Fate/Meltout   作:けっぺん

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色々あって遅れました。
あ、それとEXマテ届きました。今から読みます。課題間に合わなくても読みます。


四十八話『干渉』

 朝、確認の為にアリーナの入り口を訪れた。

 校舎からあれ程の威力を発揮できる攻撃だ、何か痕跡がある筈だと。

「……これは」

『ムーンセルの修復が追いつかない程の威力、相当ね』

 アリーナの入り口は、見るも無残な状態になっていた。

 罅、焦げ跡、一際目立つ大穴の縁は溶けたようになっている。

 やはり火炎による攻撃か。

 罅が入っている辺り、物理的な攻撃に炎を付加しているものかもしれない。

 攻撃は恐らく、アリーナの作りから予想した僕達の逃走経路に向けて撃ったのだろう。

「無事でしたか、ハクトさん」

「ラニ……」

 傷に触れて確かめていると、後ろからラニが声を掛けてきた。

「昨日の夕方、大きな音がしたので。それで様子を見に来てみたらこんなことに……」

 罅に手を触れながら言う。

 ラニは昨日の内にこれを調べていたのだろうか。

「昨日、何があったのでしょうか?」

「校舎からアリーナに攻撃を受けたんだ。爆発みたいな攻撃だった」

「成程……アリーナに入る瞬間は誰でも無防備になります」

 そこを狙うとなると、相手は確実に勝利にきているのだろうか。

 しかし、だとしたら此方は情報が一切無い上、相手はあれ程の威力の攻撃を連発できる。

 アリーナに赴いて仕留めた方が確実だと思えるのだが。

「火炎を付加した斬撃、ですね」

「斬撃……サーヴァントはセイバーかな?」

「いえ、断定するのは早計でしょう。物理攻撃に火炎を付加させる英霊、とまでは判断できます」

 クラスが分かるほどのものではなかったが、大きな前進だ。

 憶測がラニによって確信に変わった。

 礼を言うと、ラニは俯きながら小さく応える。

「ですが、攻撃を外し、そして追うのをやめたのは不合理に過ぎています。この回戦まで生き残った強兵、相手を逃がす道理がありません」

 確かにそれは不可解だ。

 仕留められなかったのは恐らく相手のマスターも把握していただろう。

 だったらやはり、アリーナにまで攻め入るのが得策といえる。

「……仮説に過ぎませんが、相手はハクトさんと戦うのに迷いがあるのではないでしょうか」

「……迷い?」

 参加者全てが敵となるこの聖杯戦争で?

 レオも凛も、知人とはいえ対戦相手に容赦をする人間ではない。

 もう一人のマスターなら尚更だ。面識の無いマスター相手に手を抜き戦いを躊躇う理由などどこにもない。

 負ければ死ぬ。ならば殺せる時に確実に殺すのは実に理に敵っていると思うが。

「あくまでも仮説です。重視する内容ではありませんでしたね」

 首を振りながらラニは言う。

 気にするな、という事らしい。

「あ、それと、後でお話したいことがありますので、お時間いただけますか?」

「え? あぁ、うん。大丈夫だよ」

 答えると、ラニは少し照れたような顔で一礼し、その場を後にした。

 ……何かあったのだろうか。

 ともかく何か、大事なことの様なので、忘れずに行くことにしよう。

 

 

 さて、今まで手に入れた情報を整理するというのは聖杯戦争においてかなり重要となる。

 集めた情報を纏め、そこから相手のサーヴァントの正体を突き止めなければならないからだ。

 とはいえ、今の段階ではそれが出来ない。

 手に入れた情報が、あまりにも少なすぎる。

 斬撃痕をつけられる英霊なんて、それこそ星の数いるだろう。

 それに炎の属性を付加できる、となれば多少は制限されるが、それでも正体に辿り着くには情報が不足すぎる。

 サーヴァントのクラスさえ分からず、手掛かりのない相手。

 加えて調査の方針は決まらず、相手の出方を待つしかない。

 今までの相手は皆強敵だったが、今回の相手はそれらとは種別の違う強敵だ。

 ユリウスはサーヴァントこそ透明だったが、マスター本人は明確だった。

 だが、今回の相手は全てが見えない。

 これでは対策の取りようがない。

 ……こうした考えも、大した意味を成さないだろう。

 気分転換に食堂にでも行ってみよう。

 何かを食べて気分をリフレッシュさせれば、相手について何か別の見方も出来るかもしれない。

 

 

 食堂を訪れた僕達であったが、外から感じ取れた香辛料の匂いにメルトが戦慄したのは言うまでもない。

 残り四人となり、通う人間すら少なくなった食堂に掲げられた看板は、どこか懐かしさを感じさせる。

『監督役NPC、言峰氏プロデュース! 麻婆豆腐リベンジ 本日販売開始!』

 復活していた。

 例の言峰のイメージイラストが「この美味さ、愉悦級」という訳の分からない台詞を発している。

 値段が多少安くなり、辛さが幾分抑えられたようだった。そこまで必死か言峰。

 苦笑いしつつも、あの日以来食べていないのも事実。

 頼もう、とも思ったが、先日の言峰の嫌がらせを思い出す。

 人を弄ぶような言動を平然とこなす彼の事だ、それなりのトラップは仕掛けられているのだろう。

 触らぬ神に祟り無し。君子危うきに近寄らずだ。

 惜しい気持ちもあるが、今回は手を出さないことにしよう。

 そう思い、食堂を立ち去ろうとすると何かを小脇に抱えたラニが小走りでやってきた。

「ラニ、どうしたの?」

「あ、いえ……えっと……」

 ラニにしては珍しく歯切れが悪い。

「……? それは?」

 小脇に抱えた何かを指差して問う。

 ラニは少し悩むような素振りを見せた後、答えた。

「あの……お弁当と言う物を練成してみたのです……ご一緒に、と思ったのですが」

「弁……練成?」

 弁当、という単語に驚きはしたが、その後の単語に更に気になった。

 弁当を錬金術で作り出したのだろうか。

 手を叩くだけの簡単なお仕事?

「初めてだったので、少し手間取りましたが……」

 さすがに手パン練成はないようだ。

 考えていると、ラニは不安そうに顔を竦めた。

「大丈夫です、ちゃんと人体に害の無い物質で構成をしてある……と思います」

 少し開いた間が気になったが、その気持ちは嬉しかった。

 緊張感のある戦場で、学校の日常を思い出せるラニの心遣いはありがたく思える。

「ありがとう、ラニ。食べようか」

「……はい。教室で食べましょう。準備をしますので、先に行っていますね」

 小さく頭を下げて早足で駆けていくラニは心なしか少し嬉しそうに見えた。

 二回戦、彼女と出会った頃は、こんなに感情を見せる子のようには思えなかった。

 想像できなかったことだが、これが本来の、素のラニなのだろうか。

 そう思うと、嬉しさがこみ上げてくる。

 ラニの弁当が冷めないうちに、教室に向かおう。

「……って、あれ?」

 ふと気付いた、今までとは違う感覚。

 まるで半身が無くなったような……ような……

「……メルト?」

 返事がない。

 傍で姿を消しているはずのメルトの気配が感じられなかった。

「っ――メ」

「どうしたのかしら、ハク」

 サーヴァントが居ないという事態に危機感を覚え、咄嗟にその名前を呼ぼうとした瞬間、声が掛けられた。

 食堂の外から歩いてくるメルトを呆けた顔で迎える。

「……何してたの?」

「ちょっと嫌な予感がしたから外に出てただけよ」

 そこまでの威力か、麻婆豆腐。

 サーヴァントとして高い実力を持ちつつも麻婆豆腐から逃げるメルトはシュールだった。

「それで、食事を摂るんじゃないのかしら?」

「あぁ、ラニが弁当を作ってくれたみたいなんだ」

「……そう……丁度良いわね」

 そう言ってメルトは姿を消してしまった。

 何やら先程から嫌な予感がしてならない。

 それは杞憂であってほしいと願いながら教室に向かう。

 しかし悲しいかな、その予感は残念ながら的中してしまった。

 

 

「ハクト君、これも食べてみて。はい、あーん」

「それは正しい選択とは言えません。此方をどうぞ」

「ハク、どれを食べればいいか、聡明な貴方なら分かる筈よ」

 凛が春巻きを、ラニがそら豆のコロッケ――ターメイヤを、メルトが魚の餡かけをそれぞれ口に押し込んでくる。

 逃げられない。

 それぞれは美味しくても、一緒になることで口内がカオスになっている。

 味のサイバーテロ――くだらない事を考えている場合ではない。

 味云々は置いといて、このままでは窒息死しかねない。

 さて、何故こんな状況になっているか。

 訳を話せば簡単だ。

 ラニの弁当を食べに教室を訪れたところ、それを追ってきたかのように凛が登場。

 凛も弁当を作ってきたらしく、なら一緒にどうだろうと誘ったところ了承。

 その後メルトが実体化し、いつ用意していたのか三つ目の弁当が出現。

 そしてそれぞれが暴走。

 結果として色々と面倒事が発生した訳だ。

「さぁハクト君、これも」

「いえ、此方を」

「ふふ、どんどん食べなさい……ふふふ」

 メルトは面白がっているのではないか。

 ともかくこの状況を打開しないと、何となく命の危機を感じる。

 確かに嬉しい、その気持ちはある。

「んー! んー!」

 だが、弁当で殺されてはたまらない。

 そんな気持ちとは裏腹に次々に食べ物が押し込まれてくる。

「……」

 多分、この後ほどなくして僕は意識を手放すだろう。

 そんな予感も、やはりと言っていいか的中する事になる。

 

 

 昼食の変から数時間後、ようやく目を覚ました僕はラニと話をしていた。

 本当は昼食時に話そうとしていた事らしいが、僕自身は悪くない……と思いたい。

「相手に、心当たりがある?」

「はい。あくまで憶測に過ぎませんが」

 ラニから伝えられた事は、対戦相手についてだった。

 アリーナ前の傷跡以外一切情報の無かった相手を、ラニは知っているかもしれないと。

「一応、確信を持つために幾つかの対処をしておきましょう。この術式をどうぞ」

 渡されたのは箱状のデータ。

 複雑でプロテクトの掛かったものだが、一応解除は可能そうだ。

「これは?」

「『抗防御結界術式(アンチプロテクトコード)』――特定のクラスに対して有利に働く術式です」

 特定のクラス……ラニは相手のサーヴァントのクラスについて何か分かったのだろうか。

 切断系統の攻撃を使用した形跡から、セイバーかランサー辺りだと目星はつけていたが、確信を持てたとしたら少しは正体に近づく。

「ですが、これは相手のサーヴァントと相対しない限り効果がありません。他の準備もしておきたいと思います」

 何から何までラニには任せっぱなしだ。

 自分に出来ることは実戦で戦うだけ、情報集めの方法や手段も、ラニに任せてしまっている。

 その事も含めて、ラニに礼を言う。

「――ありがとう、ラニ」

「……はい。幸運を祈ります」

 さて、この術式を持ってそろそろアリーナに向かうとしよう。

 相手のサーヴァントと出会うのは、それはそれで危険な事ではある。

 だがラニの推測が正しいのだとすれば、術式が発動して有利に立ち回れる。

 これ程までに慎重な相手だ。

 そう簡単に姿を見せる事はないだろうが、とにかく行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばメルト、あの弁当っていつ……」

「サクラからくすねてきたわ」

「……」




前門のエジプト、後門のあくま。
となりのメルト。

桜弁当はメルトが桜と交渉して入手したようです。

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