Fate/Meltout   作:けっぺん

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五十話だ、すげえ←
という訳でこの辺から六回戦はオリジナルに入ってきます。
まぁ、ゲームじゃここから先何も無かったし、良いですよね?


五十話『施しの英雄』

 

 六回戦の対戦相手のサーヴァント。

 その正体を突き止めるための情報は、出揃った。

 二日目の、校舎からアリーナへの攻撃。

 それは翌日、炎の属性を斬撃に付加したものだと判明した。

 そこでセイバーかランサー辺りと仮定したクラスは、その三日目に確信できた。

 アリーナの探索を任されていたドール。

 そのドールは、基になったサーヴァントと同等な能力を持つものだった。

 ドールとの戦いから知ったクラスはランサー。

 敏捷性を重視し、槍の腕を誇るクラスだ。

 そして、宝具の名は『ブラフマーストラ』。

 インド神話に名高い、必中必殺の投擲武器。

 ブラフマーストラを操り、槍を持った英雄が、インド神話の系列に何人居るかは定かではない。

 だが、それを確信付けたのは、他でもないそのサーヴァントの容姿だった。

 そう、そのサーヴァントは見た事がある。

 三回戦、ありすとの戦いの後、他の対戦に介入した時。

 そこで見た姿には、不自然な部分が複数あった。

 まず始めに、不完全な鎧。

 何故不完全なのかは分からないが、一部ながら装備していたその鎧は黄金。

 黄金の鎧を持つ英雄、その姿のもう一つの不自然は、槍を持っていないこと。

 ランサーのクラスでありながら、その武器に槍を使わない。

 それは槍を持っていないのではなく、槍が――例えばたった一撃のみの攻撃に使用するものだとしたら。

 まさかそんな都合の良い英雄が居るわけがない、そう思っていた。

 だが、四日目である今日、図書室を訪れて判明した。

 インド神話において、ブラフマーストラを担い、黄金の鎧を纏い、たった一撃の槍を持つ英雄。

 その名は、

 

 ――カルナ

 

 インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する大英雄。

 太陽神スーリヤとクンティーの間に生まれた悲劇の英雄。

 マハーバーラタにおいては、英雄アルジュナの最大の宿敵とされ、倒される側の存在だ。

 黄金の鎧と耳輪を身に着けた状態で生まれ、それは体の一部となっていたため脱ぐことは出来ないが、鎧がある限り、不死身だという。

 カルナの障害は始終不運に付き纏われたものだった。

 母であるクンティーには生まれて間もなく川に捨てられる。

 御者によって拾われ、弓の名手として育ったカルナは、とある王家の主催する競技会に飛び入りで参加し、同じく参加していたアルジュナに勝るとも劣らない腕を見せ付けた。

 自らの優を明確にすべくアルジュナに挑戦したカルナだが、それは身分の違いによって果たすことが出来なかった。

 身の程知らずの無礼者として辱められたカルナは、一旦はその不名誉から救われるが、程なくして御者の息子と判明し、侮辱される事になる。

 パーンダヴァ五兄弟は自分達より上の武芸を見せたカルナを罵り笑う。“御者の息子風情が恥を知れ”と。

 御者の息子というレッテルは大きく、王女ドラウパディーの花婿を選ぶ競技会にて優秀な成績を修めつつも「御者の息子を夫にするつもりはない」と拒絶される。

 武芸者ドローナの下で武術修行をしていた際も、ドローナがアルジュナを一番弟子として可愛がっていたために奥義を授かる事が出来なかったという。

 後にドローナの師であるパラシュラーマに弟子入りする事になるが、これがカルナを滅ぼす要因となる。

 カルナが武人として弓を預けるカウラヴァ百王子と、アルジュナを筆頭とするパーンダヴァ五兄弟の対立は、最終的に領地をかけての戦となった。

 この戦をクルクシェートラの戦いと呼ぶ。

 カルナはカウラヴァ百王子を、ひいては友であるドゥルーヨダナを勝たせるために戦い続けた。

 クルクシェートラの戦いの前、パーンダヴァ側にいた母クンティーは最後の賭けにでた。

 自身が生みの母であり、パーンダヴァが血を分けた実の弟だ、肉親の情によってパーンダヴァの味方になれ。

 実の兄弟で戦う事は無益だ。アルジュナたちと共に戦い、栄光を手にするべきだ、と。

 カルナは母の涙ながらの説得を静かに聞き入れ、その後に言った。

 

 ――貴女の言葉は分かった。兄弟たちと手を取り、正しい姿に戻る。それはなに一つ欠点のない、光に満ちた物語だろう。

 

 クンティーは喜んだ。

 全てが丸く収まると。

 しかし、カルナは言葉を続けた。

 

 ――だが、一つだけ答えてほしい。貴女はその言葉を、遅すぎたとは思わないのか。

 

 母と名乗るのが遅すぎた。

 カルナを省みるのが遅すぎた。

 クンティーは身勝手な女だが、決して恥を知らない女ではない。

 彼女とて、自らの行い――自分の為に生まれたばかりのカルナを捨てた事が、我欲に満ちたものだという自覚、自責はあった。

 なればこそ、彼女にも最低限の誇りはある。

 独りで育ち、養父たちに感謝し、何の憎しみも抱かないカルナに、醜い嘘だけはつけなかった。

 交渉は決裂。項垂れて立ち去るクンティーにカルナは告げる。

 

 ――それは欺瞞、独りよがりの愛だ。貴女の愛で救えるのは、貴女だけだ。貴女の愛は貴女にしか向けられていない。

 

 しかし、その気持ちには応えよう。

 

 ――以後、戦において俺に及ばぬ兄弟を仕留める事は無い。俺が全力を尽くすのは、我が宿敵アルジュナだけだ。

 

 カルナはそう誓いを立てた。

 五兄弟の中で、唯一自分と対等に戦えるアルジュナ以外とは戦わないと。

 これ以後、カルナは幾度と無く兄弟を見逃す事になる。

 

 ――自ら手にした場所へ帰るがいい。……一度だけだが、息子と呼ばれた事には、感謝している。

 

 

 戦いの直前、アルジュナに勝利を与えようとする雷神インドラにより、カルナは黄金の鎧を喪失する。

 カルナは正午の沐浴の際、バラモン僧が施しを求めてきたならば何を乞われても望みの品を贈っていた。

 そこでインドラはバラモンの姿に化け、正午にカルナの前に現れた。

 曰く、黄金の鎧を所望する、と。

 この鎧は体と一体であるため、脱ぐことが出来ないと説明し、別の物を要求するよう懇願しても、バラモンは鎧を求め続けた。

 その様に僧の正体に気付いたカルナは、その要求に応える事にした。

 苦痛に耐えながら小剣で体と繋がった部分を切り裂き、体を血に染めながら鎧を外したのである。

 微笑を浮かべながら鎧を手渡すカルナの見事な振る舞いに、インドラは自らを恥じ入った。

 そうして鎧の代わりに、一度のみ使える必殺の槍を授けたという。

 これが、槍を持たないランサーの所以。

 たった一撃の、神をも殺す最強の槍。

 しかしその槍は、不死身を成立させていた鎧の代わりとして到底釣り合うものではなかった。

 結局カルナは生涯この槍を使う事はなかったという。

 こうしてカルナは鎧を失い、幽鬼のように痩せ細った姿で戦場に赴いた。

 アルジュナとの最後の戦いにおいて、カルナに既に味方はなく、身を任せる馬車の御者すらパーンダヴァに内通する敵だった。

 激戦を繰り広げた両者であったが、決定的となったのはパラシュラーマによって与えられた呪い。

 それは絶命の危機に瀕した時、与えられた奥義を忘れるというものだ。

 その奥義こそ『ブラフマーストラ』。必殺の武器の名だった。

 更にバラモンの牛を誤って殺してしまった際に与えられた、緊急の時に戦車が動かなくなるという呪い。

 車輪が轍にはまり、戦う術の無くなったカルナ。

 不意の故障で戸惑うカルナを殺すのをアルジュナは躊躇った。

 しかしアルジュナの導き手、クリシュナは攻撃を促した。

 攻撃を決意したアルジュナ。必死にブラフマーストラを思い起こそうとするカルナ。引き絞られる弓。

 放たれた矢は、太陽(カルナ)の首を射抜き撃ち落した。

 

 施しの英雄と呼ばれ、何かを乞われたり頼まれたりした時に断らない事を信条とした聖人。

 高い能力を持ちながら、血の繋がった兄弟と敵対する悲劇を迎え、様々な呪いによって真価を発揮する事無く命を落とした。

 施しの英雄は、同時に悲劇の英雄であった。

 思慮深く、弁明、欺瞞に騙されることは無い貧者の見識を持ちながら、様々な理由から認められる事の無かった無冠の武芸。

 天運には恵まれなくとも、その実力は全ての英雄の中でもトップクラス。

 そんな最強の英霊のマスターも、また実力者。

 そう――遠坂 凛は間違いなく、今までで最強の相手だ。

 だから、今までの様に特訓を続けるだけでは駄目だ。

 最強の槍と、最強の鎧。

 聖杯戦争において、彼はその両方を持っている可能性は高い。

 対策をしなければ。

 最強の槍をどうにかする手段と、最強の鎧をどうにかする手段。

 二つを用意して、万全の状態で挑まなければならない。

 今回も、ラニの力を借りなければ、僕だけでは何も出来ない。

 それが事実だとしても、勝たなければ。

 無力な僕が今まで勝ってこれたのは、手を貸してくれた皆のおかげだ。

 今回もそれに乗じるだけ……ではない。

 いつか僕も、ラニに、メルトに恩返しをしなければならない。

「――よし」

 携帯端末が二枚目のトリガーの生成を告げる。

 丁度いいタイミングだ。

 一先ずアリーナに向かおう。

 

 

 思えば、最初から覚悟して然るべきだったのかもしれない。

 あんな高性能なドール、一度あそこまで壊れてしまえば修復はほぼ不可能だ。

 まして一日での修復なんて、プロの魔術師だろうと無理だろう。

 だから、今日探索をするとしたらドールを使わず、本人が出向くしかない。

「……凛」

「……バレちゃったのね」

 アリーナ第二層の中央。

 少し広くなっているそこで、今回の対戦相手と対峙していた。

「ボロが出たわね、リン。まぁ、ハクは昨日気付いていたみたいだけど」

「あら、何か正体掴まれる要因はあったかしら?」

 分かっていて聞いている、そんな言い方だ。

 凛も、校舎からの攻撃やドールを使う事で正体が明かされる事は理解していたのだろう。

「まぁ、仕方ないわね。紹介するわ。私のサーヴァントよ」

 あくまでもクラス名は明かさない辺り、凛は慎重だ。

「初めましてではないわね、ランサー。三回戦以来かしら?」

「ふ……クラスが伝わっていたか。紹介に与った、リンのサーヴァント、ランサーだ」

 ランサーは目を細めて一礼する。

 その姿は、以前より重厚だ。

 カルナが誇る黄金の鎧は、ほぼ完成されていた。

「……正体も分かったよ」

「あらあら、私としたことが、どこでヘマしたのかなぁ」

 虚言か真実か、凛は半信半疑の様子だったが、少なからずその表情には驚愕があった。

「ふむ、オレの真名か。面白い、言ってみるといい」

 ランサーは見定めるように言う。

 黄金の鎧、槍を持たないランサー。

 以前よりも、今の状態の方が真名を知ってしっくりくる。

「施しの英雄……カルナ」

「……あー」

「……」

 心底驚いた凛と、微笑するランサー。

 まさかこんなに早く正体が判明するとは思っていなかっただろう。

「まったく、ノーマークだったマスターがここまで来るなんてね」

「リン、楽しんでいるように見えるが」

「そうかもね。ようやく一戦交えられるワケだし?」

 その言葉に、咄嗟に戦闘体勢を取る。

「真名がバレたのが幸だか不幸だか、ハッキリさせておかないと」

「え……?」

 一体何を言っているのか。

 真名が判明するのは、基本的に欠点しかないんじゃないのか。

「ランサー、手加減不要よ。試験(テスト)だからって手抜かないで」

「生憎だがオレに手加減なんて器用な真似は出来ん。その忠告こそ不要だ」

 体勢を低くするランサー。

 ドールとの戦いとは違い、槍は持っていない。

 それとの戦いが、一体どれ程違うのか。

 ここで確かめておかなければ。

「メルト、頼む」

「任せなさい、ハク」

 セラフの警告が発生する。

 戦えるのは僅かな時間のみ、その間に決着はつかないだろうが、ある程度の弱点は知っておかねば。

 互いのサーヴァントがぶつかりあい、戦いが始まった。




戦わないと対策とれねえ。
ちなみに自分は負けイベントと分かっても突っ込むタイプです。

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