Fate/Meltout   作:けっぺん

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旅行の四日間という空白を補う為に必死でキーボード叩いてたら終わってた。
短めですが、どうぞ。

あ、今回メルト出てきません。


六十四話『孤独の試練』

 アリーナの第二階層。

 この聖杯戦争において、最後のアリーナだ。

 その最奥部にあった、最後のトリガー。この戦いの終わりに至る、最後の鍵。

 勝とうと負けようとこれが最後。最後の相手となる、レオと戦うための最低条件は揃った。

 そして、セイバーを無敵に至らしめていた強力なスキル、聖者の数字は破る事が出来た。

 後は勝率を高めるため、出来る限り差を埋める手段を実行していくだけ。

 まずは、その一つ。

「ラニ、頼む」

『はい。お任せ下さい』

 ラニから渡された決着術式の認証。その為に術式から下される試練を突破することからだ。

『最終確認ですが、何かしらのトラブルがあった場合、術式の内部から戻れなくなる可能性があります』

「あぁ、分かってる」

 かなりの危険が伴う試練。内容によっては、僕は戻ってくることができない。

 だけど、それをクリアしなければレオにはきっと勝てない。結局これをやり通すよりほかに手はないのだ。

『絶対に……戻ってきてくれますか?』

 ラニの言葉に、思わず苦笑する。初めてあった時には機械のように無情だった彼女が、僕を心配してくれるとは。

 僕に力を貸してくれて、僕が戦いを勝ち進むにつれ、ラニは感情らしいものを表に出してくれるようになった。

 そんな彼女をこんなところで悲しませるわけにはいかない。だからなんとしてでも、戻ってこなくては。

『あの……? 私は何か変な事を言いましたか?』

「ううん。何でもない。大丈夫だ。絶対戻ってくる」

『……分かりました。約束ですよ?』

 手に置いたキューブがラニによって解放される。術式が展開し、黒い魔力が辺りを覆うように広がっていく。

『試練の最中、私の声は届かないでしょう。ですが、貴方ならきっと――』

「うん。ありがとう」

 段々と遠くなっていくラニの声。術式によってこの空間が周囲から隔離されていくように携帯端末のマップ表示も消えていく。

 代わりに映るのは、見慣れないマップ。もしや、この術式の防衛手段として用意された空間だろうか。

 恐らくこれこそが試練の舞台。この場で何かをしなければならないのだろう。

『頑―って――い――ハクトさ――』

 切れ切れのラニの声はやがて途切れ、マップも完全に移り変わる。

 二つの広場とそれぞれを行き来できる小さな通路だけの単純な構造。だが、試練というからにはそれぞれの広場に何かしらの障害があると思われる。

 つまり、恐らく試練は二つ。

「よし、メルト。行こう」

 返ってくる答えは、無い。

「……メルト?」

 辺りを見渡し、既に術式の内部に入っていた事を知る。そして、どこにもメルトが居ない事はすぐに気付いた。

 マスターとサーヴァント、どちらにも実力が無いと突破できない試練。これがその真意なのか。

 マスター、そしてサーヴァントを別々に配置し、それぞれに試練を与えるという事らしい。

「……」

 今居るのは広場の片側らしい。恐らくメルトはもう片方広場のどこかにいるだろう。

 つまり、僕は自身の力だけで進むしかない。

 思わず息を飲むと同時に、広場の反対側に何かが現れる。

 剣を携えた黒いドール。決勝に残るほどのサーヴァントには及ばないまでも、マスターの身体能力では到底敵わない戦闘力を持っているだろう。

 持っている魔力からして大して強力なものでもない。サーヴァントが居れば特に問題なく戦えるだろうがそれでも、僕のみである今の状況からすれば相当の脅威だ。

 だが、戦わないといけない。令呪を使えばもしかしたらメルトを呼べるかもしれないが、メルトも一人で何かの試練の中にいる筈だ。

 だから、一人で戦わなければ。サーヴァントに比類するドールに、マスターとしての力だけで。

「……よし」

 まず初めに、身体強化のコードを唱える。二回戦で修得して以降殆ど使い道の無かったものだが、ここにきて役に立つとは。

 それがスイッチになったようにドールは剣を構える。恐らく(モデル)になっているクラスはセイバーだろう。

 初手はドールに譲る。まずは相手の動きを見るところから始めなければ。

 ドールが一歩踏み出す。そこから魔力を爆発させ、一気に距離を縮めてきた。

「っ」

 咄嗟に後ろに下がり、最初の斬撃を回避する。やはり身体強化の効果が大きいようで、いつもより遥かに体が軽く、動きやすい。

 更に単純な斬撃を二三と躱し、生まれた隙に弾丸を撃ち込む。

shock(64)(弾丸)!」

 弾丸は狙い違わずドールの頭部に直撃したが、ダメージを負った様には見られない。

 普段から、ダメージには期待せずに、相手の動きを一瞬制限するために使っていたコード。やはり攻撃に使用するには威力不足か。

 ともなれば、動きの制限はさせずとも、攻撃に向いたコードを。

 弾丸のコードを運用し、新たなコードを紡ぎ上げる。

「――bomb(64)(爆発)!」

 いつも使用していた弾丸より、一回り大きな弾が放たれる。

 ドールはそれを切り払わんと剣を振り、接触した瞬間、大きな爆発に巻き込まれた。

 どうやら、成功したようだ。即興で作ったものだが、存外上手くいったようで、威力も中々のように見える。

 吹き飛んで倒れたドール。しかし、たった一撃だけで再起不能になれる筈もない。

 ゆっくりと起き上がり、剣を持ち直すドール。

 その無機質さに、闘志や殺意のようなものは見られない。だが、少し慎重になったようで攻撃行動を起こそうとはしない。

 あまり長期戦には出来ないだろう。ドールにはスタミナの概念は無いだろうし、このまま戦っていれば時間の経過と共に不利になっていくのは僕の方だ。

 ともなれば、魔力の消費は惜しまずに一気に勝負を決めるべき――と言い切れる訳でもない。

 何せ、試練がこれだけという可能性は低い。メルトも一人で何らかの試練の下にある可能性が高い以上、今すぐにでも向かう必要がある。だから魔力を使いすぎるのは得策ではない。

「極力節約しながら早く倒す、か……」

 無茶にも程がある。どれだけあのドールの戦闘力を低く見ても無理だ。

 それは剣を片手に持ち替え、もう片手に二本目の剣を持った時点で理解できた。

 普通ならば、攻撃の回数が単純に二倍になる事はないだろう。だが、相手は感情の無い、それ故に多少の無理が通るドールである。先程使ってきた魔力放出の応用で速度に更なるブーストを掛ければ攻撃回数を二倍、三倍以上に跳ね上げる事も可能かもしれない。

 そうなると対処しきるのは不可能だ。どうするか……考える間もなく、ドールが動く。

「くっ――shield_mgi(32)(防御)!」

 ドールとの間に盾を展開する。対処せんと振るわれた剣が盾にぶつかり、動きを止めた。

 大丈夫だ。剣の冴えはガウェイン卿には遠く及ばない。彼に匹敵するのならばそれこそ、瞬殺されていただろう。

 距離を置き、二度目の刺突で盾が破壊された時には既にコードを紡ぎ終える。

 二発目の爆発のコードでドールを吹き飛ばし、

killer()(殺刃)!」

 ユリウスから得た、短刀のコードを紡ぐ。魔力のコストパフォーマンスに優れたこれはこの場で使うに向いている。

「はっ!」

 出現させた二つの内一つを投擲する。しかし素早く体勢を立て直したドールに、いとも簡単に防がれてしまった。

 やはり、投げるのでは効果が薄い。どうにかして接近戦で当てなければならないか。

 しかし、剣を二本も持ち、セイバーに似通った能力を持つドールに接近戦で挑むなど、愚行も良いところだ。何か、他に案は無いか――そう考えている間にも、ドールは再び接近の体勢を取る。

 悩んでいる場合ではない。危険は承知だが、やるしかない。

「っ――」

 体に更に強化を掛ける。あちこちが悲鳴を上げ、軋んでいるかのような錯覚さえある。

 激痛が思考を焼き、そんな隙を逃すものかとドールが迫る。

 その動きが先程よりも遅い――そう察し、咄嗟に右手を動かすと持っていた短刀が、メキリ、と何かに刺さる感触があった。

「ぐっ……」

 ドールの動きが止まった。たったそれだけ確認してから、足を出す。

 苦し紛れの蹴りはドールを大きく吹き飛ばす。そこで限界が訪れ、無理な身体強化は解除された。

「はぁ……はぁ……まだ、倒れないか」

 幸い、通常の身体強化はまだ解除されていない。戦闘は可能だが、思った以上に今の行動の負担は大きかった。

 当然だろう。身体強化を重ねる事で短時間ながら、低ランクであってもサーヴァント級のドールを超過した身体能力を得るのがどれだけ危険なことかなんて誰でも分かることだ。

 戦闘は可能だが、長くは保たない。ドールのダメージも大きいようだが、このままでは早く倒れるのは此方だろう。

 とは言え、度を過ぎた身体強化が出来ない以上攻撃手段は短刀と爆発のみ。ドールを倒しきるのはどうにも難しい。

「……っ」

 再び迫るドール。

 魔力放出を利用した二本の剣の連撃。最初こそ避けきれていたが、自棄になったように放出する魔力を増加させていくドールの一撃が遂に頬を掠め、目を細めた瞬間腕に激痛が走った。

「っあぁ!」

 だが、まだ攻撃は止まない。動きが鈍ったのを好機と見たか、ドールは二本の剣を同時に突き出してきた。

 切り裂かれた腕を咄嗟に防御のため、前に出す。

 しかし、その程度で剣の勢いが収まる訳が無い。駄目だ――そう感じながらも、まだ諦め切れなかった。

 この一瞬で、どこまで頭が回ったのか。

 たった一つ、この状況で頼りに出来る――するしかない――効果の釈然としないコードキャスト。

 セレフを倒した、あのコードを紡ぎ、腕に魔力を回した瞬間、

 

 

   ――『■■■か■す■オ■■ト』

 

 その魔力は腕を守る篭手のように展開し、剣を受け止めた。

 何が起きたのか理解できず、ただそれでも展開した何かが剣を受け止めたという事実だけは理解できて、更にその何かに魔力を込める。

 すると一瞬篭手は巨大化し、ドールを吹き飛ばした。

「っ――」

 半ば自棄、という状況は反転した。何も考えず、そのドールを追う様に手を伸ばし、再びコードを紡ぐ。

 すると凛が決戦で使ったような、膨大な魔力が形となったレーザーとなった。

 使った僕自身が目を丸くし、それを理解できないまま結果を待つ。

 果たして視界がはっきりしたそこには、罅だらけになったドールが倒れていた。

 既に力が残っていないのは明白で、ようやくその試練の達成を確信する。力が抜け、その場に座り込みながら、腕を抑える。

 ドールに斬られた傷はそこまで深くは無い。何故か不自然なほどに癒えており、二日もあれば治ってしまいそうだった。

 腕に流した魔力の影響だろうか。いや、それよりも、今のコードは一体何なのか。

 セレフに使った際は何をするでもなくただセレフを消滅させた。

 だが今回はそうではなく、篭手のように展開して攻撃を受け止めたり、更にはレーザーにまで変化した。

 やりたい事が何でも出来るコードだろうか。だが、入手した際には何も出来なかった。今、傷を癒そうと思って使ってみても何も起きない。

 どうにも、謎が多すぎる。何かしら判明すれば、レオとの戦いでも有効に立ち回れる武器になりそうなのだが。

 ここから戻ったら、ラニに訊いてみるのがいいかもしれない。そのためにも、まずはこの空間から出なければ。

 メルトがどこかで試練に挑んでいるはずだ。腕の痛みが気になるものの、とにかくメルトと合流するために歩き出した。




最後までの大雑把なプロットを書き終わりました。
ちょうど八十話で完結させようと思ったが上手くはいかない。というよりやったら七回戦長くなりすぎる。
七十五行くか行かないかくらいで終わりそうな予感がします。

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