Fate/Meltout   作:けっぺん

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ENDを考察するにしても問題はCCCに行くかどうか。
CCCナシならさっくり終われる。
CCCアリならメルトENDが先延ばしになるけど色々書ける。
何より……サクラファイブが!
いや、性格とか口調とかは私が考えた半オリキャラみたいになってしまいますが。
個人的にCCCやるならEXTRAに登場したキャラ全員出したい。
それCCCじゃねぇじゃんみたいになりますが、カルナさん出した時点で分かりきった事ですしね。個人的EXTRA総決算(CCC)です。
さて、どうするべきか……

と言う訳で、六回戦終了になります。長かった。


五十六話『願いから、願いへ』

 

 凌いだ――あの必殺の槍を。鎧と同等に危険視していた宝具を。

 役目を終えた礼装が砂の様に消滅していく。

「ふ……是非も無しか……」

 炎の翼が散っていく。

 最強宝具、雷光の槍の大きすぎる代償。黄金の鎧だけではない、矮躯に装備していた数少ない装飾が纏めて燃え尽きていた。

 輝きとその力を失った槍を持った、幽鬼のような姿は、今まで眩しい太陽の輝きを持っていた施しの英雄とは思えない。

 黄金の鎧と共にその矮躯に華を添えていた耳輪だけが、唯一名残を留めている。

「まさか……ランサーの槍に耐えるなんて……」

「上手く凌いだようだな。……苦し紛れだ、畳み掛けるぞ」

 しかし輝きを失って尚、その槍は健在だ。

 少なくともその槍の冴えは英雄の中でもトップクラスに位置するものだろう。

「ランサー、力を失った槍で勝てる程、彼らは甘くないわよ」

「分かっている。だからこそ、惜しみなく手放せるというものだ」

「……え?」

 ランサーは今、何と言った?

 槍を手放す? そうすれば、それこそランサーは何も持たない状態となる。後一つ、射撃宝具は残っているがそれだけで敗北する程、メルトは弱くない。

 槍兵(ランサー)としての在り方をも失った状態で、逆転の目があるというのか。

「使うのね?」

「そうでもしなければ勝てない相手だろう。彼らは強者だ。使わなければ圧し負ける」

 暫く考える素振りを見せた凛だったが、やがて髪を掻きあげながら不敵に笑う。

「――良いわ。見せてあげなさい、ランサー。貴方の最後の力を」

 静かに、それでいて厳かにランサーは頷く。その槍を持つ手に力を込める。

「メルト……あれは……」

「えぇ。どうやらまだ宝具は残っているようね」

 強大な射撃宝具、『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』。黄金の鎧、『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』。必殺必滅の槍、『日輪よ、死に従え(ヴァサヴィ・シャクティ)』。

 この三つでさえ、英霊という類で見れば規格外の宝具だ。だがあのサーヴァントは、その内二つを失って尚勝利を信ずる程の切り札を持っているらしい。

 槍を凌ぎ、ようやく勝ち筋が見えたと思っていた。だが、それはどうやら完全な思い違いだったようだ。

 今までの細やかな動きとは一転、大きく振りかぶるランサー。

 その眼は空を、光の差さない海を見据える。

「『梵天よ、(ブラフマーストラ)――我を呪え(クンダーラ)』っ!」

 宝具の真名解放と共に投擲された槍は、炎の尾を引きながら(そら)へと吸い込まれていく。

 瞬間、激しい爆発音が決戦場に響き渡り、周囲を明るく照らす。

 ――例えるならば、正に太陽。

 投擲された槍はランサーが父から譲り受けた太陽の属性を伴い、海を押しのけるように輝く球体へと姿を変貌させていた。

 今度こそ徒手となった施しの英雄は、しかし勝利を確信した笑みを浮かべている。

「何も持たない戦いか……どこか懐かしいものを感じるな」

 最早、槍の代わりとして使用していた手甲も持っていない。メルトと満足に打ち合う事も出来ないだろう。

「いい皮肉じゃない。その首、神話通り撃ち落してあげようかしら?」

「冗談と受け取るには厳しいものがあるな。とはいえ、『梵天よ、地を覆え(マントラ)』は健在だ。あの戦いとは違い、全てを失った訳ではない」

「そうね。だけど別の考え方をすれば、それ()()ないわ。直線的な魔力の奔流だけで私を捉えられると思って?」

 そう、戦況は明らかに此方の有利だ。

 ランサーの槍を応戦する相手だからこそ、真正面のみという範囲を生かす事が出来る。

 だが今のランサーには槍がない。メルトの速度ならば、宝具を発動してからでも十分に回避が可能な状態だ。

「いいや、思っていないさ。お前の速度は到底オレでは及ばない」

 全てを失った訳ではない。だが、今の装備ではメルトには敵わない。

 なのに、ランサーは勝利する気でいる。そして凛も、そのランサーを信用している。

 それだけの力が、あの“太陽”にはあると?

「だが、負けるつもりなど毛頭無い。勝利を手繰り寄せる宝具がオレには残っている」

「あの太陽かしら? 父親の加護は得られても鎧は戻って来ないわよ?」

「然り。オレが今信ずるのは、(スーリヤ)の威光のみだ」

 ランサーが空を仰ぎ見る。父たる太陽の輝きを最大の誉れとしてその身に受けているようだ。

 そしてそれこそがランサーの切り札に他ならない事を確信する。

「リン、魔力を回せ。決着を付けるぞ」

「オーケー、ランサー! 行くわよ!」

 言葉と共に高く放られる真紅。

 あれは――

「敵に塩。その塩を貴方との決着に使わせて貰うわよ、ハクト君!」

 三回戦、ありすとの戦いにおいて、怪物ジャバウォックを退治するために作ったヴォーパルの剣。

 その材料であるマラカイトを貰うべく凛を当たり、引き換えに手渡した大粒のルビー。

 結局何に使うかは分からなかった代物ではあるが、それがまさか自分との戦いで使用されるとは。

 凛の宝石は、使い捨てながら多量の魔力を含み、いざという時には強力な武器となる。あれ程大きなものとなれば、含む魔力は、或いは宝具に匹敵するかも知れない。

「今よランサー……全力でやっちゃって!」

「了解した。勝利を誓おう――我がマスター」

「っ――メルト!」

「えぇ!」

 太陽、宝石、ランサーは直線状に並んでいる。

 本能的に危険を察して叫ぶと、分かっていると言わんばかりにメルトは跳ぶ。

 迫るメルトを止める事も避ける事もしない。寧ろ気付いてすらいないように、ランサーはただ(そら)を見上げている。

「お終いよ!」

 メルトの膝は、ランサーの心臓を確実に捉えた。

「っ! ……ぁ」

 小さく呻きを漏らすランサー。大きく目を見開くその形相は、致命傷を必死で耐えているようだった。

「ぐっ――我が、身を……呪え――『梵天よ、地を覆え(ブラフマー、ストラ)』っ!」

 眼から放たれる魔力の奔流。あの状況で宝具を使用できるなんて、一体どれ程の耐久力を持っているのか。

 魔力は宝石を飲み込み、そのまま太陽に吸い込まれていく。

「っ」

 素早く膝を引き抜き、戻ってきたメルトは僕の前で『さよならアルブレヒト』を展開する。

「ハク! ありったけの補助コードを紡いで!」

「え!?」

「早くっ!」

 メルトの声には危機感と焦燥が見える。輝きを増す太陽が起こす事象を勘付いているのだろう。

 今はメルトに従い、信じるしかない。

mp_heal(32)(魔力回復)gain_con&mgi(32)(耐久、魔力上昇)――」

 零の月想海で取得したものも含め、防御に徹して数々のコードを紡いでいく。

 膨張し、直視できない程に輝く太陽。もう紡げるコードは後一つが限界だ。

 やってみるか――いや、失敗したら――あくまでも保険だ――やってみるしかない。

 一か八か。零の月想海で取得したコードの内、唯一詳細の分からないものを唱える。

 しかし、やはり何一つ戦場には変化は無く。

「――」

 瞬間、太陽は爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えるならば、核にも等しい一撃だっただろう。

 メルトによって改竄された決戦場を形作っていたグラフィックは何一つ残らず崩壊し消えていく。

 痛みは感じない。感じる間もなく体は消えたのだろうか。

 

 

 否、足は確かに、地面に付いている。

「――」

 状況を確認するために、傍にいる筈の“彼女”の名前を呼んでみる。

「――ハク」

 声は、返ってきた。

 

「っ!」

 目を開く。

 そこは、書き換わる前の正しい六回戦の決戦場だった。

 跡形も無く消え去った決戦場で続く戦いをそのまま継続させるためにムーンセルが処置を施したのだろう。

「メルト……大丈夫?」

「えぇ。負けてはいないわ」

 負けて()いない。つまり、勝ってもいない?

 前方に目をやると、固く口を閉ざした凛と胸に穴を開け、苦悶の表情を浮かべるランサーがいた。

「本当にしぶといわね。まだ勝つ気でいるのかしら」

 まさか、致命傷を気力で耐えているのか。

 最早サーヴァントだからという敷居で理解することすら出来ない、異常なまでの精神力と執念に感嘆を通り越して寒気を覚える。

「っ……リン、どうやらオレは……往生際が、悪いらしい」

「……そうね」

 その口元は互いに笑みを浮かべている。

「任せよう……オレは、どう……すれば良い……?」

 ただし、答えは既に分かっているように。

「……貴方は良く頑張ったわ。それに、地力で負けた。悔いなんて無いわ」

 求められた方も、する事は決まっていたように。

 ただ腕を上げて、手の甲に浮かぶ紋様を見て少しだけ躊躇しながらも口を開く。

「――だから、負けを認めて。もう苦しむ必要は無いの」

 どれだけ胸が痛んだだろう。どれだけ内心悔やんでいるのだろう。

 望みはすぐ近くにあるのに、それには決して届かない。

 全力で戦って、及ばなかった相棒を楽にするために、遠坂 凛は微笑んだ。

 捨て去ることなど出来る筈もない大きな未練を、しかし度外視した凛の優しさは、消えていく刻印によって成立した。

 

 ――

 

 隔てる壁はどこまでも無情だった。

 一方が戦う意思を失った瞬間、勝敗を決定的に別ける。

「……あーあ、貴方に負ける事になるなんてね。最初に会った時は想像もしなかったわ」

 驚くほどに気の抜けた声から始まった言葉は、非常にあっさりしたものだった。

 これから待ち受ける運命を考えると信じられないくらいだ。

「ランサー、お疲れ様」

「……すまない。聖杯を約束しておきながら、道半ばで果てる事になってしまった」

 ランサーの謝罪を、特に気にした風も無く凛は首を振る。

「良いのよ、気にしなくて。貴方らしくないわ」

「……そうか」

 口を閉ざすランサーを見て凛は溜息を吐く。

「何で最後に限ってそんなに静かなのよ。言いたい事は全部、言っちゃいなさい」

「……そう、だな」

 ランサーは凛を見て、笑みを浮かべたまま言う。

「なら、理解していると思うが言わせて貰おう。――未練を残すな。下らない妄執を抱くほど、君は不幸ではない」

 凛のそれは満ち足りた人生の果てだった。そう確信している様に、施しの英雄は告げた。

 そして、笑みを崩さぬまま逝く。その背に宿した太陽神の威光は最後まで残っていた。

「……」

 数を減らした令呪が凛の手から消え、その体が黒く染まり、崩れていく。

 凛も、ランサーと同じ運命をまもなく辿るのだろう。

 その引き金を引いたのは、紛れも無い僕だ。

「……聖杯戦争が始まってからずっと、負けた時は後悔でいっぱいだと思ってた。でも、何でだろう。凄く落ち着いてるわ」

 心底不思議そうに、凛は言う。

 あの後ランサーとメルトを戦わせたとしても、決着は時間の問題だっただろう。

 それを理解したからこそ、凛は自分の手で決着を付けた。潔く、しかし疑問を残しながら。

「もしかすると、貴方のおかげかもね」

「っ……」

 言葉は出てこない。何を言えば良いのか分からない。

 そんな様子を察してか、苦笑しながら凛は続ける。

「貴方なら、レオに勝てるかもって事よ。聖杯が手に入らなくても、誰かがレオを倒す事さえ出来ればハーウェイの支配は大きく崩れるわ」

 凛が聖杯戦争に身を投じた理由。

 それは、西欧財閥の打倒だといつか聞いた覚えがある。

 自分にそれが敵わないのだとしても、それを代わりに果たしてくれる人が居るならば。

「あー、こんな考えだから、負けちゃったのかな。代わりがいる、だなんて」

 そう自嘲する凛を、この場にいる誰も笑うことはない。

 凛の言葉は、僕の背中を最後の戦いへと押しているもの、そう感じた。

「最初は最弱のマスターだったってのに、今じゃ聖杯に手が届くまで強くなった。本当、不思議な人よね」

「……僕は、まだまだだ」

 凛に比べたら、マスターとしての実力なんて遠く及ばない。

 今回の戦いもラニの協力があったからこそ。自分の力だけで戦っていたら、今頃僕は負けていただろう。

「まったく、この期に及んでまだそんな弱音を吐くのね。ま、それも貴方らしいか……でも」

 凛は言葉を途中で切ると、目つきを鋭くして語調を強める。

「しゃんとしなさい! ……貴方は強くなった。最後の最後まで来て、まだ自信を持たないなんて許さないわ」

 叱咤は容赦なく心に響く。願いを得て、誰であっても勝利すると決意したのに、未熟である自分の弱さで乗り越えてきた皆の想いを背負う事が怖かった。

 そんな僕を信じて、凛は送り出そうとしてくれている。死を前にした親友の頼みに対して迷いや躊躇いを持つなんて、馬鹿らしいにも程がある。

「……分かった。もう、迷わない。僕はレオを倒す。僕の願いを、叶えるために」

「貴方の願い、か。その様子だと記憶を取り戻したみたいね」

 凛の言葉に首を横に振って否定する。

「僕に記憶なんて、最初からなかった。リンク先なんて、存在しなかったんだ」

 一瞬目を丸くした凛だったが、すぐに合点が言ったように頷いた。

「やっぱり、気のせいじゃなかったみたいね」

「……知ってたの?」

「憶測だけど。三回戦に介入してきた辺りからね」

 視聴覚室に仕掛けられていた、普通だったら脳が焼き切れる程の防衛プログラム。

 あれを自然に突破できた事を、凛は不思議に思っていたのだろう。

「それで? そんな貴方が得た願いはなんなのかしら?」

 メルト、ラニに続いて三人目。

 恥ずかしさなんてものは感じない。正真正銘の自分の答えを、自信を持って告げる事が出来た。

「……理解しているかしら? 貴方の本体が無いって事は、聖杯を手に入れた後どうなるか分からないのよ?」

「うん。十分に分かってる」

「なのに結果が分からない願いを求めるの? それに、全部が丸く収まる訳じゃないわよ?」

「それでも、これが一番だと感じた。結果的に平和になってくれれば良いんだ」

 凛は呆れた風に、しかし真剣に問うてくる。

 それに返すのに迷いは無かった。問い一つ一つに、確信を持って返せる。

「……滅私奉公って奴ね。正義の味方みたい」

 正義の味方。なる程、言いえて妙かもしれない。

 大衆の為の正義は、誰かにとっては悪となりえるものだ。

 全てが丸く収まる方法なんて思いつかない。誰かに恨まれようとも、それが僕の思う、一番の選択だ。

「面白いじゃない。レオに言い聞かせてやりなさい。きっと今までに無い反応を返してくれるわよ」

「……そうだろうね」

 凛が認めてくれた事に驚きつつも、二人で笑う。

 メルトはただ黙って、成り行きを見守っているようだった。

「うん、それなら私の願いも叶うようなものだし良いか。問題は山積みだけど、後から何とかなるのが人間だもの」

 僕の願いが成功を導くか、破滅を導くかはきっと僕には分からないことだ。

 だけどそれを認めてくれる心強い仲間がいる事で、少しでも気楽になれる。

 迷いは持たなくていい。これが僕の信念なのだから。

「そうだ、貴方、子供って好き?」

「子供?」

 そういえば、子供と呼べる存在を、僕はほとんど見ていない。

 一番に思い出すのが、三回戦で戦った少女達だ。

 敵だったとは言え、命懸けだったとは言え、彼女達の無邪気さは可愛らしいものだった。

「……うん。どちらかと言えば、好きかな」

「そう。……聖杯に届けば、地上の様子はしっかりと見れる筈よ。貴方の願いが成就したら見て御覧なさい。きっと、子供達の笑顔で溢れている筈よ」

 柔らかな微笑みのまま、凛は世界から消滅した。

 世界を変える為に彼女は戦い、そして消えた。

 しかし、決してそれは無駄なものではない。

 彼女の願いも含めた僕の願いは、後一歩。後一歩で、聖杯に手が届く。

 その過程に、最大の強敵が残っている。

 明日から始まる最後の戦い。それを思いながら、親友の残滓を静かに見届けた。

 

 

 ――残るは、二人。




書いててとても楽しい回でした。
解説が必要かどうか分かりませんが、凛は令呪によってカルナさんに「負けを認めろ」「苦しむな」の二つを命令しています。
よって決着し、痛覚が無くなったのでその後は普通に喋れているという事ですね。分かりにくい。
ちなみに槍は爆発後、そこら辺に落っこちてると思います。真名解放は出来ませんが。

さて、いよいよ決勝戦。カルナさんの方が強いんじゃねは禁句ですよ?

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