Fate/Meltout   作:けっぺん

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エリザ好きが思いのほか居てワロタ。
裏話ですが、前回の「恋愛脳で料理好きな未通女」ネタはランサーをカルナにしようと思った頃から考えていたネタだったりします。
約四ヶ月の時を経て使えたネタ、何だか感慨深いです。


五十四話『過去の愛、未来の愛』

 一撃目はランサーが優勢な結果となった。

 大きく切り払う形で弾き飛ばされたメルト、それを追う様にランサーが跳ぶ。

「メルト!」

 妨害の為に弾丸を放ち――それは反対側からの赤い弾丸により相殺される。

「どうかしら? 我流だけど、貴方のコードよりも効率的よ」

 凛のコードキャストは、僕の弾丸と同じものではなくより少ない魔力で高い威力を出せるものになっている。

 ランサーを万全に戦わせつつも、凛自身もあそこまで戦う事が出来るのか。

 仮定の話だが、あのランサーを戦わせるための魔力の燃費は決して良いものではないだろう。

 常に完璧な防御性能を誇る鎧を着込み、真価を発動こそしていないが必殺の槍を振るい、その槍からは炎の魔力を放出させ、場合によっては膨大な魔力を攻撃として発射する宝具さえも使う。

 確かに強力極まりないサーヴァントだ。

 だがその力を十全に引き出すには普通のサーヴァントとは比べ物にならない魔力供給が必要ではないか。

 それが可能なだけでも驚きなのに、更に自分がコードキャストを使う余裕さえある。

 とはいえ、それにも限界はあるだろう。

 サーヴァントの戦いが最重要な以上、凛は全力では戦えない筈だ。

踵の名は魔剣ジゼル(ブリゼ・エトワール)!」

 追撃を喰らわせようとするランサーに向けて、メルトの衝撃波が走る。

「ふっ……」

 斬撃の波動に向けて放射された炎の魔力がそれを飲み込んだ。

 炎の威力は衝撃波を飲んで尚衰えず、メルトに迫る。

shield_mgi(32)(防御)!」

 メルトの前に盾を展開させる。

 ランサーの槍の前では防御には役立たないのは重々承知だ。

「メルト、回避!」

「っ」

 盾を足場にして、メルトが跳ぶ。

 それによって魔力の弾道から外れる事には成功したが、当然ランサーの攻撃がそれで終わるわけが無い。

 炎の魔力に飲まれた盾が溶けるように消えていくのを見届ける事無く、ランサーはメルトが飛んだ先に走っていた。

()らせてもらう――!」

「させない!」

 ランサーの槍が届く範囲に踏み込まれる前に、メルトの脚が振るわれる。

 風圧に魔力を滾らせ、水流へと変わるそれがランサーへと迫り、攻め続けていたサーヴァントが一旦後退した。

 炎と水。一見有利にも思えるが、そんな常識が通用するほどこのサーヴァントは甘くないだろう。

 ともなれば、いつまでもこの攻撃で相手を退かせ続けることはできないだろうし、そもそも此方の有効打にはならないから勝利に繋がらない。

 何か別の戦法を考えなければ、益々不利になっていくばかりだ。

「メルト、一旦下がって!」

 凛たちと距離を取る。

 ランサーも同じように下がり、凛のもとに返る。

「さて、ハク、どうするのかしら」

「分からない。とにかくランサーと凛を引き離す。ランサーはメルトを相手に……出来る?」

「……ふふ、勿論。ハクこそリンと戦えるのかしら?」

「うん。大丈夫だ。問題はあの鎧だけど――」

「何とかなるわよ。策ならあるわ。危険だけど」

 いつでも自信ありげなメルトの言う危険がどれほどのものなのか。

 危なげのある戦法、つまりは確率は低いものなのだろう。

 だとしても、それが唯一の方法なのだとしたら。

「分かった。僕は何をすれば?」

「凛を出来るだけ追い詰めて。あの性格だから決断は慎重だと思うけど、焦ればそれも変わるかもしれないわ」

 つまり、何か相手の行動を誘発しての作戦ということだろうか。

 相手に何をさせるのかは不明だが、その方法でなんとかできるなら構わない。

「話し合いは終わったかしら?」

 凛は待っていたのだろうか。もしくは、同様に話し合いをしていて、たった今終わったのか。

 どちらでも良い。戦うだけだ。

「あぁ――終わった」

 視界にあった二つの内、一つが消えた。

 圧倒的な速度でぶつかったサーヴァント達が激しく火花を散らす。

 そして僕は、コードキャストの準備をしながら離れる。

「あら、考えは同じのようね」

 同じようにランサーから距離を取る凛。

 マスターをサーヴァントから引き離し、サポートを封じる。その作戦は両者共に同じのようだ。

「でも、その判断はどうかしら。貴方の腕で、私と撃ち合える?」

「……自信があるから、引き受けた。君に勝つ」

 弾丸が炸裂する。威力はほぼ同等か。

call_gandor(64)(弾丸)!」

「っ!」

 次の弾丸の為に構えていた腕に鋭い痛みが走る。

 凛が使用するコードキャストは、威力、魔力量だけでなく構成速度まで勝っているというのか。

 ならば、此方は多少無理をしてでもその上を行くまでだ。

 今まで自分を勝たせてきたのは、傍から見れば死にに行くようにしか見えない無茶な手段と、それを許可してくれたメルトやラニだ。

 今回はその片方が無くなるだけ。無茶な手段で、凛の上を行く。

shock(64)(弾丸)!」

 まずは弾丸を一発。受けて立つと言わんばかりに遅れて放たれた凛の弾丸と真っ向からぶつかり、爆発する。

 多分凛は先程と同じように追撃すべく、素早くコードを紡いでいるだろう。

 だが、今回は僕の勝ちだ。何故なら――

「なっ!?」

 次のコードは、既に紡いである。

 一から構成する速度が及ばないのであれば、一つを紡ぐ間にもう一つを紡げばいい。

 一撃。怯んだ凛に、更に一撃。

 疲労は一発一発を単体で紡ぐより遥かに上だ。

 だが、際限なく放たれる弾丸は、相手の動きを封じるにおいては十分に役目を果たせるものだった。

 例えるならば、それこそ銃になるか。

 コードを紡ぐ速度を高め、手元にストックしていく。

 慎重な凛の事だ。格下だと侮っていたわけではないだろう。だが、ここまで無茶な戦法をやってのけるとは、さすがの凛も思わなかっただろう。

「っ、甘い、わよ――ハクト君っ!」

 ようやく有利に立てたと思った瞬間、凛の前に展開された防壁が弾丸を防いだ。

 二発、三発、四発、五発。確かにただの弾丸ではあるが、ここまで防げる防壁があの連撃の下で紡げるというのか?

「……ふう。まさかあんな無茶をするなんてね」

 弾丸を止めると防壁は静かに消え、それと共に地面に落ちる防壁の要――だったもの。

「宝石……?」

「ええ。単発だけど、魔力を込めた宝石は強力な武器になるわ」

 確かに凛は猶予期間の戦いでも宝石を使ってきていた。

 あれはただ単に、ランサーの炎の魔力で発火させ、弾丸として打ち込むだけのものだと思っていたが、宝石自体が武器になる程の代物だったとは。

 単発だが、それゆえに凛は幾つか宝石のストックを持ち合わせているだろう。

「何て金の掛かる……」

 思わず零れた言葉に凛は不敵に返してくる。

「そうね。それでも威力だけはお墨付きよ?」

 その一つを手で転がしながら凛は言う。

「本当は決勝戦までストックしときたかったんだけど、仕方ないわ――ね!」

「うわっ!?」

 咄嗟に跳ぶと、それまで立っていた場所に魔力の塊が飛んでくる。

 今まで使用していた弾丸とは桁違いの威力を持っている。普通のコードキャストと違い、直接傷つけることも出来るだろう。

「さて、ここからは出し惜しみ無し。無駄な事は全部取り払って戦いましょう、ハクト君?」

 不敵に笑う凛の手には宝石。好敵手の本気を前にして、改めて戦慄した。

 

 

 +

 

 

 ランサーは確かに強敵。

 月の裏側で無能なマスターと契約していた時でさえ、白野を圧倒する実力を持っていた。

 それが凛と組んだともなれば、調子は絶好調と言っても良い。

「どうした。脚の冴えが落ちているぞ」

「っ」

 考え事をしている場合ではないわね。

 今どんなマスターと組んでいようと関係ない。誰であろうと戦い、勝つだけよ。

 とはいえ、この状況をどうするか。

 戦況は芳しくない――他人から見ても、十分に不利といえるだろう。

 槍を一旦打ち払った後、距離を置いて向かい合う。

「正に化け物、ね。その力を十全に出しておいて、何でリンも戦えるのかしら」

「オレの知った事ではないな。リンが効率の良い魔力の運用をしているのではないか?」

 そんな次元で測れる話ではないと言っているのだけれど。

 ランサーの実力は、白野が契約していた記憶のある傲慢な金の英雄王に匹敵――或いはその上を行くだろう。

 これほどのサーヴァントを満足に御しながら、同時にマスター本人も戦えるなんて何の冗談だと思える。

 令呪による魔力供給――ありえる。一回限りながら令呪は強力な魔力源となるから、こういった戦い方をするような時に使えばその決戦一回分くらいの魔力は補えるかもしれない。

 実質的に二回分の令呪。なら、この六回戦と次の決勝戦の為に温存しておいたという可能性は十分にある。……でも、だとすれば三回戦のラニとの戦いで使わなかったのは不自然ね。ラニは有力な優勝候補の一人だった筈だけど。

 私達と同じように予備令呪を得た、という可能性もあるか。

 だとすれば、私が暫く耐え続ければ令呪の魔力は消えるだろうけど……

「見込みは薄いわね……」

「何の事かは知らんが、オレの魔力源を探るのは得策とは言い難いのではないか?」

「そうね。魔力が尽きるまで戦い続けるのは多分私には無理よ。それに――」

 脚を振り払って衝撃波を放つも、真正面から撃ったものがランサーに通じるはずも無い。

「単純明快。貴方を倒せば良いだけよね?」

「その通りだ。受けて立とう」

 再び打ち合うために構えるが、ランサーは構えようとはしない。

「あら? どうしたのかしら?」

「いや……暫くお前と打ち合い、オレにも疑問が生まれた。差し支えなければ、答えてもらいたい」

 あら、珍しいわね。何でもかんでも自分で答えを見つけ出すようなこのランサーに疑問が生まれるなんて。

 それに、それが私に対してだなんて。

「別に良いわよ。で、何かしら?」

「お前が主に抱いているのは、恋心か?」

 

 ――、

 

 ――――?

 

「……え?」

 ランサーの問いは、予想もしないものだった。

 私が――ハクに?

 って、何を……この戸惑い自体が、おかしいものではないのか。

 私に迷い? ある訳がない。散々ハクに言っておいて、自分自身に迷いがあったって?

 確かに白野はこの世界には居ない。白野の事は覚えていないし、今更白野に恋心を抱けといっても無理だ。

 だとして、私はハクに果たして恋心を抱いているのだろうか。昔――月の裏側に居た頃は、私は白野に恋焦がれていた。

 その頃は自分の気持ち――確かに白野にはその愛のカタチは否定されたけれど――に迷いは持たなかった。

 心の中枢にまで攻め込まれてまで言われた言葉は覚えている。

 

『君の愛は、永遠に報われない』

 

 分かっていた。そして私は死んで、その記憶を持ったまま聖杯戦争に呼ばれた。

 そこで出会ったのは、白野に良く似たマスターだった。顔とか、そういう事ではなくて、心の在り方みたいなものが。

 今回は後悔なんてしたくなかったし、命を懸けて自分を正してくれた――それが本来の目的でなかったとしても――白野の言葉は聞き入れるつもりだった。

 二度とあんな間違いは引き起こさない。人間の、人間としての心と向き合いたい。そう思っていて、それでも私にとって人間の在り方は眩しすぎた。

 ハクに憧れを抱いたいたのは嘘ではない。

 私は私の在り方にあくまでも忠実で、ハクの在り方を尊重し続けようとしていた。

 だから――

「強ち、違うとも言えないわね。今のマスターが私の意義になっているのは確かだわ」

 ごめんね、ハク。まだ私の気持ちは固まっていない。でも、貴方の為に戦わせて貰うわ。

「そうか。感謝する。完全、とはいかないが疑問は晴れた。ともなれば――」

「えぇ。今度こそ戦うだけ、でしょ?」

 まさか戦闘中に言葉を交わす事になるとは思わなかったけれど、ランサーの問いで何となく、私も考えを固めることが出来た気がする。

 内心で感謝をしながらも、今目の前に居るのは戦い、殺し合う運命にあるサーヴァントであるという事に変わりはない。

 向かってきたランサーの槍に脚具で応戦する。

 心なしか、体が軽い。

 ラニやリンに諭され、決意を固める度に強くなっていったハク。心や意思で変わっていくあの強さの秘密が分かった気がした。

 まったく、本当に私とは思えないみたい。

 自分で言うのもなんだけれど、あんなに残酷で、リップやエリザベート、シンジ、アーチャー、月の裏側の脱出戦線に関わった者達をあれほど殺してきた私がこんな意思を持つなんてね。

 親であるBBにすら従わなかった私が、“誰かの為に戦いたい”なんて――

 この気持ちが本当なのだとしたら、その意思に従ってみるのも、悪くないわね。

「武具など不要――真の英雄は眼で殺す!」

踵の名は魔剣ジゼル(ブリゼ・エトワール)!」

 さて、ハクとリンはどうなっているかしら。確かめる余裕なんてないけれど、信じるしかないわね。

 まぁ負ける筈無いわ。私のマスターなんだもの、ね。




ここに来て初めてのメルト視点。
何だこのドSヒロイン可愛いんだけど←
最早加虐嗜好の「か」の字もありませんね、どうにかしないと。
ともかく、何やらメルトの心にも変化が現れ始めたようですよ。
メルトルートへの布石になるんでしょうかね?

あ、次の更新は明後日だと思います。

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