Fate/Meltout   作:けっぺん

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検定の為の課外が面倒です。
言い訳です。はい。

という訳で、決戦前でございます。


五十三話『太陽の子、月の子』

 

 

「ふぅ……これが?」

「はい。何とか間に合いました。これが、私に用意できる最強の礼装です」

 七日目――つまりは決戦の日。

 六日目はラニの礼装の用意を手伝い、今日になってようやくそれが完成した。

 単発式というのは以前の『オシリスの砂塵』と変わらないが、この礼装による防御性能は最高峰。憶測でしかないが、これならばきっと、ランサーが持つ必殺の槍の一撃も防ぐことが出来る筈だ。

 五日目に零の月想海で手に入れた数々の礼装も、そのコードキャストは使用できるようになったし、この戦闘で役に立つだろう。

 問題は、あのアリーナで最初に手に入れた礼装だ。

 昨日、アリーナでエネミー相手に使ってみたが、何の効果も示さなかった。結局、これがどんな力を発揮するものなのか分からず仕舞いだ。

 この礼装については不明な点が多いが、それを除けば全ての準備は整った。

 戦力としては申し分ない。後は決戦場に赴き、凛と矛を交えるのみだ。

 凛のサーヴァントは、インド神話に名高い大英雄・カルナ。

 マスターもサーヴァントも最強クラス。これだけ用意をしても、まだ勝率は相手のほうが上だろう。

 だとしても、負ける訳にはいかない。

 凛を倒して、僕は先に進む。

 もう、迷ってなんかいられない。

「ハクトさん……勝ってくださいね」

「あぁ……任せて」

 この戦いで、僕と凛――どちらかは二度とこの校舎には戻ってこれない。

 そして、戻ってこれれば聖杯への階段は後一段となる。

 そう、もう戦いは終盤なのだ。

 ここまで来てはもう負けられない――それは凛も同じなのは分かっている。

「ミス遠坂は強敵です。それでも、貴方なら……」

「うん。絶対に勝つ」

 ラニに送り出される。

 負けていられない。またこの校舎を目に映すためにも、凛を倒す。

「行こう、メルト」

『まったく、初めの頃は頼りなかったのに、いつの間にかマスターらしい顔つきになったわね』

「はは、そうかな?」

 確かに、序盤の迷っていた頃に比べれば、自分は強くなったとは思う。

 それらは全て、手助けをしてくれたメルトやラニのお陰。

 そして、今まで戦い、乗り越えてきた皆のお陰だ。

 今回の相手も、彼女が居なければここまで勝ち残れなかったと言える恩人。

 最初の頃など及びも付かなかっただろうが、今はきっと違う。

 追いつき、追い越せるレベルにまで達しているはずだ。

『ハクと私なら勝てるわ。もうその実力は十分についているはずよ」

「うん、そうだね。きっと――いや、絶対勝てる」

 サーヴァントと談笑しながら、決戦場への扉に向かう。

 凡そ生死を別ける戦いの前とは思えないなと自覚しながらも、言峰の前に立つ。

 監督役たる言峰は、相変わらずその表情を嫌な笑みに固定させて僕を待ち構えていた。

「来たかね。今回の戦いは私としても興味深いものだ」

「……」

 足を止めるや否や、言峰は癇に障る言葉を並べ立ててくる。

「共に理解し、共感しあえる友人同士の戦いはここでは珍しい。素晴らしい戦いを期待しているぞ」

 これ以上何を言わせる気も無いし聞く気もない。

 トリガーをセットし、決戦場への扉を開く。

「くく、ささやかながら幸運を祈ろう。再びこの校舎に戻れることを。そして――存分に殺し合い給え」

 きっと、いつになってもこの神父とは相容れることは無い。

 悪意ある声援を背中に受けながら、エレベーターに乗る。

 振り向きはしなかったが、静かに突き刺さる言峰の視線は、扉が閉じるまで感じ取れた。

 

 

 ただ下へと降りていくエレベーター。

 行き先は決戦場。勝者と敗者を明確に隔てる運命の場。

 そこへ向かい、今回矛を交える陣営が、向かい合うように出現した。

 二房のツインテールが特徴的な赤い少女。

 遠坂 凛。

 聖杯戦争の序盤から僕に手を貸してくれた友人。

 レオの西欧財閥を打倒せんとこの戦いに赴いた優勝候補の一人。

 そして、そのサーヴァント。

 ランサーこと、カルナ。

 初めて見た頃は黒と金の矮躯だったその姿は、一色の分厚い黄金となっている。

 槍の様に伸びた手甲、行動の阻害になるのではと思うほど脚全体を覆う脚甲。

 胸部の大きく開いた黄金鎧は、カルナの中心に埋め込まれた真紅の宝石の輝きを一層引き立てている。

 より輝きを増し大きくなった耳輪さえも、一級の宝具として強大な魔力を纏っている。

 傷を勇猛の華として添える鎧があるのなら、これはその逆――どこまでも無垢である事が、この鎧の最大の華なのだろう。

 あれこそ、カルナの肌と一体化し、彼に不死を与える最強の鎧、『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』。

 完成した鎧は、思わず見入ってしまうものだった。

 とはいえ、それは此方に利を与えるものではない。

 ランサーの最大の宝具であり、神話の大英雄さえも恐れた無敵の鎧。

 あれをどうするか。それがこの戦いでのポイントになるだろう。

「……」

「……」

 どちらも口を開く事はなく、ただ沈黙が場を支配する。

 確かに、話したいことは色々とある。だが、それはここで話すべきことではないと感じた。

 何故だろうか。ここが、彼女と対等に話せる最後の場だというのに。

「……」

「……」

 静寂のエレベーター。

 それを破ったのは他でもない、メルトだった。

「……はぁ、何でどっちもだんまりなのかしら、つまらない。ランサー、貴方のマスター、無愛想すぎない?」

「ふむ。何故いつもの饒舌が無いのか、オレとしても不思議でならない。リン、何かあったのか?」

「……」

 呆れたように溜息を吐く凛だが、相変わらず言葉を紡ぐことはない。

「……すまない。我が主人は情緒不安定でな。気を悪くしないでもらいたい」

 ランサーの謝罪は何の迷いも疑念もない。

 心の底から詫びているのだろう……理由はともかくとして。

 それと、凛が青筋立ててる。黙ったまま青筋立ててる。ランサーは気付いてないんだろうが、怖い。

「まぁ別に良いけど……だとしたら暇ね。何か話すことはないかしら?」

「生憎だがな。オレから話すことなど何も無い」

「なら、私から聞かせてもらおうかしら。貴方のマスターについて、貴方はどう思っているのか」

 メルトの問いは興味本位なのだろう。

 真剣という訳でもないし、責める目的もない。ふと生まれたのか、前々から気になっていたのかは分からないが。

「……愚問だな。リンはオレの担い手だ。国を相手取るなら、呪法(マントラ)を以て焼き尽くす。輝ける王が相手ならば、槍の暴威を以て打ち払う。それだけだ」

 ランサーの答えは至極単純。それでいて絶対的な、サーヴァントとしての回答だ。

 主の武器となり、敵となる者を無情に確実に潰していく。

 凛の在り方を肯定した上での、自身の使い道を理解した発言だった。

「人間らしくないのは筋金入りね。面白いと思っていたけど、度を越えて不愉快に感じるわ」

「知った事か、人為らざる少女。オレはお前を笑わせる玩具ではない。下らん幻想を押し付けるな」

 メルトとランサーはかなり険悪な雰囲気になっている。

 口を挟むべきか迷ったが、ここで僕が何か言ってもより面倒な事態になるだけだろう。

「世界は一つの生命が中心になっている訳ではない。少なくとも――理から外れた存在であるお前である筈がない」

「……どういう意味かしら?」

「言葉の通りだ、常理の裏側。オレはお前がどの様な生まれであれ蔑むつもりは無い。だが世界はお前を認めないだろう。お前を認めるのは、お前の世界だけだ」

 まさか、ランサーはメルトの本質を勘付いているのだろうか。

 鋭い観察眼と、相手の本質を見抜く貧者の見識。

 それは、月の裏側で生まれた人工サーヴァントにも適用されるのか?

「お前は人間を自分の舞台に立たせない。そこに立つのはお前が愛でる人形のみだ」

「……察しが良いわね、サーヴァント。確かにそうよ。母にすら反逆したんだもの。ただ、それは私達の事情。貴方にとやかく言われる覚えはないわ」

 確かに、ランサーはメルトたちが居た、月の裏側での出来事には関与していない。

 出自にいくら難癖つけても変わりはしないのだが、ランサーはメルトのそれを静かに諭している。

「ならば良いだろう。オレは毎度、一言多くてな。変えようと思うのだがどうにもならん」

「っ……」

 ランサーは、メルトを尊重した上で会話をしている。

 どれだけメルトがランサーを嫌悪して毒を吐いても、結果的にメルトの一人喧嘩になってしまっている。

 メルトが絶句すると、その会話は途切れてどちらとも口を開かなくなる。

 再び場を静寂が支配し、ただエレベーターが下降を続けるだけ。

 凛は腕を組み、来るべき時を待っている。

 ランサーは目を閉じ、戦いに備えて精神を落ち着けているのだろう。

 メルトもばつの悪そうな表情をしつつも、戦意を固めなおすために深呼吸をしている。

 各々が戦いを待ち、遂にその時が来た。

 エレベーターが停止し、扉が開いた。

「――さて、終わりよ。行きましょう、ランサー」

 それが、凛の第一声。

 凛は此方を一瞥して、エレベーターを出て行く。

「……メルト」

「……えぇ。行きましょう」

 続いてエレベーターを出る。

 たった一度も凛と話すことなく、ごく短時間のモラトリアムは過ぎ去った。

 決戦の始まりを、僕は静かに迎え入れた。

 

 

 暖かくて浅い海。珊瑚や熱帯魚といった、幻想的な海の風景。

 六回戦の決戦場は、南海そのものだった。

 そんな珊瑚礁の開けた場所に、二つが立つ。

「さて、始めましょうか」

 静かな、いつも通りの宣戦布告。

 それでも凛の戦意は確かに伝わってきて、その殺気を鋭くするランサーと共に放つ威圧感は思わず後退りそうになる。

「まったく、どうしてこうも面倒な槍兵が相手なのかしら。恋愛脳(ロマンス)()料理好き(スイーツ)未通女(お花畑)だったら良かったのに。面倒なのは変わらないけど」

 軽口を叩くメルトではあるが、その目つきは敵に向けるもの。

「何を言っているのか分からないが、少なくともオレは所望の英雄とは程遠いようだな」

 必殺の槍を手に取り、軽口に返すランサー。

 ちなみにメルトの言葉の意味は僕にも分からなかった。

 恐らくは月の裏側での事件に関与したサーヴァントの事を言っているのだろう。

 ロマンス、スイーツ、花畑。

 どうにもミーハーな乙女にしか思えないのだが。

 さぞ甘く幸福な人生を送ってきた英雄なのだろう。

「まぁ、構わないわ。どちらにしろ戦うのは変わらない。太陽を沈めるなんて、滅多に出来ない体験ね」

 メルトの言葉に、慎二のサーヴァントを思い出す。

 ライダーのクラスとして、聖杯戦争の一回戦で戦ったエル・ドラゴこと、フランシス・ドレイク。

 彼――いや、彼女は沈まぬ太陽を沈め、英国の発展に関与した。

 僕達は、太陽を落とした女を倒して、先に進んだのだ。今度は僕達が、太陽に挑戦し、勝利しなければならない。

「沈む時期には尚早だ。凛の行く先を照らすのがオレの役目。それを完遂するまではオレは沈まん」

「そうね。だけどそれは私も同じ。マスターを聖杯に届けるのがサーヴァントの使命な以上、どちらも譲れないものはあるわよね?」

「その通りだ。言葉は交えた――後は刃を競うだけか」

 両者が戦闘体勢を取る。

 メルトとランサーは互いに相容れない存在だ。

 だが、マスターを聖杯に辿り着かせる、その意思だけはどちらにも共にある。

 だからそれをぶつけ合わせ、意思の強い方が生き残る。

「凛、勝たせてもらうよ。絶対に」

「やれるものならやってみなさい。お互い、全力で戦いましょう、ハクト君」

 ライバルにして恩人。

 そんな存在との戦いが始まる。

「行くぞ、弱き者よ。演者が散れば舞台は終わる。幕を降ろしてやろう――ここが貴様の死地と知れ」

「覚悟なさい、ランサー。太陽だろうと、溶かし尽くしてあげるわ」

 炎が吼える。渦が逆巻く。

 太陽の子(カルナ)、対するは月の子(メルト)

 相反する二つがぶつかり合い、戦いが始まった。




ちなみにCCCではカルナさんより恋愛脳(ロマンス)()料理好き(スイーツ)未通女(お花畑)の方が苦戦しました。

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