Fate/Meltout   作:けっぺん

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ドSハク片鱗回。
CCCがあるならこれって伏線になるんでしょうね。

恒例の決戦前のため、短めです。


四十二話『隠蔽恋慕』

 

 遂に、決戦の日が訪れた。

 今回の敵は間違いなく最強の相手だ。

 しかし、無事にサーヴァントの正体に到達することが出来た。

 五回戦の相手はユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。

 レオの異母兄弟であり、西欧財閥の影の顔。

 都合の悪い相手を裏から始末する、無情の暗殺者。

 彼と、彼のサーヴァントは初日から襲い掛かってきた。

 不可視の一撃は、メルトの魔術回路を乱し、いずれ死に至らしめる恐ろしいものだ。

 その攻撃は、特殊な拳法によるもの。

 ラニの助けが無ければ、今頃戦う前にメルトは息絶えていた。

 そんなサーヴァントの最大の特徴は透明化だろう。

 だが、ラニの助力によりそれも暴くことが出来た。

 極められた体術による、完璧な透明化。

 それは圏境という、中華の武術の極地による自然との合一によるもの。

 そこに至るまでには、一体どれ程の年月が必要なのだろうか。

 彼は自身をアサシンと言った。

 暗殺者のサーヴァントでありながら、真正面からの戦いを好むのは彼が拳法家だったから。

 昨日、凛が教えてくれた。

 圏境は近代のものであり、それに至った者の一人の渾名を。

 二の打ち要らず。

 それは、アサシンの正体を確信する情報となった。

 一撃必殺の攻撃を生む武術の達人。

 二の打ち要らずと呼ばれた拳法家など、歴史上一人しか居ない。

 

 ――李書文(り しょぶん)

 

 十九世紀から二十世紀にかけて生きた中国の武術家。

 真実か、過大に評価された結果かは分からないが、彼の伝説は凡そ実在の人物とは思えない。

 三打待ち、その後に私が一度打つと宣言し、相手の三打を平然と受けた後に放った一撃で相手を葬った逸話。

 牽制の一撃さえも死に至るその拳から付けられた二の打ち要らずの名。

 そんな彼は、武術だけではなく槍術の技量も凄まじかったという。

 壁に群がる蝿を、壁を傷つける事無く全て刺し落としたという逸話もある。

 ランサーとしての適性もあるだろう彼がアサシンで呼ばれたのは、きっとユリウスとの相性だろう。

 そんな槍使いとしての書文の渾名は神槍。

 神槍李に二の打ち要らず、一つあれば事足りる。

 そんな彼は、今度こそ本気で此方を葬らんと戦うはずだ。

 ユリウスも数多の死線を潜り抜けてきた実力者。

 技量も経験も僕より遥か上を行っている。

 そんなユリウスと、最強の拳法家、思いつく限り最悪の組み合わせだろう。

 死そのものを体現したかのような相手と、これから逃げられない勝負が始まる。

 ――勝てるだろうか、と今更不安が脳裏を過ぎる。

 馬鹿馬鹿しい、既に決意は決めたのだ。

 ラニが居て、メルトが居る。

 遂に本気になったメルトと、答えを得た僕。

 それが暗殺者に負ける筈が無い。

 

 

 願望に至らんと戦いに赴いたマスター達を深淵へと誘うエレベーター。

 向かい合う二組の内、一組はもう二度と校舎へ戻ってこれない。

 そして今回、僕達の前に立つのは死だ。

 黒いコートの暗殺者、燃える様な赤い魔拳士。

「あれだけ痛めつけられて、尚その闘志は萎えておらんか。封鎖空間で出会ったときから良くここまで腕を上げた!」

 これからの戦いを心待ちにするようなアサシンの言に、ユリウスは呆れたように息を吐く。

「アサシン、無駄口は――」

「無駄口の一つ二つ、良いではないか。これから拳を交える相手を知る、なんと贅沢な事か!」

 笑いながらそういうアサシンにとって、この聖杯戦争は生前無かった興奮を得られるものなのだろう。

「武とは人生の押し合いだ。拳の重みは年月に比例する。何十年もの人生を一瞬で潰しあう感覚は得難いものよ」

 その目が此方に向けられる。

 何か、僕を試すような表情でアサシンは言葉を続ける。

「ぬしもそうだろう? 我が雇い主に物申すといった面構えをしているが?」

 気を制する武の達人にとって、僕の顔色を読むくらい造作も無いことなのだろう。

 ユリウスはアサシンを一瞥するが、何も言わない。

 幾つもの因縁を結んできたユリウス、彼に対して思うことは、確かにある。

 恐らく、会話らしい会話が出来るのは今回が最初で最後。

 だとすれば、最も不思議に思っていたことを聞くべきだろう。

「――お前は、何のために戦っているんだ?」

「……何のため、だと?」

 ユリウスは眉一つ動かさずに、その鋭い視線だけを此方に向けている。

「レオを聖杯まで送り届けること、それが俺の目的だ」

 さも当然の様に告げるユリウス。

 しかし、何だろうか。

 彼の言葉には、何か引っかかるものがあった。

「……お前はレオの部下なのか?」

「……そうだな。レオは生まれた時から次期当主を約束されている。俺が従うのは当然だ」

「兄がいるのに、何で弟が?」

「……俺は庶子というヤツでな」

 庶子、つまりは正式ではない婚姻関係から生まれた子供。

 異母兄弟という事は聞いたことがある。

「だが、そうではないとしても、レオはハーウェイの歴史の集大成だ。レオが当主となる事に、誰も異論はなかっただろう」

 ハーウェイの事情は良く分からない。

 ユリウスがレオの正式な兄だとしても、当主にはなれなかった。

 レオこそが王者として完成された器だったから。

「ハーウェイに必要なのはレオだ。俺の意思などとうに捨て去った」

 その言葉に、引っかかっていた事の正体を確信する。

「――嘘だ」

「……何?」

「お前は、何か別のものを求めているんじゃないか? ハーウェイの目的とは関係ない、自分の望みを」

 ユリウスの動揺を見たのは二度目だ。

 一瞬開かれた目を元の冷たいものに戻し、より殺気を鋭くする。

「知ったような口を利くな。ただの憶測で話されるのは不愉快だ」

「違う、のか?」

「下らん。俺はハーウェイの為に動いているに過ぎない」

「なら、何でそんな辛そうな顔をしているんだ」

「――」

 ユリウスの目は、今度こそ大きく見開かれる。

 驚愕を隠さず、しかし冷静さだけは消すことはない。

「辛そう、だと……? この期に及んで対戦相手の心配か。おめでたい奴だ」

 その表情には確かな動揺の色があった。

 冷たい目の奥に、一瞬熱いものが篭った様な。

「生憎だが、この戦いで負う傷も死を持つ事も、俺にとっては苦痛ではない……これ以上も以下も、求めるものなど何も無い」

「本当に、か?」

 何故ここまで追求しようと思うのか、自分でも分からなかった。

 だが、どうしてもユリウスの目に、今までの冷たく暗いものとは違う何かが見えたから。

「何が言いたい。俺に他を求めろとでも言うのか」

「違う。お前には求めているものが既にあるって言っているんだ」

 そうは言っても、憶測に過ぎないことは変わらない。

 だとしても確信に近い形で、それが“ある”と思えた。

「……ならば言ってみろ。俺が求めているもの――それはなんだ」

 ユリウスの殺意はより鋭くなっている。

 もうこれ以上関わるな、そう言いたいに違いない。

 だがそれを聞こうとするのは、回答がどれ程馬鹿馬鹿しいものかと思うからだろう。

 良い、なら言ってやる。

 馬鹿馬鹿しい言葉に過ぎない、でも僕が見出したユリウスの願望。

 

「――愛」

 

「――っ!!」

 ガン、と鈍い音がエレベーターに響く。

 両者を隔てる壁に思い切り叩きつけられたユリウスの拳に、誰でもないユリウス自身が一番“ありえない”といった表情で見つめていた。

「……ユリウス? どうした?」

 アサシンが怪訝な顔でユリウスに問う。

 雇い主の憤怒と驚愕の混ざったその表情を見るのは初めてだったのだろう。

 ユリウスは情で動く人間ではない、それを当たり前だと知っていたからこそ、アサシンにとっても驚きであったに違いない。

「っ……!」

 拳をゆっくりと下げ、荒々しい息を落ち着ける。

「いや……あまりにこの男がくだらん事を言い出すから、面を喰らっただけだ」

 それを聞いて、アサシンは暫く呆けた顔をしていたが、やがて吹き出し、大口を開いて笑い出す。

「呵呵呵呵呵っ! おぬしでも動揺することがあるのだな! 死人になるにはまだまだ早いという事か?」

「……アサシン」

 ユリウスの視線を受けアサシンは笑みを浮かべつつも黙る。

 その後、どちらから話すことも無く数分、低い音を上げてエレベーターが停止する。

「……戯言は終わりだ。行くぞ、アサシン」

「承知。残る試合も少ない。大いに愉しむとしよう」

 出口のドアに向かって黒と赤の暗殺者は歩いていく。

「――」

 不意に、ユリウスが此方を振り返った。

 今まで通りの無機質な殺意が篭った目が向けられる。

 しかし、以前の様にそれだけで怯みはしない。

 その視線を真っ向から受け止めながら、同時に決戦場に足を踏み入れた。

 

 

 日差しの刺さる、浅い海。

 汚染されていない、理想的な海の底といった印象を持つ決戦場は、暗殺者と戦うには不相応に過ぎるものだった。

 そんな場所で対峙するアサシンは、赤が映えて凡そ闇に潜む暗殺者には見えないものだ。

 だがあのアサシンは影から狙う事で敵を討った英霊ではない。

 常に真正面から敵を打ち砕いてきた拳士だ。

「くははははっ! 滾る滾る! 血が! 肉が! やはり武とは生き死にあってのもの!」

 独特の構えをとりながら大笑するアサシンの表情は狂気そのもの。

「年老い、何を悟った気になっていたのやら、所詮は俺も血に飢えた窮奇と同じか!」

「悪人を助ける怪物に例える辺り、底が知れるわね。今度こそ、土の味を教えてあげるわ」

 挑発的なメルトが前に出る。

 何度も苦しめられてきた相手に対する復讐心は、人一倍持っているのだろう。

「呵々、いいぞ、若返るようだ! おぬしらは強い! ここまでのどの敵よりもな!」

 二の打ち要らずと言われてきた拳を受けつつも復帰した。

 圏境にまで至り、その結果得た透明化を破った。

 後はそれを操る本人を、真っ向から打ち倒すのみ。

「さあ、力比べだ――極致のその先を、見せてみろ!」

「――行くぞ」

 アサシンは手に力を込め、ユリウスは直立のまま開戦を告げる。

「行くわよハク。あなたは強くなったわ。絶対に勝てる」

「あぁ、勝とう、メルト」

 確かな決意を持った。

 慎二と出会って。ダンさんと出会って。ありすと出会って。白羽さんと出会って。

 そして、ラニと出会って。

 確かな答えを得た。

 レオという強敵が居て。凛という強敵が居て。

 メルトという心強い味方が居て。

 そして今、因縁の相手であるユリウスと対峙している。

 今までだったら勝ち筋は無いに等しかっただろう。

 でも、今は違う。

 負けたくない、ではない。負けられない。

 手を貸してくれた皆、乗り越えてきた皆のために。

「うちのマスターも本気だし、勝たせてもらうわよ」

「応よ。やれるものならやってみろ!」

 戦いが始まる。

 この決戦の場において更に鋭さを増した殺気に当てられ、またしても“勝てるか”と今更の不安が襲う。

 そんな弱気でどうするんだ。

 一旦深呼吸し、コードキャストの準備をする。

 メルトは本気だ。それにマスターである僕も報いなければならない。

 そして二人で、また校舎に戻るんだ。

 

「我が八極に二の打ち要らず。初撃こそ肝要、武を交える前に是を討つ――この(あざな)、破れるか……!」




多分メルトにあてられたんでしょう。



以下、どうでも良い呟き。例によってFate関係ありません。

け「メガシンカとかwwwねーよwww」
K「デwジwモwンwww」
まぁ買うんですけどね。

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