Fate/Meltout   作:けっぺん

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今日から三回戦を書き始めました。
ルビの多さに発狂しつつ、それをメルトにぶつけています。
……なんでメルトだと三回戦が全体的にギャグ調になる気配がするんでしょうね?


六話『赤い女、二人目』

 

 

 慎二のサーヴァントについての情報を得ようとし、二階奥の図書室に向かおうと思ったところ、その図書室の前に慎二ともう一人――少女が向かい合っていた。

 黒髪を二房に束ねたツインテールに、真紅の服、黒のミニスカート。

 少女は腕を組み、呆れた様に黙って慎二の話しを聞いている。

「君はもう、アリーナには入ったのかい? なかなか面白いとこだったよ? 幻想的(ファンタジック)なものかと思ってたけど、割と幼稚的(プリミティブ)なアプローチだったね」

 傍で聞いていると、正直訳が分からない。

 慎二と自分は同じアリーナに潜っていたわけだが、多分もう少しマシな感想が言える事だろう。

「神話再現的な静かの海ってところかな。さっき、月を初めて踏んだ人(アームストロング)をサーヴァントにしているマスターも見かけたしねぇ」

 慎二のマシンガントークを、少女はただ黙って聞いている。

 馬鹿馬鹿しくてさっさとアリーナに向かってしまおうとも考えたが、貴重な情報を得る事が出来るかもしれない。

 我慢してしばらく聞いてみよう。

「いや、シャレてるよ。海ってのはホントいいテーマだ。このゲーム、結構よくできてるじゃないか」

「あら。その分じゃ、いいサーヴァントを引いたみたいね。アジア圏有数のクラッカー、マトウシンジ君?」

 少女がようやく口を開いた。

「ああ、君には何度か煮え湯を飲まされたけど、今回は僕の勝ちだぜ? トオサカリン!」

 どうやら互いの事を知っているらしい。

 何か因縁があるらしく、慎二はいつも通りに見せかけながら、強い視線を向けている。

 慎二も馬鹿ではない。

 いくら余裕持ちの性格とはいえ、因縁のありそうな相手に対して情報を漏らすとは思えな――

「僕と、彼女の艦隊はまさに無敵。いくら君が逆立ちしても、今回ばかりは届かない存在さ」

 あれ?

「へぇ、サーヴァントの情報を敵に喋っちゃうなんて、マトウ君ったら、随分と余裕なんだ」

 少女――リンさんが此方にチラと視線を飛ばす。

 どうやら彼女は僕が慎二の対戦相手という事を知っているようだ。

 慎二は自分の失態に気付いたのか、一瞬取り乱し、

「う……そ、そうさ! あんまり一方的だとつまらないから、ハンデってヤツさ!」

 慎二がブラフだのどうだの言っている。

 しかし、艦隊という情報は、慎二の調子の乗り具合からして確定的だ。

「そうね。さっきの迂闊な発言からじゃ、真名は想像の域を出ない。それでも艦隊を操るクラスなら、候補は絞られているようなものだし、どうせ攻撃も艦なんでしょ?」

 慎二の赤い顔がどんどん蒼白になっていく。

 どうやら図星のようだ。

「艦砲射撃だとか、或いは……突撃でもしてくるのかしらね。どのみち、物理攻撃な気がするけど」

「うぅ……」

「ま、今の私にできるのは、物理防壁を大量に用意しておくぐらいかしら」

 リンさんは艦隊というキーワードから、既に対抗策を見出してしまった。

 それどころか――

「あ、一つ忠告しておくけど。私の分析が正しいなら、『無敵艦隊』はどうなのかしらね。それはむしろ敵側の渾名だし? せっかくのサーヴァントも気を悪くしちゃうわよ」

 どうやら、真名にまで行き着いてしまったようだ。

 無敵艦隊。これは重要なキーワードだろう。

 携帯端末に記録しておこう。

 と、そのときだった。

 捨て台詞を残した慎二が、此方に向かって歩いてきた。

 隠れる場所も無く、しっかりと目が合う。

「お前……! まさか、そこでずっと見てたワケ!?」

 動揺するのも無理はない。

 一回戦の相手が、情報漏洩の現場を見ていたのだから。

「ふ、ふん……どうせお前じゃ、僕の無敵艦……っと、エル……違う、ライ……いや、サーヴァントは止められないさ!」

 何か色々中途半端に漏らして去っていった。

 学校生活の時から思っていたが、慎二は俗に言う、馬鹿なのだろう。

 無敵艦隊。そして、今去りがてら零していった「ライ」という言葉。

 恐らく慎二のサーヴァントのクラスは騎乗兵――ライダーだろう。

「……やれやれ、緊張感に欠けるマスターが多いわね」

 ほぼ間違いなく自分から声を掛けてきた慎二をものの見事に打ち負かした勝者、リンさんが呟く。

「私は遠坂(とおさか) (りん)よ。貴方がシンジ君とどう戦うか、楽しみにしてるわ、ハクト君」

 名乗った覚えは無いのだが、凛さんは僕の名前を知っていた。

 歩き去っていく凛さんを見送った後、メルトが傍に現れた。

「リンに賛成する訳ではないけど、確かにシンジはこの聖杯戦争の情報の重要性を理解していないようね」

 口ぶりからして、まさかメルトは凛さんの事も知っているのだろうか。

 一体このサーヴァントは何者なのだろうか。

 正直――慎二のサーヴァントより謎が多い。

「まぁ、ちょうどいいわ。有用な情報も得たし、図書室で調べるんでしょ?」

「あ、うん」

 メルトの正体は今は置いておこう。

 とにかく今は慎二のサーヴァントについて調べておこう。

 

 

 図書室で調べ始め、およそ二十分。

 分厚い本の一ページに、書かれていた。

『無敵艦隊:

 大航海時代におけるスペイン海軍の異名。

 千トン級以上の大型艦100隻以上を主軸とし、合計6万5千人からなる英国征服艦隊。

 スペインを「太陽の沈まぬ王国」と謳わしめた、無敵の艦隊である。』

 大航海時代は十五世紀半ばから十七世紀半ば頃まで続いた植民地主義的な海外進出の事だ。

 拳銃を使用し始めた時期と重なる。

 このキーワードからして、慎二のサーヴァントはライダーと見て間違いない。

 スペインの英雄だろうか。

 いや、凛さんは「敵側の渾名」と言っていた。

 となると、スペインの敵――イギリスの英雄か。

 この時代で、イギリス。そして艦隊を操る英雄。

 ……後少し、情報が必要だ。

 とりあえず無敵艦隊の情報と、ライダーのクラス、イギリスの英雄である可能性が高い事をマトリックスに書きとめる。

「よし、行こう」

 後はアリーナに向かい、経験を積もう。

 図書室を出て、一階に降りると、そこに見覚えのある少年が立っていた。

 赤い制服に、金髪。

 間違いない。

 死の淵で諦めようとしていたとき、脳裏に過ぎったあの言葉。

 その主、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイだ。

 そして、傍に立つ騎士。

 重厚ながら軽快。一切無駄のない鎧を身に着けている。

 主と同じブロンドの髪。

 王と、それに使える騎士。

 まさにそんな主従が、そこに居た。

「おや、あなたは……やはり、あなたも本戦に来たんですね」

 レオの言葉は、僕の予選突破を分かりきっているような言葉だ。

「言ったでしょう、あなたにはまた会えるって」

 やはりあれは、僕に対して向けられたものだったらしい。

「あ……うん。レオの言葉のおかげで、予選を勝ち抜けたんだ。ありがとう」

 素直に礼を言う。

 彼の言葉がなかったら、僕はあの時、諦めていた。

「僕は何もしていません。予選を突破したのはあなたの実力です……っと、失念していました」

 レオが横の騎士を一瞥する。

「ガウェイン、挨拶を」

 その言葉に従い、騎士が一歩前に出る。

「従者のガウェインと申します。以後、お見知りおきを。どうか、我が主の良き好敵手であらん事を」

 ガウェインと名乗る騎士は、涼やかな笑顔と共に頭を下げた。

 純真な騎士の姿は、レオに相応しい。

 ――ガウェイン卿。

 アーサー王伝説の円卓の騎士に名を連ねる騎士だ。

 聖剣を手にし、その手腕はアーサー王をも凌ぐとされる。

 彼ほど剣士(セイバー)のクラスに相応しいサーヴァントもそういるまい。

 この英雄の事を調べるのは苦労しないだろう。

 彼ほど高名な英雄ならば、図書室の本でもかなりの情報が得られるだろう。

 或いは、弱点も分かるかもしれない。

 それを、レオが分かっていないわけがない。

 自信の表れだろうか。

 明かすものは全て明かし、その上で勝利する。

 それこそが、レオが生まれた時から定められた日常なのだろう。

「それでは、失礼しますね。再会を祈っています。どうか、悔いのない戦いを」

 サーヴァントも紹介し、これですべき事は終わった。

 そう言わんばかりに、レオは丁寧に辞儀をして、去っていく。

 圧倒的な威圧感が身体から抜けていく。

 このまま勝ち進んでいけば、いつかは彼とも戦う事になるのだろうか。

 いや、まずは慎二との戦いを優先しよう。

 

 

 翌日。

 再び情報を探しに図書室に来ていた。

 今回はライダーについてではなく、セイバー――ガウェイン卿についてだ。

 余りにも有名な英雄のため、書物は簡単に見つけ出すことが出来た。

『ガウェイン卿:

 アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人にして、アーサー王の甥。

 アーサー王の片腕と称された、湖の騎士(ランスロット)に並ぶ騎士だったが、兄弟を殺された事をどうしても忘れられず、彼とは相容れなかった。

 高潔な人格、理想の若武者であったが故に肉親への情も人一倍だったのだろう。

 しかし、その怨恨がガウェイン卿の騎士としての格を落とすばかりか、最後には王の没落にまで繋がってしまう。

 最期は、アーサー王最後の戦いであるカムランの丘にて、ランスロット卿に受けた古傷を打たれ死亡したとされる。』

 弱点や彼の強さに迫れるような内容は見当たらない。

 別の本を探そうとも思ったが、時間的にはそろそろアリーナに潜った方が良さそうだ。

 と、図書室を出ようとしたところを慎二と鉢合った。

「あれ? こんなところで会うなんて奇遇だね……なんてね。ウソに決まってるじゃないか」

「……慎二も情報収集?」

「そ。情報収集といえば図書室で決まりだよ。僕も、君の情報はしっかりと集めているから、くれぐれも手を抜かないでくれよ」

 真名を知っている僕も一切の情報が分からないのに、正直慎二がメルトの正体に迫れるとは思えない。

 というより、正体が分かったら教えて欲しいほどだった。

「ところで、君も情報を探してたようだけど、残念ながら既に対策済みさ。あの海賊女に関連する本は、既に隠蔽済みだよ!」

 海賊というのが確定した、というのは言わないでおこう。

 それより、慎二はライダーの情報が書かれた本を隠したようだ。

「少しでも君が楽しめるようにと思ってね。アリーナに隠しておいてあげたよ。最弱マスターの君に見つけられるかな?」

 慎二なりの優しさ――ではないだろう。

 絶対に見つけることは出来ないと侮っているようだ。

「ちなみに、君のサーヴァントは働くのに何を要求するんだい? やっぱりお金? そうだよねえ!」

 メルトがお金を要求した覚えはない。

 慎二の口ぶりから察するに、慎二のサーヴァントはお金で動くらしい。

 これも情報――になりうるだろうか。

「まあ、せいぜいあがいておくといいさ。あはははははっ!」

 高笑いしながら図書室を出て行く慎二を見送る。

『……喜劇の王ね』

 メルトが何かを呟いたが、良く聞き取れなかった。

 まぁいい、アリーナに情報を隠したなら、それを取りに行くのは当然だ。

「メルト、アリーナに情報を探しに行こう」

『分かったわ。ワ……シンジのサーヴァントの正体に繋がるものだと良いけれど……』

 ……度々思うのだが、メルトが慎二の名前を発するとき、その前に「ワ」と聞こえる気がする。

 メルトは慎二の事を知っているようだし、何かの因縁があるのだろうか。

 そんな事を考えながら、アリーナに向かった。




ちなみにオリキャラは主人公は別として一人(二人?)を想定しています。
そして一戦はまるまるオリジナルになる予定。
さてさて、どうなる事やら……

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