Fate/Meltout   作:けっぺん

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親が事故ったり祖母が入院したり、年の瀬に色々立て込んでますが私は元気です。
ちなみにどちらも命に別状はありませんでした。

決戦続き。タイトルに意味は無いけどお気に入り。


六十九話『決戦のキャメロット』

 

 

「……ぐ、くっ……!」

 遂に、痛烈な一撃を与える事が出来た。

 罅の入った鎧を押さえ、その手甲の間から血を覗かせる。

「……まさか、ガウェインに傷を与えるなんて……」

 レオの驚愕も少ないものではない。まるで、今まで戦いを全て無傷で済ませてきて、決戦においては初めて傷を負ったような反応だ。

 本当にそうなのだとすればそれも驚くべきことだが、そんな過程は今ここで否定する。

 決定的な結果を、ここに示すことが出来たのだから。

「ガウェイン、傷を癒します」

 その一言でコードを紡ぎ、セイバーの傷は癒えていく。

 レオであっても限界はあるのか完治には至らないが、それでも戦闘は十分可能であるほどにまで回復できていた。

「……感謝いたします、レオ」

 セイバーの表情には悔しさのようなものが混じっている。

 仕える王に手を煩わせたことに対してか。完璧を具現した騎士は更に強く剣を握る。

 担い手の意思に応じるように唸りを上げる聖剣。まるで剣そのものに意思があるかのように、炎は熱量を増し、より密度の高いものへと変貌する。

「しかし、本当に手強いですね、メルトさん。あれほどの魔力を御するほどだったとは」

「あら、王様からのお褒めの言葉なんて嬉しい限りね。でも、今のはハクのお陰よ」

「そうですか、さすがはハクトさん。やはり貴方は特別です。地上で出会っていれば、貴方を西欧財閥に呼びたいほどだ」

「そうなっていれば、運命は違ったかもね」

 それは叶わないことだ。僕は地上には行くことができない。

 例え地上からやってきたマスターだとしても僕とレオ、どちらかしか戻ることは出来ない。

「ですがここに立つ以上、敵であることに変わりは無い」

「その通りです。――レオ」

 今までと違うセイバーの声。レオは小さく微笑み、それに返す。

「えぇ――貴方の思うままに、ガウェイン」

 王は静かに、セイバーに決定を下す。

 それがセイバーの切り札の使用である事は、すぐに察することができた。

「ハク、来るわ」

「うん……魔力を回すよ」

 先程の攻撃に使ったように、魔力の供給を増大させる。

 これによりドレインに類似した効果を与え、『さよならアルブレヒト』による防御に使用することが出来る。

 この補助も含めれば、防ぐことが出来るだろうか。

「残念ですが、その努力は不要です」

「え――」

 レオが軽く手を振るう。

 同時に紡がれたコードにより、王の絶対たる決定に従うように増大させた魔力のパスが砕け散った。

 コードを破壊する妨害術式。完璧な戦いを運ぶための当然たる決定権。

 宝具を防げるかどうかだった緊張が、一瞬にして焦りへと変わる。

 しかしその焦りにセイバーが待つ訳もなく、その手に持つ聖剣を天高く掲げる。

「ガウェイン、今こそ、その威光で先を照らす時です」

 セイバーは頷くでもなく、ただその聖剣から迸る灼熱を強大にしていく。

 そして討つ対象を無慈悲に見据え、空を斬る様に火炎を束ねる。

「この剣は、太陽の写し身。もう一振りの星の聖剣――」

 例えるならば、それはセイバーを中心としたひとつの太陽。

 王の行く先を暖かく照らし、王の障害は容赦なく焼き尽くす。

 ガウェイン卿が生前からそうしてきたように、聖剣は王の決定の下引き抜かれ、敵を断つ。

 今もそれは違いない。聖杯への最後の敵を前に、白銀の騎士は担う聖剣の真名を高らかに謳い上げる。

「――『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!」

 居合いにも似た特有の構えから抜き放たれる聖剣が、太陽を思わせる膨大な灼熱を解き放つ。

 王としてではなく、騎士として敵対する軍を殲滅するために解放される剣の炎は多くの兵を飲み込むべく放射状に展開する。膨大な範囲からなる灼熱の大波は文字通り望みを絶つ一撃として僕とメルトに襲い来る。

「くっ――」

 自身の魔力で『さよならアルブレヒト』を展開するメルトだが、あの威力の攻撃は防ぎ切れない。

 どうする――このままでは、あの灼熱が全ての終わりになってしまう。

 負けたくない。そのためにも、知りえる限り最強の防御を。

 陽光の下に晒されているのなら、その輝きから生み出された防御を。

 完全でなくても良い。今の瞬間だけあの灼熱を防ぐ手段、たった一時の展開ならば、最大級の宝具であってもきっと使える筈――

「『道は遥か恋するオデット(ハッピーエンド・メルトアウト)』――『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』!」

 目を覆いたくなるほどの眩い光が戦場を包む。

 その輝きは何によるものか。それを理解する前に、圧倒的な熱量が体中を苛む。

 熱が耐えられる限界に至った瞬間、その思考が真っ白になり、その一瞬が止まったかのような感覚が包み込んだ。

 

 

 纏った者を死からも防ぐ、絶対的な鎧。

 盾のように大きく展開したそれは、僕とメルトを覆って飲み込んだ灼熱から護り切っていた。

「っ……これ、ランサーの……」

 メルトの掠れるような声が届く。役目を終えた黄金の鎧はゆっくりと消滅し、煙が晴れて姿を見せたレオとセイバーは信じられないといった表情だった。

「私のガラティーンに……耐えたと……?」

「……信じられない」

 どうやら、僕には傷はない。鎧を発動するほどの多大な魔力を失っただけで剣の灼熱によって負った火傷等も見られない。

「メルト、大丈夫?」

「えぇ……問題はない、けど……」

 メルトはどうやらまだ理解が出来ていないようだ。

 とは言え僕自身も、起きた事が未だ信じられないでいる。

 たった一時の展開ならば。確かにそう思い、それが出来ることを信じてあの鎧を魔力で編もうとした。

 防ぎ切れはしなくても、戦いが可能な程度まで損傷を防げれば良いと思っていた。

 だがあの防御力。本来はダメージを軽減する鎧だというのに、完全に防いで見せたのだ。

 何かしらの変化――いや、イメージの違いか。あの宝具をイメージして発動したものの、今の使用はセイバーの剣を防ぎたいという意思で無意識の内に防御力を重視した。

 結果として表出させた鎧の効果は変質し、一瞬の展開により完全防御を成す盾と化していたらしい。

「太陽の炎熱を防ぐとは……今の術式は?」

 レオの心からの不可思議らしい。どうにも納得が出来ないといった表情で問うてくる。

 だが、この結論が合っている確信はないしそもそもレオは今戦っている相手である。

「……今までの、成果かな?」

 だからそれをこれまでの戦いで得た力だと宣言する。

 まぁ、一応間違ってはいない。凛のランサーと戦わなければ、今の盾もイメージ出来なかったからだ。

 メルトもまだ理解には至っていないようだが、レオへの返しを聞いてか微笑んで再び戦闘態勢を取る。

「……そうですか。実に面白いです。ですが、ガラティーンの一撃を耐えるとなると僕も少々、驚きを隠せない」

 言いながらも、レオは再び笑みを零す。その額から一滴の汗が流れ、燃えるような赤い制服でそれを拭う。

「今までには無い感情だ――これ以上、上を望んでも?」

 レオの問いは恐らく、本気を出して良いか否か。そして、紫藤 白斗とメルトリリスを排除するべき最大の敵として見なして良いかの問いでもある。

 答えなんて明白だ。王に挑戦する側として、本気の彼に挑まなければ意味がない。

「構わないよ。お互い全力で、勝負しよう」

「――はは、それでこそ、ハクトさんだ」

 年相応の無邪気な笑みから、何かが変貌した。

 放つ魔力か。今まで僅かなコードキャストを発動する他には、セイバーへの魔力供給しか行わなかったレオ。

 それが今、膨大な魔力を辺りに放出している。

「ガウェイン」

「はっ……」

 レオの呼びかけに、セイバーは短く応答する。

 聖剣を再び掲げ、今度は纏わせていた灼熱を放出していく。

 レオの放った魔力を、セイバーが灼熱を以て補強する。

 この圧倒的な密度と力で解放される劫火の結界、間違いない。セイバーによって補助されるこれこそが――

「――決着術式(ファイナリティ)、『聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)』」

 レオの、決着術式。

 蒼空は暗夜と消える。廃れた城も、遥か続く砂塵の原も全て炎と化す。

 途轍も無い熱量を持った防壁が周囲を包み、一切の干渉を防ぐ絶対的な結界が展開されていた。

「ガウェインの補助を以てしても、この結界は三分保つかどうか。それまでに、決着を付けましょう」

 それ程の激しい魔力消費。ならば、干渉を防ぎ、敵を逃がさないだけでなく、他に何かしらの強大な能力もあるだろう。

 これが、レオの最強の力。レオを打倒するにおいて、絶対に突破しなければならない奥の手。

 レオが空を仰ぎ、手を広げる。これから始まる、最後の決戦の狼煙となる宣言をすべく。

「暦よ周れ、祝福の日ぞ幕開けよ。さあ――貴方の時間です、ガウェイン」

「中天に在りし午前の光よ――善き営みを守り給え――!」

 瞬間、セイバーの纏う力は規格外なものへと増幅された。

 聖者の数字。ガウェインの特殊体質でもある、特定時間のみ力を三倍にするスキル。

 時間外でありながら、結界は午前の太陽の如く周囲を照らし、セイバーにも午前の加護を与えていた。

 たった数分間。しかし、それだけの時間で決着を付けるには十分な能力。

 一度破った身だというのに、その傷を覆い隠す程に激しく燃える結界の前では意味を持たないらしい。

 つまり、この結界の内部では幾らセイバーに傷をつけても、その性質を無効化することができない。

 恐らくこの性質は本来結界にはなく、セイバーがその魔力によって結界に後付けしたもの。

 となれば、結界の拘束力がこの決着術式の真髄。それでいてレオがこの決戦に使用したのは、セイバーとの協力によって聖者の数字を再び発動するためだ。

 魔力消費の激しいものである以上、レオはこの結界を以て早急に勝利を掴むつもりだ。

「さぁ、始めましょう、ハクトさん。そして、全てを終わらせます」

 そうだ。きっとここから数分で、全てが決着する。

 だったら僕も、出し惜しみはしない。全てを以て、レオを超える。

「ここから先は、マスターもサーヴァントもない。“僕たち”と“貴方たち”、どちらが勝るかです」

 言って、レオは手に一振りの剣を持つ。

 セイバーと同様に、レオ自身も剣の素養があるのだろうか。少なくとも、それで決着を望むくらいには自信のあるものらしい。

「分かった――始めよう」

 今こそ展開する。ラニから譲り受けたアトラスの決着術式、『黒い銃身』を。

 黒いキューブ状のプログラムに魔力を込め、それを変質させていく。

 全貌を現した銃のグリップを左手に握り込み、引き金に指を掛ける。

 禍々しい銃が放つ魔弾は魔力の結晶。弾を込めるように魔力を流すと、その魔力は黒く染まり銃の弾と化す。

 そしてもう一つ、右手にはレオの剣と打ち合うための術式を。

 聖杯戦争において、多くの因縁の果てに戦いあったレオの兄、ユリウスが使用した短刀。

 レオの剣には、精度も長さも及ばない。だが、これだけが僕の持てる、唯一の“剣”なのだ。

 舞台は整った。レオと目線を交差させ、互いに笑う。

 そして同じくして、口を動かした。

 

 

「――決着を」

 




EXマテ出る前にキャメロットの効果は聖者の数字に関係してる的な考察が良くあったんで採用。
戦いに使える決着術式に仕上がりました。

本編終了後に、この作品のあれこれを用語集的な感じで載せようと思ってます。
今回の『オデット』からの鎧もそこに記載する予定ですので、解説はもう暫しお待ちを。

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