Fate/Meltout   作:けっぺん

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テスト終わりました。結果は察してください。
さて、これから一週間が山場になりそうな予感です。
というのも来週の土曜日にはポケモンマスター目指して旅に出るので、それまでにどこまで書き進められるかですね。

そんなわけで短めですが最重要イベント入ります。どうぞ。


五十八話『人としての幸せ』

 

 レオと別れて凡そ一時間。僕はラニと共に図書室でセイバーの情報を集めていた。

 今回、あの最強の相手と戦うにおいて、此方の最大のアドバンテージはサーヴァントの真名が分かっていることだ。

 セイバーの真名は、円卓の騎士の中でも屈指の実力者、ガウェイン卿。

 ガウェインについて、一回戦の時に少しだけ情報を手に入れている。だが、時間が無くて強さや能力まで調べることはできなかった。

「警戒するべきは、やはり聖剣でしょうね」

「うん……ガラティーン、か」

 ガラティーンはガウェイン卿が持つ聖剣だ。

 その名がわかっても、問題はこの剣について書かれた文献が少ないこと。

 文献によって情報はバラバラで、アーサー王が持つ聖剣エクスカリバーと対を成す剣だとか、どんなに斬っても刃毀れしないとか。

 果ては太陽の加護を得ているとか、遥か遠くに居る敵だろうと可視できれば刃が届くなどという信じがたい資料もある。

 それらが全て本当とは思えないが、どれが正確であるかも分からない以上、全てを考慮しておかなければならない。

 そして、後一つ。

「朝から正午にかけて、力が三倍になる能力……」

「これに関しては危険性は薄いと思います。ハクトさんのアリーナ探索時間は夕方から夜にかけて。その能力は発動しないかと」

 確かにそうか。それ程注目すべきことではないだろう。

 それに、決戦も夜に行われる。この能力があっても、決戦の際は発動していることはないだろう。

 力が三倍になる――遥か昔の伝説にそんな補正があるなんて思いづらいが、現に書いてある以上一応頭には入れておこう。

 手に入った有力な情報はこの二つ。

 後は危険が伴うが、直接戦って手に入れるしかないか。

「もう夕方か。じゃあ僕はそろそろアリーナに向かうよ」

「はい――お気をつけて」

 ラニはどうやら情報収集を続けてくれるようで、図書室に残るらしい。

 心強い仲間がいてくれることに感謝しながら、出て行こうとする。

「ハクトさん」

「ん?」

 呼び止められて振り向くと、ラニはいつも通りの無表情ながら真剣な目で見つめてくる。

「生き残ってください。絶対に、死なないでください」

 今更――とは思うが、ラニの心配はもっともだ。

 相手はレオ。正真正銘、最強のマスター。

 だから僕が猶予期間の間に倒されてしまうのではないか、そう懸念しているらしい。

「……うん、大丈夫。僕は死なない。生きて、絶対に勝つ」

「……はい」

 小さく微笑んだラニ。心底安心したような笑みに、此方も笑みを返す。

 そして今度こそ、図書室を出てアリーナに向かった。

 

 

 アリーナの一階層は特に広いわけでもなく探索にそれ程時間を掛けるものでもなかった。

 より手強くなったエネミーたちと戦って特訓する。

 メルトもランサーと戦ったことで一層強くなり、その動きはより機敏になっている。

 五体目のエネミーと戦いながら、ふと手にある刻印に目をやる。

 サーヴァントへの実質二回限りの強権、令呪。三回戦の後、ラニを助けるために一画を使っていた。

 その一画は言峰神父に与えられた試練(タスク)によって取り戻す事が出来たが、それ以降一切使用していない。

 実質的に手付かずの状態で完全な形を保っている令呪。

 違法マスターとはいえ、あの二人の命を奪ってまで手に入れた最初の一画も使わずに終わるのだろうか。

 勿体無い、という訳ではない。切り札を使わずに取っておくのは正しい事だろうし、或いはレオとセイバーはこの二画を使用してようやく追いつけるくらいの強敵かもしれない。

 使用する事でサーヴァントへのブーストにもなる強力な魔力源。使うのならば、どういった場面だろうか。

 例えばメルトの攻撃がセイバーに通用しない場合――メルトの攻撃に令呪の魔力を乗せる事で決定打に出来るかもしれない。

 メルトの速度でも追いつけない場合――僅かな時間だろうが魔力放出相応のブーストが出せるだろうか。

 或いは白羽さんがやったように、コードキャストに込める事でそのコードを強力にしたり、扱いきれないコードを紡ぐことも出来るだろう。

 id_esスキル、メルトウイルスの使用はさすがに危険だろうが、いざとなれば二画を使用すれば発動も不可能ではないかもしれない。

 それらをしっかり考えておかないと、咄嗟に使う余裕をレオは与えてくれないだろう。

「っ――ハク!」

「え――」

 考えに集中しすぎていた――メルトの声が聞こえた瞬間、背に鋭い痛みが走る。

「この!」

 メルトがすぐさま斬撃を放ち、僕の背後にいたエネミーを消滅させる。

 エネミーによる魔力弾だ。致命傷には至らない――そもそもエネミーにマスターを殺す能力は無いらしい――が、決勝にもなってこんなミスをするなんて。

「ハク、大丈夫!?」

「ぁ、うん……」

 駆け寄ってくるメルトにそう返すも、立ち上がれそうに無い。殺傷力は無いまでもその威力は十分だったようだ。

 しばらくはここで休むべきか。

「……ちょうど、良い機会かしらね」

「メルト……?」

 何か思案するような素振りをしていたメルトはそう呟いたあと、コートから手を覗かせる。

「手を貸すわ、ハク」

「あぁ……ありが、と……?」

 その手を取って――不自然さに気付く。

 初めて触れたその手には、一切の力が入っていない。

 不自然なまでに軽いそれは、震えながらそっと握り返してくる。いや、握るというよりは、ただ手の形を動かしただけのようだ。

「……メルト?」

「……私が今まで手を使わなかった理由はこれよ。触覚の神経障害――それも重度のね」

 神経、障害。

 その告白に驚きこそあれど、哀れみや怒り――今この場で持つべき感情は沸いて来なかった。

 触感の低下。それがメルトをどれだけ苦しめていたのか、想像に難くない。

 加虐嗜好。人形愛。そしてメルトの格好。解釈のしようによってはそれら全て、納得がいくからだ。

 感触のない外界への干渉手段。触る実感が無いからこそ動かないモノを愛する性質。触れる感触が遠くなる事を恐れての格好。

「抱きかかえて跳ぼうにも、触れる感触が殆どないの。だから、咄嗟に助けることが私には出来ない」

 今までの危機に対応してくれたのは、メルトが余程無理をしていたのか。

 弱く不完全な僕を守るために。そして不完全なマスターにそれを意識させないために、自身の弱点を秘し続けてきた。

「ごめん――もう心配はかけない」

 言って、立ち上がる。忘れてしまったように痛みは感じず、それほど辛くはなかった。

 メルトと真正面から向き合って、脚具による長身を見上げる。

 ずっと隠し続けてきた弱点をさらけ出してくれた。きっとそれは、僕を認めてくれた――そう信じる。

 まだ僕は弱い――でも、全てを語ってくれたメルトには、僕も告げたい。

「メルト」

「……? 何かしら?」

 今言うべき事では無いだろう。だが、今でなくてはいけない。

 戦いはこれで最後なのだ。何かあってからでは遅い。それに、戦いが終わってからでは伝えられないかもしれない。

 だから――

 

「――好きだ」

 

 

 

 

 

 

 +

 

 

 いつの日だっただろうか。というより、どの運命だろうか。

 白野に言われた覚えがある。

 SGを全て暴かれ、戦いにも敗れた私は追い詰められる最中、言われたことがある。

 

「愛してもらうことを諦めた、悲しき少女の一人芝居だ」

 

 人形への愛を白野はそう的確に指摘した。

 人の形をしたものに、自分の思う事を喋らせ、自分の思う心を投影し、自分の思う愛を囁く。

 それが何も生まないと分かっていても、世界(わたし)が愛せばそれで良いと思っていた。一人きりでの、悲しい陶酔だと分かっていても。

 ――すべてを肯定するお前の愛は、求愛者の否定によって幕を閉じる。

 そうね、あなたは間違っていなかった。

 もしかすると私の結末は、あのサーヴァントは分かっていたのかもしれない。

 まぁ、不思議ではないわね。黒幕だったんだから。

 ――何故なら、そんなもんに付き合わされる奴も迷惑だ。一人きりの陶酔なんぞ、ベッドの下で貪ってろ。

 私の愛は、自己満足。自慰行為にも等しい、悲しい芝居だった。

 薄々勘付いていながらも、自分の世界が否定される――ましてや、自分が否定してしまうなんて出来るはずがなかった。

 否定されて終わった私はそのままあの女に取り込まれて、終わる筈だった。

 だけど、

 

「あなた達は反抗的だったけど、私のエゴである事に変わりはない。少しばかりの幸福を得る権利はあります」

 

 あの女から解放された瞬間、BBはそう言った。

「表の聖杯戦争――その始まりにあなた達を送ります。劣化神霊としてなら、ムーンセルはあなた達を受け入れるかもしれない」

 逆らい続けた私たちに、BBは一度だけチャンスをくれた。特に私は、謀反を起こそうとまでしていたのに。

 幸福になる権利を。BBが手に入れられなかったものを得る権利を。

「さようなら、リップ、メルト。次があったら、少しはマトモで忠実になっててくださいね?」

 それが私が聞いた、BBの最後の言葉。

 あの後BBはどうなったのだろうか。もしかすると、初期化の波に飲まれて消えたかもしれない。

 そうであったとしたら、最終的にBBは救われただろうか。白野に対して、何か出来ただろうか。

 分からないし、今それを考えてもどうにもならないけれど、BBは私たちが幸福になる権利を与えるといった。

 聖杯戦争、そこで私は幸福を手に入れられるだろうか。

 そう疑問を持った私が思い出したのは、あの人のサーヴァントだった。

 金ピカ――アレはともかくとして、セイバーやキャスターは実に幸福そうだった。戦いから外れ、裏へと落とされて、マスターの記憶を奪われても変わらない絆――

 ――あの人のサーヴァントがやったように、マスターを導いてあげたい。

 何を虫のいい事を考えているのだろうか。自分にそんな事が出来るわけがないのに。

 自嘲しながら目を閉じて、次に開いたとき、私の視界にはマスター――ハクがいた。

 どこまでも弱くて、願いも決意も無くて、魂のあり方がどこか、白野に似たマスター。

 

「改めて問いましょう。貴方が私のマスターね?」

 

 幾度と無く弱音を吐いて、自分の意思が持てず迷っていたハクは、それでも勝ち進むたびに目に見えて強くなっていった。

 ランサーをも倒して残るは後一戦。それで全てが終わって()()()、そんな時に。

 

 ――好きだ。

 

 ほんの数秒前のハクの言葉が、何度も何度も脳を廻る。

 愛してもらうことを諦めた。間違っていない。その面の幸福は、私は永遠に得られないと思っていた。

 この戦いに私が願う事は、ハクを聖杯に導くこと。たったそれだけの筈だった――なのに、

「……なんで?」

 聞かずにはいられなかった。

 私は、ハクの言葉を素直に受け入れることが出来なかった。

 戸惑い、後悔、未練。色々と今の心境の言い方はあると思う。それに、BBやリップへの申し訳無さも混ざっているかもしれない。

「……なんだろう。今まで守ってくれたからとか、僕を尊重してくれたからとか、そういうのもあるけど……」

 けど。何か、別の理由があるのだろうか。

「……ごめん、言葉じゃ言い表せない。でも、メルトが好き。間違いなくこれだけは自身を持てる」

 あぁ――なんて。

 私も大概なのね、BB。あなたと同じみたい。本当に――本当に――

「……バカ」

 

 良いわよね、BB。人としての幸せを得ても。

 私みたいな歪な命が、願いを持っても。

 

   ――コート越しでも、心なしかハクの体は温かく感じられた。




無理矢理? 突発過ぎる? 細けえこたあいいんだよ!

すみません。言い訳に聞こえるかも分かりませんが当初から「七回戦の初期にしよう」って決めてました。
ノーマルエンドにしても、メルトルートにしても共通でこれを挟む予定でしたが、結構いいタイミングで入れられて個人的には良かったです。あぁ、甘い甘い。
加虐嗜好さんは宇宙旅行にでも行ってるんですかね? 帰って来る気配がありません←

それと、後一つ重要な事と言えば、

 ラ ニ は 図 書 室 で 健 気 に 情 報 集 め て ま す 。

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