Fate/Meltout   作:けっぺん

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学生の皆様はさまぁばけぃしょんに入りましたでしょうか。
私も入ったので、ようやく執筆に本腰いれられます。
……と思っていたら課題がヤバイ。
想像できていましたがね。まぁ今までより進みは早いとは思いますが。


三十七話『暗拳暗器』

 

 アリーナに入ると、すぐに携帯端末が音を鳴らす。

「ラニ、アリーナに入ったよ」

『はい。では、アリーナ内の防壁が弱いところを探して割込回路(バイパス)を仕掛けてください』

「分かった。その防壁が弱いところは――」

『此方で案内します。しばらくはそのまま道なりに進んでください』

 ドールを連れ、アリーナを歩く。

 ラニが言うには、このアリーナにはハッキングに適した位置が六ヶ所あるらしい。

 とりあえずはそこを目指し、ラニの案内に従いながら進む事にする。

 五層ともなると、アリーナの構造もやや複雑になってきている。

 エネミーの強さもかなりのもの。

 素早い速度で襲い来る蜂型のエネミーが数多く徘徊している。

「■■■■――――ッ!」

 しかし、バーサーカーのドールの力は、それらのエネミーを遥かに超えていた。

 オリジナルのサーヴァントには及ばないドールだというのに、ここまでの力があるものなのか。

 このバーサーカーはメルトとは違い、速度で敵を圧倒するタイプではなく、敵の攻撃を待ち、近づかせてから力で捻じ伏せるスタイルだ。

 いつもとは違う戦法に最初こそ戸惑ったが、ドール自身の性能もあり、割と早く馴れることが出来た。

 バーサーカーによる戦い方を覚えながら、ラニの示したポイントを回っていく。

 やはり聖杯に接続するともなるとそのためのハッキングは難しいらしく、ラニの力を以てしても解析できない箇所が多い。

 やがて辿り着いた最奥部――最後のポイントに来て、ようやくラニが解析可能の箇所に辿り着いた。

『では今から始めますが、聖杯と私を繋ぐに際して、ハクトさんとも回線を繋げます。少しだけあなたのデータに踏み入る事になりますが、よろしいですか?』

「あぁ、構わない」

 そのくらいなら不可抗力だし、気にすることでもないだろう。

『ありがとうございます。では――』

 割込回路(バイパス)が光を放ち、ハッキングポイントに接続される。

『防壁を迂回、私とアリーナを維持している聖杯との間に魔力の道を作ります』

 ラニが何やら呟く。

 回路がアリーナと繋がり、魔力の道を作っていく。

『端末から不正介入を行います。どうぞ、そのままで』

「了解――っと」

 熱を持ち始めたデータを手放すと、ポイントの上で浮遊してコードを束ねていく。

『上手く動作してくれたみたいですね。終了しました。ありがとうございました』

「これで大丈夫なのか?」

『いえ、後一つ工程が残っています。校舎に戻って――』

 その瞬間、背筋を悪寒が通り過ぎていく。

 冷たい殺気が此方を睨みつけている。

「待てども待てども勝ち名乗りが無いと思えば、まだ息があったか」

 その漆黒の姿を見違えようも無い。

 ユリウスと、姿は見えずとも傍にいるであろうサーヴァント。

「仕留めた筈の獲物の主が満足に動いているとは……手心でも加えたか?」

「いやいや、あ奴らの実力よ。先の一撃の決定的な瞬間だけは避けた、それだけの話だろうさ」

 大笑しながらサーヴァントが言う。

 それを聞いて、ユリウスの目は再び標的(ぼく)に向けられる。

「まさかあんな人形を侍らせてこんな所をブラついているとは思わなんだがな」

「そうか。では問題ないな。今回は確実に首を削ぐ、それだけだ」

 不可視の敵に対して、バーサーカーが前に出る。

「■■■■――――ッ!!」

「くくっ、人形と闘り合うのも悪く無さそうだ、ユリウス、良いか?」

「邪魔をされても面倒だ。手早く済ませろ」

 バーサーカーが矛を振るう。

 それはただ空を斬り、アリーナの床を叩く。

 繰り返し振るわれる矛は、ただの一度たりともサーヴァントに当たらない。

「単純よな。ユリウス、少し遊ぶか?」

「手早く済ませろと言った筈だ。終わりにしろ」

 ドールの身体が小さく震える。

 その一瞬に起きた事を理解できない。

 この状況は二度目だ。

 何が起きたのかも分からない内に、ドールは倒れこむ。

 いくらドールといえども、ラニの手製だ。

 バーサーカー本来の力は無くとも、そのスペックは高く並のサーヴァントよりも強いだろう。

 だが、ユリウスのサーヴァントはそれさえも一撃で倒してみせた。

 あの強大な力は一体、なんなのだろうか。

「やはり木偶――人形風情に戦いを求めるまでもないか」

 まずい、リターンクリスタルを使う暇も無い。

 逃げようにも、目の前の暗殺者が退路を与えてくれる筈も無い。

 このままでは――

『ハクトさん、強制転送します!』

 携帯端末からラニの声が聞こえた瞬間、視界が眩い光に包まれる。

 足が床から離されるような感覚と、後方に強く引かれるような引力。

 校舎への強制転移、そう理解する。

 

 ――繋がる……これは、あの人の、記憶?

 

 意識の狭間で、ラニの声が聞こえる。

 遠のいていく意識を、そちらに傾ける。

 

 ――そんな……そんな、はず、は……

 

 声が震えている。

 信じたくない結果を垣間見たかのように。

 その出来事に驚愕し、必死でそれを否定するように。

 

 ――体が、ない……

 

 小さく、静かに呟かれる事実。

 その言葉が耳に入ってくるのを最後に、意識を完全に手放した。

 

 

 

 どれだけの間、気を失っていたのか。

 アリーナでユリウスに襲われ、光に包まれてからの記憶がない。

 ぼんやりする頭にスイッチを入れる。

 どうやら体は動くようだ。

 節々に痛みを感じるが、ちゃんと生きている。

 とにかく今の状況を確認するべく、目を開ける。

「――あ、おはようございます、ハクトさん。良かった、目を覚ましてくれて……」

 ラニの声が掛けられる。

 それに応えて、体を起こす。

 ここは保健室、だろうか。

「僕は……一体?」

「昨日アリーナから強制転送した後、ずっと寝ていたんですよ」

「昨日――昨日!?」

 慌てて携帯端末を確認すると、確かに一日が経過している。

 ユリウスに襲撃された際、ラニが強制転送してくれたのだろう。

 そのショックで一晩寝ていたのだろうが、

「――メルトは!?」

「落ち着いてください。まだ存命しています」

 思わず声を荒げてしまった。

 ラニに謝りながら、メルトがまだ消えていなかった事に安堵する。

 そうだ、仕掛けに行った割込回路(バイパス)は上手く作動しているだろうか。

「はい、魔力の流入は良好です。これで魔力の供給が出来るかと」

「そうか……良かった」

 ホッと胸をなでおろす。

 これで、メルトは大丈夫だろうか。

「ところで……少しの間、目を閉じていただけませんか?」

「え……?」

 何のためだろうか。

 まぁ、ラニの事だから、何か一連の作業に関係ある事なのだろう。

 そう思い、目を閉じる。

「……少しだけ、そのままで」

 ラニの声が妙に近くで聞こえる。

 それに応える間もなく、唇に何か柔らかいものが触れる。

 サーヴァントに魔力を供給する手順の一つだろうか、と思った頃には、それは離れる。

「もう……目を開けてもいいです」

「ん……」

 目を開けると、視界に映るラニの顔が心なしか少し紅潮している気がする。

「……今、あなたとサーヴァントの契約関係の間に、私が割り込むプログラムを流しました」

 唇に残った余韻を確かめていると、ラニは後ろを向いてしまった。

「えっと、ラニ、大丈夫?」

「問題ありません。あなたは私の主――いえ、友達なのですから」

「……?」

「後は私からあなたのサーヴァントに魔力を供給する儀式だけ、ハクトさんは夕方にまた来てください」

 そうは言うが、僕にも意地がある。

 自分だけが役立たずのままではいられない。

「……ラニだけに任せきりに出来ない。何か手伝えることは無いか?」

「…………いえ、それには及びません」

 長い間の後、ラニはそう告げた。

 結局何の役にも立てない、それは事実のようだ。

「それより、一つお願いがあります」

「え?」

「儀式は保健室で行おうと思うのですが……中は、見ないで下さいね」

 気が散るという事だろうか。

 まぁ、役に立たないのなら、せめて邪魔をしないようにしよう。

「……分かった。メルトは――」

「個室からここに転送します。私の方で出来るので問題ありません」

 仕方が無いが、ここはラニに任せておこう。

 夕方までというし、どこかで時間を潰す事にしよう。

 

 

 かなり待ったようだが、時間的にはそれ程経っていない。

 いつも傍に居てくれた人が居ない、という事はこれほどまでに不安を感じるものなのか。

 一瞬の判断が生死を別ける戦場だからかもしれない。

 まだ夕方には遠いが、少し様子を見に行ったほうがいいだろうか。

 或いは図書室で時間を潰しているか。

 やはりそれが良いだろう。

 ラニの邪魔をする訳にはいかない。

 

 

 

 ――否、確認せずして何がマスターか。

 

 と、言う事で保健室の前までやってきたワケだが。

「あ、ハクトさん……」

「……桜、何で外に?」

「何故か、ラニさんが来るなり追い出されてしまったんです……」

 保健室のNPCを保健室から出さなければならない程、繊細な儀式なのだろうか。

「一体何をしているんでしょう?」

「さぁ……僕にも分からない」

 確かに何をしているのか、気になるところではある。

 ……少しだけなら、覗いてもかまわないだろうか。

 自分はメルトのマスターなのだ。

 サーヴァントを気遣い、何が起こっているかを確かめる義務がある。

 扉に手を掛けると、バチリという衝撃が走る。

 簡単な防衛プログラム。

 しかしそれ以上のものは無いようで、しばらく待っても何も起きない。

 扉を少しだけ開き、中を覗いてみる。

 

「ふふ……人形さんが私相手に攻めようなんて思わないことね」

「そん、な……状態で…ん……不合理、です……あっ……」

 

 ――保健室の構造的に、ラニが居るであろう部屋の奥の様子が良く見えない。

 これは、どうしたものだろうか。

 更に少しだけ開いてみると、淫靡な芳香が鼻腔を刺激する。

 脳を焼き、甘く蕩かすそれに一瞬くらりとするも、様子の確認をしようと覗き込む。

 

「サーヴァントに合理を求めるものでも無いわ。私の勝ちよ、ラニ」

「くっ……んぁ……!」

 

 何の勝負をしているか分からないが、勝ち鬨を上げるメルトと小さく声を上げるラニは対照的だ。

 ともかく、どうやらメルトは復活したようだ。

 それは確認できたし、もう良いだろう。

 褐色の素足が見えたような気もしたが、気にしない事にする。

 残る時間は図書室にでも居よう。

 扉をゆっくりと閉め、その場を後にする。

 

「ラニさんってば、あの程度で慌てちゃって……可愛いですね。私ならもっと……ふふ」

 

 背後から黒い声が聞こえた気がしたが、それも気にしないでおこう。

 見える地雷を踏みに行くほど馬鹿ではない。




勇気王かと思った? 残念、ヘタレ王でした!
なんつーか、少し改稿したら次回に持ち越す形になりました。
というより改稿前が八千文字超えてた時点で吹き出しましたがね。
結果的に約半分に削れ、ストックが一つ増え、回路修復の描写にワンチャンできました。
っていうかマジで何してんでしょうね、保健室で。
PCへの移植まだでしょうか。

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