Fate/Meltout   作:けっぺん

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六回戦。
EXマテが出て色々情報追加されてワロタ。
これからの分は考慮しますが、今までの分は書き直しませんよ。


四十六話『隠蔽』

 

 

 認めよう。

 

 殺し合う事は避けられない。

 

 肉親でさえ、隣人でさえ、競い合う相手なのだと。

 

 それが人間の本質だ。

 

 動物を絶命させ、始原を食い荒らし、消費するだけの命。

 

 しかし、ならば――

 

 彼らの争いには、何の意味があったのか。

 

 

 +

 

 

 残る戦いも、後二戦。

 ベスト4という結果に、喜ぶことは出来ない。

 何せこの戦いは、最後の一人にならなければ意味の無い戦いだ。

 六度目の対戦相手の発表が告げられ、掲示板の前に訪れる。

 いつも通りに張り出されている対戦相手の記された紙――

 

『マス―――――――

 ―――――の月想海』

 

「……え?」

 名前が読み取れない。

 塗りつぶすとか、表示情報を破壊するとかといった手段ではない。

 何かの刃物で斜めに切り裂かれている。

 これでは対戦相手が分からない。

 対戦相手の仕業だろうか。

 残る三人のマスターの一人が、悟られないためにこのような手段をとったのだろう。

『不意打ちのため、かしらね』

 メルトが姿を消したまま言う。

 成程、対戦相手だと悟られていなければ不意を突くのは簡単だろう。

 残り四人の状況でこんな事をしても効果は薄いだろうが、だからこそ強力な手段ともいえる。

 終盤になればサーヴァントの実力もついてくるし、情報が更に重要になってくる。

 サーヴァントの情報を隠すためと考えれば、十分にこの手段はありえる。

 マスター自身の名前も隠すことで更に確実になるか。

 筋は通っている。

 ラニの意見も聞いてみるか。

 

 

「……良かった、勝てたのですね、ハクトさん」

 三階でいつものように空を見ていたラニの元に行くと、安堵した表情を見せてくれた。

「あぁ、ラニのお陰だ、ありがとう」

「いえ。私は私に出来る事をやったまでです」

 五回戦は、ラニの助けが勝利に直結した。

 ラニが居なければ僕は戦う前に敗北していただろう。

 それを終えたは良いが、新たな問題が発生した事を告げる。

「……対戦者の名前が消されていたのですか?」

「うん。やっぱり対戦相手自身によって消されたのかな?」

「恐らくは。そう考えるのが妥当ですね。ただ……」

 ラニが思案するように顔を下げる。

「表示情報を破壊するのではなく、武器によって切り裂いたというのが不可解です……」

 確かに、ここまで勝ち残っているマスターなら表示情報を破壊するくらい訳ないだろう。

 だとすると、何故武器を使用して隠したのか。

「痕跡……もしくは目撃者がいるのではないでしょうか?」

「成程、探してみるよ」

 マスターの名前すら分からない状態では、情報収集どころではない。

 痕跡を探すと共に、マスター達にも声を掛けてみるべきか。

 さすがに情報を消すほどの対戦相手が“自分です”という訳が無いが。

 二階に降りてくると、丁度通りかかったらしい凛と目が合った。

 彼女が勝利するのは確信していた。

 凛は此方を見て一瞬驚いた顔をするも、すぐに元の表情に戻る。

「まさか貴方が勝ち残るなんて……随分と強くなったようね」

 感心したように言う凛の言葉は、次の対戦相手とは思えない。

「対戦相手のマスターが掲示板の情報を消したんだ。何か知らないか?」

 一応聞いてみると、怪訝な顔をする。

「……徹底したマスターね。自分の名前すら知らせないなんて。気をつけたほうが良いわ、強敵よ」

 どうやら違うようだ。

 凛であれば、対戦相手と話すような事はないだろう。

「そうか……ありがとう、凛」

 では、候補は後二人になる。

 レオと、名前は分からないが勝ち残ったマスターが居るのだろう。

 一階に降りると、言峰が居た。

 言峰は監督役のNPCであり、対戦相手ではないのは確実だが、情報くらいは得られるだろうか。

「今回は対戦相手の隠蔽を行ってみた。愉しんでもらえたかね?」

 お ま え か 。

 どこまでも嫌がらせが好きな神父に殺意が沸きかけた。

「冗談だ。私は知らないな」

 あっさりと嘘と告げられ、脱力する。

「……監督権限で発表は出来ないんですか?」

「残念ながら。対戦相手は自分で見つけてくれたまえ」

 言峰に頼るのは無理なようだ。

 本当は出来るのではないかとも思ったが、この神父が良心を見せるわけがないと判断する。

「あんたが対戦相手という事は……」

「ははは、ありえんな。だとしたら君の命は既に無いだろう」

 ……強ち冗談にも聞こえないのが恐ろしい。

 この神父は勝つためなら如何なる事もするだろうと直感で察する。

 油断しきった背中を一突きとか。

 そんな事を考えている内に、携帯端末が鳴り響く。

「トリガーの生成が完了した。対戦相手もだが、トリガーを取るのも重要ではないかね?」

 言峰の言う通り、対戦相手の情報を集めるだけが戦いではない。

 今日はそろそろアリーナに向かっても良いかもしれない。

 そう思って歩きだすと、足に何かが当たる。

 バッジ、だろうか。

 獅子が象られた、純金の装飾品。

 対戦相手が残した痕跡とは思えないが、一応持っている事にしよう。

 何かの役に立つかもしれない。

 装飾品をポケットに入れ、今度こそアリーナに向かうことにした。

 

 

 新たなアリーナに入って暫くした頃、メルトの足が突如止まる。

「メルト?」

「……ハク、相手のマスターが入ってきたみたいよ」

 相手のマスター。

 情報を隠していた対戦相手が同じ時間帯にアリーナに入ってきたらしい。

 それが本当ならば、このまま待っていればその正体が分かる。

 というのも、ここまでアリーナはほぼ一方通行。

 普通に探索していれば、嫌でもここを通るだろう。

 だが、果たしてそれは得策と言えるだろうか。

 実力の分かっていない相手と対峙する、その無謀さはこれまでの戦いで嫌という程体験してきた。

「……待つべきかな?」

 戦いを潜ってきた経験なら、メルトの方が何倍も上回る。

 生死を別ける選択、どちらを選べばいいのか。

「そうね、待つのであれば貴方を守りきれる保障はないわ」

「……逃げろって事か」

 リターンクリスタルもあるが、まだトリガーも見つけていない以上ここで探索を終えるのは勿体無い。

 出来るだけ早くこの先へ進むしかないか。

「にしても、この気配……」

「知ってる気配なの?」

 今までにすれ違った人なのか、或いはメルトの生前――月の裏側で出会った人だろうか。

「いえ……確信は持てないわ。だけど、凛の言う通り、強敵なのは確かね」

 メルトの表情が曇るのが分かる。

 強敵と呼べる相手ならば、今までの相手は全員それに当てはまる。

 だが、今回のマスターはそれを上回る。

 レオか、凛か、名前の知らないあと一人のマスターか。

 レオのガウェインは、自ら真名を名乗っていた。

 セイバーという最有のクラスに据えられ、それに恥じないトップクラスの実力を持った英雄だ。

 凛のサーヴァント、その姿は戦いに介入した際に見ていた。

 クラスはランサー、スクリーンで見た際は画質が悪く、あまり見えなかったし詳細は分からない。

 ラニを制止する時に共闘していた。

 槍兵なのに槍を持たない戦士。

 異質なものだが、その実力は確かなものだった。

 バーサーカーの圧倒的な威力を誇る宝具を防ぐ何らかの強力な防御手段も持っていた。

 やはり強力な英霊である事には変わりないだろう。

 あと一人のマスター。

 その詳細は不明だが、準決勝にまで勝ち残ったマスターだ。

 そのサーヴァントも世界的に有名な英雄、ないし大英雄クラスの存在だろう。

 誰を相手にするにしても強敵だ。

 情報を探るのに一日も惜しい。

 対戦相手が分からない状況というのはこれほどまでに追い込まれることらしい。

「……今は考えている場合でもないか」

 相手のマスターと距離を取ることが最優先だ。

 アリーナの奥を目指して進む。

 エネミーの強さも準決勝まで来るとかなりのものだ。

 並のサーヴァントに匹敵するかもしれない。

 二回戦のサーヴァント、アーチャーの様に、毒などの厄介な戦法を使うエネミーが増えてきた。

 その分経験を積むには向いているのだが、相手のマスターから離れるという目的がある以上あまり時間を掛けていられない。

 極力戦闘を回避しながら進んでいくと、メルトが立ち止まる。

「メルト、どうかした?」

「えぇ、相手のマスターが撤退したようね」

「撤退?」

 ここまでまだトリガーも見当たらなかった。

 という事は、相手のマスターはトリガーを取らずしてアリーナを去ったという事か。

 僕達との接触を避けるため、だろうか。

 ともなれば、一日一度しか入れないアリーナでの探索を中止してまで正体を隠すほどの徹底ぶりは驚くべきものだ。

 これで心置きなくアリーナを探索できるが、情報は一切得られなかった。

 せめて収穫としてトリガーは取っておかなければ。

「……あれ?」

「……本当に、徹底してるわね。相手のマスターは」

 アリーナの先に進む一本道。

 それを塞ぐように聳え立つ防壁。

 元々そこにあったものではない、何らかの手段で相手のマスターが作り出したものだろう。

 ……一本取られた、というのもいつもの事だが、ここまでの相手とは。

 自身の情報を隠しつつも、相手のトリガー取得を阻止する。

 たった一日でこれほどの妨害――ここまでくると、相手の実力が恐ろしく感じる。

 ともかく、これでは進むことも出来ない。

 探索は、ここで終わるしかないか。

 悔しさに歯を噛み締めながらも、リターンクリスタルを取り出すのだった。

 

 

 部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。

 不完全燃焼というのだろうか。

 今日一日の活動は、合格点を与えられるものではなかった。

 対戦相手の名前は知る事が出来ず、トリガーも入手することが出来なかった。

 さらにアリーナに設置された防壁、あれを何とかしないことには先に進むことも出来ない。

 収穫といえるのは、拾った純金の装飾品のみ。

 しかしこれの詳細は不明、何のためのものかも分からない。

「調べることは多いわね」

「うん……今まで以上に、ね」

 分からないことだらけ。

 今までと同じように、猶予期間は六日間だけだ。

 その中で、今まで以上の謎を解いていかなければならない。

 重要なサーヴァントの情報に関しては、まだ何一つ得られていないのだから。

 手掛かりが少なすぎる、明日またラニに相談してみよう。

 明日に向けて、今日は早めに休む事にした。




転輪剣って伸びるんですね。知りませんでした。
つーかマジでカズラドロップたんが脳内で始まっててヤバイ。

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