Fate/Meltout   作:けっぺん

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十月末から十一月中に掛けて、ガチで忙しかったりします。
ってか十一月イベント多すぎなんだよクソがとか愚痴りつつ、執筆を進める私でした。

セラフ、セレフについては前話前書きをご参照ください。


六十一話『勝利の兆し』

 

「く、この……!」

 恐らく、現在のセレフは聖杯戦争に呼ばれたランサーの経験値を模倣したものなのだろう。

 出現させた槍の猛威は容赦なく襲い、今まで防いできたメルトにも疲労の色が見え始める。

「どうすれば……」

 出来うる限り、殆どの策は試してきた。

 どうにかして突破口を開きたいが、障壁と無限の攻撃法を破る手段がどうしても見つからない。

 キャスターの宝具『永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)』をまだ使えるかどうかは分からない。いや、恐らく魔力は無尽蔵だろうし宝具自体を使用しているのではなく模倣しているだけな以上何度でも使えると思っていいだろう。

 ……ともかく、諦める訳にはいかない。最後まで足掻くべきだろう。

「まずは障壁――」

 如何なる攻撃スキルでも防ぎ得る障壁。

 あれを確実に破る方法。『踵の名は魔剣ジゼル』をも防ぐほどの障壁だが、何かしら弱点があるのではないか。

 これまでの僕達の攻撃傾向を考えてみると、一つ仮説は立てられる。

 それを試す機会――セレフが一度に行える行動は一つのみ。ならば、メルトの体勢を立て直すためにも行動が必要だ。

 やるしかない。そう決心し、コードを紡ぐ。

shock(64)(弾丸)!」

 激しく動くセレフの動きを考えて放った弾丸は、攻撃姿勢を解除して障壁を展開する。

「メルト、攻撃を!」

 今まで意味のない行動だと思っていたが、或いはこれならば。

「っ――臓腑を灼くセイレーン(グリッサード)!」

 防戦一方であったメルトは咄嗟に攻撃へと転じ、燃え盛る膝を障壁に突き刺す。

 そして、いとも簡単に障壁は砕け散った。

「よし……!」

 予想通り。どこまでも最善最適、無駄のない戦法を選択するセレフは、襲い来る攻撃を無駄なく防ぐ障壁を展開するだろう。

 だからその上を行く攻撃で破る事が出来る。どうしてそんな簡単な事に気付かなかったのか。

 ただ、これでセレフはそれを学習するだろう。この戦法はこれっきりしか使えない。

 ここから僅かな間にどこまで有利な状況に持っていけるか。

 まずは今の『臓腑を灼くセイレーン』でセレフの魔力を吸収し、メルトの傷を癒す。

gain_str(64)(筋力強化)――loss_con(64)(耐久弱化)!」

 畳み掛けるためのコードキャスト。耐久弱化のコードは障壁を張っていないセレフに防げる筈もなく吸い込まれていった。

 助かったのはセレフにマスター的立場のプログラムが居なかったことだ。別に補助に徹するプログラムが居たら、この戦法も上手く決まらなかったに違いない。

 メルトの連撃は容赦なくセレフを攻める。しかし、『王子を誘う魔のオディール』でさえ倒れなかったプログラム。これだけで倒すのは不可能だろう。

 それに問題はそれだけではない。

 先ほどのカウンターのコードキャスト。相手の攻撃に反応して相応の攻撃力で反撃するもののようだが、あれをまた使用してくるとしたらこのまま攻撃し続けるのは得策とは言えない。

 攻めなければ勝てない。だが攻め過ぎることもできない。障壁を張った状態から断続的に攻撃を受けている以上、その合間にコードを紡ぐなんて出来るとは思えないが、先程は弾丸のコードからの攻撃にも反応できていた。

 セレフの特権として極短い時間でのコード使用も出来るとしたら、それこそ手が付けられない――が、メルトの嵐の様な攻撃に対しての反撃らしきコードの気配は見られない。

 コードキャストの発現を危惧して確認していた携帯端末に無機質な変化が現れる。

『マスターを対象とした攻撃に移行。より危険因子を抹消する確立の高い宝具を検索。』

 ダメージを受けていたのはサーヴァントの注意をマスターから逸らすため。その瞬間、それを確信する。

 この状態で、マスターである僕を確実に仕留められる宝具。つまりは、どこに逃げても無駄な対軍相当の宝具で個人を狙う戦法。

『該当32件。この内最も確実性の高い宝具を再検索。』

 メルトを呼び戻すのは得策ではない。

 この隙が、何よりも確実にセレフを追い詰める手段なのだから。

 だとすれば、この宝具は自分自身で防ぐしかない。その内に、メルトがセレフを倒してくれることを信じて。

『宝具情報、訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)。投影します。』

 聞き覚えのない宝具。僕たちが知らないサーヴァントのものなのだろう。

 名称的には恐らく、アーチャーのものだろうか。ともなれば、射撃に関する攻撃の可能性が高いが……。

 ……、どれだけ時間が経っても、宝具の投影は見られない。

「たかが攻勢プログラム程度の魔力の流れくらい分かるわ。そんな大それた宝具の使用、許すと思って?」

 攻撃を停止したメルト。セレフは胸部に小さな穴を開けられていた。

 そこから零れ出る液体――あれは魔力か。ムーンセル直属であり、その特権を使用できるプログラムの本体。

 その魔力の放出を阻害してしまえば、強力な宝具も使用できない。僕には考えもつかない、直接戦うメルトだからこそ把握できた情報を活用しての対策法だった。

 どんな手段を用いたかは分からないが、ともかくメルトの攻撃によって魔力が零れている以上宝具やコードキャストの使用も満足に出来ないだろう。

 だから後は慎重に戦うだけ、そう思っていたのだが。

『戦闘続行不可能と判断。残存魔力を使用して最終攻撃に移行。』

 携帯端末にそんな文章が現れたと同時に、セレフは上空へと浮き上がっていく。

「ハク、あれは?」

「残った魔力を使った最後の攻撃らしい。多分今までと同じ、宝具の攻撃だろうけど……」

 だとしたら、最後に使うのは何なのか。

 最大限の威力と範囲を持ち、此方を纏めて確実に倒せる宝具。

 そんな宝具を使用した相手が、今までに一度だけ居た。それが最強の宝具ではない規格外の相手ながら、礼装を用いなければ防げなかった必殺の一撃。

『宝具情報、日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)。投影します。』

 規格外の英霊が用いた、規格外の宝具。模倣にしろ正当でない使用者だ。神造宝具の使用となれば、相応の代償があるだろう。

 セレフも死に瀕し、捨て身という手段を取るに至らなければそれを使う事は無かった筈だ。

 そもそも、あの槍を投影できるのか、とも思ったが、飛躍したセレフの腕には紫電の槍が握られている。

 あれを防ぎえる方法。例え威力が減衰していようとも盾のコードキャスト程度では無理だろう。

「メルト、防げそう?」

「……威力によるわね」

 メルトの表情は、決して余裕のあるものではなかった。

「防いで見せるわ。任せて、ハク」

 魔力を変化させつつメルトは僕の前に立つ。

 その背中を、今までと違う風に見えたのは、やはり思いを伝えたからか。

 頼りで高く見えていたその姿。それは脚具が作っていた見せ掛けである事に、今気付く。

 とても華奢で小さな体を取り繕った、加虐体質という特殊な性質に相応しい姿。

 そんな新しい見え方は、今まで守ってくれていたメルトを僕が守ってあげたいと思える理由としては十分すぎるものだった。

 そして或いは、それがスイッチだったのかもしれない。

 零の月想海で手に入れて、今まで使い方の分からなかった一つのコードキャスト。

 まだ効果の見えないそれは、たった今頭に浮かんできたようで、それでいて最初から知っていたような不思議な感覚だった。

 膨大な火炎の魔力を槍に纏わせるセレフ。その攻撃を防ぐべく、『さよならアルブレヒト』を展開するメルト。

 セレフを倒すために、そしてメルトを守るために。手を翳し、コードを紡ぐ。

 

「――」

 

 そっと呟いた言葉。魔力が手から噴き出ていく。

 これほどの魔力を一度に放出させたのは初めてだった。

 紡いだコードは今正に槍から火炎を放とうとしているセレフに“組み込まれていく”。

 そして次の瞬間、セレフは崩れていった。

 最強クラスの宝具が喚んだ火炎の魔力はその担い手が居なくなった事で四散していき、やがて見えなくなる。

 今まで自分達を苦しめていた敵にしては、あまりにもあっさりとした最期。

「――、え?」

 呆気に取られた様子のメルト。

 僕はその後ろでコードを紡ぎ終え、感じたことのない疲労感に倒れこんでいた。

「ハ……ク?」

 まだ今の状況を信じられないらしいメルトは此方に怪訝な表情をしている。

 当然だろう。先程までチートに等しい能力で僕達を圧倒していたセレフが一瞬で崩れていったのだから。

 僕自身、今何が起こったのか整理しきれていない。

 零の月想海で手に入れたコードキャスト。その効果を知らないままに、“今使うべきもの”だという知識だけが入ってきた。

 結果的に良い方向に転がったものの、一歩間違えば自滅に直結するそれを咄嗟に行ったのは無謀でしかないだろう。

 それに、結局この礼装の効果は分からなかった。

 自壊が進んでいたとはいえ、ムーンセル直属の敵性プログラムを消滅させるほどのコードキャスト。

 或いはレオとの戦いで切り札になりえるものかもしれない。七日目までに効果を明らかにさせておかなければ。

「メル――」

 とにかく、無事を確認すべくメルトに声を掛けようとした瞬間、

「ッ!」

 視界が唐突に移り変わった。

 メルトは居る。それを確認した後、辺りを見渡す。

 アリーナへの扉。どうやら校舎へと強制転移されたようだ。

 当然ながらリターンクリスタルを使った覚えはない。

「今のは……?」

「ムーンセルからの強制転移、ね。あのプログラムが倒されたときに発動するよう予め組まれていたんじゃないかしら」

 万が一、セレフが倒されたときのために、少しでもマスターとサーヴァントの阻害をするプログラム。

 たった七日間という猶予。一日で一回しか来る事が出来ないアリーナから強制的に退出させ、その日の探索を終わらせる。

 初日の内にトリガーを手に入れておきたかったが、とにかく生きて戻ってこれた事に安堵する。

「にしてもハク。さっきの、プログラムを倒したコード。あれどうしたの?」

「……零の月想海で手に入れた最後の礼装みたいだ。でも、効果が良く分からない」

 問題は山積み。セイバーの情報もまだ完璧とはいえないし、このコードの詳細も確かめなければならない。

 でも、たった一つ。メルトに思いを伝えることができた。

 それが何よりも嬉しくて、絶対にレオに勝つという決意を固めることもできた。

 メルトの為にも、勝ち残る。聖杯戦争に勝利する。

 どうしようもなく、小さな意思。

 しかしそれは僕にとって、間違いなく大きな一歩であった。

 

 

 +

 

 

 ベッドで寝息を立てるハクを見ながら、私は考える。

 サーヴァントに課せられた絶対的な優先順位。それが私の中で変動していた。

 正確には私はサーヴァントではなく、そんな優先順位が私に定められているかは分からなかったが、あの敵性プログラムが現れたという事は相応にムーンセルが危険視しているという事だろう。

 相手はプログラム。負ける道理がない。戦う前に、ハクにそんな事を言った。

 だけど結果として、あのままでは私は勝てなかっただろう。

 ランサーの宝具は多少威力が削減されてても、私が防げるほどのものではなかっただろう。

 防げないとしても、ハクを不安にさせないように精一杯の虚勢を張った。

 全力で防ごうと思った結果、槍の一撃が放たれる前にプログラムは消滅した。ハクが発動した、見た事もないコードによって。

 初めて見る。それでいて、何故か良く知っている力。

 プログラムに何が起きたのかは分からない。しかし一つはっきりとしている事がある。あのコードはBBの力に良く似ている。

 BBの力の本質は私にも知り得ないものだったが、その力を彼女は最期、ハクに授けたとでも言うのだろうか。

 あのコード。確かに切り札に相応しい、私の宝具にも匹敵する威力があるだろう。

 決勝戦。それに相応しい、最強の相手。

 あの王様を倒すには、きっとあのコードも活用することが必須になる。

 そのためにも、あのコードについてはきちんと調べなければならない。そして、ハクが強力な武器を手に入れたのならば、それを活用できるように私自身も強くならなければならない。

 月の裏側での最盛期。NPC達をドレインしてレベルを上限値にまで上げたあの時ほどの力は表ではどうあっても手に入れることは出来ない。

 だけど、表ならば表なりの強さを得られる筈だ。

 根拠なんてない。けれど、ハクが居てくれる。

 ハクの思いを、私は真剣に受け止めたい。だって、二度と後悔はしたくないから。

 だから、最後の最後で負ける訳にはいかない。

 ムーンセルの管理下として適応できるように制限された私の力。BBに与えられたid_es、オールドレインとメルトウイルスはもう使えない。

 だったら出来る範囲で、出来る限り強くなればいい。

 変質した戦闘スキル、クライムバレエ。結果的にそれは強化されたのだ。

 その全てを使おう。他の誰でもない、ハクのために。彼を絶対に、聖杯に導くために。

 その結果として、何が待っていようとも。




出来るだけ更新は早くしたいですが、しばらくこんなペースが続いてしまいそうです。
目標としては今年中には完結させたいですね。

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