドラゴ! 遠慮はいらないぞ!」

 復活したのか、慎二。

「気をつけて、ハク。宝具が来るわ……!」

 メルトが傍にやってきて言う。

 宝具。フランシス・ドレイクを象徴する証。

 召喚される大船団。

 それらに乗員はおらず、統制するライダー一人の意思で全てが駆動している。

「野郎共、時間だよ!」

 船の群れが、その砲台が、僕たちに向けられる。

「嵐の王、亡霊の群れ、嵐の夜(ワイルドハント)の始まりだ!」

 先頭に立つライダーが立つのは、愛船である『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』。

 彼女の宝具はそれではない。

 ヨーロッパに伝わる、暴風雨や吹雪などの嵐の化身「嵐の夜(ワイルドハント)」。

 愛船と、その伝説の合体宝具。それこそあのライダーの切り札たる『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)』。

「喰らいなぁっ!」

 繰り出される砲撃の嵐は、まさしくワイルドハントと呼ぶに相応しい。

「うわああああぁぁぁっ!」

 アリーナ全体を覆うのではないかという、Aランクを超えるであろう対軍宝具の砲撃は、いとも簡単にメルトと僕を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿なっ!? 何で!?」

 慎二の驚愕の声が聞こえる。

 何故だろうか。僕はライダーの宝具で、跡形もなく吹き飛んだのでは――

「ハク、まだ終わってないわよ」

 メルトの声が、すぐ近くから聞こえた。

「メ、ルト……?」

 痛みは感じない。

 気付くと、メルトに優しく抱き包まれていた。

 無傷の状態で。

「はっはぁ……参ったね。まさか耐えちまうとは……」

 メルトはゆっくりと僕から離れ、ライダーに向き直る。

 船団は残っているが、今の砲撃は文字通りライダーの全力だったのだろう。

 どうやら慎二も疲弊しきっている。

 ライダーへの魔力供給が厳しくなってきたのだろう。

 第二撃が放たれることはない。

「だがまだ終わっちゃいないよ。最後っ屁を受けてみな!」

 しかしそれがライダーの最後の攻撃ではないようだ。

 船団に配置されていた船の一隻が突撃してくる。

「ハク、離れて!」

 その言葉に従い、走ってその場から離れる。

 正直、もう体力も残っておらず、気力だけで動いていた。

 コードキャストも一回も使えないだろう。

 メルトは誘導するようにゆっくりと動き、最大限に近づかせた後、素早く退避する。

 船は地面に突撃し、大爆発を起こした。

 フランシス・ドレイクが好んだという戦法――火船。

 爆発物を積載して体当たりをしかける攻撃法。

 これで終わりではない。

 ライダーが乗る船以外の全ての船が、一斉にメルトへ突撃した。

「メルト!」

 思わず叫ぶが、メルトは落ち着いている。

「大丈夫よ、ハク。せっかく戦うつもりになったんだもの。こんなところで貴方を殺しはしないわ」

 そう言うと、メルトは突撃する船に自ら跳躍した。

 余りにも無謀な自殺行為。

 しかし、船を飛び移りつつライダーに向かうメルトの表情は、どこか自信に満ちていた。

 だから、今やれるのは一つだけ。

「メルトっ、頼むっ!」

 懇願。

 それにメルトは何も言わない。

 ただ、口元に笑みを浮かべている。

「させるかっ!」

 慎二がコードキャストを放とうとするが、最早手遅れ。

 自分の最終奥義を逆に攻撃に使われたライダーは呆気に取られている。

 メルトの障害は何もなくなった。

 踵を大きく振りながら、メルトは今、高らかに宣言する。

踵の名は(ブリゼ)――」

 勝利の一手の名を。

魔剣ジゼル(エトワール)!」

 振られた脚から放たれた鋭い衝撃波は、

「……やれやれ、喜望峰は、まだ遠いねぇ」

 諦めたように棒立ちになったライダーの身体を切り裂いた。




good bye Albrecht
突撃する船を飛び移るときに騎乗スキルが働いてたようです。
うん、活用できたな。

……だからそういう展開は(ry

後、ジゼルって割合ダメージじゃね?は禁句です。はい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。