Fate/Meltout   作:けっぺん

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評価にて「描写が少ない」という感想をいただきました。
確かに急ぎ気味の文章ですね。
少しずつ改稿を重ねていきます。
ありがとうございました。


七話『史実との相違』

 

 

 六日目。

 猶予期間は今日が最後。

 トリガーを見つけたり、情報を集めないといけない。

 猶予期間は思ったよりも早く過ぎてしまった。

 だが、アリーナの探索は終盤まで進んでいる。

 今日アリーナに入れば、そう時間をかけずにトリガーを見つけることが出来るだろう。

 だが、その前に強化を目的としてアリーナの反対側――教会に向かってみた。

 教会ではサーヴァントの能力をより引き出す事が出来るという噂があった。

 その真相は、魂の改竄なる手法で、マスターの魂とサーヴァントの魂をリンクさせる事の様だ。

 マスターの魂の位階が上がればそれだけ強くリンクできる。

 特定のステータスに向け、直接魂にハッキングする。

 そのリンクのさせ方によっては、そのステータスを上昇させる事が出来るようだ。

 メルトの強化のために訪れた、ワケだが……

「……魂の改竄ができないのは異例中の異例ね」

 魂の改竄を担当する赤髪の女性――蒼崎(あおざき) 青子(あおこ)さんはどこか関心するように僕とメルトを見ながら言った。

 横で椅子に座りながら煙草を吹かす青髪の女性――青子さんの姉の橙子(とうこ)さんは興味深げに此方を見ていた。

「改竄が出来ないって……どういう事ですか?」

「と言われてもねぇ……」

 どういう事なのかは不明だが、もしかすると、あの召喚の際に何らかのトラブルが発生したのかもしれない。

 だとすると、メルトのステータスはいつになってもオールEだろうか。

 メルトは僕が成長すれば自身も強くなる、と言っていたが――

「拒絶、かなぁ。私の方からのハッキングを一切通さないのよ」

「それじゃ、ステータスは……」

「それは問題ないだろう」

 橙子さんが口を開いた。

「言ってしまえば君とそのサーヴァントは完璧にリンクしていると言ってもいい。君の成長に伴い、そのサーヴァントも強くなるだろうさ」

「完璧に、リンクしている……?」

「そのサーヴァントが故意に加減をしているのか、何らかの制限が掛けられているのか。どちらかは分からないがね」

 メルトは何も言う気配はない。

 ただ黙って、二人の言葉を聞いている。

「改竄は出来ないけれど、マスターには平等にしなくちゃだし。特別に相談なら乗ってあげるわよ。役立たずな姉貴も頭は良いから何でも聞いてやって」

 青子さんは相談に乗ると言いながら単刀直入に姉に毒を吐き、

「……まぁ、この場で低レベルな改竄しか脳の無い妹よりは役には立てるさ」

 橙子さんはその毒を上手く受け流しながら遠まわしに妹に毒を返す。

 いまいちこの姉妹に関係が分からないが、力を貸してもらえるなら頼もしい。

 二人が放つ殺気が正直怖いので関係については触れず、早々に力を借りる事にする。

「……じゃ、じゃあ早速なんですけど……」

 慎二のサーヴァントについて話してみる。

 自分以外の力で情報を集めるのは反則気味な気もするが、多分大丈夫だろう。多分。……多分。

 無敵艦隊。騎乗兵(ライダー)のクラス。イギリスの海賊である可能性が高いこと。

 しばらく考え込んでいた橙子さんが声を漏らす。

「……ふむ。……いや、まさか……」

 どうやら何か心当たりがあるようだが……

「確定は出来ないな。船の名前が分かれば正体にも行き着くだろうが」

「船の名前……」

 なるほど、それが分かれば、即ちあのサーヴァントの正体に行き着いたも同然だろう。

 慎二がアリーナにサーヴァントの本を隠したと言っていた。

 それが船の名前に関する情報なのだろうか。

「それに、必ずしも史実がそのまま現代に語り継がれているとは限らない。例えば暴君ネロが女性、というのも可能性としてはありえるんだ」

 まぁ、さすがにそれはないだろうね、と橙子さんは笑う。

 確かにその例えは突飛過ぎるが、史実が歪曲されて現代に伝えられているというのはある。

 もしかすると、慎二のサーヴァントもそんな英雄の一人なのかもしれない。

「私が言えるのはそれだけだ。精々頑張るといいさ」

 橙子さんはそれきり、何やら作業に没頭し始めた。

「あちゃー……振るんじゃなかった。私が言える事がなくなっちゃった……」

 青子さんが後悔している。

 言葉から察するに、青子さんもどうやら同じような考察を立てていたらしい。

「まぁ、頑張ってね。応援しているわ」

「あ、ありがとうございます!」

 二人に礼を言い、教会を出る。

 メルトは二人を一瞥した後、姿を消した。

 魂のリンクの事について問い質そうと思ったが、教会の外の光景を見てそのタイミングを奪われた。

 

 

 教会前の花壇、そこに立つ四つの人影。

 どうやら三対一の状況。

 三人側の代表の様に前に立つのは紛れも無い、間桐 慎二その人だ。

 というより、その後ろに立つ女子生徒は巻き込まれただけに見える。

「騒ぎ散らしながら教会に入るものではない。君の神がどのようなものかは知らんが、教会では静かにするもの。神父からそう教わらなかったかね?」

 慎二に説教しているのは、白髪と髭をたくわえた初老の男性。

 服装からして軍人だろうか。

 ともかく、その一風変わった風貌は、間違いなく聖杯戦争に挑むマスターだろう。

「悪いね! あいにくと、僕は無神論者なんだよ」

 慎二は相手が大人だろうと構わず、小馬鹿にした態度で老人に返す。

「……ふむ、日本人は礼儀正しいと聞いていたが、それも人それぞれという事か」

 呆れたように、老人は溜息をつく。

 軽蔑の眼差しに、怒りの色が混ざる。

「去るがいい、小僧。主を信じぬ人間に、父の家の門は開かれん。技術を学ぶ前に、礼儀作法から出直すのだな」

「はん、やだねぇロートルは口ばっかり、偉そうでさぁ!」

 老人の言葉に慎二も気を悪くしたのか、語調を強めて言う。

「まあ、いずれ戦う事になったら、たっぷりと思い知らせてやるさ」

 と、そこで慎二と目が合った。

「やぁ紫藤。君も来ていたのかい? 精々無意味な強化を続けると良いさ」

 それだけ言うと、慎二は女子生徒二人を連れて校舎に戻っていく。

「……君の知り合いかね?」

「え……あ、はい」

 慎二を見送った後、老人に声を掛けられた。

「……良い眼をしている。彼の知り合いとは思えんな」

 老人は、真っ直ぐと僕の目を見ている。

「儂はダン・ブラックモア。よろしく頼む」

 ダンと名乗った老人が手を差し出してくる。

 それをおずおずと握りながら、僕も名乗る。

「えっと、僕は紫藤 白斗です」

「シドウ君か。いつか戦うときになったら、公平な勝負を頼むよ」

 ダンさんは小さく微笑むと、教会に入っていった。

 きっと彼も強敵だ。

 勝ち進むのなら、いつか彼と戦うときがくるかもしれない。

 改めて覚悟を決めて、アリーナに向かうことにした。

 

 

 一の月想海、第二層。

 二つ目のトリガーと、慎二が隠した本を探しに来た訳だが。

「……見えない床か。趣味が悪いよ、まったく」

 踏みしめる床の感覚はある。

 アリーナの一角にあった不自然な通路は、壁を通り抜けてその先に行くことができる仕掛けが施されていた。

 通り抜けた先の広場に置かれた、一冊の本。

「これがシンジの言ってた本ね」

 古ぼけていて、文字も掠れている。

 辛うじて見る事が出来たのは、幾つかの島の名前。

 襲った船の積荷。

 そして、核心に迫る情報――

 

黄金の鹿号(ゴールデンハインド)

 

 日夜荒波を駆けた海賊の航海日誌。

 それに書かれていた、求めていた情報。

 ライダーが操る船の名前は、幸運にも掠れずに残っていた。

「黄金の鹿……成程ね」

 メルトはライダーの正体に気付いたようだ。

 僕も、心当たりがある。

 まさか女性とは思わなかったが、これが橙子さんの言っていた史実との相違だろう。

 ともかく、これで情報は揃った。

 後はトリガーを見つけるだけ――

「こんなところまで探すなんて、ずいぶん必死じゃないか」

 背後から声が聞こえた。

「ハク!」

 と、同時に、メルトが僕を突き飛ばした。

 銃声と、それを弾く音。

 ライダーが此方に向けた二丁の銃は、今の一撃と合わせ、露骨な宣戦布告だった。

「残念だったね。せっかくだけど、その本は返してもらうよ」

 ……まぁ、それは問題ない。

 船の名前は覚えたし、真名にも行き当たった。

 この本は返しても問題ないだろう。

 勿論、一矢報いるため、活用させてもらうが。

「分かった。返すよ」

 本を高く放る。

 慎二がそれを見上げ手を伸ばす。

 ライダーも、本を眼で追っている。

「メルト!」

 叫ぶと同時に、ライダーに向けてコードキャストを放つ。

「んなっ!?」

 銃を構えなおす前に、弾丸はライダーに直撃した。

 一瞬動きを止めたライダーに、メルトが痛烈な一撃を加える。

「くっ、お前っ!」

 ライダーがメルトに反撃を試みるも、猛攻を防ぐのに精一杯のようだ。

「紫藤っ!」

 慎二が巨大な弾丸をつくり、放とうとする。

 が、僅かに早く僕が放った弾丸が慎二の顔に直撃した。

 サーヴァントやエネミーに対して動きを僅かに止める程度の威力だったのでマスターへの牽制にも使えると思い試してみたが、上手くいったようだ。

「お前、僕に向かってッ! ライダァー!」

 鼻を押さえつつ怒り狂う慎二がサーヴァントを呼ぶ。

 ライダーは僅かな隙を突いてメルトを蹴飛ばすと、慎二の元に飛んだ。

「くくっ、やるのかい? シンジ。良いよ、派手にやっちまおうじゃないか!」

「あぁ……力の差をアイツらに教えてやれ!」

 ライダーが素早く横に飛びながら宣言する。

「砲撃用意っ!」

 出現する、四つの大砲。

 それら全てが此方に向けられている。

「やば――」

「藻屑と消えなァッ!」

 一斉に砲撃が放たれる。

 今までのライダーの攻撃とは比べ物にならない、圧倒的な攻撃力。

 咄嗟に弾丸を放つが、砲撃の一発に当たると跡形もなく霧散してしまう。

 メルトが僕を抱え、飛ぶ。

 そこに着弾した砲撃の爆風が相乗し、メルトと僕は大きく吹き飛ばされる形でアリーナの壁に叩きつけられた。

 

『SE.RA.PHより警告:戦闘を強制終了します』

 

 僕とメルト、慎二とライダーの位置関係が初期のものに戻される。

「はぁ……はぁ……僕が傷を受けるなんて、侮ってたよ、紫藤!」

 慎二はそう言っているが、今の砲撃の威力は軽視できないものだった。

「だけど、この程度で調子に乗るなよ。SE.RA.PHの監視もあるし、決着は本番まで取っておいてやるよ」

 慎二とライダーは、アリーナから校舎に戻るアイテム、リターンクリスタルを使いその場から消えた。

「……攻撃力では勝てないわね」

「でも、速度ならメルトの方が勝っている。慎重に行けば、きっと勝てる」

 先ほどの戦い、手応えはあった。

 少しだけど、勝機はある。

「よし、メルト。トリガーを探そう。情報の整理と作戦を纏めなきゃ」

「分かったわ。行きましょう」

 この後、何事もなくトリガーを入手し、猶予期間の最終日を終えた。




この小説執筆の協力者、Kとの会話
け「改竄できないってどうよ?」
K「良いとは思うけどこの完璧なリンクって何さ? 何で成長すると鯖も強くなるの?」
け「例えるなら全ステに努力値252振ってあるのにまだステに反映されてない感じ」
K「さっぱりわかんねえ」

レベルアップしなくとも努力値が反映されるのってBWからでしたっけ?

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